都道府県別に見るUターン・地元人材獲得の可能性
目次
はじめに
先日、とある地方企業から講演依頼を受け、Uターン人材獲得のためのお話をさせていただいた。その際、各企業の人事担当の方が自身の都道府県にどれだけ若手人材がいるのかを意外と把握していない状況に直面した。
また最近、各地方自治体の方からUターン施策検討の資料としてマイナビの「大学生Uターン・地元就職に関する調査」に関する問い合わせを多く頂く。そこで今回は新卒採用に付随する政府系調査および弊社の「大学生Uターン・地元就職に関する調査」の各都道府県別データをご紹介し、自社の採用戦略や地方自治体のUターン検討の一助としてもらえるよう、コラムにまとめてみたい。
都道府県別の高校卒業人数
まず初めに「高校の卒業者数」を文部科学省の「2023年度学校基本調査」で見てみたい。こちらは各大学から提出された全数調査なので、実態をかなり正確に表している調査となっている。この調査では小学校から大学までの文部科学省管轄となる教育機関の学校数や生徒数といったデータから、各都道府県別の高校の卒業人数や大学の入学者・卒業人数まで多岐にわたるデータを毎年公表している。
2023年に高校を卒業した人数は96.2万人で、進路の内訳を見ると大学進学者58.5万人(60.8%)、専門学校進学者19.0万人(19.7%)、就職者14.0万人(14.5%)、その他進路4.8万人(5.0%)となっている。
今回はその中で各都道府県別の高校卒業人数と、同年に大学に進学した人数のデータを参照する。
こちらのデータをご覧いただくと、都道府県別に卒業人数の総数やその後の進路として進学者数、就職者数などが確認できる。たとえば2023年に高校の卒業人数がもっとも少なかった鳥取県は4,590名で、もっとも多い東京都の96,812名とは実に21.1倍の差がある。
無論、東京都は近隣の県から進学している学生数も多く、その人数がカウントされているとはいえ、人事担当者は各都道府県でこれだけの差があることを認識して、今後の採用計画を検討する必要がある。【図1】
たとえば高校生の卒業人数が最も少ない鳥取県の人事担当者の視点で、地元高校生の進路内訳を見ると、大学進学者が2,389名(52.0%)、専修学校進学者が1,131名(24.6%)、就職者は883名(19.2%)、その他が187名(4.1%)となっている。
高校から就業する生徒は1,000名を下回っており、全国の就職率よりやや高いものの、人数としてはかなり厳しく、令和6年の鳥取県の高校求人数2,323名に対し、地元高校からだけでは十分な人数確保が難しい状況がうかがえる。続いてもっとも割合の高い大学進学者について、地元大学に進学しているのか、他県の大学に進学しているかといった入学先大学の都道府県についても見てみよう。
県内進学と県外進学の割合
高校の卒業者のうち、大学進学者58.5万人がどの都道府県の大学に進学したのか分かればよいのだが、残念ながら当該データは発表されていない。
その代わり、2023年の大学入学者61.2万人をベースに、該当年に入学した生徒がどの都道府県出身者かを記載した結果が発表されていたので、そちらを参照してみたい。このデータは現役入学に加え、浪人生やリカレント教育で入学する人々も含んだ数字となっている。
「表番号16 出身高校の所在地県別 入学者数」
2023年の大学入学者数に占める地元大学進学率(出身と大学の所在地県が同一)と、地元外の大学に進学した地域をグラフにしている。先程の鳥取県を例にとると、この年に鳥取県出身で地元の鳥取県内大学に進学したのはわずか15.1%と、奈良県の地元進学率(15.0%)に次いで低い数値となっている。では残り8割の学生がどの地域の大学に進んだかを見ると、関西(36.8%)と中四国(29.1%)に進学している割合が高いことが分かる。【図2】
こうしてみると、地元出身の学生にアプローチするのであれば、県内で企業説明会を行うより、人事担当者が大阪や広島に出て説明会を行う方が来場数を増やせる可能性がある。逆に地元大学への進学率が72.1%と高い愛知県の場合は、地元中心に説明会やインターンシップでしっかりとPRしていく方が有効だろう。最近であればオンライン説明会を準備し、全国に進学している地元学生も参加しやすい環境を整えるという事もあるだろう。
このグラフは、進学先を都道府県別ではなく地域別にまとめているが、上記のリンクから学校基本調査のデータを見ると、都道府県別・男女別にすべての人数が記載されているので、参考にしていただきたい。
地元就職希望率を算出する方法
では地元に進学した学生だけを対象にプランニングすればよいかというと、そう単純ではない。地元の大学に進学しても、就職は地元以外で働きたいと考える学生も存在する。同様に県外に進学した学生がUターン就職を検討することもあるだろう。
そうなると「地元進学で地元就職希望」「地元進学で地元外への就職希望」「地元外に進学で地元就職希望」「地元外進学で地元外への就職希望」という4つのカテゴリーで検討する必要がある。
就職活動時にUターン就職を希望している割合についてはマイナビでも「大学生Uターン・地元就職に関する調査」(以降Uターン・地元調査と記載)として調査している。しかし近年、この調査の母数では、都道府県別にUターン割合を算出するには分母が足りない。たとえば2025年卒の鳥取県の高校卒業者はわずか8名の回答だ。そこで、単年ではなく、過去のデータを含めた複数年のデータを合算し、都道府県別のデータを算出できないか試みた。
