選ばされる就労から、選ぶキャリアへ【後編】-“選び直し”を可能にする制度と支援

穂刈顕一
著者
キャリアリサーチLab編集部
KENICHI HOKARI

2025年10月より本格始動した就労選択支援制度は、障害のある人の働き方をどのように変えようとしているのか。雇用率は拡大・推進している。一方で、「本人が納得して選べているか」という問いは、いまなお十分に議論されているとは言えない。

前編では、「本人が納得して選べているのか」という問いを、データと現場の実態から提示した。では、その問いにどう向き合えばよいのか。本稿後編では、制度や支援の視点から就労選択を捉え直し、「選ばされる就労」から「選び直せるキャリア」へと転換するための視座を探っていく。

本連載では、制度・研究・当事者視点から、障害者の就労選択とキャリア形成の現在地を読み解いて整理しながら、明日の雇用やキャリアを考える一つの気づきになることを期待したい。

厚生労働省 障害者就労選択支援制度について
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_56733.html

障害者雇用で選択できる働き方とは?

障害者の働き方は、「一般就労」一択ではない。障害者雇用での選択肢には、多様な選択肢が存在している。障害者雇用ではどのような働き方の形態があるのかを解説する。

一般就労とは

一般就労とは、民 間企業や公的機関と雇用契約を結び、障害の有無に関わらず、通常の労働者と同様に働く形態である。法定雇用率の算定対象となり、労働関係法規や評価も一般社員同様に適用される。

メリットは賃金水準やキャリア形成の可能性が広がる一方で、業務内容や職場環境が本人の特性と合わない場合、早期離職のリスクも高いともいわれている。

特例子会社とは

特例子会社とは、障害者雇用を主な目的として設立された子会社のことで、一定の要件を満たす場合、そこで雇用されている障害者は親会社の障害者雇用率算定に算入される仕組みである。

障害特性に配慮しやすいよう、親会社やグループ各社から業務を切り出し、働きやすい形に再設計した業務を集約している点が特徴である。

そのため、業務集約型・育成型の雇用が多く、専門スタッフの配置や支援体制を整えやすいというメリットがある。業務指導をするジョブコーチをはじめ、関連する専門職も常駐することも多い。

一方で、特例子会社という枠組みの中で働くことで、就業の場や業務内容が固定化しやすく、他部署や一般職へのキャリア展開が見えにくいといった課題も指摘されている。

当事者同士が一般就労している同期や障害がない社員と、飲み会等のコミュニケーションをした際には、キャリアへの大幅なギャップを感じやすく一般就労に比較して給与が低かったり、や評価制度が別になっていたりすることもある。

また、障害者を一か所に集約することで、多様性の組織づくりには遠くなりがちであるため、接点が少ない社員からは、障害者がどのように、どこで働いているのかを具体的に自分事にできないという状態になりやすい点も課題としていわれている。

さらに当事者自身も選択肢が少ないため、障害者同士の世界でしかキャリア経験を積みにくいことも課題として残されている。

一般就労×業務集約部門での働き方

一般就労×業務集約部門での働き方とは、雇用形態は特例子会社のようにグループ会社での所属ではなく「一般就労」である。しかし、一般部門内の組織内で障害者だけを集約した部門という位置づけで働く選択肢になる。

この集約型では、企業内のさまざまな部署に分散している業務の一部を切り出し、障害のある社員がまとめて担当する部門(チーム)で働く形である。

この部門では、障害特性に配慮しやすいように、次のようなことが設計されており具体的な部門としては、総務・人事・事務補助・軽作業・データ処理等が代表例である。

主に配慮される内容

  • 手順が明確で継続的に発生する業務
  • マニュアル化しやすい業務
  • 複数部署から集約した定型業務

メリットの特徴

  • 業務内容や役割が明確で、安心して働きやすいこと
  • 専門職や支援担当者を配置しやすいこと
  • サポート体制を整えやすいこと
  • 個々の障害特性に応じた業務設計がしやすいこと

