中小企業のダイバーシティマネジメントとは?
多様な人材が活躍する持続可能な職場はいかにして実現できるのか。そんな問いを掲げて各企業の人材マネジメントに焦点を当ててきました。これまでに取り上げた4つの会社はいずれも従業員規模300名以下のいわゆる中小企業です。人を組織の中心に据えながら、工夫と実行力によってそれぞれの人材課題に向き合う姿が印象的でした。
会社の事業や従業員の価値観がそれぞれ違うように、人材マネジメントの在り方は企業によって異なります。ある企業でうまくいった制度が別の企業で同じ効果を生むとは限りません。個人が多様化する今の時代にあってはますます最適解を出すのが難しくなっています。
ですが、多様な人材が活躍している職場を俯瞰し、企業の工夫ある取り組みに横串を刺してみると、いくつかの共通した特徴があらわれたように思います。施策は違えど、視点が重なる。解答ではないが、ヒントになる。そんな多様性×持続可能性の背後にあるものが浮かび上がってきました。「多様な人材の活躍」を考える本企画の結びに、中小企業におけるダイバーシティ実現の手がかりを紹介します。
多様性と持続可能性を実現するための三つの視点
事例を分析してみると、中小企業が多様性と持続可能性を同時に実現するために求められる三つの人材マネジメントの視点が見えてきました。
1.要望をくみとる
一つ目は「要望をくみとる」姿勢です。これは、人材マネジメントを考える際に、現場の従業員や、より広い社会に目を向けながらニーズを吸い上げることを意味します。人事施策・制度を講じる側の経営の視座ばかりでなく、受け手となる現場の要望や社会的要請に十分配慮することがポイントです。
たとえば、白川電機株式会社熊本製作所では、人事制度を導入する際に「事前アンケート」によって従業員側の要望を集めるひと手間を行っています。また、子連れ出勤に対応するための「キッズルーム」を社内に完備するなど個別のニーズに対応している点に特徴がありました。
株式会社陽和は教育施策に工夫があります。具体的には、組織が一方的に教育研修を行うのではなく、教育する側と教育される側がともに意見を出し合いながら一人ひとりに中身が違う「オーダーメードの教育計画」を立て、個々の習熟度やキャリアの希望に沿った成長ができるようにしています。2社の事例は「受け手がどのように感じるか」の視点が組み込まれている点で共通しています。
大切なのは“聞いて終わり”ではなく、施策に落とし込まれていることです。たとえば、株式会社日本レーザーは、マイホームを購入した従業員の要望を受けて「退職金前払い」の制度を就業規則に設けました。孫の世話が必要になった際に数ヶ月程度短時間勤務を選択できる「まごサポ制度」を導入している共和電機工業株式会社にも通ずる部分です。時代の変化と連動した自社の従業員ニーズを、自社ならではの制度として落とし込んだ良い例だと思います。
これらの施策はすべての従業員に恩恵があるものとも限りません。たとえ対象が限定的であったとしても、個別の施策として仕組み化しているところは注目すべきポイントでしょう。さらに、会社における個人(ワークキャリア)だけでなく、会社の外における個人(ライフキャリア)にまで目が向けられている点でも重なります。
従業員のニーズは人によってさまざまで、時代によっても形を変えるものです。多様な人材がいる職場であれば尚更、要望のすべてに応えることは難しいかもしれません。ですが、現場の声に耳を傾けながらニーズを少しずつでも組織に落とし込む姿勢を会社側が示すことで、施策の効果が直接的でない従業員であっても「会社は自分たちを見てくれているんだ」と感じることに繋がるのではないでしょうか。
さらに、自分が会社組織や組織の活動を一緒につくっている感覚=当事者意識を育むきっかけにもなります。その出発点こそが「要望をくみとる 」姿勢であると考えます。
2.選択肢をつくる
二つ目は「選択肢をつくる」ことです。これは、従業員のキャリアを一つの固定的なものとして捉えず、施策に柔軟性を持たせながら、個人がいくつかの選択肢を選べる環境をつくることを指します。個々に仕事の価値観やキャリアの状況が異なることを前提として、個々が自分に合うワークスタイルを選択できる余白をつくることもまた、ダイバーシティ実現に欠かせない視点の一つであると考えます。
