ここまで本連載では、クォーターライフクライシス(QLC)の実態や向き合い方、そして20代後半に人生やキャリアへの葛藤が高まりやすい背景について見てきた。
前回の第3章では、20代後半になると、収入への不安に加え、転職や結婚、出産など人生の方向性に関わる選択が重なり、「人生全体」としての葛藤が高まりやすい可能性について整理した。では、そうした葛藤は年齢を重ねることで自然に解消されるものなのだろうか。
20代後半から30代前半に抱えた悩みや迷いは、その時期特有の一過性のものとして終わる場合もあれば、その後の人生に影響を与え続ける可能性もある。
そこで本章では、35歳以上の正社員を対象とした調査結果をもとに、過去のクォーターライフクライシス経験と、現在の葛藤や幸福度との関係について分析を行った。あわせて、20代後半から30代前半に経験するクォーターライフクライシスと、中年期に訪れるミッドライフクライシスとのつながりについても考察したい。
クォーターライフクライシスとミッドライフクライシスの違い
クォーターライフクライシスとは
クォーターライフクライシス(QLC)とは、20代後半〜30代前半に、人生に対する漠然とした不安や焦燥感などの葛藤を感じた経験のことを指す。詳しくは以下のコラムで解説している。
ミッドライフクライシスとは
ミッドライフクライシス(MLC)とは、「中年の危機」とも呼ばれ、中年期である40~50代にかけて、自身の人生に対する悩みや葛藤を感じる心理状態を指す。詳しくは以下のコラムで解説している。
35歳以上の正社員調査から見えたこと
年代別に見た過去のクォーターライフクライシス経験割合
まず、現在35~59歳の正社員に対して、20代後半~30代前半にクォーターライフクライシスを経験したことがあるか尋ねた。その結果、「経験がある」と回答した割合は41.2%となり、現在35歳以上の正社員でも約4割が過去に人生やキャリアへの葛藤を抱えていたことが分かった。
年代別にみると、もっとも割合が高かったのは40~44歳で49.1%と約半数に達していた。次いで35~39歳が44.3%、45~49歳が40.6%となっている。【図1】
【図1】過去にクォーターライフクライシスを経験したことがある割合/正社員のワークライフ・インテグレーション調査2026年版(2025年実績)より再集計
年代別に見た過去のクォーターライフクライシスを乗り越えた割合
35~59歳の正社員のうち、クォーターライフクライシス経験者に対して「乗り越えたと思うか」を尋ねたところ、「乗り越えたと思う」「どちらかといえば乗り越えたと思う」を合わせた割合は52.6%となった。一方で、「乗り越えていないと思う」「どちらかといえば乗り越えていないと思う」を合わせた割合は24.7%となり、約4人に1人は現在も乗り越えられていないと認識していることが分かった。
年代別にみると、「乗り越えた」とする割合は40~44歳で56.7%ともっとも高かった。一方で、「乗り越えていない」とする割合は45~49歳で29.9%ともっとも高かったものの、年代による大きな差はみられなかった。【図2】
【図2】過去のクォーターライフクライシスを乗り越えたと思うか/正社員のワークライフ・インテグレーション調査2026年版(2025年実績)より再集計
クォーターライフクライシスを乗り越えていない人ほど現在も葛藤を抱える
では、過去のクォーターライフクライシスを乗り越えたかどうかによって、現在の状態に違いはみられるのだろうか。
35~59歳の正社員に対して、現在「人生に対する不安や焦燥感、憂鬱感などの葛藤」を感じているか尋ねたところ、クォーターライフクライシス経験がない人では「感じている」の割合が34.8%だった。一方で、クォーターライフクライシスを乗り越えた人では49.9%、クォーターライフクライシスを乗り越えていない人では65.9%となり、乗り越えていない人ほど現在も葛藤を抱えている割合が高かった。【図3】
【図3】現在の葛藤/正社員のワークライフ・インテグレーション調査2026年版(2025年実績)より再集計
こうした結果を踏まえると、クォーターライフクライシスは一定の年代だけに生じる一過性の現象ではなく、その後の人生にも影響を与え続ける可能性があると考えられる。
現在抱えている葛藤の内容
では、現在葛藤を抱えている人たちは、具体的にどのようなことに悩んでいるのだろうか。現在葛藤を感じている35~59歳の正社員に対して、その内容を尋ねたところ、「十分に稼げていない」(53.9%)がもっとも高く、「行き詰まりを感じている」(38.3%)、「理想の私生活を追求できていない」(37.0%)が続いた。
