はじめに
ここまで20代後半~30代前半で陥る「クォーターライフクライシス」の実態と、35歳以上の人が行ったクォーターライフクライシスの乗り越え方から、上手く付き合っていくためのヒントを整理してきた。
その中で、クォーターライフクライシス世代(25~34歳)の中でも、特に20代後半において、人生やキャリアに対する漠然とした不安や葛藤を抱える割合が高いことが確認されている。
一方で、同じ20代でありながら、なぜ20代前半(20~24歳)と後半(25~29歳)で葛藤の度合いや、その性質に違いが生じるのかについては、十分に整理されていない。
本章では、20代に着目し、「葛藤」を主軸に、意識や実態の差を整理する。あわせて、両者の違いを踏まえながら、なぜ20代後半において人生に対する不安や葛藤が高まりやすいのか、その背景や構造について考察する。
※クォーターライフクライシスとは、25~34歳の間で、人生に対して不安や焦燥感、憂鬱感などの「葛藤」を感じている状況のことを指す。
20代で何が起きているのか-前半と後半で異なる「葛藤」に注目する
20代の約半数が抱える人生への葛藤
まず、人生に対する不安や葛藤について、2025年11月~2026年4月に行われた「正社員のクォーターライフクライシス調査」からみていく。
20代の正社員585名のうち、「人生に対して不安や焦燥感、憂鬱感など“葛藤”を感じている」割合は、51.4%となった。20代の2人に1人以上は、人生に何らかの葛藤を感じている。
20代を、20代前半(20~24歳)とクォーターライフクライシス世代に該当する20代後半(25~29歳)に分けて、比較した結果、20代後半では「葛藤を感じている」割合が52.3%となり、20代前半(48.6%)よりも3.7pt高かった。【図1】
【図1】(20代)人生に対する漠然とした不安や葛藤を感じている割合/マイナビ「正社員のクォーターライフクライシス調査2026年」
20代前半と後半で異なる「葛藤の中身」
人生に対して、「不安や焦燥感、憂鬱感など“葛藤”を感じている」と答えた20代の葛藤内容についてみていく。現在感じている葛藤内容について、あてはまるものを聞いたところ、「十分に稼げていない(56.2%)」がもっとも高く、「今後の人生のために次に何をすべきかわからない(40.9%)」「行き詰まりを感じている(37.3%)」が続いた。
それぞれの選択肢を集約し、「キャリア(仕事経験に関連するもの)」と「人生」に再分類したところ、キャリアに関する悩みを抱えている割合は79.1%、人生に関する悩みを抱えている割合は83.8%となった。
20代前半と20代後半を比較すると、20代前半では「キャリア」「人生」ともに83.2%で同水準であった。一方、20代後半では「キャリア」が77.9%であるのに対して「人生」は84.0%と、人生に関する不安や葛藤を抱える割合の方が高い結果となった。【図2】
【図2】(20代)葛藤を感じた内容/マイナビ「正社員のクォーターライフクライシス調査2026年」
こうした傾向は、20~30代におけるキャリア軸の置き方に関する他の調査結果においても確認されている。
2025年4月に実施した「地方中小企業就業者の働く意識調査レポート」では、20~30代の正社員にキャリアの軸の置き方を尋ねた結果、20代から30代に移行する過程で「仕事軸」の割合が低下する傾向が確認されている。【図3】
【図3】(20代・30代)キャリア軸の置き方(現在・過去・未来)/マイナビ「地方からの視点 中小企業で働く未来を見つめる 『地方中小企業就業者の働く意識調査レポート』」
これらの結果を踏まえると、30代に近づくにつれて、仕事だけでなく私生活を含めたバランスを重視する意識が相対的に高まり、「仕事」単体ではなく「人生全体としてどのように選択していくか」が意識されやすくなっている可能性がある。
こうした関心の広がりにより検討すべき要素が増えることが、20代後半において「人生」に関する葛藤を抱える人が相対的に多い背景の一つとして考えられる。
葛藤が生まれるきっかけ-20代前半と後半の違い
次に、葛藤が生じ始めたきっかけについて、自由回答をもとに分析を行った。頻出ワードを抽出しコーディングした結果、20代前半では、回答数が少ないものの「仕事」「給料」「低い」といったワードが上位に挙がり、現在の収入水準や労働環境に対する不満が主なきっかけとなっている様子がうかがえた。
一方、20代後半では20代前半と同様に「仕事」「給料」に加え、「転職」「子供」といったワードも多くみられ、単なる収入や業務内容への不満にとどまらず、キャリアの見直し機会や、ライフイベント(結婚・出産・育児など)を契機とした葛藤も広がっている点が特徴としてみられた。
これらの要素は個人の価値観や置かれている状況によって「何が望ましいか」が変わるテーマであるため、「どう選択するべきか」という判断が求められる。その結果、自分にとって最適な選択を見極める難しさや、選択後の想定とのずれが生じる可能性もあり、葛藤が生じやすいと考えられる。【図4】
20代に共通する基盤的要因は「収入に対する不安」
ここからは、葛藤のきっかけとして共通してみられた要素に着目する。前節で示した通り、20代前半・後半ともに頻出ワードとして挙げられたのは「お金」であった。お金、つまり給料についての印象やその不安の背景について考察する。
それぞれの年代に対して、給与に満足しているか尋ねたところ、満足している割合は、20代前半で32.2%、20代後半で28.8%となり、いずれの年代ともに満足度は3割前後にとどまった。【図5】
【図5】(20代)給与に満足している割合/マイナビ「正社員のクォーターライフクライシス調査2026年」
