両立支援の工夫-人に仕事を寄せる-

宮本祥太
著者
キャリアリサーチLab研究員
SHOUTA MIYAMOTO

問題意識

情報化社会の進展や労働期間の長期化によって個人のキャリアを取り巻く環境が変化し、働くことに対する考え方が多様化している。共働き世帯の増加や副業の広がりにも表れているように、会社に費やすことができる資源や仕事に対するスタンスは人それぞれに異なる。

育児や介護などの私生活上の役割と両立して働く人もいれば、自分の趣味や家族との時間といったプライベートを重んじる人もいる。誰もが同じようなペースで、同じようなワークスタイルで日々の仕事に向き合うことができるわけではなく、かつて標準とされた組織で地位を高める上向きのキャリアを望むとも限らない。

企業にとっては、個人の私生活にまで目を向けて従業員を支援することは簡単でなく、ライフキャリアの支援が直接的に組織の成果に繋がる確証を持てないと考えるかもしれない。だが一方では、個人のライフキャリアを充実させることが従業員の心身の健康に繋がり仕事上のパフォーマンスの向上を期待できるといった研究も蓄積されている。人口減少で労働力の確保が一層難しくなるこの先を考えれば、個人の主観的なキャリアの満足度を高めながら持続的な雇用関係を築いていく姿勢は重要と言えよう。

では、働く人それぞれが組織以外の役割を持っているという前提に立った時に、企業はいかに仕事と仕事以外との両立を促すことができるのだろうか。独自の支援によって従業員の両立を支え組織を成長させている企業の事例からヒントを探る。

豊玉タクシー株式会社の工夫

働く選択肢の拡充

豊玉タクシー株式会社(東京都練馬区/従業員数293名/髙内信吾代表取締役社長)は、タクシー乗務員の「働く選択肢」を拡充することで多様な人材が活躍できる環境を整えている。個々の多様な働き方を支える基盤となっているのが、2023年に導入した「週休3日制」。かつては「週休2日制」を原則としていたが、柔軟な働き方や勤務日数を制限したいという働く側のニーズに応えるかたちで勤務日数を選べるよう変更した。

勤務シフトは基本的に会社側が設定するが、個人の希望によって振り替えが可能。「週休3日制」の場合は最大6連休を取得できるなど、個人の都合に合わせて出勤日の調整がしやすい工夫がなされる。

勤務形態も選択の余地があり、タクシー業界特有の働き方である「隔日勤務(1日おきに長時間働く勤務形態)」を基本とした最低労働時間15時間10分の形態に加えて、最低労働時間7時間45分の「日勤(昼勤務・夜勤務)」を選択できるようにした。1日の最大拘束時間は、隔日勤務であれば20時間以内、日勤であれば12時間以内の上限内で調整ができる。

さらに、これまで全員一斉に行っていた始業時の「点呼」もテコ入れ。各勤務形態に応じて、6:00~9:00、12:00~14:00、18:00~19:00の時間帯の中でいつでも個別に受けられるように変更した。始業時間に幅が生まれたことで、育児中の乗務員が幼稚園の送迎をしてから出社したり、自身の生活状況や健康状態に合わせて働く時間を調整したりできるようになった。

報酬とも連動している。売上に応じた歩合給が重視されることも多いタクシー業界だが、豊玉タクシーでは、月々の賃金は労働時間数に応じた固定給を採用。売上に応じた歩合は年3回の賞与でインセンティブとして還元している。この報酬形態によって、仮に限られた労働時間の中で大きな売上に繋がらなかった人でも収入を安定して得ることができて、その一方で、成果を上積みするために営業回数を増やして高収入を目指すこともできる。労働時間と収入のバランスを自らで調整しやすい仕組みがあることで、個人が中長期視点でキャリアを設計しやすくしている。

豊玉タクシー株式会社の施策/マイナビ作成

人材戦略としての両立人材

「働く選択肢」を拡充させたことで生まれるシフトの偏りやドライバー不足の課題は、新規人材を積極的に採用することでカバーしている。中途採用を強化し、2024年からの2年間で約100名のタクシー乗務員を迎え入れた。労働改革の産物である働き方の柔軟性は採用の呼び水となり、仕事と私生活の両立を希望するさまざまな属性の転職希望者から多くの応募がきているという。

組織としても両立人材の活用を人材戦略の一つに据えて積極的に受け入れてきた。22歳~73歳まで幅広い人材が活躍しているタクシー乗務員の中には、カメラマン・ミュージシャン・探偵・整体師など、個人で仕事や活動を行っている副業人材が多く在籍。女性ドライバーは2024年4月時点で10名だったのが、2026年4月時点で20名にまで倍増した。

育児をしながら、他の職を持ちながら、といった両立人材が活躍する職場の実現に向けては、制度面の改革だけでなく風土の醸成も行った。工夫の一つが、代表自らが育児休暇を取得する試みだった。「育児は特別なことではなく誰もが当たり前に行うもの」という考えのもと、育休制度や多様な人材への理解を組織に浸透させることを目的に、3人の子それぞれに約1カ月間の育休を取得。

