多様な人材の活躍4-組織文化と人事の役割-

宮本祥太
著者
キャリアリサーチLab研究員
SHOUTA MIYAMOTO

問題意識

企業の人材獲得が困難となり、人手不足が深刻化している。今後さらに生産年齢人口が減少する未来をたどるとなると、労働力に限りがあることを前提として、多様な属性の人材に目を向けながら組織をデザインしていく必要がある。

組織づくりに重要な役割を果たすのが人事であるが、働く人の価値観やワークスタイルが多様化するとともに、その役割は多岐に広がり複雑さを増している。中小企業の中には「専任の人事担当者がいない」「人事担当者の数が足りない」という課題を抱える企業も少なくない(※)。

限りある人事リソースの中で、多様な人材が活躍する職場の実現に求められる視点とは何か。また、企業はいかにして従業員個々のニーズに向き合いながら、まとまりのある組織を育むことができるのか。従業員同士の共助を文化として育みダイバーシティを推進している共和電機工業株式会社の事例を題材に、人事の役割の観点から、中小企業における多様な人材の活躍のヒントを探る。

調査企業

共和電機工業株式会社

会社名共和電機工業株式会社
設立1961年3月 
従業員250名 
所在地石川県金沢市増泉4丁目8番16号 
事業内容電気・電子機器、産業機械用制御装置、自動化システムの設計・製造からメンテナンスなど 

共和電機工業は石川県金沢市を拠点に、電装・メカトロ搬送分野の製造・設計などの事業を展開している。人材マネジメントではダイバーシティ採用を掲げ、中途未経験者・女性・障がいがある方など幅広い属性の採用を実施。ダイバーシティ実現に向けて柔軟に社内の制度や仕組みを変化させている。

毎年数名ずつ高卒・大卒人材を新卒採用しているが、2025年までの5年間で離職者はゼロ。人材定着・育成に力を入れており、女性従業員比率は30%にのぼる。2018年に経済産業省の「新ダイバーシティ経営企業100選」に選ばれ、2025年に「健康経営優良法人」の認定を受けており、多様な人材の活躍が評価されている。

組織として重視しているのが「お互い様文化」。これは、自分が困っているときや他者が困っているときに互いに助け合うことを大切にする文化であり、部署や年齢や役職を超えて従業員同士で協力する習慣がある。以下、共和電機工業の人材マネジメントの特徴を見ていく。

人材マネジメントの特徴

文化醸成と相互理解促進

共和電機工業では、組織が大切にしている「お互い様文化」の実現に向けて工夫がなされている。その1つが採用時の価値観の擦り合わせである。企業説明会では新卒採用や中途採用の候補者に対して「あなたが困っていたら皆が助けてくれるから安心してください。逆に、誰かが困っていたら助けてあげてください。そんな人たちと一緒に働きたいです」と組織における共助の重要性を伝えている。

求人広告においても「お互い様が合言葉」のフレーズで自社の特徴をPR。求職側が望む価値観や仕事上の役割と、企業側が考える価値観や役割の擦り合わせを行うとともに、組織文化に共感する人に入社してもらうためのスクリーニングとしても機能している。

この「お互い様文化」は従業員の組織活動で日常的に実践されている。特徴的な1つが、製造部への応援派遣。共和電機工業では、従業員が日常的に部署の垣根を越えて担当以外の業務を担う。時期によって繁忙の変化が大きい製造部門は特に、管理部門・設計部門・営業部門などの他部署の人材が応援として派遣されることが多い。

製造部門への応援派遣で任される業務は高度な専門性を必要としない定型作業。各部署の新卒入社・中途入社1~2年目にあたる年次が浅い従業員を中心に、さまざまなメンバーが集まり一緒に作業を行う。応援派遣される側の従業員視点では、他部署の仕事を理解し、他部署で仕事する従業員のパーソナリティや仕事ぶりを知るきっかけになっている。

 従業員が互いの理解を深める機会は他にもある。共和電機工業では総務が中心となり年2回の社内報を発行している。企画はさまざまで、育児中の男性が経験談を記すイクメン日記などを紹介する「イクメン企画」や、新入社員の生い立ちや人となりを伝える「社員紹介企画」などさまざまな内容が掲載されている。

