「読書量が多いと年収は高い」は本当か
~過去調査との2時点比較で見る傾向~
「読書量が多い人は年収が高い」とよくいわれる。
学術的な証明はされていないが「何となくそうかも?」というイメージはある。なぜならキャリアの観点で見ると、「情報のインプットを続ける」「自己研鑽を続ける」という意味からもあながち的外れな話とは思えないからだ。
そこで今回は、2009年に財団法人 出版文化産業振興財団(現在の「一般財団法人出版文化産業振興財団(JPIC)」より発表された『現代人の読書実態調査』と、2021年のマイナビ実施調査を元に「読書」という観点から12年前と現在の比較を行い、「読書量が多いと年収は高い」説をいろいろな角度から確認してみる。
目次
2009年調査では世帯年収が高いほど読書量は多い
『現代人の読書実態調査』では世帯年収が高いほど読書量は多い傾向があり、1か月に3冊以上(「3~4冊」「5~7冊」「8冊以上」の合算)の本を読むのは世帯年収1500万円以上がもっとも多く40.5%だった。対してもっとも少ないのは「300~500万未満」の人で22.6%という結果だった。
また「0冊」と回答した人の傾向にも特徴があり、「1500万以上」は9.5%、「300~500万未満」で28.2%となっており、かなりのひらきがあった。つまり2009年の調査からは世帯年収が高い人は読書量が多い傾向があることがうかがえる。【図1】
※【図1】補足・上段が回答数、下段が割合(%)表記
2021年マイナビ調査、やはり「読書量が多いと年収は高い」
では、次に2021年マイナビ調査を見てみよう。
結論からいえば、月平均3冊以上の本を読むのは年収1500万以上で30.8%と、数値は2009年調査よりやや下がったものの、全体傾向は変わらず、年収が高い人ほど読書をしているという結果であった。
ただし「0冊」の割合は2009年調査において全体で23.7%だったが、今回回答者全体の40.1%となっており、残念ながら本離れはこの10年でかなり進んでいるようだ。 【図2】
※【図2】 表内「1冊未満」は「1冊未満(年間数冊読む程度)」の略
※【図2】補足・上段が回答数、下段が割合(%)表記
仕事と読書、年代別結果から見えてくるもの
次にもう少し属性の2009年と2021年の変化を見てみよう。
2009年調査・年代別の傾向
まず2009年調査においては年代別読書量は以下のようになっている。
1か月の読書量がもっとも多いのは50代で月平均1冊は本を読む人が多いことが見て取れる。【図3-1】
※【図3-1】補足・上段が回答数、下段が割合(%)表記
2021年のマイナビ調査結果を上記表に近い形で集計したものが下記になる。残念ながら50代の読書量に2009年のような特徴はなく、全体平均と大きな差は見られない。 【図3-2】
性別・年代別の傾向と変化
マイナビ調査からもう少し詳しく見てみよう。読書の傾向に性別・年代別に特徴があるかを見ると、本を読まない(0冊)傾向は男性の場合は40代が高く、次いで50代が高い。女性の場合は20代が高く、次いで30代が高い。
男性の場合40代から50代は仕事において責任ある職責につく場合も多く、自分の時間が取れないことの影響が想像できる。また女性の場合、20代から30代はライフスタイルの変化・家庭と仕事の両立が始まる場合も多いことが影響している可能性はありそうだ。【図3-3】
読書量が月3冊以上は男女ともに60代が高く、これは比較的時間的な余裕があることもうかがえるが、次に読書量が多いのは30代男性となっている点は注目だ【図3-3 ①】。30代男性は読んでいる本のジャンルという別設問・回答に「ビジネス・経済」の選択が20代より増えており、仕事やキャリアに関わる自己研鑽のために読書量が徐々に増えていると推測できる。【図4】
電子書籍の台頭
もう一つ、この12年での書籍をめぐる環境の変化について言及しよう。
2009年と今回調査で大きな違いに電子書籍の台頭がある。
今回2021年の調査では、電子書籍の利用についてもアンケートを行った。
電子書籍の利用は予想どおり年齢層が若く20代から30代で高い傾向にあった。【図5】
また、この10年で読書量は減っているが、電子書籍利用者は読書量が全体平均よりは高めになる傾向があった。
具体的には、平均0冊(本を読まない)人を除いた平均で比べた場合、電子書籍利用者の月平均読書量は、電子書籍を利用をしない人と比べて、女性で2冊読む人・男性で1冊読む人がそれぞれ約5ptあがる。これも現在の生活スタイルの中でうまく読書時間をもつための工夫の1つなのかもしれない。【図6-1、6-2】
管理職と読書
最後に、キャリアと読書という観点で、いわゆる管理職の読書傾向を分析してみた。
すると管理職になると月1冊以上の読書をする割合が非管理職より約10pt前後高くなっていることがわかった。また部長クラスに限定すると月平均3冊以上を読む割合が非管理職の倍となっている。会社の職制上ステップアップすることで、キャリアに対する意識や自己研鑽への意欲や必要性など、さまざまな条件が重なるのだと思われる。本コラムのテーマである「読書量が多いと年収は高い」というお題を考えるとき、ステップアップ→自己研鑽→さらなるステップアップ、という良い循環サイクルの1つとして読書を位置付けることが可能だ、といえる。【図7】
読書が収入アップに直接作用するというものではなく、また当然収入に余裕があるから書籍購入などに費用がかけられる、ということもあるだろう。少なくとも読書の効能として「まとまった情報のインプット」や「新しい考え方を取り入れること」などがあり、仕事で忙しい中でも少しずつ自己研鑽をするツールとなりえる。電子書籍など隙間時間の活用に有用なツールも増えている現在、ぜひ自身のキャリアを磨くツールの1つとしてまずは月1冊からの読書を試してみてはいかがだろうか。
<調査概要>
キャリアリサーチLab副所長 赤松 淳子
※所属は執筆時点のものです。