社会人が“好きなことを学ぶ”とき、人生はもっと自由になる

片山久也
著者
キャリアリサーチLab編集部
HISANARI KATAYAMA

かつて「学び」は若者の特権であり、社会に出れば終わるものとされていました。しかし現在、社会人が自らの意思で継続的に学び続けることや学び直しに取り組む姿が注目されています。

大学や大学院への進学だけでなく、社会教育(市民活動・地域活動)への参加など、働きながら学ぶ人々が増えていますが、本記事では、実際に継続的に学び続ける社会人の声や、社会教育の考え方、大学に属さず研究する在野研究などに焦点を当てながら、「なぜ今、学ぶのか」「仕事に直結しない学びは何をもたらすのか」について多角的に探っています。

学びは単なるスキルアップではなく、人生そのものを豊かにする可能性を秘めています。働きながら学ぶことの意味を、実践者の視点から紐解いていきます。

社会人の継続的な学びは、未来への投資

ここでは、社会構想大学院大学の川山氏へのインタビューの内容をまとめています。

変化の激しい時代に求められる“学び続ける力”

現代は、技術革新や社会構造の変化が加速する時代です。人生100年時代を迎え、働く期間が長くなる一方で、知識やスキルの陳腐化も早まっています。従来の「学校→就職→定年退職」という直線的なキャリアモデルは崩れ、個人が柔軟にキャリアを再構築する力が求められるようになりました。

こうした背景から、社会に出てからも継続的に学ぶことは、単なる自己啓発ではなく、職業的な生存戦略となっています。

学びはキャリアだけでなく、人生を豊かにする

継続的な学びは、仕事に直結するスキルの習得だけでなく、趣味や知的好奇心を満たす学びも含まれます。こうした学びが人生を豊かにし、精神的な充足感や自己肯定感を高めると共に、学びの場では年齢や職業を超えた新たな人間関係が築かれ、視野が広がることで、キャリアや人生に対する新たな気づきが得られることもあります。

これは、自己理解や価値観の再構築にもつながる重要なプロセスとなります。

学びを通じて広がるキャリアの可能性

社会人の継続的な学びは、キャリア形成にも大きな意味を持ちます。自らの経験を形式知化し、他者に伝える力を養うことで、教育や指導の場でも活躍できる可能性が広がります。

企業内での人材育成や社外での講師活動など、キャリアの幅を広げる契機となり、学びを通じて自分の考えを整理し言語化する力は、ビジネスにおけるコミュニケーション能力の向上にも直結します。

忙しい社会人が「学び直し」に挑む理由と、その先に見えた変化

ここでは、アイロボットジャパン合同会社の挽野氏とエイベックス・ミュージッククリエイティヴ株式会社の米田氏のインタビューよりまとめています。

今やらなければ、きっと一生やらない

社会の第一線で活躍するビジネスパーソンが、なぜあえて学び直しを選ぶのか。

その問いに対し、アイロボットジャパンの挽野元氏は、経済同友会での教育活動を通じて「教える力」の必要性を痛感し、実務家教員としてのスキルを体系的に学ぶために大学院への進学を決意したと答えました。

一方で、エイベックスの米田英智氏は、長年音楽業界でキャリアを積む中で、自分の経験を「知識」として再定義し、他者に伝える力を身につけたいという思いから学び直しを始めましたと答えました。

しかし、共通していたのは、「忙しいからこそ、今やらなければ一生やらない」という覚悟です。

学びの時間は“作る”もの

多忙な日々の中で学びの時間を確保するには、徹底した時間管理が不可欠です。挽野氏は、移動時間やテレビ視聴を見直し、1日3時間の学習時間を捻出。朝早く出社してメモをもとに思考を整理する時間を設けるなど、生活の中に学びを組み込む工夫を重ねました。

米田氏もまた、食事の誘いを断って論文執筆に集中するなど、優先順位を見直すことで「学ぶこと」が日常の一部となったと語っています。学びは義務ではなく、自ら選び取るものであり、人生を豊かにする時間だと語っています。

学びがもたらすのは、“視点の変化”

社会人における継続的な学びから得られるのは、単なる知識やスキルだけではありません。米田氏は、論理的に説明する力や文章の構成力が向上し、業務メールや若手社員への指導にも変化があったと語りました。また、異業種の同級生との議論を通じて、言葉の定義や伝え方の重要性に気づき、他者の意見を尊重する姿勢も養われました。

挽野氏もまた、学びを通じて「言葉にする力」が磨かれ、社内外のコミュニケーションにおいても大きな変化を実感していると語りました。

学びはキャリアの“棚卸し”であり、未来の“再設計”

学び続けることは、これまでのキャリアを振り返り、自分の価値を再確認する機会でもあります。自分の経験を形式知化し、他者に伝える力を養うことで、教育や指導の場でも活躍の場が広がります。学びは、過去を整理し、未来を描くための“再設計”のプロセスにもなります。

