就職活動時期の親子に生まれる3つのズレとは?就活生と保護者の理想の関係性を考える~2026年卒新卒採用・就職活動の展望~

長谷川洋介
著者
キャリアリサーチLab研究員
YOSUKE HASEGAWA

政府の関係省庁連絡会議によって定められた就職・採用活動日程における広報活動開始日、いわゆる就職活動の解禁日である3月1日に合わせて、2025年2月末、マイナビキャリアリサーチラボでは、2026年卒学生の動向や企業の採用活動の展望について講演を実施した。本コラムはその内容を紹介するものであり、特に就職活動を行う学生とその保護者の関係性について焦点をあてる。

就職活動中の学生に対する保護者の影響力は大きい?

企業が学生の保護者にアプローチする理由

就職活動を行う大学生とその保護者の関係において話題にされがちなトピックとして「オヤカク」がある。オヤカクとは「親への確認」の略語で、企業が内定を出した学生の保護者に対して内定同意の確認を行ったり、それに付随して自社のことを保護者に紹介したりする行為を指す言葉だ。

新卒採用において、オヤカクをはじめとする内定学生の保護者向けのアプローチを行っている企業は決して多くはないものの、保護者向けアプローチを行っている企業に対してその実施理由を調査した結果、もっとも多かったのは「内定辞退対策として」(47.2%)で、その次に多いのは「保護者の意見を重視する学生が多いと感じるから」(44.0%)というものだった。【図1】

企業が内定学生の保護者向けにアプローチを行う意図・背景/マイナビ 2025年卒企業新卒採用活動調査
【図1】企業が内定学生の保護者向けにアプローチを行う意図・背景/マイナビ 2025年卒企業新卒採用活動調査

少なくとも一部の企業においては、学生の意思決定に対し保護者の影響力が強いと感じていることがわかる。

就職活動中の親子の関係性の実態

【親側の視点】子供の就職活動に対する保護者のスタンス

学生に対して保護者が強い影響を与えているというイメージが持たれている一方で、実際の学生・保護者の関係(以下、「親子関係」と表記する)はどのようになっているのだろうか。まず、子どもの就職活動に対する保護者のスタンスについて見てみる。【図2】

(左)子供の就職活動に対する保護者の関心・(右)子どもの自己分析の手伝いで話を聞いたことのある保護者/マイナビ 2024年度 就職活動に対する保護者の意識調査
【図2】(左)子供の就職活動に対する保護者の関心・(右)子どもの自己分析の手伝いで話を聞いたことのある保護者/マイナビ 2024年度 就職活動に対する保護者の意識調査

左のグラフは子どもの就職活動に対して「関心がある」と回答した保護者の割合だが、多少の増減はあるものの、過去10年間を通して7割前後で推移しており、おおむね一定となっている。対して右のグラフは、子どもの自己分析の手助けをするために話を聞いたことがあると答えた保護者の割合を示しており、こちらは過去10年間を通して増加傾向となっている。

こうしたことから、子どもの就職活動に対する保護者の関心が近年で特に高まっているということはなく、保護者の関心度はほぼ一定である、ということがいえる。逆に子どもの側から自己分析の手助けを求められることは増えているようである。

【子ども側の視点】保護者に就職活動について相談する学生

図3は学生に対して、就職活動について保護者に相談することがあるかを調査した結果となっているが、「保護者に相談することがある」という学生の割合は10年前と比べるとわずかながら増加していることがわかる。子どもの就職活動に対する保護者側の関心はほぼ一定ながら、子どもの側から保護者に相談をするというケースが増えているようである。【図3】

保護者に就職活動の相談をする学生の割合/マイナビ 大学生のライフスタイル調査(2016年卒~24年卒)、2026年卒大学生インターンシップ・就職活動準備実態調査(12月)
【図3】保護者に就職活動の相談をする学生の割合/マイナビ 大学生のライフスタイル調査(2016年卒~24年卒)、2026年卒大学生インターンシップ・就職活動準備実態調査(12月)

ただ、保護者に相談する学生が増えているといっても、図4のように「『この会社を受けなさい』といったアドバイスは不要」、「あまり干渉せずに、へこんだ時に慰めてほしい」、「親と自分では就職活動環境が異なるので、否定的なことは言われたくない」など、なにか具体的な問題解決の方法を相談するというよりは、不安な感情を受け止めてほしいという様子がうかがえる。また親との間の「世代間ギャップ」を感じるという声も見られる。【図4】

