採用ではなく、学生へのキャリア教育を中核としたインターンシップを実施している株式会社DAY TO LIFEの取り組みについて、マイナビキャリアリサーチラボ研究員の長谷川が聞き手となり、紹介している本インタビュー。前編では、同社が「キャリア教育」に着目して人事制度を改革した経緯や、キャリア教育を重視したプログラムを通して学生に伝えたいことを伺いました。

後編となる本記事では、インターンシップを通じて入社した若手社員に話を伺い、同社のインターンシップを経て、自身のキャリア観や学業などへの取り組みがどのように変化したのか伺いました。また、採用を主軸にしないインターンシップの在り方について社内でどう理解を深めたのかなど、前編に引き続き同社執行役員 経営管理本部 本部長/  経営企画室 室長/ 人事部 部長の上田 勝幸さんに語っていただきました。

株式会社DAY TO LIFE（旧・株式会社麦の穂）
設立：1997年
事業内容：飲食店の経営、飲食店のフランチャイズチェーン店の加盟店募集及び加盟店の指導業務、菓子の製造、販売

インターンシップを経ての変化

インターンシップに参加したきっかけ

Ｑ.まずは、インターンシップを通してDAY TO LIFEに入社されたお二人に、ご自身の大学生活について伺います。卒業された大学・学部を選んだ理由や学んでいたこと、株式会社DAY TO LIFEのインターンに参加したきっかけを教えていただけますか。

そんな中、アルバイト先のスイーツドリンク店での食の提供や接客サービスを通じて、たくさんのお客さまに喜んでいただけることにやりがいを感じ、飲食業界、特にスイーツに関わる仕事に興味を持つようになっていきました。インターンシップではスイーツ企業を中心に探していたところ、マーケティングや新業態開発などのクリエイティブな業務が学べる当社のプログラムに魅力を感じて、参加しました。

就職活動でも、醸造関連の仕事に絞り、食品メーカーや酒造メーカーをメインに考えていましたが、業界研究をしてみると、メーカー以外にも将来のワインづくりや販売に役立つ職種が学べる業種があることを知り、幅広い業界を視野に入れて就活をしようと方向転換しました。

一方で「自分のやりたいこと」や「なりたい自分」について悩んでいたので、自己分析をより深く学べ、マーケティングなど大学で学んでこなかった職種を体験できる当社のインターンシップに興味を持ち、参加しました。当時は、とてもドキドキワクワクしながら応募した記憶があります。

企業にこだわるのではなく、どんな仕事がしたいかを意識するように

Q.実際にDAY TO LIFEのインターンシップに参加してみて、仕事やキャリアについての考えにどんな変化があったのか教えてください。

松岡：インターンシップに参加する前は、自分が興味を持っていることや、向いていることに自信が持てずにいました。また、就職についても、どんな仕事をしようかではなく、どの企業に行くべきか、そればかり考えていました。

ですが、DAY TO LIFEのインターンシッププログラムを通じて、さまざまな仕事を体験する中で、企業にこだわるのではなく、そこで自分が何をしたいのかに意識が向くようになりました。 そして人事部を中心とした社員の人たちとの関わりの中で、人の成長を支援することにやりがいや関心を持つようになり、自分の目指す方向性が明確になりました。

福嶋：自分のキャリア観や、やりたいことの幅がすごく広がったと思います。DAY TO LIFEのインターンシップを通じて、1つの商品がお客様に提供されるまでに、さまざまな会社や職種の人たちが協働していることを深く学ぶことができました。自分で業界研究をしていた際はずっと酒造・飲料メーカーだけを志望していましたが、インターンシップを通して「酒造・飲料メーカーにこだわらなくてもいいのでは」と思えたのは大きな気づきでした。

Ｑ.そのようなインターンシップの体験を経て、学業やアルバイトなどの大学生活においても何か変化はあったのでしょうか。

松岡：「人の成長」に興味を持つようになったことで、学生生活への姿勢も大きく変わり、ゼミ活動やアルバイト、ボランティア活動など、すべてのことが将来につながるという意識で取り組むようになりました。アルバイトでは後輩の指導にも力を入れるようになりましたし、大学の専攻では、人事に通じる「働き方」について幅広い視点で知りたいと思い、ジェンダーに関するゼミを選択し、日本女性の働き方を研究するようになりました。