一方で、一般雇用でありながら、将来のキャリアパスや役割の広がり、評価などに対する納得感が得にくいという課題がビジネス現場では指摘されている。

こうした課題を踏まえ、近年は、一定期間は業務集約部門で経験を積み、その後は一般部門へ配属するといった、将来のキャリア展開を前提とした雇用設計を行う企業も増えてきている。

業務集約を「ゴール」ではなく「入り口」と捉え、段階的に活躍の場を広げていくことが意識されるようになっている働き方である。

就労系障害福祉サービスでの就労(A型・B型)

就労系障害福祉サービスでの就労(A型・B型)とは、主に「一般就労が現時点では難しい人」を対象に、働く経験を積む場や、就労に向けた訓練の機会を提供する役割を担っている。

A型は雇用契約を結んで働く形、B型は雇用契約を結ばず比較的柔軟なペースで働く形といった違いはあるが、いずれも生活リズムを整えたり、働く力を段階的に身につけたりすることを重視した就労支援である。

一方で、利用が始まると環境や役割が固定化しやすく、次のステップである一般就労や転職への移行が進みにくい構造がある点は大きな課題とされている。

そのため近年は、A型・B型の利用をゴールとするのではなく、職業訓練や就職活動支援、職場定着支援を通じて、A型・B型から次の段階へ進むための「橋渡し」の役割を担っている就労移行支援といった福祉サービスを組み合わせながら、一般就労への移行を見据えた支援をどう設計するかが重要視されている。

障害者×農福連携での働き方とは

障害者×農福連携での働き方とは、農業分野と福祉分野が連携し、障害のある人が農業の現場で働くことを通じて、就労機会や社会参加を広げていく取り組みである。

農林水産省も、障害者の就労拡大と、農業分野の担い手不足解消の両立を目的として、この取り組みを推進している。

農林水産省 農福連携の推進
https://www.maff.go.jp/j/nousin/kouryu/noufuku/index.html

農福連携における障害者の働き方は一つではなく、次のような働き方が主な内容となる。

働き方の例:

  • 農業法人や農家に雇用されて働く(直接雇用)
  • 就労継続支援A型・B型などの福祉事業所に所属し、農作業に従事する
  • 企業が農業に取り組み、障害者雇用の一環として農業部門を設ける

いずれの場合も、農作業の中から種まき、管理、収穫、洗浄、選別、袋詰め、出荷準備などの工程を切り出し、一人ひとりの特性や体力、ペースに合わせて役割を設計する点が特徴である。そのため、一般就労への準備段階や、「働く経験を積む場」として位置づけられることも多い働き方である。

一方で、農福連携での課題としては、次のようなことが起こりやすい。
課題点:

  • 作業内容が限定されやすく、職域が広がりにくい
  • 季節や天候による影響を受けやすく、通年雇用ができない場合(嘱託雇用など)や正社員雇用が難しい場合が多い
  • 福祉的就労の場合、労働基準法で最低賃金での契約になりやすく、それ以上の給与水準になりにくい。
  • 企業での一部門となる場合は、雇用率に算入されるが本業務とは別になることが多く、他部門との連携や単独作業が多いため孤立しやすい
  • 障害者雇用の数合わせのためのビジネスになりやすい

そのため近年は、農作業に加工・販売・流通などを組み合わせる(6次産業化)、あるいは、一定期間を設けた一般就労や他職種への移行を視野に入れた支援設計を行う傾向もあるとビジネス現場ではいわれている。

就労選択をするための制度と支援者とのかかわり

就労選択支援とは?

