働き方の多様化や人生100年時代を迎え、「キャリアパス」という言葉は、個人・企業・教育現場において、ますます重要性を増している。一方で、「キャリアパスが見えない」「将来像が描けない」といった漠然とした不安は、年代・性別・職種を問わず、広く共有されているのが現状である。
新社会人としてのスタートを切る人だけでなく、新たな職場で歩み直す人や、これまでとは異なる役割に挑戦する人にとっても、自身のキャリアパスを見つめ直すことは重要なテーマだと言える。
本コラムでは、キャリアパスの定義やキャリア教育との関係性を整理し、多様性の視点を踏まえながら、一人ひとりが自分らしいキャリアパスをどのように描けばよいのかについて解説する。
そもそもキャリアパスとは?
キャリアパスは、「働く」という視点と「教育」という視点で、やや異なる文脈の中で語られてきた概念である。ここでは、それぞれの定義を解説する。
働くという視点でのキャリアパスの定義
厚生労働省 によれば、「キャリア」とは過去から将来の長期にわたる職務経験や、これに伴う計画的な能力開発の連鎖であるとされている。
これは、単なる昇進・昇格のルートを意味するものではない。仕事を通じてどのような経験を積み、どのような力を身につけながら職業人生を築いていくかという、長期的な成長の道筋を指している。
【参考】厚生労働省 キャリアコンサルティング・キャリアコンサルタント
キャリア教育の視点での定義
文部科学省 の中央教育審議会答申では、キャリア教育は以下のように定義されている。
「 一人一人の社会的・職業的自立に向け、必要な基盤となる能力や態度を育てることを通して、キャリア発達を促す教育」
ここで示されている重要な概念が、「キャリア発達」と「キャリア形成」である。
- キャリア発達とは
社会の中で自分の役割を果たしながら、自分らしい生き方を実現していく過程である。
- キャリア形成とは
社会の中で自分の役割を果たしながら、自分らしい生き方を実現するための自他の働きかけである。
学校教育の現場では「キャリアパス」という言葉はあまり用いられないが、実質的にはキャリア発達・キャリア形成と同じ方向性の概念として扱われていると言える。
【参考】文部科学省 キャリア教育
キャリアパスをめぐる課題
近年、キャリアパスの重要性は多くの組織で認識されるようになった。しかし、「制度は整備されているが、実際には機能していない」と感じる現場も少なくない。ここでは、ビジネス現場を中心に、代表的な課題を整理する。
キャリアパスが抽象的で具体像が見えない
「経験を積めば成長できる」「意欲があれば評価される」といった言葉は耳にしやすいが、それだけではキャリアパスとは言えない。どの段階で、どのような能力が求められ、次に何を目指すのかが示されていなければ、道筋は見えないままである。
キャリアを具体化するためには、将来像から逆算して考えるバックキャスティングの視点が有効である。
バックキャスティングについてはこちらの記事も参考にしてほしい。
昇進モデルが一本化されている
多くの組織では、「昇進を目指す=管理職になる」という単線的なキャリアモデルが前提となっている。しかし、すべての人が管理職になりたいというわけではない。
専門性を深めたい人、現場で価値を発揮し続けたい人にとって、選択肢が限られていることは大きな障壁となる。複数のキャリアのあり方を認めないことが、人材の意欲や定着を阻害しているという点は、見過ごされがちな課題である。
職場では、1on1などのコミュニケーションを通じて、上司と部下が日頃から互いの価値観を理解し合い、共通認識を持てる関係性を築いておくことが重要である。こうした積み重ねが、さまざまな課題を解決するための一つの有効な手立てになるだろう。
1on1についてはこちらの記事も参考にしてほしい。
キャリアパスが評価・育成と連動していない
キャリアパスが示されていても、評価制度や研修制度と結びついていなければ、実効性は低い。何を身につければ次の段階に進めるのかが明確でないまま、年次ごとに研修を受けるだけになっているケースも多い。
キャリアについて対話する場が不足している
キャリアパスの課題は、制度だけの問題ではない。定期的に将来について言葉にし、上司や組織とすり合わせる「対話の場」がなければ、キャリアパスは機能しない。業務進捗や評価確認に終始する面談では、キャリア支援にはつながりにくいのである。
キャリアパスが固定的で更新されない
社会や働き方が変化する中で、キャリアも柔軟であるべきである。
ライフステージの変化や価値観の多様化に応じて、行きつ戻りつできるキャリア設計がなければ、「一度外れたら戻れない」という不安を生み出してしまう。普段の会話から、職場や家族でも「キャリア」や「大切にしたいこと」を言葉にすることが大事である。
キャリアパスの課題は制度ではなく運用に現れる
キャリアパスの本質は、道筋を示すことそのものではない。一人ひとりが成長を実感し、将来を主体的に描ける状態をつくることにある。キャリアパスを見直すことは、組織が人材とどう向き合うかを問い直すことでもある。
個人向けのキャリアパス支援方法
- キャリア・パスポートでの成長支援
小学校から高等学校まで一貫して活用されている「キャリア・パスポート」は、学習や学校生活を振り返りながら、自分の成長や強みを蓄積していくためのツールである。目標を立て、振り返るというプロセスを繰り返すことで、現在の学びと将来を結びつけ、長期的なキャリア形成を支援する役割を担っている。
- キャリア面談・キャリアコンサルティング
個人が自身の経験や価値観を整理し、今後の方向性を考えるための対話の機会である。第三者との対話を通じて、気づきや選択肢を広げることができる。
- スキル可視化ツール(職務経歴・能力の棚卸し)
経験やスキルを言語化することで、自分の強みや課題を客観的に把握できる。具体的なキャリア支援ツールには厚生労働省が提供するジョブカードなどがある。
ジョブカードについての記事はこちらを参考にしてほしい。
組織としてのキャリアパス支援方法
- キャリアパスの精度・職位定義表
職位ごとに期待される役割や能力を明確にし、成長の道筋を示す制度である。
- リスキリング制度
キャリアパスと連動した学び直しは、計画的な人材育成につながる。
- 昇給の連動
能力や役割の発揮が評価や処遇に反映されることで、成長への納得感と意欲が高まる。
リスキリングについてはこちらの記事も参考にしてほしい。
キャリアパスとダイバーシティのこれから
キャリアパスは、もはや「誰もが同じ道を進むこと」を前提とするものではない。性別、年齢、障がいの有無、ライフステージ、価値観など、一人ひとりが異なることを前提に、多様なキャリアのあり方を認めることが不可欠である。
ダイバーシティとは、人の違いを分類することではなく、違いを前提に支え合い、選択肢を広げることである。キャリアパスもまた、一つの正解を示すものではなく、行きつ戻りつしながら自分らしく積み上げていくプロセスであり、多様性と深く結びついている。
それぞれの自分なりのキャリアパスを描くことは、未来を主体的に選び取る第一歩となることに期待したい。