特に注目したいのは「行き詰まりを感じている」である。クォーターライフクライシス経験がない人では31.6%、クォーターライフクライシス経験者でそれを乗り越えた人では34.9%であったのに対し、乗り越えていない人では51.9%となり、半数を超えた。また、乗り越えていない人では、「今後の人生のために次に何をすべきかわからない」(43.2%)や「理想の私生活を追求できていない」(46.6%)も比較的高い割合となっている。
これらの結果からは、クォーターライフクライシスを乗り越えていない人の葛藤は、単なる収入への不安にとどまらず、「人生の方向性が見えない」「前に進めている実感が持てない」といった、より根源的な悩みに深化している可能性がうかがえる。こうした行き詰まり感は、中年期に語られるミッドライフクライシスの特徴とも重なる部分があり、クォーターライフクライシスから連続してミッドライフクライシスへ移行している可能性も考えられる。【図4】
感じている「葛藤」に対する現在の状態
では、現在葛藤を抱えている人たちは、その葛藤とどのように向き合っているのだろうか。
現在葛藤を感じている35~59歳の正社員に対して、その葛藤への対処段階について尋ねたところ、もっとも多かったのは「『このままでは良くない』と考え、悩んでいた段階から行動の準備をはじめる段階」(37.4%)だった。
一方、クォーターライフクライシスの経験有無や乗り越えた認識別にみると違いもみられた。クォーターライフクライシスを乗り越えた人では、「このままでは良くない」と考え、行動の準備をはじめる段階が44.0%ともっとも高かった。また乗り越えていない人では、「自分の過去の選択によって身動きができなくなっているように感じる状態」が42.9%ともっとも高く、クォーターライフクライシスを乗り越えた人(23.8%)を大きく上回った。
さらに、クォーターライフクライシスを乗り越えていない人では、「理想にむかってゆっくりとスタートを切る段階」(3.8%)や、「みつめなおした自分の理想や関心ごとに関して熱意を持って取り組むことができる段階」(2.5%)の割合も低かった。
これらの結果からは、クォーターライフクライシスを乗り越えていない人は、現在の葛藤に対して具体的な行動や前向きな変化に移る前の段階でとどまっている可能性がうかがえる。一方で、クォーターライフクライシスを乗り越えた人は、葛藤がありながらも、その状況を変えるための準備や行動へと進んでいる傾向がみられた。【図5】
【図5】現在の葛藤に対する現在の状態/正社員のワークライフ・インテグレーション調査2026年版(2025年実績)より再集計
クォーターライフクライシスを乗り越えている人といない人の特徴
ここまで見てきたように、クォーターライフクライシスを乗り越えていない人ほど現在も強い葛藤を抱えており、行き詰まりを感じている割合も高かった。では、クォーターライフクライシスを乗り越えたかどうかの違いは現在の人生満足度などにも表れているのだろうか。
仕事・私生活の満足度
仕事・私生活の満足度についてみると、「仕事・私生活どちらも満足」と回答した割合は、クォーターライフクライシスを乗り越えた人で34.8%となった。一方で、クォーターライフクライシスを乗り越えていない人は11.2%にとどまり、23.6ptの差がみられた。
また、「仕事・私生活どちらも不満」と回答した割合は、クォーターライフクライシスを乗り越えていない人で62.3%となり、クォーターライフクライシスを乗り越えた人(23.0%)を39.3pt上回った。【図6】
【図6】仕事・私生活の満足度/正社員のワークライフ・インテグレーション調査2026年版(2025年実績)より再集計
現在の人生満足度
次に、現在の人生満足度についてみると、クォーターライフクライシスを乗り越えた人の「満足度が高い」と回答した割合は64.6%となった。一方で、クォーターライフクライシスを乗り越えていない人は19.1%にとどまり、45.5ptの差がみられた。
またクォーターライフクライシスを乗り越えた人の満足度は、クォーターライフクライシスの経験がない人よりも20pt以上高い結果となっている。【図7】
【図7】現在の満足度/正社員のワークライフ・インテグレーション調査2026年版(2025年実績)より再集計
一般的に、クォーターライフクライシスは「人生の危機」としてネガティブに語られることが多い。しかし今回の調査では、クォーターライフクライシスを乗り越えた人の現在の満足度は、クォーターライフクライシスを経験していない人を上回る結果となった。
もちろん、この結果だけでクォーターライフクライシスを乗り越えたことが現在の満足度向上につながるとは明言できないが、少なくとも、クォーターライフクライシスを経験すること自体が、その後の不幸を意味するわけではないことがうかがえる。