福嶋：さまざまな人が関わって商品が提供されるという学びをきっかけに、もともと酒造メーカーで企画開発されていた大学の教授にも、1つの商品をつくる過程のお話を聞きに行きました。また、100円ショップのアルバイトでは、お客様がレジにお持ちになった商品を見ながら「DIYをしたいのかな」など、お客様のニーズを推測するようになったのですが、これもインターンシップでマーケティングについて学んだ影響だったのではと思います。

インターンシップ後の手厚い面談が自己理解を深める

「目指すべきキャリア」と「目標」が明確に

Ｑ.インターンシップやその後のやりとりで印象に残っているのは、どんなことですか？

福嶋：一番印象に残っているのは、「自己分析の手厚さ」です。最初、インターンシップ期間中のワークだけだと思って応募したのですが、 インターンシップ後も何回も面談を組んでくださって、自己理解につながる対話を行ってもらいました。一人ひとりの学生に対して、貴重な仕事の時間を割いて、カウンセリングしてくださることに頭が下がる思いでした。

私自身、一人では自己分析がうまくできず、思い悩んでいた時期でもあったので、非常にありがたかったです。当時商品開発者にも興味があったのですが、仕事内容がイメージできない中で本当に志望していいのだろうかという相談をした時に、商品企画開発の責任者の方を紹介してもらって、直接お話させてもらったりもしました。こうした経験を通じて、より目指すキャリアも描きやすくなったと思います。

松岡：福嶋さんと似ていますが、私の場合は、インターンシップ後の上田部長との個別面談ですね。それを通じて、自分のキャリア観も大きく変わりました。特に人の成長やキャリアを支援することへの関心がより明確になっていったと思います。まずは店舗運営に携わり、人事として夢に向かって進む社員のサポートをしていきたいという軸が定まりました。

私はインターンシップに参加しながらも自分に自信が持てなかったのですが、上田部長が面談で、私の人生から振り返り、自分が気づいていない大事な価値観まで、深く掘り下げてくださったので、そこから自分が目指す方向性が見えてきたと思います。私は、昔から人と争うことが嫌いで、平和主義な一面があるようなのですが、アドバイスでそのことに気づき、人と競争するよりも人と協力して目標を達成することにシフトすることで、自分の力を見出せることを理解できました。

自分の強みを大事に、目標に向かって取り組む

Ｑ.最後に今後の目標について、インターンシップに参加する前や入社直後の思いとの変化とあわせて教えてください。

福嶋：直近では、店舗での新入社員の教育を担当したいというのが目標です。自己分析を行った際に、私は人に何かを教えたり、伝えたりすることが好きで割と得意なのだと気づきました。この強みを活かして、今後は新入社員をサポートする立場で、新入社員のみなさんが前向きに働けるように、先輩として何か教えていけたらなと思っています。もう1つは未来の目標として、学生の頃から興味のあった商品開発者やマーケティングの実務に携わりたいとも考えています。

松岡：私は、インターンシップに参加する前は漠然とスイーツ業界に携わりたいという思いしかありませんでした。ですが、インターンシップに参加したことで「人事」という仕事に興味を持つようになり、自分自身が社員の方にサポートしてもらったように、この会社で学生の支援を行うことや、上田部長と一緒に働けるようになることを目指し入社しました。

今は店舗での運営業務を行っていますが、現場に出て、より「学生をサポートしたい」という志が強くなりました。将来的には、ジョブローテーション制度を活用して、自分が中心となってインターンシップの実施や、就職活動に悩む学生をサポートする業務に携わりたいと考えています。

Ｑ.その目標に向けて、取り組まれていることなどもあるのでしょうか？

松岡：1年目の社員は必ず店舗運営に携わるのですが、将来人事業務についた際に、店舗の業務を理解していないと社員に教えたりサポートしたりすることもできません。ですので、基礎の業務として今は店舗運営についてしっかり学びたいと思っています。

