なぜ今、サステナビリティが「人材戦略」になるのか?Googleの決断と、50社への調査から見えたサステナビリティ活動の社内実践-法政大学経営学部 准教授 北田 皓嗣氏

キャリアリサーチLab編集部
著者
キャリアリサーチLab編集部
法政大学経営学部 北田皓嗣准教授

法政大学経営学部 准教授 北田 皓嗣(きただ ひろつぐ)
専門はサステナビリティ情報開示、サーキュラーエコノミー、およびサステナビリティの社内浸透。国際的な活動として、ISO/TC323(Circular Economy)やISO/PC 343(SDGs management)のExpert(日本代表)や、WBCSD/UNDPが主導するGlobal Circularity Protocol(GCP)のTechnical Working Groupにて国際エキスパートを務め、サーキュラーエコノミーの国際規格・ルール形成に深く関与している。主な研究成果は Journal of Cleaner Production や Journal of Material Cycles and Waste Management など多数の国際誌に発表。また、理論の実践への応用にも注力しており、220社以上(2025年現在)が参画する「サステナビリティにおける社内浸透研究会」の代表を務める。研究会の成果は『サステナビリティ戦略の実装:組織行動を促す「社内浸透」の設計学』(千倉書房、2026年、共著)にまとめられている。
研究室Webページ:https://kitada.ws.hosei.ac.jp

はじめに

本稿で扱うのは、サステナビリティを「理念」ではなく、人材の定着やエンゲージメントに関わる「人材戦略」として捉え直す視点です。本題に入る前に、少し時計の針を戻して、欧米で起きていた、ある「変化」について触れたいと思います。

Googleが恐れたのは「環境規制」ではなく「人材流出」だった

2020年、Google(Alphabet)が世界最大規模の約6,000億円もの「サステナビリティボンド(使途を環境・社会課題に限定した社債)」を発行し、話題になりました。潤沢な資金を持っていた彼らが、なぜわざわざ「借金」をして、使い道を厳しく監視される道を選んだのでしょうか。

その背景には、深刻な「人材危機」がありました。優秀な人材ほど社会への視野が広く、環境や倫理に対しても敏感です。こうした人材は口先だけのスローガンでは満足せず、会社に「NO」を突きつけ始めていたのです。

サステナビリティへのコミットメントを財務的な数字で「本気」だと証明しなければ、優秀なエンジニアをつなぎ止められない――そんな危機感が、巨大企業を動かしたのです。この動きは、サステナビリティが「企業の姿勢」ではなく、「人材を惹きつけ、つなぎ止める条件」になりつつあることを象徴しています。

実はこれ、Googleに限った話ではありません。さらに遡れば、2000年代にハーバード・ビジネス・スクールのマイケル・ポーター教授がCSV(共通価値の創造)を提唱した背景にも、「ビジネスへの信頼失墜により、(ハーバード大学を卒業する)優秀な若者が企業から離れている」という危機感がありました。

大学の現場で目撃する「サステナビリティネイティブ」の台頭

「欧米の企業のサステナビリティの取り組みは日本よりも10年進んでいる」――よく耳にする言葉ですが、先にあげた変化も時間の問題であり、日本も例外ではありません。その予兆は、すでに私たちの足元、大学の教室で起きています。

私が教鞭を取る経営学部では、数年前から、学生たちの変化を肌で感じています。Z世代と呼ばれる今の学生たちは、小学校から高校までの教育課程でSDGsや社会課題について当たり前に学んできました。そのため、私が担当する「サステナビリティ」を扱うクラスは、定員を超える希望者が集まり、履修のための選抜を行うことが常態化しています。

一定程度の学生にとって、企業が利益だけでなく社会性を追求することはとても興味深いテーマであり、その背景や理由を知りたいという欲求をとても強く感じます。実際、その多くは学部の成績上位10%に入る優秀な学生たちです。

高い能力と広い視野をあわせ持つ、こうした「サステナビリティネイティブ」な世代が、いま続々と労働市場に出てきています。この波は転職市場にも及んでおり、企業の「社会性」や「パーパス」は、「人を大切にする会社かどうか」を見極める判断材料になりつつあります。

しかし、受け入れ側となる企業の人事や現場には、まだ戸惑いがあります。「現場の負担が増えているだけではないか」「エンゲージメント向上に、サステナビリティは本当に関係あるのか」──と。

サステナビリティ活動は「魔法の杖」ではない

本稿では、「社会活動は社員のエンゲージメントを向上させるのか?」という問いを出発点に、サステナビリティ活動が社員のエンゲージメントや組織への定着にどのように影響し得るのかを、できるだけ現実的な視点から整理します。具体的には、