株式会社日本レーザーでは、従業員それぞれの事情や意向に合わせて働き方を選択できる「個別の雇用契約」を採用し、ライフステージに応じて雇用形態や勤務時間を柔軟に調整しやすくしています。また、就業規則は従業員の実情や時代の変化にマッチしたものになるよう毎年見直している点も特徴的でした。
白川電機株式会社熊本製作所では、仕事の向き不向きやライフステージに合わせて担当業務を変えることができる「ジョブチェンジ制度」を導入しています。これは従業員本人からの申告で最大3回まで「社内転職」ができるような仕組みで、キャリアの中で仕事の関心や私生活の状況が一定でないことを踏まえて設計されています。
2社には、制度の枠内で柔軟にキャリアの選択ができたり、働く人や時代に合わせて規則が変更されたりといった余白が見られます。余白が少しあるだけでも、働く人のキャリアの可能性はずいぶんと広がりそうです。
企業の目線で考えてみると、個別の事情を踏まえて制度に柔軟性を持たせることは大変でしょう。一つの施策を一つのパターンで従業員一様に当てはめる方が、設計も運用もはるかに手間はかかりません。ですが、誰もが同じようなペースで、誰もが同じようなワークスタイルで日々の仕事に向き合うことができるとは限りません。
働く価値観は多様化していますし、個人の仕事のモチベーションが安定的に保たれるわけでもないと思います。育児や介護など私生活上の役割と両立して働く人も、自分の趣味や家族との時間を大切にしたい人もいます。誰もが、組織での地位を高めていく上向きのキャリアを望むとも限らないのです。
その前提で考えると、“1施策1パターン”で組織全体に当てはめることには限界が出てきそうです。人によって施策の受け取り方が全然違うものになってしまい、不公平の種になりかねません。
この点でも、会社側が人事施策に幅を持たせて、キャリアのオプションを増やすことは有効だと考えます。組織の中にいくつかの選択肢があることで、働く個人がワークキャリアとライフキャリアのバランスをとりやすくなり、先が見通しにくい今の時代においてキャリアを前に進めるための安心材料にもなるはずです。ひいては、組織上の役割やライフステージの状況が多様に異なる人材がそれぞれに納得した形で仕事に向き合えること=公平性にも繋がると考えます。
3.風土をはぐくむ
三つ目は「風土をはぐくむ」ことです。これは、経営者や部門のリーダーといった組織の中心人物が模範となり、自ら現場の中に入り込みながら、温かい企業風土を醸成することを表現しています。風土は企業によってさまざまあって良いと思いますが、「誰もが手を挙げられる(安心)」「いつでも周りを頼れる(信頼)」という要素は、今回事例で取り上げた職場の共通していた部分に感じます。組織と人、組織にいる人と人がフラットに繋がり、誰もが安心できて信頼できる空気感は、ダイバーシティ実現を根っこで支える要素でしょう。
たとえば、株式会社陽和では、代表が毎朝工場を歩き回り、従業員に声を掛けたり声を掛けられたりする習慣があるといいます。白川電機株式会社熊本製作所は、上司・部下による「議題・課題を設けない1on1」を実践することで、仕事や役職の壁を取っ払い、何気ないことでも気軽に話せる空気づくりを進めています。
模範は何もリーダーだけに務まる役目ではありません。共和電機工業株式会社では、人事の役割を担う総務が経営と現場の間に立ち、現場と密に接点を持ちながら、組織が大切にする「お互い様文化(困った時に従業員同士で自発的に助け合う文化)」の醸成を促しています。組織づくりの中心をなす人事もまた、組織の空気を変えることができる存在でしょう。
大事なポイントとしては、会社が「場」を用意することです。「私は組織をかたちづくる一員なんだ」と自覚できるように挑戦や学習、成長の機会を提供することもそうですが、実務以外の場面で働く人同士が繋がる機会をつくる重要性も事例からうかがえました。
社内報や社員旅行、BBQ大会やランチ会といった取り組みが一例です。こういったオフの接点は、従業員同士の何気ないコミュニケーションのきっかけを生み出し、同時に「組織で働く人がどんな価値観を持っているのか」「どのようなキャリアの状況に置かれている人なのか」を互いに知ること=相互理解に繋がります。
