クォーターライフクライシスとの付き合い方 ―AIという選択肢【第二章】

朝比奈あかり
著者
キャリアリサーチLab研究員
AKARI ASAHINA

前回の記事では、マイナビが実施した調査をもとに「クォーターライフクライシスの実態」についてまとめた。

今回は、過去にクォーターライフクライシスを経験した人がどのように悩みや葛藤と向き合ったのかを分析し、現在のクォーターライフクライシスとの付き合い方について考察していきたい。

クォーターライフクライシスとは

クォーターライフクライシスとは、20代後半〜30代前半に、人生に対する漠然とした不安や焦燥感などの葛藤を感じた経験のことを指す。詳しくは以下のコラムで解説している。

過去のクォーターライフクライシス経験について

本稿では、過去のクォーターライフクライシスにどのように対処したのかを経験者の回答から明らかにするため、現在35歳以上の正社員から得た回答をもとにまとめる。

過去にクォーターライフクライシスを経験したことがある割合

マイナビが行った調査で現在35歳以上の正社員に対し、クォーターライフクライシス(20代後半〜30代前半に、人生に対する漠然とした不安や焦燥感)を感じた経験があるか尋ねたところ、約4割が「経験がある」と回答した。‌

クォーターライフクライシスは中年層でも一定の割合で経験していることがわかった。【図1】

【図1】過去にクォーターライフクライシスを経験したことがある割合/正社員のワークライフ・インテグレーション調査2026年版(2025年実績)
【図1】過去にクォーターライフクライシスを経験したことがある割合/正社員のワークライフ・インテグレーション調査2026年版(2025年実績)

過去のクォーターライフクライシスの内容

過去にクォーターライフクライシスの経験がある人に対して、その時の悩みを具体的に聞いた。自由回答を分析し、葛藤の内容をカテゴリ化し、多かった順に並べている。【図2】

【図2】過去に経験したクォーターライフクライシスの内容/正社員のワークライフ・インテグレーション調査2026年版(2025年実績)
【図2】過去に経験したクォーターライフクライシスの内容/正社員のワークライフ・インテグレーション調査2026年版(2025年実績)

葛藤の内容としてもっとも多かったのは「将来への漠然とした不安」だった。具体的には「この先、どうなるか何をするのか漠然としすぎていていた。男性41歳」など、具体的な課題よりも、漠然とした不安感を挙げる回答が最も多かったということがわかった。

質問形式が異なるので単純比較はできないものの、今クォーターライフクライシス状態にある人とも共通した悩みを持っていたと言えそうだ。

※現在クォーターライフクライシスである人のクォーターライフクライシスの内容は「十分に稼げていない(52.7%)」が最多、次いで「今後の人生のために次に何をすべきかわからない(42.0%)」だった

次に多かった内容は「キャリア・仕事」に関する葛藤・悩みだった。「仕事がうまくいかず出社するのが嫌な毎日だった」など、仕事がうまくいかないことで葛藤している回答がみられた。

前回の記事(リンク貼付)で見た現在クォーターライフクライシスであると感じている人の仕事・キャリア関連の悩みのきっかけを見ると、「転職」をする前提の悩みが複数見られた。

一方で、過去のクォーターライフクライシスの内容に関しては、仕事ができないことなど「その会社で働く前提」である悩みが多数派で、「転職」という単語自体も多くは見られなかった。これらのことから過去から現在でキャリア形成の前提が変化している可能性があることがうかがえた。

過去のクォーターライフクライシスへの対応

現在35歳以上で、過去にクォーターライフクライシスの経験がある人に対して、葛藤や悩みに対してとった対応を自由回答で聞いた。

回答を分析すると、まず行動に表しているタイプと時間を活用しているタイプに分類できた(縦軸)。そして、外部に働きかけるか、自分の中で調整するか、でも分けれられた(横軸)ため、以下のように4分割で整理した。【図3】