  1. 学術研究の蓄積から見える一般的な傾向
  2. 社員が実際に活動に参加したときに起こりやすい変化
  3. 筆者が50社以上の企業へのインタビュー調査から見てきた、実務上のつまずきやすいポイント

の三つを手がかりに議論します。

結論を先取りすれば、サステナビリティ活動は「やれば自然と社員のエンゲージメントが向上する」というような万能策ではありません。しかし、設計や伝え方、現場とのつなぎ方次第で、社員の仕事への向き合い方や組織との関係性に、目に見えにくいが確かな変化をもたらす可能性は確かにあります。

サステナビリティ活動を「良いことだからやるもの」ではなく、「社員が動ける仕事の仕組み」として捉え直すこと。そのヒントを、本稿で共有したいと思います。

サステナビリティは「特効薬」ではない─それでも無視できない理由

この章では、「結局、やる意味はあるのか?」という人事・管理職の率直な疑問に、研究の蓄積からできるだけ現実的に答えていきます。「はじめに」で触れたように、社会課題や環境への配慮を「特別な取り組み」としてではなく、生活の中の当たり前の感覚として受け止める新しい意識が広がりつつあります。こうした意識は若い世代に特徴的なものと捉えられがちですが、実際には世代を問わず、働く人全体へと徐々に広がっています。

こうした価値観の変化に対して、企業の取り組みは社員の定着やエンゲージメントにどう作用するのでしょうか。サステナビリティ活動は、「社会にとって良いこと」「企業姿勢を示すもの」として語られがちで、多くの企業がパーパスの中にその要素を組み込んでいます。では、それは社員のエンゲージメント向上に、実際に関係しているのでしょうか。

即効性はないが、「定着」には確かに効く

この点を研究の蓄積から見ると、少し現実的な姿が浮かび上がります。結論から言えば、サステナビリティ活動は、社員の行動を直接変える「特効薬」ではありません。

活動を始めたからといって、すぐに生産性が上がったり、離職が劇的に減ったりするわけではないのです。一方で、多くの研究が共通して示しているのは、社員が自分の仕事や会社をどう受け止めるかに影響し、その結果として、人事・組織の指標にじわじわ効いてくるという点です(※1)。

影響が比較的はっきり表れるのは、組織コミットメントや「この会社で働き続けたいか」といった定着に関わる側面です。国や業界をまたいで蓄積されてきた研究は、サステナビリティへの取り組みと、こうした指標との間に、一貫してプラスの関係があることを指摘しています(※2)。

「すぐに成果が出る施策ではないが、会社への納得感には関係してくる」。この点は、人事や管理職にとって見過ごせないポイントでしょう。

実際、インタビュー調査(『サステナビリティ戦略の実装: 組織行動を促す「社内浸透」の設計学』(千倉書房))でも、同じような声が聞かれました。ある企業の担当者は、次のように振り返っています。「活動を始めてから、若手社員に『この会社で働き続けてもいいかなと思えるようになった』と言われたのが印象に残っています。数字を見ても、サステナ関連の活動への参加とエンゲージメントの間に、一定の関係が見られました。」

結果はすぐに見えにくくても、社員の会社への向き合い方に、静かな変化が生じるケースは少なくないようです。

「組織同一化」─会社と自分の価値観が重なる瞬間

なぜ、このような影響が生まれるのでしょうか。研究で繰り返し指摘されているのが、「組織同一化」と呼ばれるメカニズムです(※3)。自分の会社が社会的に評価される取り組みを行っていると感じられると、誇りや所属意識が生まれやすくなり、それが結果としてコミットメントにつながる、と説明されています。これはまさに、冒頭で触れたような新しい感性が求めている、「自分の価値観と企業の価値観の重なり」そのものです。

サステナビリティの社内浸透の文脈では、「以前は、外部の人に会社のことを聞かれると説明しづらかったが、今は自分の言葉で話せるようになった」という社員の声が聞かれることがあります。仕事の中身が大きく変わらなくても、会社との距離感や語り方が変わることは、現場にとって決して小さな変化ではありません。

「形だけの活動」は、むしろ優秀な人材を冷めさせる

ただし、ここで重要なのが活動の「本気度」です。活動が形だけのものだと受け取られると、誇りや意味づけは生まれません(※4)。むしろ、「言っていることと、やっていることが違う」という印象が広がると、冷めた反応や不信感につながることもあります。研究では、こうした反動は、仕事に強い意味を見出している社員ほど大きくなりやすいことも指摘されています。