それによって、従業員同士が協力し合う関係性=共助が育まれることも期待できるのではないでしょうか。社会の変化が激しく、労働力がますます限られるこの先を考えれば、職場に共助的な風土がある組織は強いと思います。
職場におけるコミュニケーションの在り方は世代によってもさまざまで、社内イベントに乗り気でない人もいるかもしれません。そのような価値観も加味する必要があります。事例で見られたような、社内イベントの参加を任意にしたり(非強制性)、従業員自らでイベントを企画してもらったり(主体性)する工夫は参考になるかもしれません。会社が決めるのではなく、従業員本人の意向が尊重されていて意思決定に関わっていることが肝心です。
多様な人材のそれぞれにとって働きやすい職場をつくるためには、制度によって働く人の権利を保障することが重要です。同時に、風土を醸成していくアプローチも大事だと思います。そのシンボルとなるのがリーダーたちです。まずは自ら行動で示し、いろいろな人とコミュニケーションをとりながら、安心できて信頼できる温かな空気を育てていく姿勢が重要ではないでしょうか。
ゆるく認め合う職場
「要望をくみとる」「選択肢をつくる」「風土をはぐくむ」という人材マネジメントを行う上での三つの視点を紹介しました。その先にあり目指していくもの、それは「ゆるく認め合う」 職場ではないかと考えます。
“ゆるく”と付けたのは「完全でなくていい」というニュアンスを込めたかったからです。組織で働く多様な個人が、全部ではなくとも一部分でも価値観を分かち合っていて、いつもでなくても場面ごとに繋がることができるような、ゆるやかな関係性のイメージです。
仕事上の価値観も、姿勢も、強みも、役割も、キャリアの考え方も、バックボーンも、人それぞれに違って当然だと思います。むしろ、同じような価値観や似たような信念の人材ばかりが集まる職場では、自由で新しい発想が生まれにくいものです。
ですが、ある部分で繋がっていて、ある文脈で共感することができる。組織に同化したり組織の標準に縛られたりするのではなく、違いがあることを前提として個人がそれぞれに繋がり、認め合う。そんな部分的・状況的一致が、多様な人材が活躍する持続可能な組織に通ずる部分として見えてきました。
ゆるく認め合う職場をかたちづくる要素は、「要望をくみとる」「選択肢をつくる」「風土をはぐくむ 」の三つの視点を持つことによって生まれる成果であると考えます。それは、互いの状況を知る機会(相互理解)であり、互いに助け合える環境(共助)でもあります。納得感を持って仕事に向き合うことができる処遇(公平性)や、年齢や肩書に関係なく誰もが組織で自分の役割を持つこと(当事者性)も欠かせません。
個人の中の多様性(イントラパーソナルダイバーシティ)
ゆるく認め合う職場を理解するための考え方として「イントラパーソナルダイバーシティ/個人内多様性」が参考になりそうです。
これまでのダイバーシティ研究では、個人と個人の違い、いわゆる個人間の多様性(インターパーソナルダイバーシティ/個人間多様性)が議論の中心にあり、異なる価値観の人材が集まる組織においては、創造性が生まれる一方、価値観が多様であるがゆえに衝突や摩擦が起こり業務の調整が難しくなるという指摘があります。
このトレードオフの関係への対処として提唱されたのが、個人の中に複数の価値観を持つことを前提とした「イントラパーソナルダイバーシティ」です(Corritore et al, 2020)。
たとえば、赤・青・緑の異なる価値観をもつ人が組織に存在するとします。左の図(インターパーソナルダイバーシティ)は個人同士が互いに異なる色を持っていますが、この場合、個人の異質の程度が大きいため、衝突や摩擦が起こる可能性があります。
対して、右の図(イントラパーソナルダイバーシティ)は、三色の価値観をあわせもつ人が存在する組織をあらわしています。これは、個人内の異質性の程度が大きく、逆に、個人間の異質性の程度が小さいことを意味します。その場合、業務調整の困難性を解消しながら創造性を育むことが可能であると先行研究で示されています。
ここに、多様性と持続可能性を実現するヒントがあります。個人の中に多様性があるとすれば、それは単純化した図の事例のように三色とは限らず、各人の配色が完全一致するというわけでもないので、価値観の組み合わせのパターンは無数にありそうです。