データを統合するには同様の内容でないと比較できないため、遡ることのできる12年分のデータを対象とし、時代的な変化と都道府県単位の回答数などを考慮して、2020~2025年卒の6年間と、2014~2019年卒の6年間という2つのデータにまとめてみた。
データは6年ごとのローデータを合算し、2020~2025年卒は2025年卒の、2014~2019年卒は2019年卒のウエイトバック値を使用して集計している。
今回の集計に関して「地元就職希望率」は、学生の回答において「出身高校の都道府県所在地」(単一回答)と「大学卒業後にもっとも希望する希望都道府県」(単一回答)が一致していると定義して算出している。
まずデータの妥当性を確認するため、「2023年度学校基本調査(文部科学省)」にある都道府県別の地元大学入学率(高校と大学の所在地が同一)と同様の条件でUターン・地元調査2020~2025年卒の地元大学進学率を算出し、この2つの相関係数を求めてみた。
結果、相関係数0.952というかなり高い相関が見られる結果となった。このデータ一つで、他の結果すべてに高い相関があるとは言えないが、次に示す地元就職希望率に関しても多少は信頼性が期待できる数値となっている。【図3】
都道府県別の地元就職希望率
以下に都道府県別の地元就職希望率(出身高校所在地ともっとも就職したい都道府県が一致)を「2020-2025年卒の6年間」と「2014-2019年卒の6年間」の2つの時期で算出した結果を示す。
6年単位で比較しても、さほど大きな変化は見られなかった。(※%と回答数は「2020-2025年卒の6年間」の結果を表示)
但し、これは地元大学進学生と地元外地域進学学生両方含んだ学生の回答となっている。【図4】
そこで次は、「2020-2025年卒の6年間」のデータで地元進学学生と地元外進学学生に分けて地元就職希望率を算出してみた。【図5】
地元進学学生の地元就職希望割合
地元大学に入学した学生の地元就職希望率は全国で71.2%と、地元での就職を考える割合が高い傾向にある。それでも地元外の企業を志望する割合も28.8%と、就職段階で地元外を希望する学生が一定数存在していることが分かる。
ここまで例に挙げていた鳥取県の場合、地元進学者の地元就職希望割合は全国平均に近い67.3%となったが、地元外就職希望者も3割存在しており、数少ない地元進学生においても人材流出が懸念される結果となっている。また、鳥取県は6年間の回答合計でも地元入学生がわずか16名と少なく、参考値程度に見てもらう状況となっている。【図6】
地元外進学学生の地元就職希望割合
次に地元外進学学生の地元就職希望率を見てみると、全国平均で33.1%となっており、一度県外に出ると地元就職希望率は大幅に下がることが見て取れる。
鳥取県で見ると34.4%と3割強の学生しか地元に戻る意思がないことが分かる。そもそも地元外の大学に8割強(84.9%)の学生が進学する鳥取県で、3割しかUターンの希望がないということになる。つまり、【図4】で示した15.1%の地元大学進学生の7割弱の地元就職希望割合と併せても、卒業生全体の4割程度しか地元就職を希望していないことになり、人数にすると1,000人を切る。
調査上の推計数字とはいえ、地元就職を希望する大学生が1,000人を切るとなると、短期的な雇用施策だけではなく、官民合同のインターンシップや低学年のキャリア教育など、長期的な施策の検討も必要になるだろう。これを各都道府県別に見てもらうと、今後の若者人材戦略の基礎的な情報が整理できるのではないだろうか。
都道府県別の状況図式化のすすめ
先程示した鳥取県の若者の地元就職希望率を「地元進学で地元就職希望」「地元進学で地元外への就職希望」「地元外に進学で地元就職希望」「地元外進学で地元外への就職希望」という4つのカテゴリーに分類して図示すると以下のようになる。
人数は図2で示した大学入学者の出身都道府県別データの人数2,345名を基に計算している。
こうして可視化みると、地元県の若者がどの程度就職する意思があるか比較することができる。このような整理をしていないと、学生の少ないところに注力をしたり、可能性のある地元外進学生の対応を疎かにしたりするなど、誤った施策を実施してしまうかもしれない。こうした検証するのに役立つだろう。
他の都道府県でも表1のように整理すると、これらの数字は都道府県ごとに大きく異なる。北海道や愛知県は地元進学率が高く、地元就職希望率も高いため、学生の流出は他県に比べて低い。一方、佐賀県や奈良県は鳥取県と同様の傾向が見られる。
いずれにしても、まずは採用戦略や若者のUターン施策を考える上で、上記のようなデータを整理し、施策の検討に活かしてほしい。また、今回は具体的な採用施策等を記載はしていないので、先述の「Uターン・地元就職に関する調査」にある「何をすればUターンを検討するか」といった設問の回答や弊社研究員が記載した過去のコラムなども参照していただきたい。
併せて添付のPDFに12年を合算して算出した詳細データを掲載しているので、こちらも参照頂きたい。どの地域においても人手不足は深刻な状況であるため、施策検討段階でしっかりとしたターゲッティングを実施することが重要である。
マイナビキャリアリサーチLab所長 栗田 卓也