中小企業のDX推進-実態や進まない理由、成功する進め方を事例とともに紹介

キャリアリサーチLab編集部
著者
キャリアリサーチLab編集部
中小企業診断士・高桑 清人氏

【著者】高桑 清人(たかくわ きよと)

中小企業診断士。前職ではBPO企業にて12年間、業務設計・品質管理・人材マネジメントなどの管理業務に従事。独立後は中小企業の経営支援に携わり、新規事業の立ち上げや事業計画策定を伴走型で支援。学習塾講師として16年・10,000時間超の授業経験もあり、「聴く・伝える・支える」現場感を大切に活動している。


「DXが重要」と聞く機会は増えたものの、「なにから始めればよいかわからない」「システムを導入したが定着しない」と悩む中小企業は少なくありません。

DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、デジタル技術を活用して業務やビジネスモデルを変革し、企業価値の向上を目指す取り組みです。

人手不足や業務の属人化、働き方改革への対応が求められる中、DXは単なるIT化ではなく、生産性向上や経営改善につながるため重視されています。しかし、実際には思うように進んでいない企業も多いのが現実です。 この記事では、中小企業のDX推進の実態や進まない理由を整理し、成功する進め方を事例とともにわかりやすく解説します。

中小企業に残る「アナログ業務」の実態―DXが進まない理由

中小企業の現場では依然として紙やExcelを中心とした業務が多く残っています。総務省「令和6年版情報通信白書」では、日本企業の約50%がデジタル化に関連する取り組みを未実施と回答しており、海外と比較してもデジタル活用の遅れが指摘されています。【図1】

【図1】デジタル化の取り組み状況(各国比較)/総務省「令和6年版情報通信白書」
【図1】デジタル化の取り組み状況(各国比較)/総務省「令和6年版情報通信白書

また、日本での取り組み状況を企業規模別に見ると、大企業では約25%、中小企業では約70%が「未実施」と回答しており、企業の規模によりデジタル化の取り組み状況に差があることがわかります。

紙・Excel依存が続く現状と大企業との差

中小企業では、請求書管理や勤怠集計、顧客管理などを紙やExcelで運用しているケースが依然として少なくありません。Excelは柔軟で使いやすい一方、「担当者しか更新ルールがわからない」「どれが最新版かわからない」「転記ミスがよく起こる」といった課題を抱えやすく、属人化しやすい傾向があります。

一方、大企業ではクラウドシステムやワークフローの導入が進んでおり、データ連携や情報共有を前提とした業務設計が一般化しつつあります。背景には「業務を標準化しなければ大きな組織が回らない」という危機感があります。

人材不足が深刻化する中、アナログ業務を前提とした組織運営の限界が見え始めています。特に中小企業では、属人的な業務が一人の退職によって途端に機能不全に陥るケースも少なくありません。

DXが進まない企業の共通点

DXが進まない企業には、いくつかの共通点があります。

中小企業庁「2025年版中小企業白書」では、DX推進上の課題として「DXを推進する人材が足りない」「費用負担が大きい」といった回答が多く、中小企業が人材・資金の両面で制約を抱えている実態が示されています。【表1・図2】

段階1紙や口頭による業務が中心で、デジタル化が図られていない状態
段階2アナログな状況からデジタルツールを利用した業務環境に移行している状態
段階3デジタル化による業務効率化やデータ分析に取り組んでいる状態
段階4デジタル化によるビジネスモデルの変革や競争力強化に取り組んでいる状態
【表1】中小企業庁「2025年版中小企業白書」より抜粋
【図2】DXに向けた取り組みを進めるにあたっての問題点(デジタル化の取り組み段階別)/中小企業庁「2025年版中小企業白書」
【図2】DXに向けた取り組みを進めるにあたっての問題点(デジタル化の取り組み段階別)/中小企業庁「2025年版中小企業白書

さらに、デジタル化への取り組み状況(「同書」)を見ると、取り組み段階1(紙や口頭による業務が中心で、デジタル化が図られていない状態)の企業のうち「特に取り組もうとしていない」と回答する企業も49.3%存在しており、DXの必要性が浸透していても、実際の行動には結びついていない現状がわかります。【図3】