その中で、“ゆるく繋がっていればいい”のです。仕事に対する姿勢でも、組織のビジョンでも、生活上の似通った境遇でも、共通の趣味でも、いろいろな一致があって良いと思います。その橋渡しをするのが組織に今後求められる役割ではないでしょうか。「個人の中の多様性」をベースに考えることで、人材マネジメントの方向性はずいぶんと変わりそうですし、組織が持続的に成長する可能性は広がると感じます。
時代とともにアップデートする
生産年齢人口が減り、雇用の在り方は「囲い込み型」から、企業と従業員が対等な立場で双方向に選び合う「選び、選ばれる関係」へとシフトするという指摘がなされています。ビジネスの環境やキャリアを取り巻く状況の変化が激しく不確実性が高まる今の時代において、多様性と持続可能性は組織にとって心強い味方となってくれるはずです。
多様性と持続性の双方を実現するカギは、「要望をくみとる」「選択肢をつくる」「風土をはぐくむ」の視点であると考えます。三つの視点を踏まえた人材マネジメントの先に、ゆるく認め合う関係性が生まれれば良いと思っています。
1.要望をくみとる実践例
「要望をくみとる」という視点では、たとえば、担当業務や仕事上の目標をテーマにするのではなく、個人のキャリアや職場の外の役割について対話できる場を設けてみるのは良い方策かもしれません。実務上の直接の利害関係がない人が相談役になることもポイントです。対話の場を設けることで現場のニーズが少しずつ浮かび上がり、現場感覚や組織の外から自社を見つめる視点が養われていくと思います。
2.選択肢をつくる実践例
「選択肢をつくる」の視点では、時間の観点から従業員が柔軟に働くことができる制度を検討するのも一つの策でしょう。この時に短期・長期の両面で捉えることが大切です。1日単位での調整がしやすいように時間単位の有給休暇や時差出勤の融通を利かせることでも、私生活との両立がしやすくなります。同時に、個人のキャリアを長期の時間軸で捉え、ライフステージに合わせて部署や職種、役割を変更できる仕組みがあると、組織内キャリアの可能性が広がります。
3.風土をはぐくむ実践例
「風土をはぐくむ」の実践例としては、リーダーの呼びかけでオフの繋がりを促すイベントを開くことはどうでしょうか。参加を強制しないことを前提として、まずは従業員のやりたいことを聞いてみて、集まったアイデアをもとに、働く人同士が互いの人となりに触れられるようなイベントを開く。
スポーツでもゲームでもランチ会でも、リーダーたちが参加していてカジュアルな形式であれば何でも良いと思います。そうすることで相互理解や協力の文化を促すことができれば、働く人にとっての職場の居心地の良さや発言のしやすさは高まりそうです。
ここで示した実践例は、短期的な企業の業績に直結するようなものではないかもしれません。ですが、長期的に従業員との雇用関係を保ち強化させるという観点では、どれも意味のある施策となり得ます。
また、ゆるく認め合う職場というのは、多くの従業員と多くの拠点を抱える大企業の組織よりも、従業員一人ひとりに目が行き届きやすい中小企業だからこそ、進めやすい側面があるのではないでしょうか。リーダーたちと現場が日ごろから顔を合わせることができて、働く人同士の双方向の対話がしやすいことは、ダイバーシティ実現にプラスに働く可能性を秘めていると思います。
現場のニーズを置いてけぼりにした会社が働く人に“選ばれる”未来は想像しにくいものです。はたまた、同調性が強調される組織も誰かにとっての居心地が悪い場所となります。このような柔軟性に欠けた組織よりも、組織と人、個性ある人と人とがフラットに繋がり、従業員のキャリアと社会環境に合わせてアップデートしていく組織の方がずっと、人手不足時代の“選ばれ続ける”企業になっていくと考えます。
キャリアリサーチLab研究員 宮本 祥太
【参考文献】
Corritore, M., Goldberg, A., & Srivastava, S. B. (2020). Duality in diversity: How intrapersonal and interpersonal cultural heterogeneity relate to firm performance. Administrative Science Quarterly, 65(2), 359-394.