その背景には、物価上昇や老後資金への不安など、社会全体に広がる経済的不安定さが一因として考えられる。総務省「2020年基準 消費者物価指数(2025年度)」によると、2025年度の総合指数は112.3となり、前年度比で2.8%上昇、さらに10年前(2015年度)と比較すると14.1%の上昇となっている。
こうした物価上昇の影響は、自由に使えるお金が少ない層ほど受けやすいと考えられ、20代は他の年代と比べて年収水準が相対的に低い傾向にあることを踏まえると物価上昇による負担の影響を受けやすい状況にあると考えられる。【図6】
【図6】2020年基準 消費者物価指数 推移/総務省「2020年基準 消費者物価指数(2025年度)」より作成
加えて、近年では「老後2,000万円問題」などが広く認知されたことにより、若年層に限らず全世代において、将来の資金やセカンドライフに対する不安が広がっていると考えられる。
このように、社会全体で経済不安が広がる中、20代前半・後半どちらも「お金」に関する葛藤を抱くことは自然な状況にあり、「お金」という要素は基盤的な葛藤要因として位置づけられる。
20代後半で顕在化する葛藤要因
次に、20代前半と後半における相違点が生じる理由についてみていく。
ライフイベントの現実化がもたらす選択の増加
20代後半では、「子供」というワードが葛藤のきっかけとして多く挙げられている。これを踏まえ、結婚や出産に関する意識や実態が、20代前半とどのように異なるのかをみていく。
結婚に対する意識
ライフキャリア実態調査2025年より、正社員で働く20代に対して、子供の前段階として語られやすい「結婚」意識について尋ねた結果、20代前半で「自分にとって結婚は必要だ」と答えた割合は59.4%であったのに対し、20代後半では62.7%と3.3pt高い結果となった。【図7】
【図7】(20代)結婚の必要性/マイナビ「正社員のクォーターライフクライシス調査2026年」
また、現在独身の20代正社員のうち、「独身であることはメリットの方が大きい」と感じる割合は、20代前半では47.2%、20代後半では36.9%となり、10.2ptの差がみられた。20代において、若い層ほど独身のメリットを感じている傾向がみられた。【図8】
【図8】(20代)独身であることへの実感/マイナビ「正社員のクォーターライフクライシス調査2026年」
出産タイミングの現実性
さらに、厚生労働省の人口動態調査によると、2024年の日本の平均初産年齢は31.0歳であり、第一子出産の約68%が25~34歳の層に集中している。
これらの結果から、20代後半では結婚や出産が現実的なライフイベントとして意識されやすくなるとともに、周囲でライフステージが変化する人も増える時期であることがうかがえる。【図9】
【図9】第一子出産年齢/厚生労働省の人口動態調査より作成
また、独身でいることについても「メリット」の要素だけではなく、「デメリット」についても、周囲の状況や将来への意識から浮かびやすく、揺れ動くタイミングであると考えられる。
転職機会の増加とキャリア選択の葛藤
次に20代後半で、頻出ワード上位に挙がっている「転職」について、20代前半と比べてみていく。
年代別の転職率
転職動向調査によると、2025年の転職率は20代で12.0%、30代で9.0%、40代で6.8%、50代で3.8%となっており、20代は転職した割合が高い傾向にある。【図10】
【図10】(年代別)正社員の転職率/マイナビ「転職動向調査2026年版(2025年実績)」
また、正社員のクォーターライフクライシスに関する分析において、20代後半の転職回数「1回以上」の割合は45.1%となり、20代前半(28.2%)と比べて16.9pt高いことが明らかとなった。
こうした差から、20代後半では転職経験者がより身近に存在している可能性があり、転職が現実的な選択肢として認識されやすい状況にあると考えられる。【図11】
【図11】(20代)転職回数の分布の違い/マイナビ「正社員のクォーターライフクライシス調査2026年」
さらに、20代後半では「新卒と比べてモチベーションが下がった」と感じる割合が51.4%と半数を超え、20代前半(47.3%)よりやや高い。また現在の職場において「成長実感がある」と回答した割合も39.4%にとどまり、20代前半(52.6%)と比べて13.2pt低い傾向がみられる。【図12・13】
【図12】(20代)新卒の頃と比べて仕事のモチベーションが下がった/マイナビ「正社員のクォーターライフクライシス調査2026年」
【図13】(20代)成長実感がある/マイナビ「正社員のクォーターライフクライシス調査2026年」
20代前半は入社して、まだ日が浅く、仕事に対するモチベーションや成長実感が高い一方で、20代後半は、業務の慣れなどから成長の実感を感じづらく、20代前半と比べ、モチベーションが下がっていると感じてしまう傾向にあると考えられる。
その中で、周囲にも転職者が増え、転職への意識が強まる一方で、今まで積み重ねてきた年月と天秤にかけ、最適な選択にむけて、迷いが生じやすくなるのではないだろうか。
意思決定に伴う不安や葛藤が重なるタイミング
ここまでみてきたように、20代はお金に関する不安を常に抱えている一方で、20代後半になると「子供」「転職」といった将来の方向性を左右する葛藤要素が加わる。さらに、これらの選択には明確な正解がなく、周囲の状況から「自分もそういう道を選んだら良かった」「今後そういう選択をした方がいいのではないか」といった意識も芽生えやすい。
第一章で触れた選択肢の広がりやSNSによる他者比較の多様化に加え、こうした年齢によって選択が迫られるタイミングが重なることが、20代後半において「人生に対して不安や焦燥感、憂鬱感などの葛藤」を感じる割合が高まる背景にあると考えられる。
キャリアリサーチLab研究員 嘉嶋 麻友美