時差出勤制度の導入で教員の長時間勤務と業務効率の意識を改善-宮崎県日南市教育委員会 学校教育担当監 赤池英人氏

キャリアリサーチLab編集部
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教員の働き方改革がクローズアップされる昨今、「令和6年度 教育委員会における学校の働き方改革のための取組状況調査」(文部科学省)によると、全国各地の教育委員会でさまざまな施策が実施され、課題解決への取り組みが進められている。

教員の働き方改革をテーマにしたシリーズ第2回は、同調査で取り上げられた、宮崎県日南市教育委員会による「域内全小・中学校への時差出勤制度の導入」にフォーカスする。

同教育委員会では、前年度にモデル校で時差出勤制度を導入後、2025年度から域内の全小・中学校へ導入・運用を広げている。これは、通常8:00~16:30の勤務時間を軸に、始業時間を7:00~9:00の間に30分刻みで選択し、始業時間に合わせて終業を15:30~17:30の間でスライドできるという制度。月5回まで利用でき、希望日の前日までに各校の管理職に申請するという仕組みだ。

同教育委員会で制度導入を推進する赤池学校教育担当監に、同制度を実施した背景や見えてきた課題、成果などについて詳しく伺った。

日南市教育委員会学校教育課 学校教育担当監/赤池英人氏

■プロフィール
赤池 英人(日南市教育委員会学校教育課 学校教育担当監)

宮崎県国富町出身。日南市内の中学校3校で14年間勤務後、宮崎県教育委員会にて指導主事、高千穂町立高千穂中学校教頭を経て、2025年4月から現職。市の課題である「学力向上」に係る新規事業の立案と「教職員の働き方改革」を推進するためのプロジェクト委員会の事務局長を務め、教職員の意見を取り入れながらその解決に取り組んでいる。

教員のワークライフバランスに対する意識に課題が露見

質問:制度導入以前、日南市の教員の働き方にはどのような課題がありましたか?

赤池:各種メディアで伝えられているように、日南市においても教員の勤務時間の長さが根深い課題としてありました。その原因にはさまざまな要素が考えられますが、根本原因の一つとして、教員のワークライフバランスに対する意識が希薄であることが挙げられます。

宮崎県には「宅習(タクシュウ)」という県独自の自宅学習法があります。これは、児童・生徒が毎日家で宅習用のノートを使って予習や復習を行い、翌日、担任にノートを提出し、担任がチェックして返却するというものです。児童・生徒に学習習慣をつけるうえでは非常に有効で、私の小学生時代にもあったくらい、古くから県内に根付いています。

しかしその一方で、担任にとっては、勤務時間の多くが宅習ノートのチェックに費やされ、他の業務や教員間の情報交換などが放課後に押しやられてしまうことも否めません。そうした対応が当たり前になると、教員の意識には「放課後に残業すればいい」という考えが生じ、時間外勤務を前提とした日々を通してワークライフバランスへの意識がどんどん薄れていく。そうした悪循環が生じていると見ています。

もう一つ、これは全国的に見られる課題だと思いますが、管理職である教頭に業務負担が集中してしまっているという現状があります。宮崎県ではおもに教頭が校舎・校門の解錠・施錠まで行うため、教頭は誰よりも朝早く出勤し、誰よりも遅く退勤することが通例になっており、おのずと教頭の長時間勤務が常態化してしまいます。

こうした課題の解消に向けて、導入に踏み切ったのが時差出勤制度なのです。同制度の導入によって、柔軟な働き方を推進することはもちろん、「限られた時間内に集中して業務を終え、ワークライフバランスを整える」ことの意義を教員へ浸透させ、時間や効率に対する意識改革を行う契機にしようと考えました。

まず令和4(2022)年と令和5(2023)年の7月から8月にかけて試行的に全校で実施し、令和5(2023)年にモデル校で制度を運用しました。、令和6(2024)年度から域内の全小学校・中学校へ対象を広げています。

時差出勤制度がワークライフバランスを考えるきっかけに

質問:モデル校で実践した際の手応えと、見えてきた課題や対策を教えてください

赤池:モデル校への導入に際して、まず校舎の解錠・施錠を教職員の間で可能な限り分担するように伝えました。教頭をはじめ特定の教員が解錠・施錠を行っている状態では、全教員が等しく時差出勤制度を利用することが難しくなるからです。

くわえて、教員によっては選択した勤務時間が児童・生徒の日課と合わなくなる場合も想定されるため、制度の実効性を高めるために、学年全体で児童・生徒をフォローする体制を築くように助言しました。

