働き方改革で教職の魅力向上へ。文部科学省が進める働き方改革の現在
-文部科学省 初等中等教育局企画官 髙見暁子氏

キャリアリサーチLab編集部
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キャリアリサーチLab編集部

教員の長時間労働は、教育現場の深刻な課題として長年指摘されてきた。特に中学校教員は部活動指導などにより在校等時間が長くなりやすく、教職に対するネガティブなイメージを生み出す背景ともなっている。しかし、文部科学省の調査によれば、働き方改革の取り組みは着実に成果を上げており、教員の時間外在校等時間は減少傾向にある。

マイナビキャリアリサーチLabでは、こうした「教員の働き方改革」をテーマにした連載企画をスタート。その第1弾として、文部科学省で教育現場の改革を推進する初等中等教育局企画官の髙見さんにインタビューを実施した。

本稿では、髙見さんに、教員の働き方の現状や長時間労働の要因、これまでの改革の取り組みとその成果について伺った。さらに、依然として残る課題や全国各地の先進的な事例、そして文部科学省が今後注力していく方向性についても詳しく伺っていく。

文部科学省 初等中等教育局企画官 髙見 暁子氏

■プロフィール
髙見 暁子(文部科学省 初等中等教育局企画官)
東京都町田市出身。2002年入省。初等中等教育局初等中等企画課教育制度改革室長補佐、横浜市教育委員会教育政策推進課長、初等中等教育局教科書課教科書企画官等を経て、2025年7月から現職。

調査結果が長時間労働の構造を浮き彫りに

質問:教員の働き方改革が話題となっておりますが、教員の方々の働き方の現状を教えてください。

髙見:文部科学省では毎年度「教育委員会における学校の働き方改革のための取組状況調査」を行っています。令和元年度から継続して実施しており、直近では令和6年度の結果を公表しました。この調査では教員の「時間外在校等時間」を把握しています。

時間外在校等時間とは、所定の勤務時間を超えて、学校に在校して業務を行っている時間などのことを指します。教員には「残業」という考え方がなく、一般企業のように超過勤務手当ではなく教職調整額が一律に支給されるかたちです。

文部科学省「令和6年度 教育委員会における学校の働き方改革のための取組状況調査」よりマイナビ作成
文部科学省「令和6年度 教育委員会における学校の働き方改革のための取組状況調査」よりマイナビ作成

結果を学校種別に見ると、小学校では1カ月あたりの時間外在校等時間が45時間以下に収まっている教員が全体の約4分の3を占めています。一方で、中学校になると、45時間以下の割合が6割弱と大きく下がり、45~80時間や80時間超の先生の割合が増えています。高等学校や特別支援学校についても調査していますが、やはり中学校の厳しさが際立っています。

ですので、現状をまとめると「中学校の先生は長時間労働の傾向が強い」といえると思います。もちろん小学校や高等学校をそのままにしておいていいというわけではないのですが、中学校の深刻さが特に目立っており、ここをどう改善するかが大きな課題だと感じています。

中学校における部活動指導

質問:中学校教員が特に長時間労働の傾向にある理由はどのようなものが考えられるでしょうか?

髙見:令和4年度に実施した「教員勤務実態調査」を参考にご説明します。これは現場の先生方にご協力いただいて行った調査で、小中高あわせて2,700校を対象に、8月、10月、11月の連続する7日間の勤務状況を、平日と土日に分けて調べました。

平成28年度に実施した前回の調査と比較すると、小学校も中学校も平日の勤務時間はそれぞれ30分程度短くなっており、平成29年から取り組み始めた働き方改革の効果が一定程度出てきていると考えられます。

小学校と中学校の教諭がどの業務に時間を使っているのかを確認してみると、大きな違いがあるのが、やはり部活動・クラブ活動の時間です。平日の場合は、小学校が3分なのに対して、中学校は37分となっています。土日になるとさらに差が開いて、小学校は1日平均1分程度なのに対して、中学校は約1時間半も働いています。

これは、部活動を担当している先生とそうでない先生が混在していて、その平均値が1時間半ということですから、実際に担当している先生は相当な時間を部活動に割いているのが分かります。こうした土日の業務が積み重なって、中学校教員の時間外在校等時間が長くなる大きな要因となっているようです。

