2025年10月より本 格始動した就労選択支援制度は、障害のある人の働き方をどのように変えようとしているのか。雇用率は拡大・推進している。一方で、「本人が納得して選べているか」という問いは、いまなお十分に議論されているとは言えない。
本連載では、制度・研究・当事者視点から、障害者の就労選択とキャリア形成の現在地を読み解いて整理しながら、明日の雇用やキャリアを考える一つの気づきになることを期待したい。
厚生労働省 障害者就労選択支援制度について
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_56733.html
障害者雇用とは何か―制度拡大の時代から「選択の時代」へ
障害者雇用とは、単なる雇用創出ではなく、本人の生き方やキャリア選択を支える仕組みである。日本では「障害者雇用促進法」を軸に、法定雇用率制度、障害者雇用納付金制度、助成金制度などが整備され、公的機関・民間企業の双方によって障害者雇用が進められてきた。
近年の大きな特徴は、障害者雇用をめぐる制度拡大が一段と進んでいる点にある。厚生労働省の通知によれば、民間企業における法定雇用率は、2024年4月に2.5%、2026年7月には2.7%へと段階的に引き上げられており、一定規模以上の企業に対しては、障害者の雇用が法的義務として課されている。
これは「雇用の機会を広げる」ことを明確に意図した政策であり、より多くの企業が避けて通れない社会的責務へと移行している。
一方で、雇用率引き上げは量的拡大を促す半面、次のような実務上の課題も顕在化しているといわれている。
- 採用したが定着しない
- 業務が用意できない
- 現場負担が増大する
- 社会的責任としては理解しているが、何から始めてよいかわからない
ここから、障害者雇用は「何名採用したか」から「どう雇い「どう働き続けてもらうか」を問う次のステージに入ったといえるだろう。
そもそも障害者雇用率とは?
障害者雇用率とは、常用雇用労働者(※)に占める障害者の雇用割合を指す。障害者雇用促進法に基づき、一定規模以上の事業主には、法定雇用率以上の障害者を雇用する義務が課されている。2026年7月以降、民間企業では次の基準が適用される。
法定雇用率:2.7%
対象事業主:常用雇用労働者37.5人以上
この「雇用率」は、単なる数値目標ではなく、 採用・配置・配慮・定着までを含めた「雇用管理全体の質」を問う制度指標として定義されている。
独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構 はじめての障害者雇用~事業主のためのQ&A~
https://www.jeed.go.jp/disability/data/handbook/q2k4vk000003mbma.html
※「常用雇用労働者」とは、厚生労働省の定義では 、「常用(雇用)労働者」を次のいずれかに該当する労働者と定義している。
- 正社員(期間の定めなく雇われている労働者)
- 1か月を超える期間を定めて雇われている労働者(パート・アルバイト・契約社員でも含む)
- 短期雇用でも一定日数以上働いている者(直近2か月以内に、それぞれ18日以上雇用契約されている)
データトリブン視点からみる障害者雇用の現状
日本の障害者の人口割合
内閣府の令和7年版障害者白書によれば、日本の障害者数(推計)では次の通り報告されている。
総数:約1,160万人
・身体障害者 約436万人
・知的障害者 約109万人
・精神障害者 約615万人
※日本の総人口に対して、障害者の総数は約9%というイメージになる。
ただし、この数字の前提としては「障害者手帳を各都道府県より発行され、保持している人」という前提になる。
そのため、あえて「障害者手帳を申請していない」または「持ちたくない人」については数字に含まれていないことは前提として注意が必要である。さらに、入社後に障害者手帳を企業へ提出することは義務ではないため、提出を求めるかどうかや、その取り扱い方については、企業側にも慎重な姿勢が求められる。
その一方で、障害者手帳を提出することによって、 当事者にとっては 合理的配慮を受けやすくなったり、周囲からの支援につながりやすくなったりする側面があることも忘れてはならない。障害者手帳は、社会保障や各種支援を受けるうえで当事者にとって一定の利点がある一方、取得が義務づけられているものではない。