就労選択支援とは、2025年から本格実施された就労選択支援事業は、先述の働き方を前提に、「本人がどの働き方を選ぶのか」を考えるためのアセスメントと対話の仕組みである。

ここで、重要なのは、次のようなことになる。

  • 就労の可否を決める制度ではないこと
  • 利用先を振り分ける制度でもないこと
  • 選択肢を可視化し、本人の自己理解を深めること

このプロセスが、結果としてミスマッチや固定化を防ぐ役割を果たすと期待されている。そのため、先述した「どの働き方がよい、悪い」ということではなく「自身で納得し、就労選択する」ということが最も大事にすべきことである。誰かに選ばされ、そのまま「ただ雇用されている状態」ということが課題なのである。

しかし、このキャリア形成で「当たり前」とされる選択が障害者自身でこれまでの精度 や支援では「専門職によって決められたキャリア」「振り分けられた就労」とされていることが多くあったと著者の当事者の経験上からもいえる。

就労選択支援制度
厚生労働省|就労選択支援について
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_56733.html

就労選択を支援する専門職とのかかわり

障害者が就労選択をする上では、一人でするのではなく、多様な専門職が関わっていることも忘れてはならない。ここからは、その専門職の役割について解説する。

(1)障害者職業相談員
ハローワークや地域障害者職業センターに配置され、職業相談・職業紹介を担う公的専門職である。労働市場と障害者をつなぐ重要な役割を果たす。

(2)キャリアコンサルタント
「本人がどう働きたいか」「どんな生き方・キャリアを望んでいるか」を中心に支援する。特に障害者の就労選択では、自己理解・納得感のある選択を後押しする役割で関わることが多い専門職である。

(3)障害者職業カウンセラー
「働く力」「仕事との適合性」を専門的に評価・調整する役割である。作業評価・職業アセスメントを通じて、できること/配慮が必要なことを整理し、企業・ハローワーク・支援機関との調整、職場実習や雇用場面での職務設計・合理的配慮の助言等の選択支援に関わることが多い専門職である。

(4)両立支援コーディネーター
治療と仕事の連携支援を担う専門職であり、精神障害や難病、がん等を抱えながら働く人の就労継続を支援する。「雇用後」の支援を考える上で、今後さらに重要性が高まる専門職である。

(5)障害者就労支援士(構想)
雇用と福祉の両分野を横断し、就労支援の基礎知識と実践知を備えた専門人材を可視化しようとする動きである。制度・支援を「属人化」させないための基盤として期待されており、厚生労働省が、キャリアコンサルタント同様の位置づけで、今後、「民間資格」として設置される動きである。

ここで注意したい共通点としては、先述のような多様な専門職や障害者施策に関わる人事担当者は関与の度合いが深い分、知らず知らずのうちに「慣れ」が生じ、配慮が十分に行き届かない言動や行動につながってしまう可能性があることにも組織のガバナンスとして注意が必要である。

こうした前提を共有したうえでこそ、「障害者の雇用」や「就労選択」「支援に関する研究」をめぐる議論には、より一層の丁寧さと当事者視点が求められるだろう。

障害者就労選択の課題

就労選択をするための制度の課題

現在の障害者雇用制度は、一般就労、特例子会社、業務集約部門、就労移行支援、就労継続支援A型・B型、農福連携など、多様な働き方を用意している。制度上の「選択肢」は、確かに増えてきた。しかし問題は、一度選んだ(あるいは選ばされた)働き方から、次へ移行しにくい構造が依然として強い点にある。

A型・B型や特例子会社、業務集約部門は、働きやすさを確保しやすい反面、役割や環境が固定化しやすく「そこでの終身型でのキャリアを前提に」で制度設計がなされてきた側面が否めない。

また一般就労では、組織内で自律的に行動し、キャリアを開発するというよりも次のようなことが暗黙の了解とされていることも多い。

  • 出社してくれればよい
  • 何をどうすればよいかわからないため、新入社員と同様の基本的な単純作業を何十年も担当している
  • 障害者当事者もキャリアの選択肢や教育を障害のない同期のように受けられていない(機会損失)