その結果、モデル校では制度を利用した教員が約85%に達し、一定の成果をあげられたと見ています。一方で、制度を利用しなかった教員が15%と、一定数存在したことも見逃せない事実です。次の段階、つまり市内全域への導入を進めていくうえで、モデル校での利用状況をふまえ、域内の全教員に対して利用を促すにはどうすればいいかという課題について検討しました。

対策として、まずは全校・全教員に対して「ワークライフバランスを考える契機にする」という時差出勤制度の本来の趣旨や意義について理解浸透を図ることが肝要だと考え、教育委員会と各学校が連携して丁寧に情報を発信し、職員が主体的に「利用してみたい」と思える動機づけに努めました。

あわせて、教員の働き方改革を進めていくうえでは、児童生徒の保護者の理解を得ることも欠かせません。近年のメディアによる報道のおかげで、随分と教員の働き方改革に対する理解が広がっていますが、制度導入時には改めて、各学校を通して保護者に向けて制度の趣旨・意義を伝え、理解・協力を促しました。

スクールサポートスタッフの配備と生成AIの活用を推進

質問:理解浸透にくわえ、業務量の削減については何か対策を行っているのですか

赤池:大きく2つ挙げられます。スクールサポートスタッフの配備と、生成AIの活用です。

スクールサポートスタッフとは、教員が児童生徒への指導や教材研究などに注力できるよう、テストの採点や資料の作成・印刷、授業準備、学習支援などの事務業務を中心に担い、教員をサポートする役割です。教員の負担軽減につなげていくために、日南市では数年前から順次、各学校へのスクールサポートスタッフの配備を進め、現在では不要と判断した学校以外すべてに配備できました。

生成AIについては、文部科学省が令和5(2023)年から、教育活動や校務において生成AIの活用に取り組む学校を「生成AIパイロット校」に指定し、知見や事例の収集・蓄積を進めています。当教育委員会はこの取り組みに賛同し、令和7(2025)年には日南市の小学校2校、中学校1校が生成AIパイロット校の指定を受け、校務における生成AIの活用を推進しています。

校務においては、たとえば、学級通信や通知表、文化祭・体育祭のパンフレット、会議のレジュメや議事録などを作成する際、生成AIがほんの数秒でつくる素案をベースとして活用しています。教員からは「イチからつくる手間が省かれ、精度も高いため、すごく助かっている」という声が届き、パイロット校以外の学校からも「ぜひ導入したい」という要望が出ているため、域内における生成AIの導入拡大を検討しています。

制度導入によって長時間勤務やワークライフバランスへの意識が改善

質問:そうした対策を経て時差出勤制度を域内全校に導入し、どのような成果が見られますか

赤池:時間外業務時間の減少という、目に見えた成果が表れています。

日南市立小学校の教職員の時間外業務時間の状況/日南市教育委員会提供データをもとにマイナビ作成
日南市立小学校の教職員の時間外業務時間の状況/日南市教育委員会提供データをもとにマイナビ作成

域内の小学校における教職員等の時間外業務時間を統計したデータによると、令和3(2021)年においては、「月45時間未満」だった教諭は77.6%、教頭は0%、校長は75%に留まっていましたが、令和7(2025)年には教諭94.2%、教頭13.3%に増え、校長に至っては100%に達しました。

教頭の状況は依然として芳しくありませんが、「月45時間以上80時間未満」の割合を見ると、令和3(2021)年の66.7%に対して、令和7(2025)年は80%まで増加し、緩やかでありながらも改善傾向にあるといえます。

日南市立中学校の教職員の時間外業務時間の状況/日南市教育委員会提供データをもとにマイナビ作成
日南市立中学校の教職員の時間外業務時間の状況/日南市教育委員会提供データをもとにマイナビ作成

中学校においても同様に、「月45時間未満」の教諭は47.1%から62.2%に、教頭は0%から22.2%に、校長は77.8%から88.9%に増え、いずれの職域においても、小学校に比べると幅は小さいものの、時間外業務時間が減少していることがわかります。

また、教員を対象としたアンケート調査によると、「ワークライフバランスを少しずつ取れるようになってきた」と回答した教員が77%超、「働き方改革への自身の意識向上が図られた」のが86%超に達しています。制度の活用法としては、たとえば「朝早く出勤して退勤時間を早め、子どもの通院に寄り添っている」「月1回、早帰りを実践し、音楽コンサートに出かけている」といった声が届いています。「早帰りを実践してリフレッシュすると、翌日からまた気持ちよく児童・生徒たちに向き合える」など、仕事への好影響を実感している教員もいます。