制度上は「障害者」として位置づけられることを意味するが、その事実をどのように受け止め、どのタイミングで向き合うかは人それぞれである。多くの場合、自身の状況と向き合い、自己理解や自己受容を進めていくためには、無理のないかたちで時間をかけることが必要となる。
そのため、障害そのものを受け入れるのは当事者にとって向き合う時間が必要になるとともに、障害者手帳を取得することは、当事者に加えてや家族にとって心理的なハードルが高い場面があることを、まず改めて心に留めておきたい。
内閣府 令和7年版 障害者白書
https://www8.cao.go.jp/shougai/whitepaper/r07hakusho/zenbun/index-pdf.html
公的データから見る障害者雇用の現状
厚生労働省の令和7年障害者雇用状況の集計結果によれば、民間企業で雇用されている障害者数は約64万人と、過去最高を更新し続けている。
ここで、先述した日本の障害者の人口に対して「就業者の割合」を整理すると、次のように整理できる。
- 障害者総数(推計) 約1,160万人(100%)
- 民間企業雇用 約64万人(約5〜6%)
- 公的部門等含む雇用 約70万人(約6%前後)
- 未就業(※2)・非雇用層 約1,090万人(約88%)
一方で、法定雇用率を達成している企業数の割合は約5割にとどまると報告されている。特に中小企業においては、次のような理由から、雇用率達成が困難になっている実態が浮かび上がっている。
※2「未就業」には次の条件を考慮している。
- 65歳以上の高齢と年少(学生や幼児等)
- 医療・福祉サービスを中心に生活している
- 就労意向はあるがマッチしていない層
中小企業での障害者雇用課題
中小企業での雇用課題は次の通りである。
- 人事・現場に専門知識がない
- 業務切り出しが難しい
- 定着支援の仕組みが弱い
- 優秀層は、大手企業での取り合いによる採用市場化
これらのデータを見ると、障害者全体の人口に対して、就業している人の割合は、社会参加という視点ではまだ十分とは言えない状況にある。また、その限られた割合の中で、企業同士が人材獲得をめぐって競争している構図も見えてくる。
こうした現状は、雇用する側にとって、人数の確保だけでなく、「働き続けることを支える体制」や「本人が選択できる仕組み」が不十分なまま、制度が拡張してきたという課題を示しているとも言える。
海外との障害者雇用の比較と日本の特徴
障害者雇用制度は世界各国で異なる発展を遂げている。独立行政法人 労働政策研究・研修機構(2023)での調査によれば、OECD諸国を比較すると、日本は「雇用義務(クオータ)制度」を中心とする国に分類されている。
たとえば、フランスでは法定雇用率6%、ドイツでは法定雇用率5%、韓国では法定雇用率約3.1%と、日本(2.7%)より高い数値を設定している国も多い。一方、アメリカやイギリス、北欧諸国では、 雇用率義務を設けず、差別禁止と合理的配慮を軸にした制度が採られている。
ただ、各国での社会保障制度や文化の違い等、多角的に考える必要性があり 、「雇用率が高い」=障害者が活躍しているという単純な比較はできないことに注意も必要である。
特に重要なのは、数値の高低ではないことに注意したい。日本の特徴は、「比較的重度障害の層まで一般就労の対象としてきたこと 」「公的職業リハビリテーションやジョブコーチ制度を組み合わせてきたこと」にあると報告されている。
独立行政法人 労働政策研究・研修機構
障害者雇用政策の対象となる障害者層の比較 ― 日本・フランス・ドイツ」
https://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2023/11/pdf/061-073.pdf
障害者雇用の学術的な研究動向
学術的には、2000年代以降、障害者を「支援を受ける対象(医学モデル)」から 「主体的に意思決定を行う存在(社会モデル)」として捉える視点が強まっている。
WHOの国際生活機能分類(ICF)や障害者権利条約では、 参加や自己決定を重視する考え方を国際的に示している。
これにより、「障害者への合理的配慮」や「差別禁止」といった概念が世界全体の社会へ広がり、 多様性の価値が認識され、経営課題の視点になることも増えてきたといわれている。