【図3】過去に経験したクォーターライフクライシスへの対応/正社員のワークライフ・インテグレーション調査2026年版(2025年実績)
【図3】過去に経験したクォーターライフクライシスへの対応/正社員のワークライフ・インテグレーション調査2026年版(2025年実績)

自分以外への働きかけで「まずは動くタイプ」

回答としてもっとも多かったのは、左上の行動型 かつ、 外部に働きかける【まずは動くタイプ】だった。このタイプの乗り越え方は、問題に直面した際、まず「動く」ことを選ぶのが特徴で、自分以外(環境・他者・仕事)への働きかけによって状況改善を図る様子がうかがえた。

すぐには動かず待つ【内省と距離調整タイプ】

次に多かったのは、右下の時間活用型 かつ 自分の中で調整する【内省と距離調整タイプ】だった。このタイプの乗り越え方は、すぐには動かず、時間を置いているのが特徴で、内省をしたり、不安や悩みと距離を取ることで、状況や意味の変化を待つ様子がうかがえた。

自分の中で調整をする【心理的転換タイプ】

また、右上の【心理的転換タイプ】は、「完璧主義をやめる」「気分転換をする」など、自分の中で調整をするための行動をして、自身を立て直す様子がうかがえた。

【生活環境を組み替えるタイプ】

そして左下の【生活環境を組み替えるタイプ】については、結婚や出産など時間の経過やライフステージの変化によって、環境そのものを再構築して乗り越えた、という様子がうかがえた。

なお、これらはどれか一つに固定されるものではなく、人によっては時期や状況によって移り変わったり、またがって行動したりしていく可能性があるものとして捉えている。

特徴的だった対応方法

そして、特徴的だったのは、たとえば「漠然とした将来の不安」という悩みに対して、【内省と距離調整タイプ】の人がいたり、【まずは動くタイプ】の人がいたりと、同じ悩みや葛藤に対して、取る行動が人によって異なっている傾向がみられたことである。このような行動の分岐は今クォーターライフクライシスである人でも起こり得ると考えられる。【図4】

【図4】クォーターライフクライシスへの対応は人によって異なる/正社員のワークライフ・インテグレーション調査2026年版(2025年実績)
【図4】クォーターライフクライシスへの対応は人によって異なる/正社員のワークライフ・インテグレーション調査2026年版(2025年実績)

取れる対応の幅を広く柔軟に持っておくことは、個人がクォーターライフクライシスとうまく付き合っていくために必要になるのではないだろうか。

クォーターライフクライシスとの付き合い方

過去のクォーターライフクライシスを乗り越えた割合

過去にクォーターライフクライシスを経験した人に対して、この悩みや葛藤を「乗り越えたと思うか」聞いたところ、乗り越えたと思うという回答は約半数となった。

人生やキャリアの葛藤は、しばしば「乗り越えなければならない課題」として語られがちだが、実際に過去にクォーターライフクライシスを経験した人たちも全員が乗り越えているわけではないことがわかった。【図5】

【図5】過去のクォーターライフクライシスを乗り越えたと思うか/正社員のワークライフ・インテグレーション調査2026年版(2025年実績)
【図5】過去のクォーターライフクライシスを乗り越えたと思うか/正社員のワークライフ・インテグレーション調査2026年版(2025年実績)

クォーターライフクライシスの中で乗り越えにくい悩みとは

必ずしもクォーターライフクライシスに直面することに悲観する必要がないとはいえ、クォーターライフクライシスである状態は、主観的には苦しいものだと考えられる。現在クォーターライフクライシスであると感じている人たちに対して、周囲の人や社会全体では何ができるのか、もう少し考えていきたい。

できることを考えるにあたって、「乗り越えにくい悩みの内容」とは何かを考える。過去にクォーターライフクライシスを経験した人たちの悩みの内容ごとに、乗り越えた割合をそれぞれ出した。それを、乗り越えた割合が高いグループ・中程度、低いグループに分類し、以下の図のような整理をした。【図6】