育休明けも子の送迎のために時短勤務制度を活用するなど、代表自らが模範となって積極的に制度を活用している。育休制度は現在、乗務員の要望で取得日数を決められる形式で運用されており、男性ドライバーの育休取得者も年々増えているという。

株式会社ラフリエの工夫

ビジネスモデルの転換

WEB制作・コンサルティングを手掛ける株式会社ラフリエ(大阪府大阪市/従業員18名/正木桂司代表取締役)で働く従業員は全員が女性。営業・サポート(既存顧客対応など)・クリエイティブの3部門で活躍しており、組織としても女性が働きやすい職場づくりに力を入れている。

創業6期目の2020年に行った大きな改革が「ビジネスモデルの転換」。創業時からマーケットが潤沢な飲食・美容の業態を中心に顧客を増やしてきたが、顧客の店舗が営業していない「朝早い時間」「夜遅い時間」に従業員が営業活動をせざるを得ない状況となり、顧客の営業がある土日祝の問い合わせ対応が頻発。

従業員の残業や公休日である土日祝の休日出勤が常態化し、売上達成と引き換えに長く働く“体力勝負”の営業スタイルが目立ってきた。「仕事は面白いけど長くは続けられない」と長時間労働を理由に退職した従業員も多かったという。

この状況を打開するため、従業員のニーズにビジネスモデルをフィットさせる戦略に切り替えた。具体的な取り組みの一つとして、土日祝が休みでない業態への営業活動を禁止とし、既存顧客のフォローは継続しつつ自社の従業員に土日祝の対応が発生しないような仕組みを構築した。成約率や売上の費用対効果を考えれば土日祝も営業する飲食・美容にアプローチする方が「合理的」だったが、持続的に組織を発展させるためには顧客と営業時間を揃えて自社の労働時間を健全化する必要があると判断した。

従業員にとっては売上達成のための足かせとなったが、制約があることで、メンバー同士がそれぞれにアイデアを出し合い、新たなターゲットを見定め、どのようにアプローチして営業を進めるべきかの知恵を以前にも増して出し合うようになった。その結果、ビジネスモデル転換以降も売上は右肩上がりに伸び、チームで協力して目標を達成する意識が高まったという。現在は士業などサービス業以外の業態が顧客の中心で、時間のズレの問題は解決した。

改革を進める上で大切にしたことが「労働時間の長さ=実績向上ではない」という働く意識の転換だった。体力勝負で成果を上げることを美徳とする価値観を許さず、制約がある中でいかに効果的に業績を高めていくかを重視。休日出勤を禁止とし、定時退社の意識を育むため責任者が定時前に必ず業務終了のアナウンスを行っている。

やむを得ず残業する場合でも午後8時半を上限に定め、時刻になると代表がフロアを回って退社を呼び掛ける。残業時間は当時、月平均30時間以上あったが、現在は10時間前後にまで改善された。

株式会社ラフリエの施策/マイナビ作成

休日休暇の仕組みとの連動

日々の働く時間を減らすのと同時に“働かない時間”を増やすための制度改革も展開。公休日を毎年1日以上増やすことを組織のミッションに掲げ、年間休日は創業時から十数日増え、2026年4月時点で140日にまで増加した。

加えて、月次の売上目標の達成度合いに応じて、翌月に特別休暇が1日、2日と付与されていくキャンペーンを毎月実施。チームで成果を出せば、チームみんなの休みが増える仕組みをつくり、“成果を出すために長く働くこと”とは対極にある“休みを増やすために成果を出す”という発想への転換を促した。今では組織の文化として「労働時間の長さ=実績向上ではない」という考え方が浸透しつつある。

両立支援の観点では、有給休暇の取得も工夫している。「有給休暇はどこまでいっても取りづらいもの」という考え方のもと、取得の心理的ハードルを下げるため、従業員が“メール1つ”で取得できるようにした。

これは、有給取得希望者が責任者に「休みます」という旨のメールを送るだけのシステムで、休みのうかがいを立てる必要もなければ、理由を説明したり許諾を待ったりする必要もない。誰もが気兼ねなく有給休暇を取れる風土が生まれ、子供の病気や家族の用事といった突発的な出来事にも対応できるようになった。

分析・考察

構造的転換と新しい常識づくり

この2社に共通するのは労働時間に着目した改革を行っていることだ。どちらの企業も従業員個々の組織外の役割に配慮し、仕事ばかりに時間的資源を費やすことなく持続的にキャリアを続けることができる体制を整えている。

その上で、単一の制度の改善にとどまることなく、労働時間に関する制度と、他の人事施策(報酬・評価など)を含む人事システムや、従業員個々のタスクが紐づくビジネスモデルとの整合を取りながら、より大きな枠組みで「構造的転換」をしている点が特徴と言える。

制度面へのアプローチと同時に、従業員の意識や職場の雰囲気などの文化の醸成を図り、従業員のニーズや社会的要請にフィットするかたちで組織の新たな常識や慣習を築き上げていることが組織の成果に繋がった要因であると考える。