就労選択支援は、「最初に立ち止まって考える」ための制度として設けられたが、制度
全体としてはまだ、選び直すことや一時的に立ち止まること、別の働き方へ移行することを前提とした柔軟な構造にはなっていない。選択肢の多さ=選択の自由とはならない点が、制度面の大きな課題である。

専門職が当事者のキャリア選択を支援するための課題

現在の就労支援は、「職場定着支援」「就労選択支援」「職業リハビリテーション」、さらには「医療」「キャリア教育」といったように高度に分業化されている。これは専門性の深化という意味では前進である一方で、支援を受ける本人のキャリア全体を横断的に捉える視点が失われやすいという課題も生んでいる。

実際には、今はどの段階にいるのかの選択は「通過点」なのか定着なのか、次の選択肢は何があり得るのかといった問いを、断片的な支援の中で十分に扱うことは難しい。

各キャリアのフェーズにあわせた「つながりのある専門職での連携支援」が今後の就労選択支援では課題となっている。

当事者の課題

当事者側の課題として、しばしば「自己理解不足」や「主体性の欠如」が挙げられる。しかしそれは、個人の資質の問題というより、選択経験にアクセスできなかった構造にも課題があるといわれている。

これまでの制度では、次のような課題があるといわれている。

  • 進路を「提案される」
  • 支援先を「紹介される」
  • 現実的な 選択肢を「消去法で選ぶ」
  • 業務を制限、同意を得られず職場で担当を振り分けられる。
  • 職場で当事者がやりたいことや成長する意向を確認されないまま「単純作業」や「ルーチンワーク」だけを担当する。

失敗経験そのものが少なく、「試してみて、合わなければ変える」という当たり前のキャリア経験を積みにくい環境に置かれてきた人も多い。

その結果、当事者は「続けられそうな選択」に過度に寄ってしまい、可能性よりも安全性を優先せざるを得なくなる。また就労後に、業務内容や職場環境が合わなくても我慢することが正解であると障害者当事者と職場での暗黙の了解でキャリアについて考える人も少なからず多い。

逆に失敗経験が少ないため、社会的な協調性が実感できず、人間関係での難しさやキャリアへの不安感も高く、今後のキャリアを描きにくいことも多い。十分なキャリア教育や自律的に学びなおしをしていく機会も当事者としては今後は選択するための必要なことの一つになるだろう。

就労選択支援の本質的な意義は、能力評価ではなく、本人が「知らなかった選択肢」に出会い、自分の言葉で考える時間を確保する点にある。職場の上長にも理解してほしいものの、なかなか言い出しくい環境も多くそのまま「我慢」するか急な体調不良・離職意向などへもつながっていることが多い。

就労選択支援はゴールではなく「入口」である

重要なのは、就労選択が決して終着点ではないということである。これは、障害の有無に関わらず共通なことでもあるだろう。

就労選択支援制度では、「正 解を決める」ためのものではなく、選び直せる前提を社会に埋め込むための入口に過ぎない。

しかしながら、障害キャリアを考える前の「自身の障害と向き合い、何ができるのか・何ができないのか」といったキャリアの棚卸しに相当な時間がかかり、キャリアの選択まで、向き合う余白がなかったといえる。

これからの障害者雇用で問われるのは、「どこで働くか」「どんな企業で働くか」ではなく、「どのように働き、どのように生きたいか」という問いである。制度、支援、そして当事者が、この問いを共有し続けること。それこそが、「制度の時代」から「選択の時代」へ移行するための真の変革になるだろう。

この連載企画では、「どのように就労や業務を選択」し、「障害者自身がどのような支援や制度があればキャリア形成に役立つのか」、そしてキャリアに向き合ったときに“就労選択のキャリア”をどう設計すべきかを、研究と教育等の多角的な視点から考えていく。

次回は、職業リハビリテーションの視点からこの問いに向き合ってみたい。


【参考文献】
厚生労働省 障害者就労選択支援制度について
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_56733.html
厚生労働省 今後の障害者雇用促進制度の在り方に関する研究会の報告書
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_70028.html

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