カードゲームを通じて職業を知る。中学生向けキャリア教育の出張授業の手応え

キャリアリサーチLab編集部
著者
キャリアリサーチLab編集部

株式会社マイナビが創業50周年の記念事業としてスタートさせた中学生向けの出張授業は、職種や業界に関する知識をゲーム形式で楽しく学びながら、将来のキャリアについて考えるきっかけを提供するプログラムだ。

本記事では、授業の運営にあたったマイナビの今井と、実際に授業を受け入れた練馬区立石神井東中学校の嶋田先生へのインタビューを通じて、授業のねらいや生徒たちの反応、現場での工夫や今後の展望を紹介する。企業と教育現場が連携することで広がるキャリア教育の可能性と、現場から見える生徒の変化を追った。

(写真左)練馬区立石神井東中学校 嶋田先生
(写真右)株式会社マイナビ サステナビリティ・トランスフォーメーション推進室 今井普彦
(写真左)練馬区立石神井東中学校 嶋田先生
(写真右)株式会社マイナビ サステナビリティ・トランスフォーメーション推進室 今井普彦

楽しく学ぶ2コマ構成。ゲームとワークで視野拡大

質問:現在、全国の中学校で実施しているキャリア教育の出張授業の目的や内容を教えてください。

今井:マイナビは、就職・転職 情報の提供ならびに求人・採用活動に関するコンサルティングなどを軸に幅広い事業を展開していますが、50周年を機に「一人ひとりの可能性と向き合い、未来が見える世界をつくる。」というパーパスを設定しました。

このパーパスの実現に向けた取り組みの一環として、中学生向けキャリア教育の出張授業を実施することになりました。この授業を通じて、全国の中学生が職業選択の視野を広げ、将来のキャリアについて考えるきっかけを提供することを目指しています。

授業は、2コマ連続(50分×2回)のプログラムになっていて、1コマ目がカードゲームを通じて世の中にあるさまざまな職業について知ってもらいます。そして、2コマ目ではワークシートを活用しながら、地元企業の事例を交えて、業種や企業の連携、産学官連携などに対する理解を深めてもらいます。この授業を通じて、職業調べ・進路調べを幅広い視野で行うきっかけを提供できればいいなと考えています。

従来の学習を超えて、生徒の未来を見据えた判断

質問:この出張授業を取り入れることになった背景について教えてください

嶋田先生 :本校のキャリア教育は、これまでインターネットや書物で職業や上級学校を調べ、受験に向けた準備をしていくといった流れでした。しかし、義務教育最後の3年間のうちに、社会にあるさまざまな職業を知り働く意義を理解することで、自分が進むべき方向や将来の目標を見つけるきっかけにしてほしいという思いがありました。

今回、1年生向けのキャリア教育 授業を考える際に、さまざまなプログラムを比較検討したのですが、マイナビの『カードゲームで学ぶキャリア図鑑』は、カードゲームを活用するという授業の進め方やカードゲームを通じて商品やサービスがつながっていること、連携していることを知ることができるという内容にとても魅力を感じ、受け入れを決めました。

楽しく学ぶ2コマ構成。ゲームとワークで視野拡大

教員の理解と連携が鍵。生徒の心をつかむ準備

質問:学校でこの出張授業の受け入れを検討される際に、準備したことや苦労したことはありましたか。

嶋田先生:本校の1年生は5クラスあり、各クラスに40名弱の生徒がいます。今回は全クラスで実施したのですが、学年の教員のみなさんにはクラスごとにどのように運営すればいいか、たとえばグルーピングの工夫などを含めて説明したところ、すんなりご理解いただけました。管理職との会議でもスムーズにご理解いただけたと思います。

もともと、学校行事としてレクリエーションを行う時間を設けているのですが、今回のプログラムはゲームという形でレクリエーションの要素もあり、しかも、将来について考え、職業について学べる、という点が良かったのだと思います。

実際に授業を実施する前の準備としては、とにかく初めての試みなので、自分なりにイメージを膨らませて、みなさんに楽しんでもらえるよう事前に学年生徒、学年教員に向けて説明や雰囲気づくりを行いました。