また、実務業務の習得以外にも、1年目の時点で簿記3級を取得して、今はリテールマーケティング2級の勉強をしています。将来的には、国家資格キャリアコンサルタントなどキャリアに関する資格の取得にもチャレンジする予定です。会社も社員のキャリア構築のため、資格取得を全面的にサポートしてくれます。

「採用第一」ではないインターンシップの理解浸透に向けて

Ｑ.再び上田さんにご質問します。採用を第一にするのではなく、学生のキャリア教育に取り組むインターンシップの在り方について、社内でどのように理解を深めたのか教えていただけますか。

インターンシップの意義を経営幹部全員で共有

上田：前編でお話したように、私たちは採用を目的としないインターンシップを目指しました。それに代わるものとして、初めに「インターンシップを行う意義」を経営幹部全員で、時間をかけて議論したことが大きかったと思います。結果、私たちはインターンシップを、学生のみならず社会に対して「キャリア教育」を発信していく場と位置づけました。そして、最終的な「採用」という成果を目指す前に、まずは企業の社会的責任として、インターンシップを捉えようという認識を経営幹部全員で共有したことが、重要なことでした。

自社の成長のヒントを得る機会でもあり、社員の成長機会でもあると捉える

上田：また、インターンシップを、ただ学生に「教える場」や「体験させる場」とするのではなく、「自社の成長のヒントを得る場」として活用していることも重要なポイントだと思います。学生を「事業のお客様でもある」と捉えて、インターンシップを通した学生との関わりには重要なマーケティングの要素が含まれていると考える視点も大切にしています。インターンシップは、会社の経営課題を学生に包み隠さず共有して、若い世代の才能や発想を引き出し、会社の成長のヒントを得ることを目指す、学生と対等な立場での取り組みでもあるのです。

そして、インターンシップには私たちの社員が成長する仕組みもつくっています。社員が学生に教える立場として参加することもありますが、新業態開発のワークショップでは、入社1・ 2年目の社員が学生と同じプログラムを受講して、取り組みます。今年のインターンシップは福嶋や松岡も含めて10名が参加しました。インターンシップは「社員が成長する場」にもなっているのです。もちろん、そこでの取り組み姿勢や成果も可視化し、参加した社員の成長も評価するようにしています。

社員には理念に基づいて、目指す社会像の理解を促進

上田：もう1つ重要なことが「理念」の浸透です。インターンシップに参加する社員は、学生と同じように事前・事後学習を行います。「コーポレートブランドストーリーブック」と言うDAY TO LIFEの理念をまとめた書籍で、「なぜこのインターンシップに取り組んでいるのか」を共有しています。私たちがこのインターンシップを通じて社会的責任を果たす一環として、「どのような社会を目指しているのか」を社員として、まず理解してもらうようにしています。

このように、経営陣全員でインターンシップの意義を定めたことや、その意義を参加社員に事前・事後学習で共有していること、自社や社員の成長の機会としてインターンシップを捉えるなどのことによって、キャリア教育を重視したインターンシップの重要性が社内に浸透していっていると思います。

インターンシップによる学生と社員の変化

自分の変化と向き合い、社会とのギャップを乗り越えられる社会人に

Ｑ.キャリア教育を中心においた学生へのインターンシップを導入して、学生のみなさんにはどのような変化があるのでしょうか。

上田：インターンシップに参加する学生の中には「とりあえず行ってみよう」という考えで応募し、参加するだけで満足する方も多いと思いますが、私たちのインターンシップは、終わってからが本番です。インターンシップで経験したことや自分の内面の変化と向き合って、それを自分の中で理解して、言語化し、アクションへつなげていく。これを徹底して行います。

インターシップを終えて学生生活に戻ってからは、「どうしてゼミのこの研究に取り組むのか」「アルバイトやサークルを通じて何を学んだのか」を考えるようになります。それらはその後の学生時代のかけがえのない経験として、エントリーシートや面談で活かされ、将来の自分のやりたいことへと結びつけられていきます。