就職活動において学生が保護者に求めるサポート(距離感・接し方など)/2026年卒大学生インターンシップ・就職活動準備実態調査(12月)
【図4】就職活動において学生が保護者に求めるサポート(距離感・接し方など)/2026年卒大学生インターンシップ・就職活動準備実態調査(12月)

就職活動中の親子関係に見られる「3つのギャップ」

保護者に就職活動の相談をする学生の割合が増えている一方で、相談を受ける側の保護者が気を付けるべきことは一体なんだろうか。ここからは、それを考える際に意識したい「就職活動中の親子関係に見られる3つのギャップ」について考察していく。3つのギャップとは、

  1. 社会背景のギャップ
  2. 価値観のギャップ
  3. 親離れと子離れのギャップ

の3つである。

【ギャップ1】社会背景のギャップ

図5は、保護者が学生だった当時の就職活動に関して、あてはまるものを回答してもらった結果を示している。保護者が就職活動を行った年代に応じて、「バブル期」に就職活動をした保護者と「就職氷河期」に就職活動をした保護者で回答結果を分けて、前者はオレンジ色、後者は青色で表している。【図5】

保護者が就職活動を行っていた当時のエピソードとしてあてはまるもの/マイナビ 2024年度 就職活動に対する保護者の意識調査

【図5】保護者が就職活動を行っていた当時のエピソードとしてあてはまるもの/マイナビ 2024年度 就職活動に対する保護者の意識調査

オレンジ色で囲った項目は、バブル期に就職活動を行った保護者の方が回答の割合が多い項目(バブル期の就職活動において特徴的だったエピソード)を示しているが、「縁故やコネによる採用があった」や「就職情報誌が山のように届いた」など、いずれもバブル期という売り手市場を背景とした、採用数の多さ、内定獲得ハードルの低さ、などを感じさせる項目が多い。

一方、青く囲んだ項目は、就職氷河期に就職活動を行った保護者の方が回答が多かった項目(就職氷河期に特徴的だったエピソード)を示しており、「採用数が大幅に減った企業や、採用がゼロになった企業が多かった」や「説明会に参加しようにも枠がすぐに埋まってしまう」「正規雇用の採用が激減した」など、バブル期とは打って変わって、採用数の少なさ、選考に上るためのハードルの高さ、などを感じさせるものとなっている。このように、バブル期就活組の保護者と氷河期就活組の保護者では両極端な社会背景・経済状況を経験していることから、自身の子どもの就職活動に対する見方にも差が見られる。

図6の左のグラフはバブル期に就職活動をした保護者、右のグラフは氷河期に就職活動をした保護者のそれぞれに対して、子供の就職活動はどのように感じるかを聞いた結果だが、バブル期に就職活動をした保護者は「子供の就活は大変」と感じる割合が氷河期世代よりも高く、逆に氷河期に就職活動をした保護者は「子供の就活は楽」と感じる割合がバブル期世代より高くなっている。つまり、バブル期世代の保護者ほど子どもの就職活動を「大変だ」と感じ、氷河期世代の保護者ほど「楽だ」と感じる傾向があるのだ。【図6】

子どもの就職活動はどのように感じるか/マイナビ 2024年度 就職活動に対する保護者の意識調査
【図6】子どもの就職活動はどのように感じるか/マイナビ 2024年度 就職活動に対する保護者の意識調査

多くの人にとって大学生の時の就職活動は人生で1度きりの経験であることから、その1度きりの就職活動をどのような経済状況のもとで経験したかが、子どもの就職活動に対する考え方に影響してしまうものと推察される。このような社会的・経済的な背景の違いが、就職活動における親子の間のギャップを生んでいる1つ目の要因ではないかと考えられる。

【ギャップ2】価値観(働き方、ライフスタイル)のギャップ

もう1つのギャップは、働き方やライフスタイルの価値観のギャップである。図7は保護者に対して、就職活動を行っていた当時において一般的だった働き方を回答してもらった結果を示している。

もっとも多いのは「転職は今ほど一般的なものではなかった」で、2番目には「長時間労働や休日出勤は当たり前だった」、3番目は「1つの会社に勤めあげてキャリアアップするのが当たり前だった」が続いている。その他、「結婚や出産・育児を機に退職する人が多かった」や、「男性は仕事、女性は家庭という役割分担が一般的だった」などの項目も上位になっている。【図7】

保護者が就職活動をしていた当時、自身または世間で一般的だった働き方に関する考え方/マイナビ 2024年度 就職活動に対する保護者の意識調査
【図7】保護者が就職活動をしていた当時、自身または世間で一般的だった働き方に関する考え方/マイナビ 2024年度 就職活動に対する保護者の意識調査