つまり、社会活動が社員にプラスの影響を与えるかどうかは、「やっているか」そのものよりも、どう設計され、どう現場に伝えられているかに左右されます。本業とのつながりが見え、上司や管理職が自分の言葉で語れる場合には効果が出やすい。

一方で、対外的なアピールが先行し、現場のKPIや優先順位と噛み合わないまま進められると、その活動は社員の中で浮いてしまいます。短期的な成果は見えにくくても、「この会社で働く意味」を支える土台として作用する点は、見過ごせません。

「やらせてよかった」と「正直きつい」は、どこで分かれるのか

同じサステナビリティ活動でも、現場の受け止め方が大きく分かれるのはなぜでしょうか。上記では、会社としてサステナビリティに取り組むことが、社員の受け止め方や定着意識にどう影響し得るのかを見てきました。では次に、社員自身が実際に活動に参加した場合、仕事や職場にはどのような変化が起きやすいのでしょうか。

結論から言えば、参加には前向きな効果が期待できる一方で、設計を誤ると現場の負担や反発につながるリスクもあります。ここでは、人事・管理職の視点から押さえておきたい「良い影響」と「注意すべき副作用」を整理します。

良い影響1:仕事の視野が広がる─サステナビリティは「越境学習」になり得る

サステナビリティ活動への参加は、社員にとって普段の業務とは異なる経験になりやすいという特徴があります。社外の人や地域、異なる価値観と接することで、視野が広がり、対人スキルや物事の捉え方が変わる。研究では、こうした経験を「越境学習」と呼び、学習効果が高いと指摘されています。

インタビューでは、地域活動への参加を通じて「お客様との会話の仕方が変わった」と振り返る社員もいました。こうした変化は、短期的な成果としては見えにくいものの、中長期的な人材育成という観点では無視できません。人事施策として考えるなら、即効性よりも「経験の質」に目を向ける必要があります。

良い影響2:「社会とつながっている」という実感が、仕事を支える

もう一つ見逃せないのが、ウェルビーイングへの影響です。サステナビリティ活動に参加することで、「自分の仕事が社会とどこかでつながっている」と実感しやすくなります。この感覚が、仕事への前向きさや活力(ワーク・エンゲージメント)を支える要因になることが、複数の研究で示されています(※5)。

特に、冒頭で触れたような「新しい感性」を持つ社員にとっては、仕事に「社会的な意味」を感じられるかどうかが、モチベーションを維持する生命線にもなり得ます。日々の業務が忙しいほど、仕事の意味を見失いがちです。そうした中で、社会との接点を持つ経験が、社員の気持ちを立て直すきっかけになる場合もあります。

注意点1:意義は理解しているのに、きつくなる瞬間

一方で、悪い影響や副作用もはっきり存在します。もっとも多く聞かれるのが、過負荷(オーバーワーク)の問題です。サステナビリティ活動が通常業務に上乗せされる形になると、役割過多や疲労につながりやすくなります。

インタビューでは、「活動の意義は理解しているが、繁忙期に重なると正直きつい」という声が少なくありませんでした。善意で始めた参加が、結果として本業を圧迫してしまえば、活動そのものへの評価も下がってしまいます。

注意点2:「良いことをしている」という意識が生む落とし穴

もう一つ注意したいのが、「モラル・ライセンス」と呼ばれる心理的な副作用です。これは、「良いことをしているのだから、少しくらいは許されるだろう」という無意識の甘えが生じる現象です(※6)。

たとえば、「週末にボランティアに参加したから、平日の細かなルールは多少大目に見てほしい」といった意識が、本人も気づかないうちに生まれることがあります。一部の研究では、社会活動に熱心な社員ほど、社内ルールへの意識が緩む可能性が示唆されています。

また、現場視点でより深刻なのが「温度差」による分断です。参加できる人とできない人が分かれることで、「余裕のある人だけがやっているのではないか」「評価目的ではないか」といった不公平感が生じることもあります。

これは、「意識の高い一部の社員」と「冷ややかな現場」という対立構造ができてしまうと、チームの雰囲気や信頼関係に影響しかねません。人事・管理職にとって重要なのは、この分断を「意識の差」と片づけず、設計の問題として捉え直すことです。

共感は広がるのに、行動が変わらない理由─人事・管理職が直面しやすい三つの壁

ここまで見てきたように、サステナビリティ活動は、社員の受け止め方や参加の仕方次第で、プラスにもマイナスにも働きます。ただし、企業が本当に目指しているのは、一部の意識の高い社員だけが関わる状態ではないはずです。組織全体として社会課題に向き合う姿勢(カルチャー)が生まれ、主体的に活動に参加してくれる環境が作られることは一つの理想的な姿かもしれません。