そういう経験を積んだ学生は、社会に出てからのギャップ（リアリティ・ショック）をスムーズに乗り越えることができるようになり、エンゲージメントを高めたり、強さが生まれたりしてくると実感しています。同様のことを、私たちが大賞を受賞した「第６回学生が選ぶキャリアデザインプログラムアワード」の講演で実践女子大学の初見康行准教授もデータをもとにお話されていました。

学生のフィードバックが、社員のスキル強化につながる

Ｑ.学生への好影響はエビデンスとしても示されているわけですね。一方、インターンシップに参加している社員のみなさんにはどのような変化があるのでしょうか。

上田：インターンシップに参加した社員はコンピテンシーが高まっているという結果が出ています。たとえばインターンシップに参加する社員には、マネジメント力を磨く機会にしてほしいので、事前に学生に対してのフィードバック方法などをアドバイスします。学生のタイプや伝える場面によっても適したフィードバックが異なることや、効果を高める基本的な手法を伝え、実践してもらうようにしました。

インターンシップのあとには階層別研修があり、マネジメント力向上のプログラムでは、インターンシップの経験を報告する機会もつくっています。このようにインターンシップは一貫した社員教育の中に組み込まれており、インターンシップを含めた座学＋実践によるトライ＆エラーによって、マネジメント力が養われる仕組みをつくっています。

Ｑ.ほかにも、インターンシップに参加したことによる気づきについて、社員の方からはどのような声があるのでしょうか。

インターンシップ後に共有する、学生のアンケート結果が参考になるという声があります。社員における事後学習はこの評価をメインに、私たちが伝えたことが学生にどう響いているのか、振り返りをします。たとえば学生への説明の際にはもっと噛み砕いて話さないといけなかった、話すテンポや声のトーンにもっと工夫が必要だったなど、アンケート評価を通して自分のどういう点が学生に刺さり、どういうところが足りないのかが明確に分かってきます。それを持って次に活かすことができるのです。

社会に出るのが楽しみになるようなインターンシップを目指して

Ｑ.御社のように、キャリア教育にこれから取り組んでいこうと考えている企業に向けてアドバイスがあれば教えてください。

上田：企業によっては、従業員の高齢化と人材不足の課題を抱えるなど、今採用できないと数年後には事業が維持できず、経営が行き詰まる企業もあると思います。そのような企業にとって、インターンシップで採用を意識しないというのは難しい状況です。 

ただ、企業がインターンシップを導入して学生を受け入れる時には、企業には社会的責任が発生してくると考えています。企業の接し方次第では学生が間違った考え方のまま、社会に出る可能性がありますし、社会へのギャップなどから、社会に出ることに対してネガティブな思考になってしまうことも考えられるからです。

インターンシップの目的が採用寄りだったとしても、学生に「どんな社会人を目指したいのかわかった」「社会に出ることが楽しみになった」と思ってもらえることを意識し、自社のブランディングにも直結することと理解したうえで、取り組む姿勢が重要なのではと思っています。

おわりに

今回は、学生へのキャリア教育を軸としたインターンシップを行っている株式会社DAY TO LIFEの執行役員 経営管理本部 本部長/  経営企画室 室長/ 人事部 部長の上田 勝幸さんに話を伺いました。

社会全体で若手の人材不足が叫ばれている今、採用を第一としたインターンシップではなく、学生へのキャリア教育を軸としたインターンシップを実現することは簡単ではありません。これが実現できているのには、「離職率の改善」という経営課題と真摯に向き合い、企業内にMVV（ミッション・ビジョン・バリュー）を浸透させ、経営陣を中心に、それに基づいた経営を実践できているからだと思われます。

インターンシップによる採用は副次的効果だというものの、松岡さんや福嶋さんをはじめ、インターンシップを通じて入社前から自らのキャリアを主体的に考え行動できる人材が数多く入社してきており、取り組みが実を結んでいる証だと言えるでしょう。

同社のインターンシップの形をすぐに取り入れることは難しくても、「インターンシップの意義を捉えなおす」「インターンシップに参加する社員は人事評価に反映する」など、取り入れられる要素は多いと思います。今後のインターンシップについて、その在り方を再考してできるところからチャレンジしていくことで、学生と企業の双方にとってよりよいインターンシップにつながるのではないでしょうか。