このような保護者世代にとっては当たり前だった働き方の多くは、終身雇用の前提がなくなりつつあり、働き方改革や女性活躍が進み、男女ともに仕事と私生活の両立が目指されている現代に生まれ育った学生にとっては、かなり違和感のあるものになってきているのが現状だ。そうした働き方やライフスタイルに関する価値観の違いが、親子の間に生まれるギャップの2つ目の要因だと考えられる。

【ギャップ3】「親離れ」と「子離れ」のギャップ

そして3つ目のギャップは、「親離れ」と「子離れ」が起こる時期のギャップである。図8は、学生に対しては「いつごろ親からの自立・親離れを意識するか」という質問を、保護者に対しては「子育てが一段落すると思うのはいつごろか」という質問を、学生・保護者双方に共通の選択肢を提示して調査した結果である。青が保護者、オレンジが学生の回答を示している。

まず、保護者が子育てが一段落すると意識する時期としてもっとも多かったのが「子どもの社会人生活開始」(35.4%)であり、他の選択肢と比べて圧倒的に多い。それに対して学生が親からの自立・親離れを意識する時期は「大学・大学院進学」(20.5%)がもっとも多く、「社会人生活開始」(19.3%)と「一人暮らし開始」(18.9%)もほぼ同程度の回答があり、多少のばらつきがみられる。

すなわち、親としては「子どもの社会人生活が始まるまでは子育ての範疇である」という認識が多い一方で、子どもとしては早ければ「大学(院)進学を機に親からの自立を意識する」という認識を持っており、いうなれば学生の「親離れ」と保護者の「子離れ」の時期にギャップがあるということを示している。そして、就職活動を行う時期は、まさにその両方の間に位置しているということになる。【図8】

学生が「親からの自立・親離れを意識するタイミング」と、保護者が「子育てが一段落すると感じるタイミング」の比較 / マイナビ2025年卒大学生活動実態調査(3月)
【図8】学生が「親からの自立・親離れを意識するタイミング」と、保護者が「子育てが一段落すると感じるタイミング」の比較 / マイナビ 2024年度 就職活動に対する保護者の意識調査2026年卒大学生インターンシップ・就職活動準備実態調査(12月)

子どもの就職活動や内定先に対して意見をしてしまう保護者がいたり、また子どもからアドバイスを求められた際につい余計なことや現代の価値観にそぐわないようなことを言ってしまう事態が起こるのは、すでに述べた社会背景のギャップや価値観のギャップに加えて、子ども側としてはすでに親からの自立を意識していながら、親の方はまだ子育ての範囲内である、という、就職活動時期における両者の意識のズレ=「親離れ」と「子離れ」のギャップが原因になっているからだと考えられる。

就活生と保護者の理想の関係に求められること

こうした3つのギャップを踏まえて、就活生と保護者の理想の関係性に求められるものは何かをまとめてみたい。【図9】

就活生と保護者の関係に必要なこと / マイナビ作成
【図9】就活生と保護者の関係に必要なこと / マイナビ作成

まず保護者に必要なことは、自身が経験した社会背景・経済状況とのギャップから生じる、子どもの就職活動への無意識・無自覚なバイアスに注意をすることだ。また、働き方やライフスタイルに関する考え方にもギャップがあることを理解し、子ども世代の価値観を尊重し、寄り添う姿勢が求められる。また、親離れと子離れの時期的ギャップがある可能性を理解し、子どもの自立意識の早さに気づき、意見を尊重しつつ、子どもへの支援は子どもから求められた時に、必要な分を提供することで、過度な干渉をしないようにすることも重要だろう。

また企業としては、学生の保護者との世代間ギャップによって生じる自社に対する誤解・反発などにあった際は、その誤解を解けるような適切な情報提供を行い、誠実で丁寧な姿勢を示すことで保護者に安心を与え、信頼関係を構築していくことが大切になる。ただ、保護者ばかりを過度に意識したアプローチを行うことは、学生が自身の意見をないがしろにされていると感じたり、学生自身の自由な職業選択を阻害することにつながりかねないので、注意が必要だ。

そして学生としては、保護者に対しては自身のキャリア習熟の度合いに応じて、必要な支援を必要なタイミングで具体的に求めることが重要である。それによって、保護者側も子どもが求める支援を把握でき、対応しやすくなるはずだ。就職活動の主役はあくまで学生自身なので、保護者からの意見を鵜吞みにし過ぎず、必要だと思う情報を咀嚼し、自分なりに組み立て直すことが、自分自身への理解を深めたり、視野を広げていくうえで重要になると考えられる。

マイナビキャリアリサーチラボ 研究員 長谷川 洋介

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