このように共助文化を醸成するための施策が実践されており、さらに共助のベースとなる従業員同士の相互理解を促すような取り組みも行われている。

個別ニーズの把握と具現化

共和電機工業の別の特徴としては、従業員のニーズを組織が把握して制度に落とし込んでいる点がある。共和電機工業では全従業員を対象にフレックスタイム制度が導入されている。フレックスタイム制度はもともと製造以外の部門で数年前から認められていたが、製造部門の現場からも柔軟な働き方を求める声が上がり、2024年に全面適用された。

全面適用に向けて動き出した当初は、フレックスタイム制度によって従業員の作業時間がずれることで生産性が低下してしまう懸念から、製造部門への適用は難しいという声が現場から上がった。それに対して、総務や労働組合が現場と交渉を重ね、全面適用される運びとなった。今では、育児中の従業員が午後に中抜けをして保育園へ子供を迎えに行ったり、親族の介護をしている従業員が時差出勤をして病院に通ったりと多様に活用されているという。

2025年からは社内副業制度をスタートさせた。これは、自らが担当する業務以外の別部署の業務を副業として行うことができる制度。部署間で差があった労働時間の均一化を図るとともに、もっと働きたいという意欲ある従業員のニーズに応える目的で導入した。

ほかにも、孫の世話が必要になった際に数ヶ月程度短時間勤務を選択できる「まごサポ制度」や、外部の看護師が女性社員へ毎月面談を通じて仕事内外の悩みを解決する「健康相談室」といったユニークな施策も展開。多様な人材の多様なニーズに個別の制度で対応している。

担当業務の配属も個人のニーズに配慮する。共和電機工業では、新卒・中途に限らず、新入社員には約3カ月間の導入研修を通じてさまざまな部署の業務を経験してもらう。研修では「中間ヒアリング」と「最終ヒアリング」が設けられており、総務が研修の感想と研修を経て希望する業務の内容を新入社員から聞き取る。仕事や職場を体験する中で生まれた興味・関心を吸い上げながら、可能な限り本人の希望に沿った部署への配属を行っている。

特徴取り組み内容
文化醸成と相互理解促進 採用広報の工夫 組織として「お互い様文化」を大切にしていることを採用候補者に伝える 
日常的な応援派遣 さまざまな部署から製造部への日常的な応援派遣による共助の実践
社内報での情報共有 「イクメン企画」「新入社員企画」を通じて相互理解を促進 
個別ニーズ把握と具現化 フレックスタイム 製造部を含む全従業員が柔軟に仕事時間を調整することができる 
多様なニーズ反映 社内副業制度・まごサポ制度・健康相談室など個別のニーズを制度化 
配属のヒアリング 研修中に中間ヒアリング・最終ヒアリングを行い希望業務を聞き取り 

分析

共助性と弾力性

共和電機工業の各種取り組みには、多様な人材の活躍に求められる2つの共通要素があると考える。1つは、「お互い様文化」に象徴される「共助性」である。従業員同士が個々の違いを理解し合い、互いに協力したり他者の業務を補ったりする仕組みは、雇用の流動性が激しく今後さらに労働力の確保が難しくなることを考えても重要な観点だろう。 

もう1つの要素が「弾力性」である。従業員の多様なニーズが反映された人事制度が整い、それによって従業員が働き方を柔軟に調整しやすいところはポイントと言えよう。キャリアの選択の余地があることで、ライフステージが変わっても組織で働き続ける選択がしやすくなる。この共助性と弾力性が、多様な人材の活躍実現のカギとなる視点ではないだろうか。

では、そのような職場環境を実現するために、人事はどのような役割を果たしているのか。共和電機工業では総務部総務課の5名がそれぞれ兼務する形で人事・総務・労務・経理などのバックオフィス業務全般を担っている。

総務と現場との接点は豊富で、たとえば、総務のメンバーが工場を歩き回ったり、積極的に製造の応援派遣に行ったりすることを通じて現場の声を吸い上げている。他にも、制服の刷新を行うときに従業員側の要望を細かく聞き入れながら制服のデザインに落とし込むなど、現場との接点を大切にしている。