キャリア心理学の分野では、自己理解・自己効力感・自己決定がキャリア形成において、重要であることがさまざまな研究内容から明らかにされている。障害のある人は、役割モデルの不足や「選択経験の乏しさ」から、将来像を描きにくい状況に置かれやすい。そのため、アセスメントや対話を通じたキャリア支援が重要となると示唆されている。
採用・転職市場から見る、障害者雇用における「就労選択」のいま
近年の障害者雇用は、新卒採用を入口とした就労だけでなく 、働きながら環境や役割を選び直す動き(転職・配置転換・雇用形態の見直し)が同時に進んでいる点に大きな特徴がある。
人材の流動性は、障害の有無に関わらず採用市場においては同様の動きが見受けられるが、障害者の就労選択では、「中途での障害」や「障害内容の進行」といった障害者の就労選択を考える場面では、しばしば特徴的な視点が必要となる。
ここからは、障害種別と年齢層を軸に 就労選択の場面の特徴を解説する。
(1)身体障害者の就労選択
厚生労働省の令和5年度「障害者雇用実態調査」によると、身体障害者は50歳以上が全体の6割超を占めており 他の障害種別と比べ高齢化が顕著であることが示されている。
これは、加齢や疾病の進行、事故などにより 就労途中で障害を負う「中途障害」のケースや「障害内容が重複、進行する」という想定外での要因が多いこととも関係している。
そのため、次のようなタイミングで、業務内容やキャリアを考え直す局面に直面する人が多い傾向である。「40~50代で障害が顕在化」「進行すること」「これまでの職務継続が難しくなる」「働き方や職務内容を見直す必要が生じる」
結果として、「転職」をキャリア選択する動向が採用市場では高まっている。また、身体障害者においては「採用後に障害者となった従業員への配慮」「職務再設計」の必要性が重要な論点として指摘されている。
厚生労働省 令和5年障害者雇用実態調査
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_39062.html
(2)精神障害・発達障害者での就労選択
精神障害者・発達障害者では、20~30代の若年層が雇用の中心である点が特徴的である。先述の厚生労働省の調査によれば、発達障害者・知的障害者は19~35歳未満が6割以上を占めていることが示されている。
この年齢層では、「学校卒業後、一般就労で就職する」「数年働いたのち、体調悪化や職場不適応を経験する」「このまま同じ働き方で良いのかを見直す 」といった流れが多くみられる。
厚生労働省の発達障害および精神障害の就労定着・雇用維持に関する研究によれば、若年層での離職や転職が比較的多く、その背景には次のような要因があると報告されている。
離職の要因:
その結果として、「障害者雇用枠への転職」「就労移行支援や就労定着支援の利用」「職務内容・勤務時間を調整した再就職 」といった「選び直し」が20~30代で起こりやすい構造が形成されている。
厚生労働省 就労定着支援の質の向上に向けたマニュアルの開発のための研究
https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/report_pdf/202417040B-buntan4_0.pdf
当事者調査からみる就労選択とキャリア形成の実態
当事者研究の調査概要
ここからは、著者の実施した2種類の当事者研究内容の一部から 就労選択における手掛かりになる仮説を考察したい。
<調査概要1>
目的
就労している障害者当事者とその職場でのキャリアについての課題は何か
調査期間:2023年1月~3月
調査方法:WEBアンケート+インタビュー調査
対象者
・IT業界
・障害者手帳を企業へ提出し、就労している正社員および契約社員
回答数:300名/425名(回答率71%)
<調査概要2>
目的
障害者当事者の新卒における企業選択は何を重視しているか
調査期間:2023年4月~6月
調査方法:WEBアンケート調査とインタビュー調査
対象条件
・首都圏で大学に在籍する2024卒または2025卒採用対象
・身体、発達、精神障害者当事者
回答数:51名/82名(回答率62%)
当事者の応募方法や企業選択の変化
著者の当事者研究結果からは、就職や転職の際に、「利用する媒体」への回答として一般の求職者が利用できる「ハローワークの求人情報」「人材紹介サービス」「一般的な求人サイトや動画サイトでみつけた企業へ直接応募する」など、障害者採用に特化した内容での応募というよりも一般採用の就労を選択している人が約62%ということが明らかになった。
