クォーターライフクライシスとの付き合い方ー30代前後に陥る危機の実態【第1章】

嘉嶋麻友美
著者
キャリアリサーチLab研究員
MAYUMI KASHIMA

はじめに

近年、社会は目まぐるしく変化している。かつて「当たり前」とされていた価値観や生き方は、必ずしも通用しなくなり、個々の選択や多様な価値観を尊重する風潮は、今後さらに広がっていくと考えられる。

こうした社会の変化は、個人の意思決定にも大きな影響を及ぼしている。人を取り巻く環境は、正解のない選択肢が無数に交差する状況となり、とりわけ将来への可能性を多く抱える若者ほど、数多くの選択肢の中で「自分にとっての最適解」を模索せざるを得ない。そうした過程で生じる「クォーターライフクライシス」は、誰もが経験し得るものだ。

マイナビの調査では、30代前後の若者の2人に1人が、クォーターライフクライシス状態にあることがわかっている。本コラムでは、若者が、なぜ人生やキャリアに対して漠然とした悩みを抱き、クォーターライフクライシスに陥るのか。その背景や葛藤の実態を明らかにする。 

クォーターライフクライシスとは

クォーターライフクライシスとは、人生の4分の1が過ぎた20代後半から30代前半に、漠然と人生に対して不安や焦燥感、憂鬱感などの「葛藤」を感じている状態のことを指す。

この概念は、2001年に発行された『Quarterlife Crisis: The Unique Challenges of Life in Your Twenties』(Alexandra Robbins・Abby Wilner著)の中で、初めて提示された。その中では、学校から社会へと移行し、キャリアや生き方の選択を迫られる転換期において、無力感や決断できないことへの不安、将来への警戒心などが生じ、それらが複合的に重なった状態として説明されている。 

もともとは海外で提唱された概念ではあるものの、日本においても同様の葛藤は十分に起こりうる。とりわけ近年は、技術の進歩や情報環境の変化により、社会の変化がかつてないスピードで起こっている。そうした環境の変化が、クォーターライフクライシスの表れ方や悩みの質に変化をもたらしている可能性がある。 

クォーターライフクライシス(QLC)の実態

クォーターライフクライシスの割合

正社員で働く25~34歳のうち、人生に対して不安や焦燥感、憂鬱感など、「葛藤」を感じている割合は、49.5%(強く感じている13.6%+やや感じている35.9%)となり、約2人に1人がクォーターライフクライシスの状態だった。【図1】

【図1】クォーターライフクライシスの割合/マイナビ「正社員のクォーターライフクライシス調査」
【図1】クォーターライフクライシスの割合/マイナビ「正社員のクォーターライフクライシス調査」

クォーターライフクライシスの内容

クォーターライフクライシスである人の葛藤内容をみると、「十分に稼げていない」が52.7%ともっとも高かった。若者は収入に悩み、葛藤状況にあることが浮き彫りとなった。【図2】

【図2】クォーターライフクライシスの内容/マイナビ「正社員のクォーターライフクライシス調査」
【図2】クォーターライフクライシスの内容/マイナビ「正社員のクォーターライフクライシス調査」

さらにクォーターライフクライシス世代を20代後半と30代前半に分け、分析を行った。その結果、「十分に稼げていない」は共通で高い一方で「今後のキャリアのために次に何をするべきかわからない」については、20代後半が30代前半よりも12.0pt高かった。次いで「過去のキャリア選択に後悔している(6.4pt差)」「理想のキャリアを追求できていない(4.8pt差)」だった。【図3】

【図3】(年代別)クォーターライフクライシスの内容比較/マイナビ「正社員のクォーターライフクライシス調査」
【図3】(年代別)クォーターライフクライシスの内容比較/マイナビ「正社員のクォーターライフクライシス調査」

さらに、葛藤内容の選択個数についても着目して分析を行った。その結果、全体でもっとも回答数が多かったのは「2個」だった。年代別では、20代後半では「4~7個」が30代前半よりも高く、30代前半では「2~3個」が20代後半よりも高い傾向がみられた。

