農業の未来を支える次世代を育成するために、必要な考え方とは-こと京都株式会社

キャリアリサーチLab編集部
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就農人口が減少し、農業の担い手不足が進む一方で、次世代の担い手を迎え育てる新卒採用や、働く者のニーズに応じた柔軟な働き方を推進し、農業の未来に明るい光を差し込む農業法人があります。

京都府に本社を構え、九条ねぎの栽培・生産・加工・販売を一手に担う「こと京都株式会社」がその一つ。担い手不足対策のヒントを探るべく、同法人が実践する新卒採用の方針や若者の興味を喚起する工夫、柔軟な働き方を実現するしくみ、成長支援など、さまざまな角度から番頭執行役員の宮川光太郎さんにお話を伺いました。

こと京都株式会社 番頭執行役員/宮川光太郎氏

宮川光太郎(こと京都株式会社 番頭執行役員)

1970年 京都府生まれ。工学部土木工学科を経て、1999年から農業の世界へ転進。2011年 こと京都株式会社へ入社。当社初の営業マンとして、九条ねぎを全国に売り歩く。営業部長、管理部長、統括本部長を歴任。現在は番頭執行役員として、主に組織づくりと人財育成を担当している。 こと京都グループの冷凍野菜の製造を担当する、こと京野菜株式会社を立ち上げ、取締役副社長に就任(兼任)。人を大切にする経営学会人財塾6期生(EMBA)、防災士。

新規就農者支援に向け、新たな事業スキームを創造

質問:こと京都の事業内容と組織の特徴を教えてください

宮川:農業生産法人として、京都の伝統野菜の一つ、九条ねぎの栽培・生産・加工・販売まで一貫して行っています。「九条ねぎでできることは何でもやろう」という考え方のもと、生鮮、乾燥、冷凍の三温度帯すべてを取り扱い、小売・量販店から外食、中食、通販まで、あらゆる業態へご提供しています。

たとえば、生鮮品では大手スーパーマーケットや飲食店、弁当店などに根切りやカットねぎとして提供し、乾燥品では食品メーカーの原料としてねぎパウダーなどを納入しています。冷凍品でいえば、大手回転寿司チェーンの海外店舗に冷凍カットねぎを輸出し、海外のお客様にも味わっていただいています。

近年は気候変動が著しく、私たちのホームグラウンドである京都においても不安定な天候・気温の変化がねぎの発育に影響を及ぼしかねません。京都産だけに固執してしまうと、安定した生産量を確保できなくなる恐れがあります。そこで、当法人では北海道に自社農場を開設したり、東北地方の生産者と契約したりと、ねぎの栽培に適した北日本方面にも生産地を広げ、安定生産を実現しています。

また、万願寺とうがらしをはじめ、九条ねぎ以外の冷凍京野菜の取り扱いにも事業を広げ始めています。この主な目的は、新規就農者の育成・支援です。新規就農者がまず壁に当たるのが、販路の確保。就農当初はどうしても生産が安定せず、小ロットの生産量に限られることが多いため、市場流通に乗せることが難しく、安定収益を築きにくい状況があります。

そこで当法人が考えたのが、冷凍保存を効果的に用いること。当法人に10キロでも20キロでも京野菜を納入していただければ、当法人が仕入れ、冷凍品として鮮度を保ったまま在庫にします。そして、ある程度のロットまで在庫量が積み上がった段階で、大口の取引先に販売すれば収益化できます。こうしたしくみによって新規就農者の育成・支援に取り組み、取り扱い品目をさらに広げようとしています。

採用ターゲットは、食と農業の未来に関心を抱く若年層

質問:新卒採用に力を入れている背景を教えてください

宮川:まず組織編成について申し上げますと、従業員数は2026年6月現在225名で、年間生産出荷量2,200トンもの九条ねぎの生産・加工を支えています。そのうち正社員は49名。外国人スタッフも52名在籍しています。

おおまかな年齢構成を見ると、20代24%、30代22%、40代14%と続き、20代~40代が全体の約60%を占めています。マネジメントについても30代が中心になって担っていますので、全体として次世代の育成・登用が進んできている状況にあります。

そもそも私たちがなぜ若年層の採用、特に新卒採用に力を入れているのかといいますと、世代交代に向けた次世代人材の育成です。創業者である代表の山田をはじめ、経営幹部陣が年齢を重ねていく中、食と農業に関する技術はもちろん、経営マインドや企業風土、さまざまな取引先とのつながりなど、当法人が培ってきた財産を次世代へ継承することが重要な経営課題であると捉えています。

