はじめに
2024年、人口戦略会議より令和6年・地方自治体「持続可能性」分析レポートが発表された。このレポートは、2014年に日本創生会議が発表した「消滅可能性都市」リストから新たな視点を用いて、再作成されたものである。レポート内では、全国1,729自治体のうち、744自治体が“消滅可能性自治体”としてあげられた。
<消滅可能性自治体とは>
2020年から2050年までの間に、移動仮定(現在の転出入の傾向が今後も続くと仮定する前提)に基づいて推計した20~39歳の女性人口が、50%以上減少する自治体を指す。
地方消滅2 人口戦略会議編著
このように人口減少が進む地方では、地域の活力を維持するために「人材の確保」が喫緊の課題となっている。新卒採用における解決策の一つとしては、大学入学のタイミングで県外に進学した若者を地元に呼び戻すことであろう。
本コラムでは、こうした地元外進学者の就職、いわゆる「Uターン就職」の可能性に焦点を当てる。彼らはどのような希望を持ち、何が地元就職の決め手になるのか。そのヒントを探っていく。
全国で強まる人手不足-有効求人倍率と新卒採用充足率-
有効求人倍率
厚生労働省の都道府県別有効求人倍率から算出した令和6年度の平均有効求人倍率によると、いずれの県でも有効求人倍率は1.00を超え、企業の採用意欲が求職者数を上回っている状況が確認された。【図1】
一方、東京都(1.13)、大阪府(1.05)、福岡県(1.09)といった都市部では1.00に近い傾向がみられ、地方と比較すると求人数と求職者数に大きな乖離はまだ生じていないことがうかがえる。
生産年齢人口
さらに、今後は人口構造の変化によって採用環境が厳しくなる可能性がある。国立社会保障・人口問題研究所の推計によれば、2020年を100とした場合、2050年の生産年齢人口(15~64歳)は約7割まで減少する見込みである。
地方別にみると減少の度合いには差があった。東北地方では減少が顕著で、2050年には2020年の6割を下回る水準にまで減少すると予想されている。一方で、関東地方の減少率は比較的低く、2050年時点でも2020年比でおよそ8割を維持するとされている。こうした生産年齢人口の縮小によって、今後の企業の採用競争はより加熱することが予測される。【図2】
【図2】生産年齢人口の推移/国立社会保障・人口問題研究所『生産年齢人口』より弊社作成
新卒採用の採用充足率
では、新卒採用に限定した場合はどうだろうか。マイナビが行った2020年卒~2026年卒の企業新卒内定状況調査より、採用充足率(※1)を都道府県別に算出した。【図3】
【図3】都道府県別採用充足率/企業新卒内定状況調査
※1 2020年卒~2026年卒の募集人数と内定数をそれぞれ合算し、採用充足率を算出した。
採用充足率=2020年卒~2026年卒の内定人数の合算/2020年卒~2026年卒の募集人数の合算
全国でみると充足率は78.6%となり、募集人数に対して2割弱が未充足であることがわかった。充足率がもっとも高かったのは和歌山県(87.0%)、もっとも低かったのは山形県(51.7%)であった。また、北陸地方(富山県、福井県、石川県)が比較的充足率の低い傾向がみられた。
さらに、新卒採用では、都市部であっても充足率は高いとはいえないようだ。都市部では求人数は多いがそれだけ多くの学生を確保する必要があり、結果として採用が追い付かない状況が生じていると考えられる。
これらの結果から、全国的に人手不足感は強く、新卒採用においても募集人数に対して約8割程度しか採用できていない状況が明らかとなった。人口減少が続く中、企業にとって人材確保は一層の戦略性が求められる重要課題となっている。
都道府県ごとの学生動向
大学進学時の学生流出
続いて、学生の動向について「都道府県別に見るUターン・地元人材獲得の可能性」というコラムを元にデータを算出していく。
学生の大きな流動タイミングとしては大学進学があげられるため、大学進学先が地元(出身高校所在地=大学進学地)か地元外(出身高校所在地≠大学進学地)かを都道府県ごとに算出した。(※2)【図4】
【図4】大学進学先(地元進学・地元外進学)の割合/2020年卒~2026年卒 Uターン・地元就職に関する調査
地元進学率が高い都道府県は東京都(78.6%)、愛知県(76.2%)、北海道(74.3%)であった。一方で、地元外進学率が高いのは鳥取県(82.7%)、島根県(80.8%)、和歌山県(80.6%)であった。地元外進学率の高い3県とも県内設置の大学数が5校以下(※3)であり、大学の少なさが大きく影響していると考えられる。
※2 2020年卒~2026年卒の地元進学者と地元外進学者をそれぞれ合算し、割合を集計した。
※3 令和7年度学校基本調査より
学生のUターン希望
続いて、地元での就職希望(出身高校所在地=希望勤務地)か地元外での就職希望(出身高校所在地≠希望勤務地)かを都道府県ごとに算出した。【図5】
【図5】地元就職希望と地元外就職希望の割合/2020年卒~2026年卒 Uターン・地元就職に関する調査
地元での就職希望率の高かった都道府県は東京都(87.4%)、大阪府(77.1%)、愛知県(73.3%)と三大都市であった。一方で、地元外での就職希望率が高かったのは奈良県(83.7%)、佐賀県(80.0%)、埼玉県(76.5%)であった。特に奈良県や埼玉県は隣接して大阪府や東京都という大都市があるため、地元ではなく都市部での就職を希望している学生が多いのかもしれない。
しかし、地元外進学者のみを対象に地元就職希望と地元外就職希望の割合をみていくと様子が大きく変わる。【図6】
【図6】【地元外進学者のみ】地元就職希望率・地元外就職希望率/2020年卒~2026年卒 Uターン・地元就職に関する調査