社会教育が拓く“学び続けられる社会”の可能性

ここでは、文部科学省で社会教育を推進している林氏のインタビューをまとめています。

学びは学校だけのものではない

社会教育とは、学校教育以外の場で行われる学びのことを指します。たとえば、地域の公民館や図書館、博物館、市民講座、ボランティア活動など、日常の中で誰もが自由に参加できる学びの場が社会教育の対象です。

文部科学省では、「社会教育は、すべての人が年齢や職業に関係なく、自分の興味や課題に応じて学び続けられる仕組み」であるとし、人生100年時代において、学びが一部の人の特権ではなく、すべての人に開かれたものであるべきだという理念に基づいています。

社会教育士という新たな専門職

文部科学省は、社会教育の専門性を高めるために「社会教育士」という新たな称号制度を導入しました。これは、従来の「社会教育主事」という任用資格に加え、より広く社会教育の専門性を可視化し、地域における学びの支援者としての役割を明確にするための取り組みです。

社会教育士は、地域住民の学びを支援し、学びの場を企画・運営するだけでなく、学びを通じた地域課題の解決にも貢献する存在として期待されています。林氏は、「社会教育士は、地域の学びのコーディネーターであり、学びを通じて人と人をつなぐ役割を担っている」と語りました。

社会教育がもたらす“学びの民主化”

社会教育の最大の意義は、学びの機会をすべての人に開くことにあります。学校教育が年齢や制度に縛られるのに対し、社会教育は誰でも、いつでも、どこでも学べる自由な学びの場です。

日本では、こうした学びの場を地域に根付かせるために、自治体や教育委員会と連携しながら、社会教育士の育成や制度整備を進めています。林氏は「社会教育は、学びの民主化を実現するための重要な手段であり、地域社会の活性化にもつながる」と強調しています。

学びを“自分ごと”にする社会へ

社会教育は、単なる知識の習得ではなく、自分自身の課題や社会問題への関心に向き合うためのプロセスです。今後、社会教育がより多くの人にとって身近な存在となることで、学びの文化が地域に根付き、誰もが学び続けられる社会の実現に近づいていくのではないでしょうか。

組織に属さず知を探求する。「在野研究」という自由な学び

ここでは、在野研究者である荒木氏のインタビューをまとめています。

学びは肩書きではなく姿勢

大学や研究機関に所属せず、独立した立場で研究を続ける「在野研究」というスタイルが、社会人の新しい学びの形として静かに注目を集めています。在野研究者の荒木氏は、自らの経験を通じて「在野研究とは、大学の外で経済的に独立して行う知の探求」であると語りました。

大学に属さないからこそ、研究テーマの選定や時間の使い方において自由度が高く、既存の枠組みにとらわれない研究が可能となります。荒木氏はこのスタイルを「明後日の研究」と表現し、喫緊の課題に追われるのではなく、長期的な視点で人類にとって意味のある問いに向き合うことができると述べています。

研究の発表は「区切り」と「つながり」の場

在野研究においても、研究成果を発表することには大きな意味があります。荒木氏は、発表を「研究に区切りをつける手段」であり、「他者とつながるきっかけ」として捉えています。

孤独になりがちな研究活動において、発表を通じて仲間と出会い、フィードバックを得ることは、継続のモチベーションにもつながります。また、研究の形式や作法を学ぶ場としても、発表は重要な役割を果たします。

在野研究がもたらす人生の豊かさ

在野研究の最大の魅力は、「好きだからやる」という純粋な動機に基づいている点です。誰かに強制されるものではなく、自分の関心に従って自由に学ぶことができる。その結果として、人生が楽しくなるという効果があると荒木氏は語ります。テーマ設定の自由度も高く、大学では扱いにくい領域にも真剣に取り組むことができます。

学びは“趣味”から始まってもいい

小説や映画、あるいはパチンコのような娯楽も、突き詰めれば研究になる可能性があります。重要なのは、何を学ぶかではなく、どのように向き合うか。学びの形は人それぞれであり、在野研究というスタイルは、その多様性を受け入れる柔軟な器でもあるのです。

まとめ

ここまで、専門家や実践者へのインタビューを基に社会人の継続的な学びについてさまざまな視点から見てきました。社会人の継続的な学習や学び直しは、もはや一部の“意識の高い人”だけのものではありません。

大学や大学院などの教育機関での学びだけでなく、社会教育や在野研究といった多様な学びの形が広がる中で、学びは「キャリアのため」だけでなく、「生き方そのもの」を問い直す活動へと変化しています。

今後求められるのは、こうした個人の学びを支える制度や場の整備だけでなく、学びを尊重し合う文化の醸成です。誰もが自由に問いを立て、知を深め、他者と共有できる社会──それは、経済的な成果だけでなく、精神的な豊かさをもたらす可能性を秘めているのではないでしょうか。今回の連載企画がそのヒントになれば幸いです。

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