しかし現実には、「サステナビリティには意味がある」と多くの社員が「理解」していても、組織全体として「行動」が広がらないという壁に、多くの企業が直面しています。人事や管理職の立場で見ると、「伝えているのに動かない」「エンゲージメント調査をしても関連性が見えてこない」と感じる場面も多いのではないでしょうか。

筆者が行い、このたび書籍として体系化した50社以上の企業へのインタビュー調査を通じて見えてきたのは、こうした停滞の背景には、社員の意識の低さというよりも、組織側の設計上のつまずきがあるケースが多いという点です。ここでは、多くの日本企業に共通してみられる「三つの壁」を整理します。

1.「共感」が高まっても、行動にはつながらない

サステナビリティの社内浸透は、よく「認知 → 共感 → 行動」というプロセスで説明されます。このとき、現場でよく起こるのが、「共感さえ高まれば、自然と行動が変わるはずだ」という期待です。特に、前述した新しい感性を持つ層は、すぐに共感を示してくれるでしょう。

確かに、社内報や研修、イベントを通じて理解や共感を高めることは重要です。しかしインタビューでは、「研修直後のアンケートでは前向きな回答が多かったのに、半年後には現場のやり方がほとんど変わっていなかった」という声が繰り返し聞かれました。

意識が高まることと、明日からの行動が変わることは別物です。

共感をゴールにしてしまうと、「良い話だった」で終わってしまいます。求められるのは、共感の先にある「具体的に何が変わるのか」までを見据えた設計です。共感は「スタート」であって、「ゴール」ではありません。

2.方向性は分かった。でも、次に何をすればいいのかわからない

トップメッセージやタウンホールミーティング(経営層と従業員が直接対話をし、経営方針や課題について相互理解を深める場)によって、一時的に盛り上がりが生まれるケースは少なくありません。しかし、その後、現場ではこんな状態が続いてしまうことがあります。

「方向性は分かった。でも、結局、自分たちは何をすればいいのかわからない」。

インタビューでは、「発信の回数は増えたが、現場からの具体的な質問が減ってしまった」という事例もありました。これは、社員が理解したからではなく、聞いても仕方がないと感じているサインであることもあります。さらに深刻なのは、冒頭で触れたような感度の高い社員ほど、この「具体性のなさ」を「会社の本気度のなさ」と捉えてしまい、失望につながるリスクがあることです。

メッセージが増える一方で、

  • 何を変えればよいのか
  • 何は今まで通りでよいのか
  • 何をやらなくてもよいのか

といった行動レベルの具体像が示されていないと、社員は次第に距離を取るようになります。行動が止まるとき、問題は意欲よりも「解像度」にあります。

3.「自分ごと化」に期待しすぎてしまう

「社員一人ひとりに自分ごととして考えてほしい」。これは、多くの人事担当者や管理職が抱く率直な思いでしょう。ただし、インタビューを通じて明らかになったのは、自発的に動ける社員は、組織の中では少数派だという現実です。

多くの社員は、意識や共感だけでは動けません。むしろ、「自分は何を、どこまでやればいいのか」が具体的に示されて、初めて行動に移しやすくなります。

ある企業では、全社のサステナビリティ目標をKPIツリーに分解し、事業部・現場・個人レベルまで落とし込んでいました。一見すると管理的に見えますが、これは社員を縛るためではなく、「想い」を「業務」に翻訳するための「地図」のようなものです。図表で可視化することで社員は「自分の業務とどうつながっているのか」を理解しやすくなります。行動の解像度を上げることが、「自分ごと化」の出発点になるのです。

ただし、仕組みを入れれば万事解決というわけではありません。KPIが目的化し、「評価項目を埋めること自体が仕事になってしまった」という形骸化の例も少なくありません。大切なのは、それが「社会とのつながり」を感じられる文脈で運用されているかどうかです。「自分ごと化」は、仕組みと役割があって初めて起こるものです。

おわりに

サステナビリティを「社員が動ける仕事」に変えるには

ここまで見てきた議論は、「サステナビリティをどう伝えるか」ではなく、「どう仕事として成立させるか」という問いに集約されます。冒頭でGoogleの事例や学生たちの変化に触れました。本稿で見てきたように、サステナビリティ活動への参加は、社員にとってプラスにもマイナスにも働き得るものです。「良いことだからやればうまくいく」という単純な話ではありません。