【図6】過去のクォーターライフクライシスの乗り越え難易度別にみた悩みの内容/正社員のワークライフ・インテグレーション調査2026年版(2025年実績)
【図6】過去のクォーターライフクライシスの乗り越え難易度別にみた悩みの内容/正社員のワークライフ・インテグレーション調査2026年版(2025年実績)

比較的乗り越えやすいと考えられる悩みの内容は、結婚・恋愛となった。ライフイベントにより比較的「出口」が見えやすい葛藤だと言えるのではないかと考えられる。

中程度だったのが、経済状況や人間関係、仕事の悩みなどとなった。転職・環境変化や時間の経過で比較的解消されやすいと考えられるが、一部に根深いケースも存在しているようだ。

そして、比較的乗り越えにくいと考えられる悩みの内容は、自己否定・アイデンティティ、将来への漠然とした不安となった。

クォーターライフクライシスである人にできること

図6において注目すべきなのは、「将来への漠然とした不安」に関して、「漠然」さゆえに個人では解消手段が見つかりにくい可能性があるということだ。そしてこの悩みの内容は現在クォーターライフクライシスである人も持っている悩みだったため、この傾向は現代でも起こり得る問題であると考えられる。

上記のことから、クォーターライフクライシスである人にできることの中でも有効な可能性が高いと考えられるのは、このような「個人では解決手段が見つかりにくい問題」へのサポートではないか考えられる。

現在クォーターライフクライシスである人達に必要なサポートとは

現在クォーターライフクライシスである人達が求めるサポート

現在25~34歳で、クォーターライフクライシス状態である人に対して、どのような支援やサポートが必要だと思うか聞いた。結果は、「信頼できる人から定期的に話を聞いてもらう」がもっとも多いことがわかった。

年齢別では、20代後半は「信頼できる人から定期的に話を聞いてもらう(38.7%)」の割合が特に高く、30代前半では「専門家のメンタルヘルス相談やカウンセリングを受ける(26.3%)」が20代後半よりも高い傾向が見られている。【図7】

【図7】現在クォーターライフクライシスである人が求めているサポート/正社員のワークライフ・インテグレーション調査2026年版(2025年実績)
【図7】現在クォーターライフクライシスである人が求めているサポート/正社員のクォーターライフクライシス調査2026年

現在クォーターライフクライシスである人は、「今感じている不安」や「キャリア」について相談したり、情報提供をしてもらったり、今後できることを整理したりなどの支援を求めている可能性がある。

先ほど考察した「個人では解決手段が見つかりにくい問題」に対して有効なサポートのポイントとしては、話を聞くこと、現状の整理をすること、情報を提供することではないかと推察している。

企業のサポート状況

では実際に企業側はどのようなサポートを行っているのか、従業員に対して何かしらの支援を実施している企業の中途採用担当者に対して、支援内容を聞いた。

最も多かったのは「定期的に従業員の面談を行うようにしている」となっており、クォーターライフクライシスであると感じている人が求める「話を聞いてもらう」といったニーズに対応する支援は行われているものの、その効果は面談相手との関係性に左右される側面もありそうだ。

それぞれの企業に合うかたちで相談の機会を作ることで、個人が葛藤や悩みとより健全に付き合うことができるのではないかと考えられる。【図8】

【図8】企業側が従業員に行っている支援/正社員のクォーターライフクライシス調査2026年
【図8】企業側が従業員に行っている支援/正社員のクォーターライフクライシス調査2026年

具体的な人材マネジメントに関する企業事例は以下の企画でまとめられている。

「AI」という選択肢

ここまで、現在クォーターライフクライシスである人たちが求めている支援と、企業が行っている支援についてまとめてきたが、個人が定期的に「相談」することに関して企業のサポートとは別に、個人が今すぐ使える選択肢として「AI」についても考えていきたい。

