【分析事例】「AIを使いこなす人」は何が違うのか?~“自動化”と“拡張化”の分岐点~

神谷俊
著者
株式会社エスノグラファー代表取締役 バーチャルワークプレイスラボ代表
SHUN KAMIYA

「社員がAIを使うようになって生産性は一部改善しました。しかし、正直“そこ止まり”ですね」
「業務の効率化は進みました。ただ『帰宅時間が早まった』以上の変化は見えていません」

最近、経営層からこのような相談を受ける機会が増えています。

近年、AIの利用率は着実に高まり、議事録作成や資料作成、情報収集・要約など、多くの業務が短時間でこなせるようになりました。生産性向上という点では、AIは確かな成果を生み出していると言えるでしょう。

しかし、「会社として何が変わったのか」と問われると、答えに詰まる企業も少なくないのではないでしょうか。業務は効率化されたものの、新たな価値創造や事業成果につながった実感はまだ限定的です。

本コラムでは、AI活用に潜む“落とし穴”を確認しつつ、「AIをより良く活用できる人」がどのような特性を持ち、その特性がどのように育まれるのかを、実際の分析事例をもとに考えていきます。

いま、AI活用の論点はどこにあるのか?

最初に、AI活用の「現在地」を確認しておきましょう。

以下は、2025年にリリースされた総務省の調査(※1)です。これによると、生成AIの利用率は米国90.6%、ドイツ90.3%、中国95.8%に対し、日本は55.2%にとどまっています。興味深いのは、AI活用が進んでいる国では、業務効率化だけでなく、「斬新なアイデアの創出」や「新たなイノベーションの実現」といった価値創出を目的としている傾向が相対的に多く見られる点です。

生成AIの利用率が高い国ほど、「ビジネス拡大」「イノベーション」への影響・期待が大きくなる。
生成AIの利用率が高い国ほど、「ビジネス拡大」「イノベーション」への影響・期待が大きくなる。

私たちはAI導入というと「効率化」をイメージしがちですが、他国ではそれにとどまらず、新たな事業機会の創出や競争優位の構築といった、より大きなインパクトを狙って活用を進めるケースも見られます。

つまり、AIを活用してどのような価値を生み出そうとするのか。その目的や期待する成果は、国や企業によって大きく異なるということです。

こうした状況を企業レベルで示しているのが、次の調査(※2)です。米国企業の経営層を対象に実施されたこの調査によれば、多くの企業は依然として試験導入(パイロット)や部分的な業務効率化の段階にとどまっています。

AIを事業変革や競争優位の源泉として活用する「レベル4(拡大段階)」「レベル5(成熟段階)」に到達している企業は一部見られるものの、2025年時点ではおよそ2割にとどまっています。

AI活用のレベル別企業分布
AI活用のレベル別企業分布

この結果が示唆しているのは、AIの導入や効率化と、変革の実現のあいだには大きな「壁」が存在しているということです。AIツールを導入すること自体はそれほど難しくありません。しかし、業務プロセスや意思決定の仕組み、さらには組織のあり方そのものを変革しようとすると、その難易度は一気に高まります。

現在の日本において、AIの導入は量的な観点で見れば着実に進みつつあります。他方で、企業の現場に目を向けると、AIを活用して新たな価値創出や事業変革につなげるフェーズで、多くの企業がこの「壁」に直面しているようにも見えます。この壁は、どうしたら乗り越えていけるのでしょうか。

次章からは、AI活用の「壁」の本質を捉えていきます。

AI活用の壁――「自動化」と「拡張化」の違い

「壁」について理解を深める際に、まず押さえておきたいのが、AI活用には大きく2つの方向性があるという点です。それが「自動化(automation)」と「拡張化(augmentation)」です(※3)。

「自動化」とは、既存の業務を維持したまま、その遂行をAIに代替させる活用法を指します。たとえば、議事録作成を考えてみましょう。既存の議事録フォーマットをAIに読み込ませ、その仕様どおりに作成させる。これは典型的な「自動化」です。