クォーターライフクライシスとの向き合い方
今後のキャリアについて考える時間を取っているか
では、どのように悩みや葛藤に向き合えばいいのだろうか。まず、今後のキャリアについて考える時間を取っているかをみると、「考える時間を取っている」と回答した割合は、クォーターライフクライシスを乗り越えた人で32.6%となった。一方で、クォーターライフクライシスを乗り越えていない人は19.3%にとどまり、13.3ptの差がみられた。
また、クォーターライフクライシスを経験していない人は17.8%であり、クォーターライフクライシスを乗り越えた人の方が、今後のキャリアについて考える時間を取っている割合が高い結果となった。【図8】
【図8】今後のキャリアについて考える時間を取っているか/正社員のワークライフ・インテグレーション調査2026年版(2025年実績)より再集計
自分のキャリアを自分で作り上げている実感
次に、自分のキャリアを自分で作り上げている実感についてみると、「実感がある」と回答した割合は、クォーターライフクライシスを乗り越えた人で45.9%だった。一方で、クォーターライフクライシスを乗り越えていない人は21.8%にとどまり、24.1ptの差がみられた。
さらに、「実感はない」と回答した割合は、クォーターライフクライシスを乗り越えていない人で46.4%となり、クォーターライフクライシスを乗り越えた人(22.3%)を24.1pt上回っている。【図9】
【図9】自分のキャリアを自分で作り上げている実感/正社員のワークライフ・インテグレーション調査2026年版(2025年実績)より再集計
自分自身への理解度
さらに、自分自身への理解度についてみると、「理解度が高い」と回答した割合は、クォーターライフクライシスを乗り越えた人で53.2%となった。一方で、クォーターライフクライシスを乗り越えていない人は29.9%にとどまり、23.3ptの差がみられた。
また「理解度が低い」と回答した割合は、クォーターライフクライシスを乗り越えていない人で34.1%となり、クォーターライフクライシスを乗り越えた人(15.7%)を18.4pt上回った。
そしてクォーターライフクライシスを乗り越えた人の理解度が高い割合は、クォーターライフクライシスを経験していない人(39.5%)よりも13.7pt高い結果となっている。【図10】
【図10】自分自身への理解度/正社員のワークライフ・インテグレーション調査2026年版(2025年実績)より再集計
これらの結果からは、クォーターライフクライシスを乗り越えた人ほど、今後のキャリアについて考える時間を持ち、自分のキャリアを自分で作り上げている実感や、自分自身への理解度が高い傾向がみられた。
悩みをすぐに解消することだけが、クォーターライフクライシスとの向き合い方ではない。自分自身を理解し、これからのキャリアや生き方について考える時間を持つことも、葛藤と付き合っていくための一つの方法なのではないだろうか。
そして、その過程そのものが、自分なりの人生やキャリアの在り方を見つけることにつながるのかもしれない。
今後に向けて
今回、35歳以上の正社員を対象に分析した結果、約4割が20代後半から30代前半に人生に対する不安や葛藤を抱いていたことが分かった。また、その中には年齢を重ねた現在でも、当時の葛藤を乗り越えていないと認識している人が一定数存在していた。
さらに、クォーターライフクライシスを乗り越えていない人ほど、現在も葛藤や行き詰まりを感じている割合が高く、人生満足度や仕事・私生活の満足度も低い傾向がみられた。一方で、クォーターライフクライシスを乗り越えた人は、クォーターライフクライシスを経験していない人を上回る人生満足度を示していた。
今回の調査結果だけではクォーターライフクライシスとミッドライフクライシスが直接つながっていると断定することはできないが、過去の葛藤を乗り越えていない人ほど現在も葛藤を抱えている傾向がみられたことを踏まえると、人生の危機は年代ごとに独立して存在するものではなく、連続した自己探索のプロセスとして現れている可能性もあるのではないだろうか。
一般的に、クォーターライフクライシスは「人生の危機」として語られることが多い。しかし今回の結果からは、危機に直面すること自体が問題なのではなく、その葛藤とどのように向き合うかが重要である可能性が示唆された。人生には正解がなく、幸せの形も人それぞれ異なる。だからこそ、悩みや葛藤を無理に消そうとするのではなく、自分自身を理解し、これからのキャリアや生き方について考える時間を持つことに意味があるのかもしれない。
キャリアリサーチLab研究員 朝比奈 あかり