こうした成果が見られることから、教員のワークライフバランスに対する意識や、時間・効率に対する考え方に前向きな変化が生まれ、先に述べた勤務時間の長さやワークライフバランスに対する意識が確実に改善されているという手応えを得ています。

全域に制度導入を広げ、改めて認識した積年の課題

質問:成果が表れた一方で、浮かび上がってきた課題もありますか

赤池:先のアンケート調査によると、時差出勤制度を1回でも利用したと回答した教員は全体の約60%に留まりました。つまり、約40%の教員がまったく利用しておらず、モデル校での実施時に比べて利用率が大幅に伸び悩んだことが課題として表れました。

なかでも中学校における利用率の低さが目立ちます。その原因として挙げられるのは、部活動の指導。部活動の顧問を担うことで、教員の時間が圧迫され、柔軟な働き方の実践や時間外業務の軽減を阻害してしまっているのです。これは今に始まったことではなく、まさに積年の課題です。

その解消策として、都道府県によっては学校の部活動を地域クラブなどに移す「地域移行」が進められていますが、こと日南市についていえば、受け皿となる地域のクラブ活動が多くはないため、なかなか地域移行に踏み切ることができない状況があります。

放課後を部活動指導にあてるとなると、時差出勤制度を使って15時30分や16時に退勤するのは難しく、おのずと制度を利用しない・できないということになってしまう。制度の利用が進まなかった背景には、そうした部活動指導における根深い課題があるのだろうと見ています。

教員・管理職双方にとって魅力的な職場づくりが必要

質問:課題をふまえ、日南市教育委員会として今後注力したいことを教えてください

赤池:まず積年の課題である部活動指導の負担軽減に尽力します。その足掛かりとして、令和7(2025)年度からは部活動の拠点校設置に取り組んでいます。

これは、たとえば同じ地域の4~5校の野球部を拠点校に集約し、一つの野球部として活動するというものです。そうすれば、各校の野球部顧問は持ち回りで指導できるため、部活動指導の頻度は顧問一人につき週1~2回に減少。土日に大会等で引率する負担も大幅に減ります。

少子化による生徒減少によって、部員の確保がままならない部もあるため、拠点校設置は各校の部活動を継続するためにも有効な施策になります。そのため、生徒や保護者からも概ね理解を得ることができています。むしろ保護者から「私たちの地域でもぜひやってほしい」というリクエストまでいただいているくらいです。部活動指導の負担軽減に向けて、今後、域内全域へ実施を広げていきたいと意気込んでいます。

時差出勤制度の利用促進については、運用面の改善を重ねていきたいと考えています。たとえば、現段階では、同制度を利用するためには前日までに申請することとしていますが、教員からは「当日にも柔軟に活用できるようにしてほしい」という声をいただいています。そうした意見に真摯に耳を傾けながら、より利用しやすい制度へブラッシュアップしていきます。

そして、意識改革です。先ほどお伝えしたように、時間外業務時間は概ね減少傾向にありますが、教頭に限ってはいまだに月45時間以上、なかには80時間以上に達することもあります。冒頭で述べた「教頭に業務負担が集中する」という課題は、制度導入後も解消に至らず、何でもかんでも教頭に任せればいいという風潮が根深く残されているのが現状です。

この意識を変えていかなければ、「教頭は忙しいからなりたくない」と敬遠する教員が増え、後進の育成に影響を及ぼしかねません。そうではなく、次世代を担う教員たちが「教頭をめざしたい」と思えるように、「教頭頼み」の意識を変え、教員・管理職双方にとって魅力的な職場環境をつくることに尽力します。

<編集後記>
今回は時差出勤制度の導入をはじめとした取り組みを行っている宮崎県日南市にインタビュー。少しずつではあるが着実に教員の方々の業務負荷軽減を行えている様子がよくわかりました。

一方で、まだ課題も残るとのお話もあり、課題に向き合い改善していこうという姿勢が伝わるインタビューでした。こういった意識が、現場で働く教員の方々が安心して長く働き続けられる環境づくりにつながるのだと思います。

次回はスクールサポートスタッフの導入を中心とした取り組みについて千葉市教育委員会にお話を伺っています。

矢部栞
担当者
キャリアリサーチLab編集部
SHIORI YABE

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