マイナビ キャリアリサーチLab

「働き方と暮らし」の50年を振り返る【第3回】

東郷 こずえ
著者
キャリアリサーチLab主任研究員
KOZUE TOGO

本コラムはマイナビ50周年記念企画による『「働き方と暮らし」の50年を振り返る』シリーズの第3回目となる。

前回のコラムでは「1986~1991年(安定成長期からバブル経済期)」の時代背景や当時の労働政策など振り返った。今回は「1992~1999年(バブル崩壊から20世紀末)」についてまとめていく。 

1992~1999年(バブル崩壊から20世紀末)

時代背景

この時期の大きな特徴はやはり「バブル崩壊」だろう。1980年代後半に日本は急速に経済成長し、金融政策も緩和的なものとなっていたが、地価や株価は経済の実態水準を超え、両者の間だけの関係のなかで空回り的な急騰を見せる。そのため、資産インフレーションと呼ばれる状態に陥り、それが後に「バブル」と言われる所以となる。

こうしたバブル経済を抑制するために、1989年末に日本銀行は金融引き締め政策へと転換した。これは、バブル経済による急激なインフレを抑制し、物価の安定を維持すること、また、円高を抑制するための経常収支の調整のために実施された政策だった。しかし、この政策によって、銀行の貸し出しが制約され、金利が上昇、企業の資金調達が困難になるなど、急激な景気の悪化や不良債権問題の悪化につながる一因になったと言われている。

結果的に、株価は1990年、地価は1991年から低下傾向に転じ、金融業、建設業、不動産業では不良債権が大量に発生したが、特に金融機能の低下が経済全体の低迷に大きな影響を与えることになった。企業は経営の合理化やリストラを余儀なくされ、雇用環境の悪化は個人消費を低迷させた。

また、1995年1月に阪神・淡路大震災、また同年には地下鉄サリン事件が起こり、先のバブル崩壊とあわせて、日本社会に混乱と困難が広がった。この時期、多くの困難や挑戦に直面することで、その後の日本社会は回復と再建に向けた努力を重ねることになる。大きな転換期であったとも言えるだろう。

就職活動生の企業人気ランキングの状況

マイナビが実施している就職企業人気ランキングの結果から、このころの人気企業を確認する。該当期間の結果で上位10社までをリストにした。文系学生では商社に加え、航空、鉄道、旅行会社などがランクインするようになる。また、理系学生では電気機器、通信に加えて、食品や日用品メーカーがランクインするようになった。全体的に業種のバリエーションがこれまでよりも増えた印象だ。

1992年~1999年 就職企業人気ランキング(マイナビ調べ)

主な労働政策

この時期の主な労働政策は以下のとおりである。
※いずれも記載内容は当時のものであり、現在は改正されている場合もある。

✓1994年、「雇用保険法」が改正された。急速な高齢化や女性の職場進出を背景に、従来の「失業した場合」に加え、特に高齢者や女性の雇用の継続を援助・促進することを目的に「雇用継続給付の創設」が行われた。「高齢者雇用継続給付」は60歳から65歳までの雇用継続を援助・促進することを目的に創設され、60歳以上65歳未満の被保険者が、原則として60歳時点に比べて賃金が 75%未満の賃金に低下した状態で働いている場合に、ハローワークへの支給申請により、各月に支払われた賃金の最大15%の給付金が支給される。また、「育児休業給付」は出産や子の看護、養育のために育児休業に入った労働者に対して、育児休業開始前の6ヶ月間の月平均賃金の25%相当を養育する子が1歳に達するまで支給される。

✓1994年、「高年齢者等雇用安定法」が改正された。当時、すでに8割の企業で「60歳定年制」が導入されていたが、高齢化が進むなか、65歳までの継続雇用がさらに促進される必要があると考えられていた。そのため、この改正では「60歳定年制の義務化と65歳までの継続雇用等による安定した雇用の促進」が定められた。また、高年齢者の雇用機会の拡大や、高齢者の健康や体力面での個人差に対応した多様な就業形態の確保を目的として「高齢者に係る労働者派遣事業の特例の創設」が定められた。港湾運送業務、建設業務、警備業務、物の製造業務以外の業務について労働者派遣事業を行うことができるネガティブリスト方式が採用された。

✓1996年、「労働者派遣法」が改正された。労働者派遣事業に対する新たなニーズが高まったことによる規制緩和もあるが、労働者の保護の観点からの問題点も指摘されるようになったこと等から制度が見直された。まず規制緩和においては適用対象業務が拡大され、11業務が新たに追加された。また、派遣労働者の保護においては、労働条件・就業条件の的確な明示、労働者派遣契約の中途解除に関する措置、派遣労働者の苦情処理体制の充実、教育訓練の充実、労働・社会保険の適用促進が定められた。

✓1998年、「雇用保険法」が改正された。技術の革新や産業構造の変化に伴い、労働者の主体的な職業能力の開発や向上が求められるようになってきたことを背景として、労働者の能力向上だけでなく、再就職に向けた支援策として、「教育訓練給付金制度」が創設された。この制度は労働者のスキルアップだけでなく、企業の生産性向上や競争力の強化についても寄与することが期待されていた。また、急速に進む高齢化によって高齢者の介護や看護が労働者の就業継続を困難にしていたが、職場を離れてしまうと収入が途切れてしまうため経済的な負担がより増すことが懸念されていた。このような負担を軽減し、さらに一旦職場を離れて介護、看護に集中できるようにするために「介護休業給付金制度」が創設された。

この時期はバブル崩壊によって雇用情勢が急速に悪化したと同時に、就業者数が製造業中心からサービス業を中心として第3次産業へと移動するなど産業構造にも変化が見られた。こうした変化をうけ、「雇用の創出と失業なき労働移動」「労働者が主体的に可能性を追求できる環境の整備」等が政策の方向性として挙げられていた。

暮らし方

バブル崩壊による経済低迷を背景に、景気拡大期のような夫の収入のみで家計を支える「大黒柱モデル」の家庭を維持することが難しくなり、ダブルインカムを求めて妻も働きに出る共働き家庭が増えていく。【図1】

【図1】専業主婦世帯と共働き世帯の世帯数/労働力調査(総務省)
【図1】専業主婦世帯と共働き世帯の世帯数/労働力調査(総務省)

女性の社会進出が進んだという言い方もできるが、当時はまだ「夫は仕事、妻は家庭」といったいわゆる伝統的性役割分業の価値観が今より色濃く残る時代でもあり、女性にとっては、家事と仕事の負担が大きかったと考えられる。今と比べると、「夫は仕事、妻は家庭」という価値観について「賛成」と「反対」がちょうど逆転するような状態だ。【図2】

【図2】「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである」という考え方に対する意識/男女平等に関する世論調査(平成4年11月)、男女共同参画社会に関する世論調査(令和4年11月)
【図2】「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである」という考え方に対する意識/男女平等に関する世論調査(平成4年11月)、男女共同参画社会に関する世論調査(令和4年11月)

ただ、こうした女性の社会進出は女性自身のキャリアや経済的な自立を求める意識を高めていくきっかけとなっていく。

さいごに

バブル崩壊後から20世紀の終わりにあたる1992年~1999年までを振り返った。バブル崩壊や阪神大震災など社会的にも経済的にも大きな出来事が起こり、日本社会が大きく揺さぶられた時期でもあったが、そのなかで懸命に日々の暮らしを守ろうとした人々がいたことがわかった。

次回は2000年~2012年という21世紀に入って、デジタル化が進んだ新しい時代の幕開け期を振り返っていきたい。

マイナビキャリアリサーチラボ 主任研究員 東郷こずえ

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