国としては、現在、部活動の地域展開を進めており、子供たちのスポーツ・文化芸術活動の場を、部活動から地域クラブ活動へと転換し、地域全体で支える改革を進めるとともに、教師に代わり実技指導や大会引率等を行う部活動指導員を学校に配置し、部活動の適切な運営体制の整備を進めています。

ガイドラインと法改正で現場の負担を軽減

ガイドラインと法改正で現場の負担を軽減

質問:文部科学省としては、これまでも教員の働き方改革に取り組まれてきたことと思います。これまでの取り組み内容とその成果を教えてください。

髙見:文部科学省の取組の出発点は平成28年度の勤務実態調査です。その速報結果が翌平成29年に公表され、小学校の時間外在校等時間が月59時間、中学校の時間外在校等時間が月81時間という厳しい実態が明らかになりました。

これを受けて中央教育審議会に諮問し、平成31年に「新しい時代の教育に向けた持続可能な学校指導・運営体制の構築のための学校における働き方改革に関する総合的な方策について(答申)」が出されました。

その中で策定したのが「勤務時間の上限に関するガイドライン」です。また、学校と教師が担う業務を明確化・適正化し、「学校・教師が担う業務に係る3分類」を示しました。この3分類については、今年8月に見直し案が中央教育審議会の特別部会において議論され、以下のように整理されました。

(1)学校以外が担うべき業務
(2)教師以外が積極的に参画すべき業務
(3)教師の業務だが負担軽減を促進すべき業務

また、新型コロナウイルス感染症が蔓延したときに臨時休校などがあり、その時期に一人一台端末を整備し、学校におけるDXが一気に進みました。校務支援システムやオンライン教材の導入が急速に進み、業務の効率化が図られました。加えて、部活動についても、平成30年に、活動時間や休養日を明示したガイドラインを策定するとともに、部活動指導員の配置を進めました。

さらに令和元年には「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」、いわゆる給特法の改正により、勤務時間の上限に関するガイドラインを「指針」に格上げし、告示として位置づけました。月45時間・年360時間以内という上限を告示に位置付けたことにより、単なるガイドラインよりも強い拘束力を持たせたのです。そのためには人員配置も不可欠で、小学校では35人学級を計画的に導入し、今年度ですべての学年の35人以下学級が実現します。

加えて、小学校高学年における教科担任制の定数を改善し、教員業務支援員(※1)を全小中学校に1人ずつ配置できる規模に拡充しました。業務支援員さんには、プリントの印刷や採点補助、データ入力などを担っていただき、先生方から「本当に助かる」という声を多くいただいています。
※1: 教員が行っている教材の印刷業務など、補助的な業務の支援を行うスタッフ

こうした取組の結果、時間外在校等時間は小学校で59時間から41時間へ、中学校で81時間から58時間へと改善しました。まだ道半ばではありますが、確実に効果が出ていると考えています。

改革を根づかせるための次のステップ

質問:ここまで取り組みを進めてきたうえで見えてきた課題はありますか?

髙見:確実に成果が出ているとはいえ、課題はあります。一つは、まだ時間外在校等時間が長いということです。部活動の地域展開を進め、教員でなくてもできる仕事については事務職員や支援スタッフ、保護者や地域住民の力を借りて対応するなど、具体的な改革を一層進めていく必要があります。

また、「先生は大変」というイメージが世の中に固定化してしまっているのも問題です。マスコミの皆さんの力もお借りしながら、このイメージを変えていくことも、今後の大きな課題だと考えています。

また、地域によって取り組み状況に差があることも大きな課題です。積極的に進めている教育委員会もあれば、どう取り組めばいいのか分からず足踏みしているところもあります。今年6月の給特法の改正で、各教育委員会に対して「働き方改革の実施計画」の策定と公表、また計画の実施状況を公表いただくこととしました。

市区町村教育委員会は小中学校を、都道府県教育委員会は高校・特別支援学校を対象に、それぞれの地域の先生たちの働き方の実態を把握した上で、いつまでに何に取り組むかを整理し、首長(知事・市区町村長)と教育委員で構成される総合教育会議に報告していただきます。

この計画を実現するためには、もちろん人材や予算が必要になりますので、計画を策定し、総合教育会議に報告するプロセスを通じて、首長部局や関係機関との協力関係を築いてほしいと考えています。大切なのは、まず自分の地域の学校の実態を把握することです。その上で改善方策には優先順位を付けて取り組んでいただきたいと考えています。