構造的転換と新しい常識づくりの図/マイナビ作成

両立支援の意義 

働く個人にとって、会社での自分や仕事での自己がキャリアにおける役割のすべてではない。家庭の役割を重視している人や地域活動での役割を大切にしたい時期もある。だからこそ、ワークとライフの双方の観点で自身の資源をどのように配分するかは個人が持続可能なキャリアを実現する上で重要である。

人の資源に着目した研究に目を向けると、企業の両立支援の有用性が見えてくる。たとえば、資源保存理論(Hobfoll,1989,2001)では、人は自らの資源(時間・労力など)を守り築こうとする性質があり、資源の喪失をストレス要因と考える。この理論では、資源が不足している人は自身の資源を失わないように防衛的に行動し、資源の配分を最適化する。

たとえば、仕事以外の役割に資源を費やしたいと考える人がいたとする。その人が仕事ばかりに時間やエネルギーを費やすことになった場合、仕事以外の役割に資源を配分することができず、ストレスの原因となる。そうなると、資源の枯渇を防ぐために省エネで業務をしたり、資源の喪失を抑えられるように転職したりも考えられるだろう。

また、資源の観点から仕事と私生活の相乗効果に着目した研究も蓄積されている。これは「エンリッチメント」「ポジティブ・スピルオーバー」などの概念で説明されるもので、仕事・私生活の一方の経験が、もう一方の役割の質を高めたりポジティブな影響を与えたりすることに繋がるとする(Greenhaus & Powell, 2006 ; Carlson et al, 2006)。

たとえば、家庭や地域活動で養われた対人スキルや人脈を仕事に活かすことで高いパフォーマンスに繋がったり、あるいは、自らの裁量で業務を決められる柔軟性や仕事に見合う納得した報酬がポジティブな感情をもたらし波及的に私生活の充実に繋がったりすることが考えられる。

これらの研究から得られる示唆は、仕事ばかりに資源を使うことにはリスクがあること、仕事以外の役割が仕事に対してもポジティブに影響する可能性があることだ。働く個人の立場で考えれば、就業先に両立の仕組みがあることで、変化が激しく不確実な社会でキャリアを築くための安心材料になるだろうし、この先ライフステージが変化した時にも組織に残ってキャリアを続ける可能性が広がる。両立支援体制そのものが、個人が組織内で持続的にキャリアを続けるための動機になり得るということだ。

さらに、プライベート重視の志向の高まりや副業の浸透などの仕事に対する価値観の変化、共働き世帯の増加や育児・介護のニーズの高まりなどの環境変化を考えても、企業が個人のライフキャリアに目を向けて両立をサポートする意義はあるだろう。

まとめ

生産年齢人口が減り人手不足が深刻化していく中で、企業の人材マネジメントに今後問われるのは、多様な個人のポテンシャルを最大限に活かす視点であろう。性別も年齢も経歴も現在置かれているキャリアの状況も、全く異なる個人が集まった組織であれば尚更、従業員それぞれに事情があることを前提として、「会社の外での時間」を尊重しながらワークとライフの両立を支援していくことが大事になる。

実現のために、育休産休や副業認可のような時間的観点で制度を整えていくことは重要だろう。ただ、制度を設けたとしても、個々の業務量がそのままだったり、報酬形態が長時間労働を前提としていたり、個人の組織外の役割を軽視するような雰囲気があればうまく機能し難い。施策を単一で捉えて改善や導入を図るのではなく、人事システムやビジネスモデルとの整合を図りながら、根本からシステムを転換することが重要であると考える。

そして、制度の構築と風土の醸成を両面で進めながら時代にマッチした新たな仕組みを生むことができれば、多様な人材が持続的に活躍できる環境は自ずと育まれていくと思う。仕事に人を合わせるのではなく、人に仕事を合わせる発想で、職場をアップデートしようとする姿勢こそが、組織に人を集め、離さないための手がかりではないだろうか。

キャリアリサーチLab研究員 宮本 祥太


【参考文献】
・Hobfoll, S. E. (1989). Conservation of resources: a new attempt at conceptualizing stress. American psychologist, 44(3), 513.
・Hobfoll, S. E. (2001). The influence of culture, community, and the nested‐self in the stress process: Advancing conservation of resources theory. Applied psychology, 50(3), 337-421.
・Greenhaus, J. H., & Powell, G. N. (2006). When work and family are allies: A theory of work-family enrichment. Academy of management review, 31(1), 72-92.
・Carlson, D. S., Kacmar, K. M., Wayne, J. H., & Grzywacz, J. G. (2006). Measuring the positive side of the work–family interface: Development and validation of a work–family enrichment scale. Journal of vocational behavior, 68(1), 131-164.

関連記事

多様な人材の活躍1-持続的雇用関係の構築-

コラム

多様な人材の活躍1-持続的雇用関係の構築-

多様な人材の活躍2-若手人材の定着と育成-

コラム

多様な人材の活躍2-若手人材の定着と育成-

多様な人材の活躍3-人事施策と公平性-

コラム

多様な人材の活躍3-人事施策と公平性-