このことから、同じクォーターライフクライシスの世代であっても、20代では30代と比較して悩みが拡散的・重層的である可能性が考えられる。【図4】

【図4】(年代別)クォーターライフクライシス内容の選択個数/マイナビ「正社員のクォーターライフクライシス調査」
【図4】(年代別)クォーターライフクライシス内容の選択個数/マイナビ「正社員のクォーターライフクライシス調査」

クォーターライフクライシスのきっかけ 

海外だけでなく、日本においても30代前後にクォーターライフクライシスに陥る人がいるということは明らかとなった。では、なぜ人生に対して漠然とした不安を感じ始めるのだろうか。クォーターライフクライシスの「きっかけ」に着目し、自由回答をもとに分析を行った。

分析対象者は、「特になし」および「分からない」と回答した者を除いた424名であり、その内訳は20代後半が337名、30代前半が87名である。なお本調査では、クォーターライフクライシスの具体的な契機を把握することを目的とし、「特になし」等の回答は分析対象から除外した。


回答内容をふまえ、大きく「外部要因」と「内部要因」に分類することを考えた。外部要因とは、自身の周囲や環境に変化が生じ、何らかの出来事をきっかけとして不安や葛藤が生じるものである。一方、内部要因とは、外的な変化が明確でない場合であっても、自身の意識の変化や過去の選択を内省する過程で人生に対して不安や葛藤が生じるものである。

外部要因と内部要因それぞれの詳細についてみていく。具体的な自由回答は、【分類表】より確認できる。

外部要因によるクォーターライフクライシス 

外部要因によるクォーターライフクライシスは、領域で分けると「私生活グループ」「仕事グループ」「人生グループ」の3つに大別された。

人生グループは、私生活や仕事といった特定の領域に区分されない、横断的な領域に該当する。外部要因における人生グループの具体的なきっかけとしては、「他者の状況を見聞きした経験」が挙げられる。自分以外の他者が変化していく様子を見聞きすることで、それらと自身を比較し、クォーターライフクライシス状態に至るケースである。

私生活グループ

■ライフイベントの発生やライフステージの変化 

結婚、妊娠・出産、住宅購入などのライフイベントを迎える前後に、現在の状況や将来設計について不安を抱き、クォーターライフクライシスが始まるケースが分類される。

■金銭状況の可視化や行動制約

日常生活の中で自身の経済状況を具体的に把握することで、「理想とする生活」との乖離を実感し、やりたいことを諦める状況や将来の選択肢の制限を想定することで、強い不安や焦燥感を抱くケースが分類される。

仕事グループ

■職場環境や制度上の違和感 

業務量や評価、昇進制度などに対する不満や違和感が、ストレスやモチベーション低下につながり、クォーターライフクライシスの契機となるケースが分類される。

■キャリア上の選択局面 

転職、異動、昇格といったキャリア上の意思決定を前に「何が正解かわからない」と悩む場合や、選択後に後悔や不安を抱くケースが分類される。

人生グループ

■他者の状況を見聞きした経験 

環境に変化がなくとも、友人・知人の昇進、収入増加、結婚・出産など、周囲の話題に触れることで、自分との差を意識し、焦りや不安を感じるケースが分類される。


内部要因によるクォーターライフクライシス 

また自身や周囲が変化せずとも、時間の経過や自身の現在の状態について内省することによってクォーターライフクライシスに陥るケースも確認された。これらは領域としては「人生グループ」に分類されるが、外部要因とは異なり、内面的な変化や心理的な節目をきっかけとしている。

■年齢の節目 

年齢の節目を迎え、過去に思い浮かべていた理想との乖離や、今後このままで理想とする人生・キャリアを叶えられるのか不安を感じ始めるケースが分類される。

■自身の価値観や心身状態の変化 

自分の価値観やその変化を感じたり、体調が万全でないと感じたりして、その理由や原因について内省することによって、悩み始めるケースが分類される。

■過去の回顧 

今の自分の状態について、なぜそうなったのかを過去のターニングポイントでの選択からだと考え、過去の選択に対する後悔から、どうしようもない無力感を感じるケースが分類される。