人事や管理職の立場で重要なのは、社員の意識を変えようとすることよりも、社員が無理なく行動できる前提条件をどう整えるかという視点です。活動の意義を伝えることは必要ですが、それだけで行動が変わるわけではありません。業務との関係性、時間の使い方、評価や役割分担といった日常の仕事の中に、どう位置づけるかが問われます。

研究が示す一般的な傾向と、現場でのインタビューから得られた実感は、この点で一致しています。サステナビリティ活動は、社員の善意や意識の高さに委ねるものではなく、働き方や組織運営の一部として設計されてはじめて、組織の力を底上げする「確かな武器」になるのです。

とはいえ、いきなり評価制度やKPIといった大きな仕組みを変えるのは難しいかもしれません。しかし、インタビュー調査を通じて見えてきた効果的な進め方の一つは、組織を変える担当者の多くが、まずは組織内で「仲間(ピア)」を一人ひとり増やすという、地道な活動から始めていたという方法です。

彼女たちが実践していたのは、決して難しいことではありません。たとえば、チームのメンバーに「この活動は、うちのチームの仕事にどうつながると思う?」と、小さな問いを投げかけてみる。あるいは、「社会課題の解決」という大きな主語ではなく、「私たちのお客様が将来困ること」という視点から対話を始めてみる。

その問いかけが、「仕事に熱意を持てない」と距離を置いていた若手社員の、隠れたスイッチを入れるきっかけになるかもしれません。

こうした「問い」の共有から、少しずつ「自分ごと」の範囲を広げ、共感してくれる仲間(ピア)を作っていくこと。その草の根のつながりこそが、結果として、これからの時代に人材を惹きつけ、社員の定着やエンゲージメントを支える、もっとも強固な土台になるのではないでしょうか。人材を惹きつける企業は、特別なことをしているわけではありません。「意味」と「仕事」を、丁寧につなぎ直しているだけなのです。

編集後記

社会活動や地域活動に参加することが、参加した個人にどのような変化をもたらすのか――。この問いを軸に、第1回では大正大学・中島先生に「越境学習としての地域活動」について、第2回第3回では、みずほリース株式会社と株式会社マイナビに企業における実践例を伺った。

そして最終回となる今回は、サステナビリティを“良いことだからやる”という文脈にとどめず、「社員の仕事の意味とつなぎ直す、人材戦略としてのサステナビリティ」という視点を提示している。社会活動は万能の施策ではないが、仕事との接続が丁寧に設計されれば、社員の定着やエンゲージメントに静かに効いてくる。逆に、設計を誤れば負担感や分断を生むリスクもある。

重要なのは、社員の意識を変えようとすることではなく、社員が無理なく動ける前提条件を整えることである。制度改革のような大掛かりな取り組みでなくてよい。「この活動は私たちの仕事とどう関係するのか」という問いをチーム内で共有することが、一人ひとりの行動のきっかけになる。

社会とつながる経験が、働く意味を支える時代になっているのかもしれない。本企画で紹介した事例や内容が、これからの組織づくりに役立つヒントになれば幸いである。


※1 Aggarwal, P., & Singh, R. K. (2022). Synthesizing the affinity between employees’ internal–external CSR perceptions and work outcomes: A meta-analytic investigation. Business Ethics, the Environment & Responsibility, 31(3), 738-757
※2 Paruzel, A., Klug, H. J. P., & Maier, G. W. (2021). The Relationship Between Perceived Corporate Social Responsibility and Employee-Related Outcomes: A Meta-Analysis. Frontiers in Psychology, 12, 607108.
※3 Zhao, X., Wu, C., Chen, C. C., & Zhou, Z. (2022). The influence of corporate social responsibility on incumbent employees: A meta-analytic investigation of the mediating and moderating mechanisms. Journal of Management, 48(1), 114-146.
※4 Rupp, D. E., Shao, R., Skarlicki, D. P., Paddock, E. L., Kim, T.-Y., & Nadisic, T. (2018). Corporate social responsibility and employee engagement: The mediating role of CSR-specific relative autonomy and individualism. Journal of Organizational Behavior, 39(5), 559-579.
※5 Peng, J.-C., & Zhang, K. (2023). Antecedents and consequences of corporate social responsibility: a test of multilevel mediating processes. Management Decision, 61(12), 3625-3646.
※6 Lowery, M. R., Clark, M. A., & Carter, N. T. (2021). The balancing act of performance: Psychometric networks and the causal interplay of organizational citizenship and counterproductive work behaviors. Journal of Vocational Behavior, 125, 103527.

片山久也
担当者
キャリアリサーチLab編集部
HISANARI KATAYAMA

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