自動化の目的は、業務遂行をAIに代替させ、効率化を達成する点にあります。前述した5段階モデルに当てはめれば、レベル3に相当する活用と言えるでしょう。時間や工数は大きく削減されますが、業務プロセスや提供価値そのものは基本的に変わりません。

一方、「拡張化」とは、AIと人間が対話を重ねながら、仕事の進め方や価値の生み出し方そのものを再設計していく活用法です。先ほどの議事録の例でいえば、「そもそも議事録は何のために必要なのか」「会議の成果を高めるためには、どのような情報が残されるべきなのか」といった本質的な問いを、AIとともに掘り下げていきます。

すると、「議事録とは会議内容を記録するもの」という従来の前提から離れ、「会議後の行動を促進する仕組み」「役割や責任を明確化するツール」といった新たな視点が生まれてくるかもしれません。

さらに、その視点をもとに、AIが決定事項の整理や担当者ごとのタスク設計、さらには実行計画の策定まで担うようになれば、それは単なる議事録ではなく、会議の成果を実行につなげるマネジメントツールへと進化していきます。

拡張化が進むと、変わるのは個々の業務だけではありません。業務プロセスそのものや部署の役割分担、さらには組織のあり方まで見直されるようになります。5段階モデルで言えば、レベル4からレベル5へと向かう変革を促進する活用だと言えるでしょう。

ただし、ここで注意したいのは「自動化が悪く、拡張化が良い」というシンプルな話ではないという点です。AI活用を高度化するためには、両者を循環させることが欠かせません(※4)。まず自動化によって時間を生み出す。そして、その余力を使って拡張化を進め、新しい仕事のやり方や価値創造の方法を探索する。さらに、そこで生まれた新しい仕組みを再び自動化していく。このサイクルが回り始めることで、AI活用は単なる効率化を超えた競争力へとつながっていきます。

しかし現実には、多くの企業や個人の活用は「自動化」に偏りがちです。先ほどの調査結果にも見られたように、効率化は進む一方で、「仕事や業務プロセスそのものを変える」というステージにはなかなか至らないことが多いようです。なぜ、私たちは自動化に留まってしまうのでしょうか。

なぜ「自動化」に偏るのか――AI依存という“逆機能”

ここに、AI活用の見落とされがちな“逆機能”の問題が潜んでいます。近年、AIへの過度な依存がもたらすリスクが、いくつかの研究で報告されはじめています。その中でも主要なものが、次の3点です。

  • 認知能力の低下(※5):AIを長時間使用することで、思考力・記憶力の低下リスク。
  • 批判的思考の低下(※6):AIの使用により、本質的・俯瞰的な思考が停滞するリスク。
  • 自律的な学習の低下(※7):AIの依存度が高まるにつれ、自己効力感が低下し、自律的に学習をする姿勢が低下するリスク

皮肉なことに、「目の前の仕事をAIで効率化しよう」と熱心に自動化を進めるほど、「仕事そのものを変えていこう」という高次の思考は、かえって痩せ細っていきます。自動化によって効率的に業務を進むことができたとしても、それによって生まれた余剰資源を何に投資していくべきか、AIを使い込むほどに「それで、どうするのか?」といった次の価値創造を見込む思考が働きにくくなっていきます。

この逆機能を踏まえると、「AIをたくさん使わせること」や「AIによって効率化を促すこと」は必ずしも企業にとって目指すべきゴールではないことが分かります。

AI導入が進み始めている今、私たちが向き合うべき問いは「どうすれば“拡張化”の方向に活用が進められるのか?」です。手がかりは、すでに拡張的に使いこなしている人々の中にあります。

〈分析事例〉「活用できる人」は何が違うのか?