大学進学者全体では、地元就職希望者が半数近くになっていたが、地元外進学者のみを対象とすると、地元就職を希望する割合は32.1%であり、7割近い学生が地元での就職を希望していないことが示された。
また、大学進学者全体では、地元就職希望が50%を超える都道府県が15あったが、地元外進学者のみでは東京都(78.2%)、大阪府(65.6%)、福岡県(50.6%)の3つとなっている。
詳細にみていくと、愛知県出身者は全体としては地元での就職希望率は高いものの、地元外進学者のみでは愛知県に戻ることを希望する学生は特に多い訳ではなかった。
一方で、福岡県出身者は県外進学者であっても半数の学生が戻ることを希望しており、九州地方では特に高い結果となっている。このように、都道府県ごとに状況は異なることがわかる。
Uターン就職(地元就職)を希望する理由
「2026年卒Uターン・地元就職に関する調査」より、地元外に進学し、現在Uターン就職を希望している学生の地元就職理由をまとめた。【表1】
【表1】Uターン就職を希望する理由/2026年卒 Uターン・地元就職に関する調査
理由をみていくと大きく3グループに分類することができた。
地元貢献・家族奉仕
一つ目は“地元貢献・家族奉仕”である。「生まれ育った地元に貢献したい」といった地元への貢献や「介護している家族を支える」「将来の両親の介護のため」といった家族を支えるための理由があげられた。
生活基盤の安定
二つ目は“生活基盤の安定”である。これに関しては“物理的安定”と“精神的な安定”の二つの側面がみられた。“物理的安定”については「実家に住むことで家賃を抑える」「数年実家暮らしをしてお金を貯めたい」といった生活費や貯蓄を背景とした理由や「子育ての際に両親のサポートを得たい」といったライフイベントに対するサポートなどが理由としてあげられた。
“精神的な安定”については「家族や友人のいる地元で、精神的に安定して仕事に慣れたい」というように、新しい環境や初めての業務への不安から、家族や友人からサポートが得られる地元での就職を希望していることが示された。また、回答の中には「3年ぐらいは地元(もしくは実家)で暮らす」というように、仕事に慣れるまでの期間限定で考えているような記載もみられた。
希望するライフスタイルの実現
三つ目は“希望するライフスタイルの実現”である。「平日は仕事をし、土日は家族とゆっくりと過ごしたい」「人混みをあまり気にせずに生活したい」というように理想のライフスタイルを考えて地元を選択する意見がみられた。中には、「通勤時間は1時間程度がいい」というように通勤を考えて地元を選択する声もあった。
Uターン就職(地元就職)を希望しない理由
同調査ではUターン就職を希望しない理由も尋ねている。希望しない理由をみると4つのグループに分類することができた。【表2】
【表2】Uターン就職を希望しない理由/2026年卒 Uターン・地元就職に関する調査
「地元に勤めたい企業がない」
よくあげられたのは「希望する業界・職種の企業が地元にない」といった“地元に勤めたい企業が少ない(ない)”という理由であった。学生の希望が叶うような企業が地元にはなく、他県にならある場合、地元外での就職を考えるようだ。
「キャリアや待遇を考えて」
また、学生の希望という点では近いが、“キャリア・待遇を考えて”地元では就職をしないという理由も多くみられた。自身の成長やキャリアアップを考えた際に地元企業では難しいと感じていたり、給与が安いと感じていたりと将来や生活に対する不安が背景にあるようだ。
「都会で働きたい」
一方で、地元が理由ではなく“都会で働きたい”という理由も見受けられた。「若いうちにしっかりと働きたい」「都会でキャリアを積みたい」といった挑戦意欲が学生からみられた。また、「若いうちは」というように、将来的には地元へ戻る選択肢も検討するような意見もみられた。
「都会のほうが便利」
最後に、都会の“利便性”をあげる意見を紹介すると、「(地元は)車中心の生活で不便」「都心で開催されるイベントに通いたい」というよう趣味や遊びといった点での利便性がよくあげられていた。
まとめ-どのように学生に戻ってきてもらうか-
Uターン就職の希望理由では、地元に貢献したいという思いを持つ学生や家族を支えたいと考える学生の声がみられた。加えて、生活基盤の安定を求めて地元就職を希望する学生や、自分らしいライフスタイルを実現させるために地元へ戻りたいと考える学生も存在していた。
一方で、Uターンを希望しない理由としては、「希望している職種・業種に就ける企業がない」「学生が希望する給与や手厚い福利厚生のある企業がない」といった、地元には自分の希望に合う企業がないという指摘が目立った。また、都市部で働きたいという志向から、地元での就職を選択肢に入れない学生も一定数みられた。
双方に共有しているのは、「就職後に学生が望む生活が実現できるかどうか」という視点である。学生はインターンシップなどのキャリア形成活動や就職活動を通じて自身のキャリアを考えていくが、「地元で生活すること」において県外進学者の多くは高校生までの経験しかない。しかし、就職とはその地方で“働きながら生活する”ことであり、学生時代の生活とは大きく異なる。
そのため、「その土地の企業で働くこと」だけではなく、「その土地で働き、暮らすこととはどういうことか」を伝えていくことが、学生の就職意識を形づくるうえで重要になるだろう。就職活動期間に限らず、インターンシップ等のキャリア形成活動期間から意識的に取り組むべきであり、さらには大学進学で地元を離れる段階から伝える必要があるのかもしれない。
学生が地元で働くことを自然な選択肢として考えられるような環境づくりが今後ますます求められていくだろう。
マイナビキャリアリサーチLab 研究員 中島英里香