ニーズのハブ、文化醸成と制度構築 

これまで見てきた共和電機工業の特徴からは、多様な人材の活躍を実現するための人事の役割として3つのポイントが導かれる。 

1つは、人事機能を持つ総務が経営層と従業員の間に立つ橋渡し役を担いつつ、現場と近い距離感を保っている点である。組織が掲げるダイバーシティ採用やお互い様文化を実現するために、必要な施策を実践し、現場と丁寧にコミュニケーションをとっている。

2つ目は、経営層とのニーズの「調整」、従業員のニーズの「集約」、それらニーズの組織への「還元」の機能。経営側と従業員側のニーズの共有役となり、組織のハブとなっている点も特徴だろう。

最後が、制度構築と文化醸成の両面に対するアプローチである。柔軟性のある制度の設計・運用を行うだけでなく、文化の醸成・浸透に力点を置いているところがポイントで、共助文化実現の旗振り役として、ニーズの集約や、従業員同士の相互理解を促す取り組みを行っている。

文化醸成と制度構築の役割
文化醸成と制度構築の役割

人事に求められる4つの役割

人事の役割として代表的なものが、Ulrich(1996)の戦略人事のフレームワークである。このフレームワークは、従来の人事の役目とされていた「管理運用」から、組織と人を結びつける「価値創出」に転換させた点で特色があり、企業の競争優位に資する組織をつくるための人事の役割として以下の4つを提案している。 

※Ulrich(1996)をもとに作成 
※Ulrich(1996)をもとに作成 

1つ目が「戦略パートナー」。経営戦略と人材戦略を整合させて、ビジネスの目標に沿った人材戦略をデザインすることをミッションとする。2つ目が「チェンジエージェント」。ラインマネージャーと協業し、文化や制度の構築を通じて組織変革の中心を担う。 

3つ目が「管理エキスパート」。賃金管理・勤怠管理・福利厚生・教育研修などの人事サービスの運用・管理もまた人事に求められる役割である。4つ目が「従業員チャンピオン」。これは、従業員とのコミュニケーションやアンケート実施を通じてコミットメントを向上させることを意味する。 

共和電機工業のさまざまな取り組みを俯瞰してみると、「戦略パートナー」「チェンジエージェント」「管理エキスパート」「従業員チャンピオン」の要素が随所にみられる。具体的には、経営と現場の橋渡し役としてニーズを調整し、文化醸成と制度設計の両面から組織を支えており、組織の持続的成長に繋がる人事の役割を有すると言えよう。 

まとめ

さまざまな立場の人が混じり合う組織では、誰しもが同じように仕事に向き合うことができるとも限らない。各々に働く価値観は異なり、キャリアの制限がかかることもある。体力的な制限や言語の壁、育児や介護との両立などさまざまな課題が想定される中、組織の中で相互に支え合う共助が求められる場面は今後ますます増えるだろう。 

その意味では、制度に幅を持たせてさまざまな立場にある人材がそれぞれに合ったキャリアを選択できる体制を築くことは有効かもしれない。その上で、誰かの業務をカバーしたり、気軽に業務のサポートをお願いしたりできる仕組みがあれば、さまざまな立場の人材がそれぞれに合った働き方を実現しやすいだろう。さらに、制度面の整備とあわせて、文化として共助を醸成する共和電機工業のアプローチは参考になる。それが組織のまとまりに繋がると思う。 

従業員のニーズに合った柔軟な人事制度や共助的な文化を実践するためには、人事がハブとして機能する必要がある。人事リソースに限りがある企業も少なくないだろうが、「働くこと」が多様化して複雑化している時代だからこそ、人事が現場との接点を増やし、いつでも現場のニーズを吸い上げることができる関係性と距離感を保つことが重要ではないか。その時々に異なる個人のニーズを組織に還元させながら、組織の文化と制度をアップデートしていくことが、この先の人材マネジメントに求められる視点と考える。

キャリアリサーチLab研究員 宮本 祥太


(※)マイナビ企業人材ニーズ調査2025年版で、企業の正社員採用担当者(1,888人)に自社の採用課題を複数回答で聞いたところ、「応募が集まらない」が42.9%でもっとも多かった。「専任の担当者がいない」は28.6%、「採用担当者が足りない」は23.5%となり、人事リソース不足の課題も明らかになった。

【参考文献】
Ulrich, D. (1996). Human resource champions: The next agenda for adding value and delivering results. Harvard Business Press.

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