弊社では複数の企業で、社員のAI活用実態に関する調査・分析を進めています。今回は、そのうち事例公開の許諾をいただいたITサービス企業A社(有効回答853名)の結果を一部ご紹介しながら、AI活用のヒントを探っていきましょう。まず、同社の従業員のAI活用状況を以下の5段階に分類し、それぞれの割合を分析しました。

AI活用レベルの定義
AI活用レベルの定義

下記の結果を見ると、多くの社員はAIを「便利なツール」として利用するLv1、あるいは壁打ちや情報整理、仮説構築などの認知支援に活用するLv2にとどまっていました。

一方で、AIを前提に業務プロセスそのものを見直したり、新たな仕事の進め方を生み出したりするLv3以上の社員は3割程度にとどまっています。A社は数年前からAI活用を積極的に推進してきた企業です。それにもかかわらず、AIを単なる効率化ツールとしてではなく、仕事の変革につなげる「拡張化」の段階に到達している社員は、まだ一部に限られていることが分かります。

A社に対するデータ分析事例
A社に対するデータ分析事例

ただし、注目すべきは構成比率そのものではありません。本質的に重要なことは、Lv3以上の「拡張化」を実現している社員は、「他の社員と何が違うのか?」という点です。この問いに答えるため、私たちはさらに分析を進めていきました。

AI活用の分岐点は「仕事の捉え方」の違い

「拡張化」を促しているものは何か?

A社のデータをもとに、AI活用レベルに影響を与える要因を分析し(図内:分析結果①)、さらにパス解析によって変数間の関係を整理しました(図内:分析結果②)。すると、より自動化にとどまる社員と、拡張的な利用を展開する社員の“分岐点”が見えてきました。

まず分析結果①を見ると、「職務解釈レベル(抽象・高次)」「コンセプチュアル・スキル」「批判的思考の駆動」が、AI活用レベルと強く関連していることが分かります。

つまり、発展的にAIを活用している人ほど、自分の仕事を俯瞰的に捉え、本質的に重要なことは何かを考える特性を持っていることが分かります。言い換えれば、仕事の意味や価値を深く理解しようとする人ほど、AIを効果的に活用している傾向が見られました。

さらに分析結果②では、その中でも特に「職務解釈レベル」が発展的なAI活用に影響を与えていることが示されました。

A社の分析結果(抜粋)~発展的なAI活用をしている人は何が違うのか?~
A社の分析結果(抜粋)~発展的なAI活用をしている人は何が違うのか?~

ここでいう「職務解釈レベル」とは、自分の仕事をどの高さから捉えているかを表す概念です。

少し分かりにくいので、たとえば採用担当者が面接日程を調整する場面を考えてみましょう。職務解釈レベルが低い社員の場合、その社員は自分の仕事を「候補者と面接官の予定を調整すること」だと捉えるでしょう。いかに効率的にその仕事を達成できるかを考えて、業務を進めていくはずです。

一方、職務解釈レベルが高い社員は、異なる解釈をします。彼らにとって「候補者と面接官の予定を調整すること」は、「選考期間の短縮を達成するための戦略タスク」なのかもしれませんし、あるいは「優秀な人材を社内のハイパフォーマーに引き合わせる重要な機会提供」なのかもしれません。彼らはそのタスクの意味や価値を考えながら業務を遂行します。

目の前の業務を単なる作業としてではなく、「何のために行うのか」という目的から捉えているのです。そのため、同じ日程調整であっても、候補者と面接官の組み合わせを工夫したり、面接で確認してほしい内容を事前に共有したりと、仕事の進め方は大きく変わるはずです。

今回の分析結果では、AI活用の差を生み出しているのも、この視点の違いによるものだということです。目の前の作業だけに注目すると、「どうすれば早く終わらせられるか」という発想になりやすく、AI活用も自動化にとどまります。

一方で、仕事の目的から考えることができれば、「この工程は本当に必要なのか」「もっと良い方法はないのか」と多角的な問いが生まれます。その結果、AIは単なる効率化ツールではなく、既存の価値を問い直し、新たな価値を生み出すためのトリガーになっていくのです。

「活用できる人」は、どうつくられるのか?

