20代の転職活動実施者は減少している?~離職につながりやすい職場の不満とは~
マイナビキャリアリサーチラボでは正社員の転職活動について毎月調査を行っている。今回は20代正社員の転職活動について注目し、「中途採用・転職活動の定点調査」と「正社員のワークライフ・インテグレーション調査」の結果から、20代の転職や仕事に関する意識についてまとめていく。
目次
20代の転職活動実施率
20代の転職活動実施率は減少傾向
転職活動実施率とは、「従業員数3名以上の企業に所属している全国の20~50代の正社員のうち、転職活動をした人の割合のこと」と定義している。「中途採用・転職活動の定点調査」では、毎月月初に前月転職活動を行ったかどうか聞いている。【図1】は、調査開始から現在までの年代別転職活動実施率の推移である。
転職活動実施率は2023年中旬頃まで20代の出現率が高い傾向にあったが、徐々に減少し、2024年以降は20代よりも30代の方が出現率が高い状況が続いている。全体的に転職活動実施率は減少傾向にあり、中でも20代の減少は顕著であることがわかる。
全体の推移や企業の動向などについてはこちらのコラムで解説している。
20代の「転職活動をしない理由」
20代の転職活動をしない理由は「やりたいことが見つからない」
20代の転職活動実施率の減少が顕著だったことについては複数の原因が考えられるが、「中途採用・転職活動の定点調査」で聞いている「前月転職活動をしなかった理由」をみていきたい。
20代の前月転職活動をしなかった理由でもっとも高かったのは「やりたいことが見つからない」だった。また他の年代と比較して高かった理由として「副業を始めたので転職する必要がなくなった」があり、20代の特徴が見受けられる。
ちなみに全体でもっとも多かった理由は「今の仕事内容に満足している」、次いで「今の休日や職場環境に満足している」となっている。【図2】
全体と比べて20代は、「今の仕事内容に満足している」「今の休日や職場環境に満足している」など職場の環境に満足しているために転職活動をしなかったという回答よりも、「やりたいことが見つからない」が高い傾向にあったが、職場環境への満足度合いはどのようになっているのか、つぎからみていきたい。
20代の職場環境への満足度合い
ここからは「正社員のワークライフ・インテグレーション調査」の結果から、20代正社員の職場環境への満足/不満足度合いを見ていく。以下の12項目について、そう思う・まあそう思う・どちらともいえない・あまりそう思わない・そう思わないの5つの選択肢で回答してもらっている。
職場環境の12項目
- 達成感がある
- 周囲からの承認機会がある
- 仕事そのものに満足している
- 与えられている責任の重さがちょうどよい
- 昇進できそうだ
- 成長実感がある
- 会社の方針に共感できる
- 上司との関係がよい
- 職場の人間関係がよい
- 休日や勤務時間などの労働条件に満足している
- 福利厚生に満足している
- 給与に満足している
結果は以下のようになった。【図3】
満足度が高かった項目
満足度が高かったのは、「上司との関係がよい」「職場の人間関係がよい」で、6割以上が「そう思う・まあそう思う」と回答している。20代は人間関係について満足度が高いことがうかがえる。
満足度が低かった項目
満足度が低かった、つまり「そう思わない(計)」が高かったのは、「給与に満足している」で、半数以上の20代が給与に満足していないと回答している。次いで高かったのは「昇進できそうだ」で、3人に1人以上が昇進できなそうだと回答している。
20代の満足度が低かった職場環境への対処
図3で聞いている職場環境に関する12項目のうち、「あまりそう思わない」「そう思わない」と回答した項目について、それぞれどのような対処をする予定か聞いた。対処は以下の内容となっている。
対処一覧
- 転職活動をして職場を変える
- 社内で異動希望を出す
- 人に問題解決に協力してくれないかと頼む
- 不満足な事柄に対する情報を集める
- 副業を始める
- 自己研鑽をして能力を高める
- より真剣に仕事に取り組む
- 先のことはあまり考えないようにする
- 愚痴を言って気分転換する
- 休暇をとる
- 趣味や家庭など仕事以外のことを充実させる
- 問題の原因を明確にする
- 自分を励まし、我慢する
- その他
- 特にない
結果は以下のようになった。【図4】
満足度が低かった「給与」「昇進」の項目について
給与に満足していない場合の対処
もっとも多いのは「副業を始める」
20代の職場環境の不満足度が高かった「給与への満足」について、「給与に満足していない」と回答した人がどのような対処を行う予定であるのかみてみると、もっとも多かったのは「副業を始める」、次いで「転職活動をして職場を変える」「特にない」となった。20代にとって副業は、給与を補填するための手段として優先度が高いようだ。
昇進できなそうである場合の対処
もっとも多いのは「特にない」
20代の職場環境の不満足度が2番目に高かった「昇進可能性」について、「昇進できなそうだ」と回答した人がどのような対処を行う予定であるのか見てみると、もっとも多かったのは「特にない」、次いで「転職活動をして職場を変える」「先のことはあまり考えないようにする」となった。昇進できなさそうだと感じていても、特に何も対処をしない、という人が多数派ではあったものの、転職をするという選択をとる人も一定数いるようだ。
20代の「転職につながりやすい不満」とは