新卒採用を進める中で感じているのは、当法人を志望してくれる学生は大きく三つのタイプに分かれるということです。まず純粋に農作業をしたい人。「ねぎや土、自然と向きあいたい」「畑で仕事をしたい」という気持ちを持った方々です。次に、もう少し広義の意味で農業に携わりたいという人。つまり、農業の6次産業化をはじめ、ビジネスとしておもしろさを見いだすタイプです。そして三つ目が、農業の未来に向けて新しい枠組みを発案したい人。

従来は前者二つのタイプが多く、当法人においても採用のターゲットとしてきましたが、これからは既存の枠にとらわれず、「食と農業の未来をどう描くか」に興味・関心のある人たちを広く迎え入れることが、次世代の発展につながっていくと考えています。そのため、当法人の新卒採用では、農業や食品について学んだ学生だけでなく、学部・学科にかかわらず多様な学生に門戸を広げています。

地域創生を一緒に考えるインターンシップを企画

質問:そうした学生の採用を行うためにどんな工夫をしていますか

宮川:これまで農業に触れてこなかった学生のみなさまにも当法人を知っていただくために、私たちは学生向けインターンシップに注力しています。九条ねぎの収穫体験や工場見学、営業企画の仕事体験などに加え、2025年には題して「な~んも決まっとらんインターンシップ」をスタートしました。

インターンシップの様子/こと京都株式会社ご提供
インターンシップの様子/こと京都株式会社ご提供

宮川:当法人が岩手県陸前高田に所有する4haの手つかずの土地を舞台に、学生のみなさまと一緒に「何をしようか」を考えるところから始め、地域交流イベントなどを通して地域のみなさまと交流し、さまざまな人たちを巻き込みながら、陸前高田の未来を考えるきっかけを創出しようという取り組みです。

当法人は小さな農業法人ではありますが、こども食堂支援や京都市内の小中学校の給食無償提供、高校・大学での講義、被災地へのボランティア派遣など、地域のため、未来のためになる取り組みを積極的に実施しています。インターンシップを通して当法人のスタンスにも触れていただきながら、「自分たちの発想と行動次第で農業の未来を変えられるんだ」ということを実感してほしいと思っています。

私自身、採用活動の過程で感心しているのは、若者のみなさまの価値観の変化です。単に九条ねぎを生産・販売するだけにとどまらず、地域にどんな価値を提供できるか、将来の農業にどう貢献できるか、それによって社会にどんな変化をもたらせるかといったことをインターンシップで一緒に考え、体感してもらうことで、学生の心が鮮やかに動き、当法人に興味・関心をもってくれる傾向が近年一段と強くなっています。

実際、「こと京都に入れば、社会に役立つことができる」という期待感を抱いて入社を決める学生が多く、文学部、経済学部、法学部など出身学部はさまざまです。これらの工夫をすることで、求める人材を採用できている実感があります。面談の際には採用の意図をしっかり伝えているので、入社後にギャップを感じることも少なく、定着率にも寄与していると思います。

働き方の選択肢を広げ、ライフステージの変化に対応

質問:正社員以外の方々については、どのように対応していますか

宮川:まずもってお伝えしたいのは、当法人には雇用形態や国籍などにかかわらず、全員がフェアに力を発揮してほしいという考えがあるということです。この考えのもと、子育てや看病、介護など、何らかの事情によって時間の融通が利く働き方が必要な人たちも安心して働き続けられるよう、パートタイマーや契約社員など柔軟に働ける勤務スタイルを用意しています。

たとえば当法人の契約社員は、一般的な雇用期間を限定する形態とは少し異なり、転勤がないとか、夜の会議には出なくてもいいとか、そうした特別の契約を交わした正社員という意味合いの勤務スタイルです。そのため、正社員ではないから役職を担えないとか、仕事の裁量権が制限されるとか、そういった区別はありません。

ライフステージに応じて契約社員から正社員へ、あるいはその逆も、勤務スタイルを柔軟に選択できることも当法人の特徴です。その時々で本人にとってベターな働き方を本人と相談しながら決めています。

実例をあげますと、現在採用業務を担当している企画管理担当の課長は、入社当初はお子さんが小さく、子育てと両立しやすいパートタイマーとして働き始めました。やがてお子さんが高校に入った段階でフルタイムの契約社員に転換し、子育ての手がかからなくなった現在は正社員として活躍しています。

パートタイマーでいえば、勤務時間が9時-13時の人もいれば、9時-15時の人も、9時-17時の人もいます。たとえば1週間のうち月・火・木曜は9時-13時勤務で、水・金曜は9時-17時という働き方も可能です。 通常の工場ラインの場合、2交代制・3交代制の交代要員を確保する必要がありますが、当法人のような農作物加工の現場においては、いわゆるセル生産方式のように各自・各チームで完結できる工程があるため、一人だけ早く上がって次のシフトの人と交代するといった調整もチーム内で行いやすく、柔軟な働き方を実践できます。