きっかけのまとめ

ここまで見てきたクォーターライフクライシスの「外部」「内部」のきっかけを、分類表にまとめた。

クォーターライフクライシスのきっかけ分類表/マイナビ「正社員のクォーターライフクライシス調査」
クォーターライフクライシスのきっかけ分類表/マイナビ「正社員のクォーターライフクライシス調査」

クォーターライフクライシスのきっかけは、結婚や出産、転職等の環境の変化などによる外部要因に限らず、年齢の節目や意識・心身の変化、過去の回顧といった内部要因によっても生じることが確認された。クォーターライフクライシスは特定の人の「弱さ」や「個性」に起因するものではなく、人生の過程において誰もが経験し得る普遍的な心理状態であるといえる。 

クォーターライフクライシスにある若者の意識

では、クォーターライフクライシスの若者は仕事や私生活でどういった状態にあるのだろうか。

仕事での状態

クォーターライフクライシスである人は、そうでない人と比較して、仕事の満足度が23.4pt低い傾向にあった。【図5】

【図5】(クォーターライフクライシス有無別)仕事の満足度/マイナビ「正社員のクォーターライフクライシス調査」
【図5】(クォーターライフクライシス有無別)仕事の満足度/マイナビ「正社員のクォーターライフクライシス調査」

さらに「仕事を効率よくこなすことができている」と感じている割合や「パフォーマンスが高い」と感じている割合についても、低い傾向となった。【図6】

【図6】(クォーターライフクライシス有無別)仕事での主観的効率性やパフォーマンス
【図6】(クォーターライフクライシス有無別)仕事での主観的効率性やパフォーマンス/マイナビ「正社員のクォーターライフクライシス調査」

仕事において、効率性やパフォーマンスが高くないと感じている背景には、自身の実力を十分に発揮できていないという認識や、それに伴う自信の低下が影響している可能性が示唆される。

私生活での状態

また私生活においても、満足度が低い結果となった(クォーターライフクライシスにある人の満足度(計)51.4%/クォーターライフクライシスではない人の満足度(計)69.2%)。【図7】

【図7】(クォーターライフクライシス有無別)私生活の満足度/マイナビ「正社員のクォーターライフクライシス調査」
【図7】(クォーターライフクライシス有無別)私生活の満足度/マイナビ「正社員のクォーターライフクライシス調査」

さらに私生活において、些細なことで不安を感じ、私生活を豊かにするために自主的に行動できていないと感じている割合が高かった。

私生活の満足度が低い背景には、日常的に不安を感じやすい心理状態にあり、そうした多様で漠然とした不安が、結果として私生活を豊かにするための行動や意思決定をためらわせている可能性がうかがえる。

【図8】(クォーターライフクライシス有無別)私生活での些細な不安や生活向上行動/マイナビ「正社員のクォーターライフクライシス調査」
【図8】(クォーターライフクライシス有無別)私生活での些細な不安や生活向上行動/マイナビ「正社員のクォーターライフクライシス調査」

他者比較傾向

さらに、クォーターライフクライシスの状態にある人は、自分に自信が持てず、些細なことで不安を感じやすい傾向がみられたが、あわせて他者と自分を比較しやすい傾向も確認された。

具体的には、クォーターライフクライシスである人の 63.7% が「他者と自分を比較しがちである」と回答しており、クォーターライフクライシスではない人(38.4%)と比べて 25.3pt高い結果となった。【図9】

【図9】(クォーターライフクライシス有無別)他者と自分を比較しがちである/マイナビ「正社員のクォーターライフクライシス調査」
【図9】(クォーターライフクライシス有無別)他者と自分を比較しがちである/マイナビ「正社員のクォーターライフクライシス調査」

他者比較は、先行する調査においてもクォーターライフクライシスのきっかけの一つとして挙げられており、本結果からも、クォーターライフクライシスと他者比較傾向には一定の関係性があることが推察される。

クォーターライフクライシスの新しい兆候

他者比較の対象

クォーターライフクライシスと他者比較に着目して、議論を進めていく。若者は誰と自分を比較することが多いのだろうか。きっかけとして「他者の情報を見聞きした」と回答した45件を分類した結果、友人や同級生、同年代や周囲の人という回答が目立った。