各地で広がる「小さな改善」の積み重ね

各地で広がる「小さな改善」の積み重ね

質問:各教育委員会でさまざまな取り組みをされていますが、その中でも印象的な成功例があれば教えてください。

髙見:印象的な成功例はいくつもあります。新潟県妙高市教育委員会の事例ですが、中学校における部活動時間の短縮と授業時数見直しが一体的に実施されました。年間授業時数の計画を見直して5時間授業の日を増やし、その日に部活動を行って16時35分に終えるようにしました。年間を通じて授業と部活動をマネジメントする仕組みで、先生方からは「早く帰れる日が増えた」と好評です。

千葉市の教育委員会では、教員業務支援員に依頼するための「業務依頼書」のひな形や、学校や教員業務支援員向けに業務内容等を記載した「業務の手引き」を作成し、依頼する業務を有効にマネジメントできるようにサポートしました。教員業務支援員には、印刷やアンケート集計、電話対応を担ってもらい、先生が子どもたちと向き合う時間を確保できているとのことです。

山梨県では「文書半減プロジェクト」を行い、教育委員会から学校に送る文書を徹底的に見直し、「学校に送る文書」「グループウェア上でデータ共有する文書」「学校に送らない文書」の3つに仕分けしました。その結果、教育委員会から学校に送る文書が、小学校で半減、県立学校で4割削減を実現しました。「文書は、グループウェアでも共有できるんだ」と、先生方の認識にも変化があったようで、不要な文書を確認するための時間削減にもつながったようです。

そのほか岐阜県教育委員会のメール送信件数の削減の取り組み、宮崎県日南市での時差出勤制度の導入、大阪府枚方市での教材等のデータでの蓄積と活用、鹿児島県鹿児島市の授業準備時間の確保など、各地で創意工夫が見られます。小さな改善ですが、積み重ねると大きな成果につながっていると実感しています。

伴走型支援で教育委員会の取り組みを後押しする

質問:文部科学省として今後注力していきたいことや目標を教えてください

髙見:今後は、改正された給特法に基づき、各教育委員会が地域の実情を踏まえた形で計画を作成し実行していくこととなります。その際、なかなか進まない自治体に対しては文部科学省が伴走し、一緒に改善していく仕組みを作っていきたいと思います。

何がネックで取組が難しいのか、それぞれの自治体によって状況は違うと思いますが、その中でも伴走が必要だと思われる自治体に対しては、一緒に働き方改革に取り組んでいきたいと考えています。

また大事なのは、教員の仕事へのネガティブなイメージを変えることだと思います。「先生は大変」というイメージが先行しすぎて、教員を目指す人が減ってしまうのは望ましくありません。学校現場の働く環境は確実に改善していますし、多くの人の間にも、先生方が元気に働き続けられるように環境を整えることが一番大事であるという認識が広がってきていると思います。

働きやすい職場になってきていることをもっとPRしていきたいです。もちろん、学校だけで取組を進めるのは限界もあるので、保護者や地域の方はもちろんのこと、地方公共団体の福祉部局など、外部の力もお借りして、教育に関わるすべての関係者が、それぞれの権限と責任に基づき連携・協働していく文化を醸成していきたいです。

先生の仕事は、子どもたちの力を伸ばし、育てていくことです。その子が持っている強みをさらに伸ばして、弱いところがあれば一緒に克服して引き上げていく。そういう営みこそが先生のやりがいであり、他の仕事では代えられない部分だと思っています。

教育の役割は、子どもが自分の将来の夢を持ち、「こうなりたい」「こんなふうに社会と関わっていきたい」という思いを育てることにあると考えています。子どもが自分の強みを発見し、それをどう生かすかを考えられるようになること。自分の意欲に気づかせ、伸ばしていくのが教育だと思います。教育の本質はあくまでも「一人ひとりの人間を育てること」にあります。ここが先生ならではの魅力であり、職業の大切な価値だと思っています。

だからこそ、そういった本質的な役割や仕事に向き合えるように働き方を変えていくことが重要です。働き方を変える際の主役は、一人一人の先生です。私は先生方が働き方の見直しを進められるよう、文部科学省ができることに最大限取り組んでまいります。

文部科学省作成、働き方改革の説明資料
文部科学省作成
矢部栞
担当者
キャリアリサーチLab編集部
SHIORI YABE

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