【図3】DXに向けてこれから取り組もうとしていること(デジタル化の取り組み段階別・段階1のみ)/中小企業庁「2025年版中小企業白書」
【図3】DXに向けてこれから取り組もうとしていること(デジタル化の取り組み段階別・段階1のみ)/中小企業庁「2025年版中小企業白書

こうした背景には、日々の業務に追われる中で、専任担当者を配置する余裕がないことや、短期的な成果が見えにくいことも影響しています。

DXが進まないことによる人材・働き方の問題

DXが進まないと、属人化による長時間労働、柔軟な働き方への対応遅れ、人材定着の難しさなど、人材面にも大きな影響を及ぼします。中小企業においては、採用や定着の観点からもDX推進が重要なテーマです。

属人化による長時間労働と業務負担の増加

紙やExcelに依存した業務では、「属人化した仕事」が生まれやすくなります。担当者しか管理方法や更新ルールを把握していない状態になり、不在時に業務が止まるケースも少なくありません。その結果、特定社員への負担集中や長時間労働につながり、組織全体の生産性低下を招きます。業務の見える化・標準化は、DXの第一歩です。

働き方の多様化(リモート・副業)が進まない

紙資料への押印や対面前提の情報共有が残る企業では、リモートワークや柔軟な働き方の導入が困難です。クラウド化が進んでいない環境では、会社に行かなければ仕事が進まず、副業人材や外部専門家との協業もしにくくなります。多様な人材を活かすためにも、場所に依存しない業務環境の整備が必要です。

若手・専門人材が定着しない

若手人材やデジタル人材ほど、非効率な業務環境に違和感を抱きやすい傾向があります。紙中心の業務や二重入力、情報共有不足が続くと、「成長できない職場」と認識され、離職につながりかねません。人材不足が深刻化する中、DXは単なる効率化ではなく、「選ばれる会社」になるための採用・定着戦略としても重要です。

現場でよくあるDX推進の失敗事例

DX推進に取り組んでも、期待した成果が出ない企業は少なくありません。その多くはDXの進め方に原因があります。ここでは、中小企業でよくみられる代表的な失敗事例を紹介します。

ツール導入などの手段が目的になる

「ツールの導入」自体が目的になるケースは、DX推進における代表的な失敗パターンです。実際の支援現場でも、「ペーパーレス化したい」「Excelをクラウド化したい」といった業務改善の相談を受ける一方で、「SNS・YouTubeを始めたい」「3Dプリンタを導入したい」といった新たな取り組みに関する相談も少なくありません。

しかし、いずれの場合も「なぜ必要なのか」「どの課題を解決したいのか」が曖昧なまま、「手段」が目的になっているケースが見受けられます。本来DXは、残業削減や属人化解消、顧客対応改善など、経営課題を解決するための手段です。「なにを導入するか」ではなく、「なにを解決したいか」から考えなければなりません。

現場が置き去りになる

特に中小企業では一人あたりの業務負担が重く、新しい仕組みが「追加業務」と受け取られると定着が難しくなります。

実際の支援現場でも、問い合わせ対応を効率化するためにチャットツールを導入した企業がありました。導入後は問い合わせ数が増加し、一定の成果が見られた一方で、「誰が返信するか」「何時間以内に返信するか」といった運用ルールが十分に整理されていなかったため、返信漏れが発生するようになりました。

このようなケースは、ツールそのものに問題があったのではなく、オペレーションの設計が追いついていなかったことが課題です。DXでは、ツール導入と同時に「誰が・いつ・どう運用するか」を整理し、現場を巻き込みながら進めることが重要です。

経営層と現場で認識がズレる

経営層は「人手不足対策」「業務効率化」を目的にDXを進めようとしていても、現場では「新しい仕事が増える」「忙しいのに対応できない」と受け止められるケースがあります。

実際の支援現場でも、「DXやデジタル化という言葉は正直聞き飽きた」といった声は少なくありません。現場からすると、目的が十分に共有されないまま新しいツールの導入が進み、「また負担が増える」と捉えられるケースもあります。