利他と自利を併せ持つことが、就農施策のポイント

質問:就農者のすそ野拡大に向けては、どんな取り組みをしていますか

宮川:独立支援研修生制度を設けています。当制度を設ける以前から、当法人の社員の中には「ゆくゆくは独立したい」という思いを持ったメンバーがいて、独立に向けて強い意志をもって仕事に取り組む姿を見てきました。そういう気概ある仲間を支援できる制度をつくろうという思いから当制度を立ち上げました。

独立までの育成・準備期間を最長5年とし、その間に九条ねぎの栽培・生産にかかわるスキル・ノウハウを集中的に学んでもらいます。研修生のみなさまは覚悟を決めて加わっていますので、吸収が早く、3~4年で巣立って起業するメンバーが多くいます。

独立後の生産計画についても当法人が相談に乗り、就農当初は、収穫した九条ねぎを原則全量買い上げます。これによって独立後の不安要素である売り先を確保でき、年間を通して安定した単価で買い上げるため、相場のリスクも小さく抑えられます。

といっても、ずっと当法人にのみ納入し続ける義務はありません。むしろ自ら売り先を開拓し、ビジネスを広げてほしいと願っています。よく他法人のみなさまからは「それでは育成コストを回収できない」と疑問を持たれるのですが、もちろん私たちも営利企業ですから、利他だけで動いているわけではありません。当法人から巣立っていく仲間が増え、農業が発展していくこと。それがひいては当法人の社会からの評価を高め、当法人の理念や取り組みについて認知が広がり、「私も『こと京都』で働きたい」と思ってくれる将来の仲間が増えることを期待しています。そうした利他と自利を併せ持ちながら、各種取り組みを行っています。

社員の成長と定着をうながす成長支援制度

質問:入社後の人材育成についてはどう取り組んでいますか

宮川:独自の成長支援制度に基づいて進めています。四半期に1回、約50項目の評価項目に沿って、まず社員一人ひとりが自己採点し、直属の上司が査定します。そのうえで、社長を含め役職者がそろった成長支援会議にて、社員一人ひとりのスコアの妥当性を相対的に検討し、「○○さんはこのスキルを伸ばせば、サブリーダーに昇格できる」「そのためにはこの経験が必要」といった話し合いを丁寧に重ね、一人ひとりの評価と課題、および今後の育成方針を明確にしています。

このフローによって、上司の主観による評価のバラツキや不公平性が生じることを防ぎ、社員にとっては「次の四半期にはこの課題に取り組み、○点を獲得すれば昇格できる」「そうすれば、この年収額を得られる」というステップが明確に可視化されるので、モチベーションをもって日々の業務に励み、成長をめざせます。

未来に向けたメッセージの発信が重要

質問:人材確保に苦戦する法人・企業へアドバイスをお願いします

宮川:たとえば当法人は今、約35haの自営農地を所有していますが、「2倍の70haに拡大するため、不足している作業員を採用したい」と打ち出しても、おそらく応募者は集まらないでしょう。求職者からすると、「一作業員として使われるだけで未来が見えない」と思われてしまいかねないからです。

これから採用する方が活躍するのは「未来」ですから、たとえば、「拡大する農地を使ってドローンの活用やスマート農業を実践し、農業の未来を切り拓きたい。ぜひ一緒にチャレンジしよう」といったメッセージを発信すれば、結果が違ってくるのではないでしょうか。

当法人代表の山田は、「社員の成長が会社の成長につながる」と社内で常々いっています。これは、会社の成長の手段として社員の成長があるという意味ではありません。会社とは社員の集まりであり、社員と会社の成長は表裏一体なんだということです。こうした考えのもと、「社員が未来を描けることをやろう」という視点で事業に臨み、人材育成に取り組んでいます

もちろん私たちも、最初から採用活動がうまくいったわけではありません。試行錯誤を重ねながら、次世代を担う人たちへメッセージを発することで、法人として大切にする価値観や取り組みが伝わり、同じ思いを共有する仲間が集まるようになりました。 経営者のみなさまは「自分の法人・企業をこうしたい」「未来にこう貢献したい」という思いをお持ちだと思います。

学生と接する機会の多い私の肌感覚として、近年の学生は「自己成長できる会社」を志望する傾向が強いと感じますので、未来についておおいに語り、次世代を担うみなさまに「一緒に成長していこう」と発信し続けていけば、きっと潮目が変わってくると思います。

矢部栞
担当者
キャリアリサーチLab編集部
SHIORI YABE

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