そして、就職活動では一般雇用と障害者枠の両方を併用する学生も一定数存在し、「障害者枠だからここ」「一般枠だから難しい」といった単純な区分ではなく、「自分に合った環境・仕事内容・支援体制を見極める」といった志向の傾向も示唆されたことが明らかになっている。
就職や転職での企業選びにあたっては、「社員同士の人間関係」「福利厚生」「働き方の柔軟性」といった点が重視される傾向が見られた。単に配慮があるかどうかだけでなく、「実際にどのような形で働けるのか」という具体像が、就労先を選ぶ際の重要な判断材料になりつつあることがうかがえる。
まだ一般化できる段階ではないものの、こうした傾向は次の研究課題を検討するうえでの仮説として、一定の示唆を与えるものと言えるだろう。
就労中のキャリア選択
就労後の実態を見ると、次のような課題も考察できる。障害や配慮内容の引き継ぎが 実際、前任者からの引き継ぎがない、あるいは前任者が存在しないケースは全体の6割を占めており、結果として「サポートが不足している」と感じる当事者が一定数存在する状況が生まれている。
さらに当事者とその職場の上司へインタビュー調査をした結果では次のような声が多く挙がっている。
職場で起こっている課題の要因:
- 業務自体は本業務・顧客接点を担っている人が多い
- 情報保障や業務量調整が不十分
- キャリアの相談先が見えにくい
- 上司として、障害者と共に働くときに「どの部門に誰に相談をすればよいか」がわからないまま、自身の職場でできる範囲で収めようとする
これは「働けてはいるが、将来像が描きにくい」「環境が変わったときに相談・調整しづらい」という状態が、転職や配置転換への不安につながっていることを示唆していると考察できる。
採用から『選び直し』へ
法定雇用率の引き上げは、ゴールではない。障害者の就労選択では、組織・支援者・行政・当事者に共通して問われているのは、次のような視点ではないだろうか。
就労選択の課題:
- どの働き方を選ぶのか
- 誰がその選択を支えるのか
- 選び直せる仕組みがあるか
これらのことが、公的データや研究、国際比較等からも障害者雇用は、制度の時代から「選択の時代」へと移行していることが整理されてきたといえるだろう。
そして単に雇用の数を増やすだけでなく、入社後も含めて「どの選択肢を、いつ、どのように選び直せるのか」という視点を持てるかどうかが、今後の就労選択で重要になることを期待したい。
【参考文献】
厚生労働省 障害者就労選択支援制度について
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_56733.html
独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構 はじめての障害者雇用~事業主のためのQ&A~
https://www.jeed.go.jp/disability/data/handbook/q2k4vk000003mbma.html
内閣府 令和7年版 障害者白書
https://www8.cao.go.jp/shougai/whitepaper/r07hakusho/zenbun/index-pdf.html
厚生労働省 令和5年障害者雇用実態調査
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_39062.html
厚生労働省 令和7年 障害者雇用状況の集計結果
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_67490.html
厚生労働省 就労定着支援の質の向上に向けたマニュアルの開発のための研究
https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/report_pdf/202417040B-buntan4_0.pdf
厚生労働省 今後の障害者雇用促進制度の在り方に関する研究会の報告書
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_70028.html
独立行政法人 労働政策研究・研修機構,(2023),
障害者雇用政策の対象となる障害者層の比較 ― 日本・フランス・ドイツ」
https://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2023/11/pdf/061-073.pdf