成功している企業のように、「なぜDXを進めるのか」「なにがラクになるか」を丁寧に共有し、現場の不安を解消し納得感を高めながら進めていく必要があるでしょう。

中小企業がDX推進を成功させるには

中小企業がDXを成功させるために重要なことは、自社の課題を整理し、小さく着実に進めることです。ここでは、現実的なDX推進成功のポイントを紹介します。

業務フローの可視化から始める

まず、現在の業務フローを整理することが重要です。「誰が・なにを・どの手順で行っているか」を可視化すると意外なムダが見えてきます。たとえば、請求書発行や勤怠管理など、定型業務から見直せば、その効果を実感しやすいでしょう。

特に中小企業では、限られた人員で日々の業務を回しているため、すべての業務を一度に見直そうとすると負担が大きくなります。そのため、「もっとも時間がかかっている業務」「担当者しかできない業務」など、優先順位を決めて取り組むことが成功のポイントです。

「人」に着目したDX

DXは、研修やデジタル人材の配置など、「人」への投資が欠かせません。実際の支援現場でも、デジタル化の遅れを課題と感じていた企業が、求人票に「DXが十分に進んでいないが、これから本気で取り組みたい」と率直に記載したところ、大企業出身のデジタル人材から応募があったケースがありました。

弱みを隠すのではなく、「改善余地のある環境で力を発揮したい」と考える人材に響いた結果です。重要なのは、「人が活用できて初めて効果がある」という視点です。

スモールスタートを計画する

中小企業のDXでは、小さく始めるほうが成功しやすくなります。たとえば、請求書の電子化、チャットツール導入など、比較的負担の少ない領域から始める方法です。小さな成功体験が現場の理解を生み、次の改善につながります。無理なく段階的に進めることが、結果として大きな変革につながるでしょう。

DX推進と人材戦略をどう両立させるか

中小企業では、専任のDX担当者を配置する余裕がないケースも多く、外部採用と内部育成をどう組み合わせるかが重要なテーマになります。

たとえば、デジタル人材を外部採用する方法は非常に効果的ですが、業務理解が不足していると現場に定着しにくいケースもあります。一方で、現場をよく知る社員を育成しながらDXを進める方法は、時間はかかるものの、実務に即した改善につながりやすい傾向があります。そのため、外部人材と現場社員を巻き込みながら進めるアプローチが有効です。

また、DX推進では評価制度や組織文化の見直しも欠かせません。たとえば、「改善提案が評価される」「新しい挑戦を歓迎する」といった評価尺度・組織文化がある企業ほど、変化が定着しやすい傾向があります。DXを「人が成長しやすい組織づくり」と一体で考えることが、中長期的な競争力向上につながるでしょう。

公的支援を活用したDXの進め方

DX推進には、中小企業向けにさまざまな公的支援制度が用意されています。費用負担を軽減しながら、専門家の知見も活用できるため、自社だけで抱え込まず支援制度をうまく使うことが重要です。

補助金や支援施策の活用

中小企業のDX推進では、ITツール導入費用の一部を補助する「デジタル化・AI導入補助金(旧IT導入補助金)」が代表的です。会計ソフトや勤怠管理、受発注システムなどの導入に活用できます。ただし、「補助金があるから導入する」のではなく、自社の課題に合ったツールを選定することが重要です。

中小企業が活用できる支援機関

悩む場合は、公的支援機関を活用する方法もあります。商工会・商工会議所、よろず支援拠点、中小企業診断士などでは、業務整理やIT活用に関する相談が可能です。自社だけで判断せず、第三者の視点を取り入れることで、失敗リスクを抑えやすくなります。

まとめ

中小企業におけるDX推進は、単なるITツール導入ではなく、業務効率化や人材定着、生産性向上につながる重要な経営課題です。

一方で、紙やExcelへの依存、属人化、現場との温度差などを理由に思うように進まない企業も少なくありません。成功のポイントは、大規模改革を目指すのではなく、業務フローの可視化や小さな改善から始めることです。

DXを「人が活躍しやすい組織づくり」と捉え、必要に応じて補助金や支援機関も活用しながら、自社に合った形で着実に進めてみてください。

矢部栞
担当者
キャリアリサーチLab編集部
SHIORI YABE

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