特に中学生は、自分の意見や考えを人に話すことに恥ずかしさを感じやすい年代でもあるので、遠慮なく意見交換できる事前の雰囲気づくりは大切だと思います。

本校では、道徳の授業で全クラスを回って自分の夢を語るプログラムを実施しているのですが、その授業を事前に実施したことで、今回のキャリア教育の出張授業がより盛り上がったのではないかと思います。

地域に合わせた工夫を実施。身近な事例で関心を引く

質問:石神井東中学校でキャリア教育の出張授業を行う上で、どのようなことを心掛けましたか?

今井:この出張授業のなかには仕事を知っていただくため、実際にある企業の事例をもとに考えていただくパートがあります。授業は全国で展開していますので、なるべくそれぞれの地域で身近な社会の例、企業の取り組みを取り入れるようにしています。

今回の石神井東中学校は、東京都23区内の学校なので、身近な企業例を探すのに工夫が必要でした。そこで、きっと生徒のみなさんにも馴染みがある大手家電量販店での仕事を例に授業を進めました。

地域に合わせた工夫を実施。身近な事例で関心を引く

協働で深まる理解。教え合いが広がった教室

質問:キャリア教育の出張授業を実施した感想とその後の生徒たちの変化について教えてください。

今井:当日の授業はどのクラスもとても盛り上がり、生徒のみなさんは楽しみながら取り組んでくださっているように感じました。

石神井東中学校に限ったことではないのですが、実は、カードゲームについてアンケートなどを取って気づいたことがあります。最初は先生方から「ルールが難しいのでは?」という疑問の声が寄せられたり、社内でも検証をしたときも同様の反応がありました。

しかし、生徒さんたちは、細かいルールなどは気にせずどんどん進めて、そのなかで楽しみながら学んでくれるようでした。これらの結果を見て、「仕事について学ぶ」ということへの考え方や取り組み方について、大人と子どもでは捉え方が違うのだと気づかされました。

実際に、石神井東中学校の生徒のみなさんはリアクションがすごく早くて、とても積極的に取り組んでくださいました。講師として参加した弊社のメンバーもみんな大きな手応えを感じたようです。

協働で深まる理解。教え合いが広がった教室

嶋田先生:実施したのが3学期ということもあってか、カードゲームを通してすっかり打ち解け合い、お互いに教え合ったり、サポートしたり、積極的に意見交換するムードができあがっていました。

国語の教員は「共同作業を通して、コミュニケーション能力が向上したのではないか」と指摘していました。とにかく、学年教職員や管理職のみなさんも、「とても良いプログラムであった」と喜んでくれ、次年度の1年生でも実施できたらいいねという声もあがっています。

生徒たちも、企業の連携を理解できたようでしたし、仕事に対する印象が広がったように感じます。事後の取り組みで個々人が職業調べを行い、その結果を新聞という形にしましたが、みんなさまざまな仕事を取り上げてくれて、しかも、とても中身の濃い新聞をつくってくれました。

今、全クラス分を廊下の掲示板に貼り出していますが、多様な職業が紹介されています。視野が広がったのだなと感じました。将来の進路を選択するときに広い視野で幅広い選択肢から選ぶことができるということは、良いことだと思います。2年次には職業体験学習の授業を実施する予定ですが、その準備にも積極的に取り組んでくれています。

廊下に張り出されている新聞(職業調べ)
廊下に張り出されている新聞(職業調べ)

視野を広げる学びを全国に。将来像を描く力を育む

質問:このキャリア教育の出張授業は、今後、どのような展開を予定していますか。

今井:計画としては、2027年までに全47都道県で10,000人以上の参加を目標に掲げています。これまでに22都道府県、43校で実施し、総計4,170名の中学生が参加してくれました。この取り組みをスタートしてまだ2年目ですが、中学生のみなさんに職業の幅広さを知ってもらい、将来の進路を考える際の視野を広げるというプロジェクト本来の目的を見失わずに、今後も取り組みを継続したいと考えています。