つぎに、図4の結果を用いながら、20代正社員の「転職につながりやすい職場の不満」について考察していきたい。図4では、満足度が低いと回答した人のみを抜き出し、無回答を削除して割合を出していたが、今度は無回答も含む20代正社員全数(585人)で割合を出していく。
20代正社員の全数で割合を出すことで1%あたりの回答数が均一となり、より正確に「離職につながりやすい職場の不満」がわかると考えた。その結果が以下の図である。【図4-2】
「転職活動をして職場を変える」という回答がもっとも多かった不満は「給与に満足していない」だった。次いで「仕事そのものに満足していない」、「昇進できなそうだ」となった。
「給与に満足していない」に関しては、特に満足度が低かった項目であり、20代正社員の全数で見ても「転職活動をして職場を変える」が高かったため、転職につながりやすい不満であるといえるだろう。
また「仕事そのものへの満足度」について、【図3】では満足している人の方が多かったものの、「転職活動をして職場を変える」の割合は上位となった。この「仕事そのものに満足していない」という不満も転職につながりやすいといえるのではないだろうか。
また「昇進できなそうだ」「休日や勤務時間などの労働条件に満足していない」についても「転職活動をして職場を変える」という回答が比較的多かった。20代は特に【給与への不満】【仕事そのものへの不満】【昇進可能性への不満】【休日など労働条件への不満】が転職につながりやすいという結果となった。
今後転職したい20代の希望職種とは
「管理・事務」が圧倒的トップ
では、いま転職したいと考えている20代はどのような仕事を希望しているのだろうか。「中途採用・転職活動の定点調査」より、9月時点で今後3カ月以内に転職活動をしたいと思っている人が「今後応募したい職種」を年代別にみていく。
20代の「今後応募したい職種」トップは「管理・事務」となり、次いで「医療・福祉」となっている。【図5】
今後転職したい20代が応募したい企業とは
20代は「休日」「残業時間」と「給与」を重視。リモートワーク・在宅勤務が可能であることも重要
つぎに、企業の条件についてもみていく。「中途採用・転職活動の定点調査」より、9月時点で今後3カ月以内に転職活動をしたいと思っている人が「今後応募したい企業」を年代別にみていく。
20代の「今後応募したい企業」トップは「休日や残業時間が適正範囲内で生活にゆとりができる」「給与が良い」だった。ほかの年代と比べて、「リモートワーク・在宅勤務が可能」が高い傾向にあり、働く場所の柔軟性を求めている人も一定数いることがわかる。
また20代の中で希望者が多かった「管理・事務」職を希望している人についても、「今後応募したい企業」をみていく。トップは同様に「休日や残業時間が適正範囲内で生活にゆとりができる」であったが約7割と、20代全体に比べて15pt以上高かった。また20代全体で2位だった「給与が良い」よりも、「福利厚生が整っている」「リモートワーク・在宅勤務が可能」を重要視している傾向にあることがうかがえる。【図6】
企業ニーズとのギャップ
企業が今後もっとも力を入れて募集する職種
ここまで20代の個人が希望している仕事についてみてきたが、企業の中途採用担当者からみる状況はどうなのだろうか。
「中途採用・転職活動の定点調査」より、9月時点で今後3カ月間で中途採用を行う予定の中途採用担当者に聞いた「今後3カ月でもっとも力を入れて募集する職種ひとつ」をみていく。もっとも多かったのは「営業」で、次いで「ITエンジニア」、「管理・事務」となった。「営業」の回答は2位の「ITエンジニア」に比べて約15pt多く、ニーズの高さがうかがえる。
企業側は「営業」募集がもっとも多く、個人は「管理・事務」希望がもっとも多かったことから、それぞれのニーズにギャップが生じていることがわかる。
企業が今後もっともほしい人材
つぎに、今後3カ月で採用する想定の人材について、当てはまるものを聞いた。もっとも多かったのは「現場で即戦力となってくれる人材」、次いで「若手人材層(20‐30代)」となっており、この2つが突出して多い結果となっている。
若手の転職活動実施率が下がっている中、若手人材層は企業からのニーズが高いことがわかる。
まとめ
20代は、仕事を通じて、自己理解を深めていっている途中だと考えられる。「やりたいこと」を探していく中で、自身に不向きだと思った仕事を離れて新しい職種に挑戦したり、ステップアップに挑戦したりするのは当然のことだろう。
はたらく個人に対しては、決まった職種や業種で貫徹しようとしすぎずに、さまざまな職種や業種を知り、自分が生き生きと過ごせる環境を探していくことをお勧めしたい。同じ業種でも、会社によって事務職や営業職の仕事内容は異なる。情報収集の手段のひとつとして、副業を行ったり、積極的にサードプレイス(※1)を持ったりすることで、自身の「やりたいこと」が見つかるきっかけが増えるのではないだろうか。
企業は、社内の優秀な人材の「流出防止」、新たな「人材の獲得」の2つの観点があると考えられるが、流出防止については、社内副業や社内公募など、個人の希望が通りやすい人員配置制度を拡充させていくことが防止策としてあげられる。仕事そのものに満足度が下がったときに、別の職種や部署に異動できるようになっていれば社外への流出は防げると考えられる。
人材獲得については、配属先の業務を詳細に伝えることが重要だ。仕事の良い面だけでなくあえてマイナス面も伝えることで、入社後のギャップを起きにくくさせることができるだろう。
(※1)「サードプレイス(第三の場所)」とは、自宅や職場ではない、自分らしく過ごせる居心地のいい場所のこと。利害関係のない空間で、カフェや地域ボランティアコミュニティなどの人との繋がりが深められる場所を指す。