自分に比較的身近であり、過去同じステップを歩んでいた人と自身を比較する傾向にあるようだ。
加えて、回答の中には、

  • 「同級生のSNSを見たり、周りの友人と話したりすると、順調にキャリアを積んでいたり、結婚や出産などのライフステージを進んでいるから(20代後半)」
  • 「YouTubeで家計管理の動画を見ると自分より稼いで充実している人が多くいて羨ましく思うから(20代後半)」
  • 「SNSで他人と比べた時(20代後半)」

などYouTubeやSNSといった不特定多数の情報も含むデジタルツールを挟んだ間接的な他者比較もみられた。他者比較は直接見聞きした他者の情報だけでなく、SNSを通した間接的な情報によっても行われている。【図10】

【図10】他者比較の経路/マイナビ「正社員のクォーターライフクライシス調査」
【図10】他者比較の経路/マイナビ「正社員のクォーターライフクライシス調査」

SNSの特徴

SNSには、3つの特徴がある。情報がすぐに届く「即時性」、不特定多数とつながれる「広範性」、そして相互に反応し合える「双方向性」だ。こうした特徴は身近な人だけでなく、面識のない他者の生活や価値観にも日常的に触れ、コミュニケーションを取り、距離を縮めることを可能とする。

さまざまな他者が日常を発信するSNSは、他者の状況が即時に「やってくる」環境を作り、過去自分と近しい位置にいた友人や同級生、さらにシンパシーを感じる他者と自身の比較をより簡単にさせる。
【図11】

【図11】SNSの特徴/マイナビ「正社員のクォーターライフクライシス調査」

SNSによる人生やキャリアの悩み

補足情報として、SNSの情報をきっかけに人生やキャリアについて悩んだ経験は若年層ほど高い傾向がみられている。経験割合がもっとも高いのは、20代前半で35.1%である。さらに、20代後半では、「日常生活に支障が出るほど悩んだことがある」と回答した割合が他の年代よりも高い傾向にある。【図12】

【図12】SNSの情報をきっかけに人生やキャリアについて悩んだ経験/マイナビ「正社員のクォーターライフクライシス調査」
【図12】SNSの情報をきっかけに人生やキャリアについて悩んだ経験/マイナビ「正社員のクォーターライフクライシス調査」

SNS利用の常態化

こうした他者比較を生みやすい背景として、SNSの利用実態を確認する。SNSの利用率をみると、X(旧Twitter)の利用率は全体で50.3%、20代では78%と約8割にのぼる。さらにInstagramは全体で60.9%の中、20代では78%となり、特に利用が進んでいる。そして30代では、Xが61.6%、Instagramが70.5%となる。【図13】

【図13】SNSの利用率推移(X、Instagram)/マイナビ「正社員のクォーターライフクライシス調査」
【図13】SNSの利用率推移(X、Instagram)/マイナビ「正社員のクォーターライフクライシス調査」

今の若者にとってSNSは生活の中にあって当たり前のものとなっている。デジタルを通して他者の情報が流れ込んでくる現状は、従来の他者比較の経路としてあった、「自分で探しに行く」「直接見る」方法に追加して、「受動的」な他者比較を引き起こし、他者比較のあり方を多様化させている。【図14】

【図14】近年広がる多様な他者比較経路/マイナビ「正社員のクォーターライフクライシス調査」
【図14】近年広がる多様な他者比較経路/マイナビ「正社員のクォーターライフクライシス調査」

さいごに

ここまで見てきたように、クォーターライフクライシスは普遍的で誰もが陥る可能性があるものである。加えて、近年は、他者比較がSNSの普及によって多様化しており、クォーターライフクライシスは、個人の考え方や性格の問題だけでは捉えきれない側面を持っている。

技術の進歩とともに変化した「他者とのつながり方」や、そのつながりを起点として生じる葛藤の存在は、社会構造がクォーターライフクライシスに影響している可能性を示している。これらのことから、改めてクォーターライフクライシスを社会や個人が捉え直し、理解する時期がきているのではないだろうか。

第1章では、クォーターライフクライシスの実態についてみてきた。続く第2章ではそうしたクォーターライフクライシスとどう上手く付き合っていけばよいのか、そのヒントを探る。

キャリアリサーチLab研究員 嘉嶋 麻友美

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