ここからは、クォーターライフクライシスのような人生の悩みに対するAIの活用について考える。

生成AIを使用している割合

まずは、正社員約3万人に対して、生成AIを使用したことがあるか聞いた。正社員全体でみると、使用したことがある割合は約6割にとどまった。使用したことがある割合がもっとも高かったのは「20~24歳」で73.9%、年齢が若いほど使用率が高い傾向がみられた。

使用頻度を見ると、「25~29歳」は「ほぼ毎日使用している」が24.8%でほかの年代と比べてもっとも多いことがわかる。この年代では特に生成AIが身近に存在している可能性がある。【図9】

【図9】生成AIを使用したことがあるか/正社員のクォーターライフクライシス調査2026年
【図9】生成AIを使用したことがあるか/正社員のクォーターライフクライシス調査2026年

生成AIにクォーターライフクライシスについて相談したことがある割合

クォーターライフクライシスの年代である25~34歳の正社員に、「生成AIに対してクォーターライフクライシスに関する悩みを相談したことがあるか」と聞くと、42.6%が相談したことがある、と回答した。

ちなみに、人に対しては約6割が相談したことがあると回答している。【図10】

【図10】クォーターライフクライシスについて相談したことがあるか/正社員のクォーターライフクライシス調査2026年
【図10】クォーターライフクライシスについて相談したことがあるか/正社員のクォーターライフクライシス調査2026年

生成AIに相談する理由

生成AIに悩み相談した人に対して、なぜ生成AIに相談したのか、理由を自由回答で聞いた。内容を分析し、主要な使われ方を3つピックアップした。【図11】

【図11】生成AIに相談した理由/正社員のクォーターライフクライシス調査2026年
【図11】生成AIに相談した理由/正社員のクォーターライフクライシス調査2026年

「人に相談するには内容が漠然としている」など、悩みを言語化・整理する前段階の“壁打ち”としてAIを使っている様子がみられた。

また、「すぐに答えが返ってくる」「様々な視点で考察してくれる」という声もあり、考えを広げたり選択肢を出したりするためのツールとして活用しているケースもみられている。

さらに、「人にどう思われるかを気にせず本音を話せる」など、人には話しにくい内容を吐き出す場としてAIを利用している実態もうかがえた。

自由回答を分析した結果、人の代替としてAIが相談相手になっているというよりも、AIならではの特徴を考慮して相談されている様子がうかがえた。

悩みが和らいだ割合

生成AIに相談した場合と、人に相談した場合で、それぞれ悩みが和らいだかどうか聞くと、どちらも約7割が悩みが減った・和らいだと回答した。わずかな差ではあるものの、生成AIの方が人と比べて和らいだ割合が高い結果がみられている。AIによって悩みや葛藤とうまく付き合うための選択肢が多様化している可能性がある。【図12】

【図12】相談した悩みの変化/正社員のクォーターライフクライシス調査2026年
【図12】相談した悩みの変化/正社員のクォーターライフクライシス調査2026年

最後に

若者を取り巻く環境や価値観は大きく変化し、先行きが不透明な状況が続いている。クォーターライフクライシスのような人生の迷い・悩みは誰しも抱える可能性があるものであり、個人の弱さや能力が影響するものではない。

重要なのは、クォーターライフクライシスを否定することではなく、悩みや葛藤とうまく付き合っていける環境を作れるかどうかだ。

前回の記事では、クォーターライフクライシスである人は仕事・私生活ともに満足度が低い傾向がみられた。すべての悩みを解消せずとも、信頼できる人への相談やAIの利用などうまく付き合っていくことで悩みの数を少しずつ減らしていくだけでも仕事や私生活の満足度にポジティブな影響を与えられる可能性がある。

クォーターライフクライシスのような悩みを自己責任とせずに、企業や社会全体でサポートをしていく必要があるのではないだろうか。

キャリアリサーチLab研究員 朝比奈 あかり

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