生徒のみなさんが、将来仕事をすることや大人になることを楽しみに感じてもらえるような、そんなきっかけになる授業にしていけたらいいなと考えています。

嶋田先生:大型連休の後にニュース番組などでは、街頭インタビューで「明日からの仕事が憂鬱です」とコメントする社会人を報道することがありますが、そんなふうに感じている人ばかりではないことをわかってもらえるようになればいいですね。

新しい学びの形を模索。平和学習やSDGsも視野に

質問:嶋田先生にお聞きします。貴校での今後のキャリア教育のプランについて教えてください。

嶋田先生:子どもたちみんなが将来幸せになってもらうために、中学3年間にどのようなキャリア教育のプログラムをデザインできるかを考えているのですが、今あるキャリア学習をベースにして、もっと新しい取り組みを増やしていきたいなと個人的に思っています。

たとえば、SDGsとか平和学習などをテーマに取り入れてもいいのではと思い、修学旅行や校外学習などもそれに関連づけて考えるようにしています。

もちろん受験は避けて通れないので勉強はおろそかにできませんが、良い会社に入るために良い学校に行くという考えではなくて、自分が将来なりたい姿をイメージした上で、自分にとっての良い学校とは何かを考えるきっかけを与えてあげたいなと思います。今回の出張授業が、そういった進路選択につながるキャリア学習の機会になればうれしいですね。

学びと体験がつながる設計。職業体験への良い布石に

質問:最後に、キャリア教育の実践に課題感などを抱えている中学校の先生方に向けてメッセージをお願いします。

嶋田先生 :今回の出張授業はとても素晴らしい取り組みだったと思います。

本校の場合は、中学1年の3学期に実施しましたが、時期的にはちょうど良かったのではないかと思います。中学に入って児童から生徒に変化し、落ち着きも見せ始める時期ですので。

また、職業調べというと堅苦しい印象がありますが、この出張授業の場合は、ゲーム感覚でいろいろな仕事とそのつながりが理解できるので、生徒たちも取り組みやすかったのではないかと思います。本校の場合は、2年次に職業体験を実施しますので、ワークシートの作成や職業調べが進めやすくなり、働く意義についても理解が深まったのではないかと感じます。


■プロフィール

嶋田 忠政(練馬区立石神井東中学校)
1994年に日本体育大学を卒業。現在、主幹教諭として石神井東中学校に勤務。校務分掌では生活指導主任を中心に教務などを担当。昨年度から進路学習と学年主任を担当し、生徒達のよりよい進路選択や夢の実現のためのキャリア学習を勉強中である。
教科は保健体育で2007年に東京都中学校保健体育研究会において体つくり運動の授業研究を発表した。部活動は野球部を担当。東京都中体連野球部競技委員会副委員長として地域の活性化や競技者及び指導者の資質の向上、競技人口拡大に向けた活動も積極的に行なっている。将来を支える子ども達の健全育成や夢の実現に向けて様々な活動を行っている。

今井 普彦(株式会社マイナビ)
キャリアデザイン学部卒。2007年、株式会社マイナビ(旧:株式会社 毎日コミュニケーションズ)入社。
就職情報事業本部 東京営業第2部1課へ配属され、企業の新卒採用や研修の営業に従事。その後、10代のライフデザインを推進する新規事業の立ち上げを経験後、高校生の進学を支援する未来応援事業本部へ異動。生徒の進路サポートや探究学習教材の企画編集等を経験後、社長室サステナビリティ推進部へ異動し、現在のサステナビリティ・トランスフォーメーション推進室に至る。

東郷 こずえ
担当者
キャリアリサーチLab主任研究員
KOZUE TOGO

関連記事

コラム

キャリア教育とは?日本における歴史を振り返り、その目的を再考する

コラム

子どもの未来に必要な力を育むキャリア教育の意義-筑波大学 人間系 教授 藤田晃之氏

コラム

実社会に関わる「探究学習」を通して身に付ける「問う力」ー東京大学大学総合教育研究センター教授  佐藤 浩章氏