では、このようにAIを発展的に活用できる人は、どのように育まれるのでしょうか。

私たちは先の分析で見出された「職務解釈レベル」に着目し、その形成要因をパス解析によって検証しました。その結果、特に大きな影響を与えていたのが「人脈」と「経験」でした。

職場の中で多様な人と関わり、部署や職種を越えたネットワークを持つ人ほど、多様な経験や視点に触れる機会が増えます。その経験の積み重ねが、仕事をより俯瞰的に捉える力、つまり「職務解釈レベル」を高めていることが分かりました。

この結果は、日本企業がジョブローテーションを通じて管理職候補を育成してきた考え方やプロセスとも重なります。人は、自分とは異なる立場や価値観を持つ人や異なるフィールドやコミュニティと関わることで、新たな視点を獲得していきます。その視点の蓄積が、より高い視座を形成していくのです。

出会う人の幅が広いほど、仕事を捉える視点も豊かになります。そして、その視点の広がりが、A社においては職務解釈レベルを育み、AIをより発展的に活用する土台になっていることが分かりました。

おわりに

A社の分析事例が示唆的だったのは、AI活用レベルを高める要因が、AIに関する技術や専門知識「以外」にあったという点です。発展的なAI活用を促していたのは、職務解釈レベルや人脈・経験といった、一見するとAIとは直接関係のない要素でした。

「AIを本質的に活用できる人」は、単にAIの使い方を知っている人ではありません。日々どのような仕事に向き合い、どのような人と関わり、どのような経験を積んできたのか。その蓄積が、AIに投げかける問いや活用の仕方に表れているのです。

AIは、人間にとって外部化された“もう一つの脳”と捉えることができます。しかし、その脳をどのように使うかは、人間側の視点や思考に委ねられています。視野の広い人はAIに多面的な問いを投げかけ、本質を考える人はAIにも本質的な思考を求めます。

だからこそ、AI人材の育成を技術研修やツール教育だけで捉えるのは十分ではありません。大切なことは、多様な人と出会い、多様な仕事を豊かに経験し、新たな視点を獲得できる機会をいかに設計するかです。部署を越えた交流や越境経験を促すこと。

上司との対話を通じて視野を広げること。挑戦や試行錯誤を後押しすること。こうした環境への投資こそが、結果としてAIを使いこなし、新たな価値を生み出せる人材を育てる土台になるのではないでしょうか。


※1 総務省(2025)「国内外における最新の情報通信技術の研究開発及びデジタル活用の動向に関する調査研究」
※2 McKinsey & Company. (2025). *Superagency in the workplace: Empowering people to unlock AI’s full potential at work.
※3 Wolfe, D. A., Choe, A., & Kidd, F. (2025). The architecture of AI transformation: Four strategic patterns and an emerging frontier. arXiv.
※4 Raisch, S., & Krakowski, S. (2021). Artificial intelligence and management: The automation–augmentation paradox. Academy of Management Review, 46(1), 192–210.
※5 Kosmyna, N., Hauptmann, E., Yuan, Y. T., Situ, J., Liao, X.-H., Beresnitzky, A. V., Braunstein, I., & Maes, P. (2025). Your brain on ChatGPT: Accumulation of cognitive debt when using an AI assistant for essay writing task. arXiv.
※6 Lee, H. P., Sarkar, A., Tankelevitch, L., Drosos, I., Rintel, S., Banks, R., & Wilson, N. (2025, April). The impact of generative AI on critical thinking: Self-reported reductions in cognitive effort and confidence effects from a survey of knowledge workers. In Proceedings of the 2025 CHI conference on human factors in computing systems (pp. 1-22).
※7 Estrada-Araoz, E. G., Mamani-Roque, M., Quispe-Aquise, J., Manrique-Jaramillo, Y. V., & Cruz-Laricano, E. O. (2025). Academic self-efficacy and dependence on artificial intelligence in a sample of university students. Sapienza: International Journal of Interdisciplinary Studies, 6(1), e25008.

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