標準なき時代に、ワークキャリアの入り口を再考する――学びと仕事は、どのように接続されてきたのか

東郷 こずえ
著者
キャリアリサーチLab主任研究員
KOZUE TOGO

学びと仕事の関係は、どこから始まるのか

日本型雇用慣行の一つである新卒一括採用が一般的とされている日本企業で働く人にとって、進路やキャリアの話をするとき、つい無意識のうちに「大学に進学し、新卒で就職する」という流れを思い浮かべがちである。どの大学を選ぶか、どの企業に就職するかが、その後の人生を大きく左右する。そんな語られ方が、これまで繰り返されてきた。

しかし、あらためて考えてみたい。ワークキャリア(職業人生)は、本当にその一点から始まるものなのだろうか。そして、学びと仕事の関係は、いつから、どのような形で「標準化」されてきたのだろうか。

本連載「標準なき時代に、ワークキャリアの入り口を再考する」では、キャリアを「個人の選択」や「努力」の問題としてではなく、学びと仕事がどのように接続されてきたかという構造の問題として捉え直す。その第一歩として、本稿では、ワークキャリアの「入り口」がどのように形づくられてきたのかを整理していきたい。

ワークキャリアの入り口は、そもそも一つではない

大学進学率の推移

日本社会において、就職に至るルートはそもそも一つではない。大学を卒業して新卒で就職する人がいる一方で、高校卒業後に就職する人、専門学校などで職業教育を受けてから社会に出る人も、長く一定数存在してきた。

文部科学省「学校基本調査」によると、短期大学を含む大学進学率は2025年時点で61.4%である。大学(学部)に限定するとその進学率は58.6%だ。図1のとおり、「大学等進学率」は上昇傾向にあり、多数派ではあるが、それでも大学進学をあたかも「標準的なルート」として語れるほどの状況とはいえないだろう。

【図1】大学等進学率の推移/「学校基本調査」(文部科学省)
※年次推移で用いている「大学進学率」は、短期大学と大学(学部)入学者数を、3年前の中学校卒業者数で割ったもので、過年度卒業者も含まれる。
【図1】大学等進学率の推移/「学校基本調査」(文部科学省)
※年次推移で用いている「大学進学率」は、短期大学と大学(学部)入学者数を、3年前の中学校卒業者数で割ったもので、過年度卒業者も含まれる。

それにもかかわらず、特に会社員のキャリアを考えるうえで「大学から就職」というモデルが、あたかも「標準」であるかのように語られてきた側面がある。

ここで重要なのは、「大学に行く人/行かない人」という二分法ではない。どういった接続の形が社会全体の中には存在しているのかという点をあらためて整理したい。

高校卒業後の進路–地域による違い

もう一つ、先入観を解くうえで押さえておきたいのは、ワークキャリアの入り口が全国で一様ではないという点である。文部科学省「学校基本調査」に基づく2025年の高校卒業後の状況に関して、都道府県別のデータを見ると、地域により、進学と就職の構成は大きく異なることが確認できる。

【図2】都道府県別 大学等進学率と卒業後に占める就職者の割合/「学校基本調査」(文部科学省)
※都道府県別の数値は、高校卒業後の進路に基づく進学率であり、高校卒業者を分母とする。
【図2】都道府県別 大学等進学率と卒業後に占める就職者の割合/「学校基本調査」(文部科学省)
※都道府県別の数値は、高校卒業後の進路に基づく進学率であり、高校卒業者を分母とする。

たとえば東京都では、高等学校卒業後の大学等進学率が74.8%、就職率が3.9%である一方で、九州や東北などの地方部では就職率が2割を超える県も少なくない。

つまり「学びから仕事への接続」は、個人の志向だけで決まるものではなく、地域の産業構造や、移動のしやすさといった条件とも結びついている可能性がある。

高卒就職の仕組み

高校卒業後に就職する、いわゆる高卒就職は、学歴による例外的な選択ではない。日本の労働市場において、長年にわたって機能してきたワークキャリアの入り口の一つである。統計で見ても、その規模は小さくない。学校基本調査によると、2025年の全国値では、高等学校等卒業者に占める就職者の割合は13.7%である。

日本の高卒就職は、大学卒業者の就職活動とは大きく異なり、文部科学省・厚生労働省を中心とした公的ルールに基づいて運用されている。その最大の特徴は、学校(高校)・ハローワーク・企業が連携する「学校斡旋型」の就職制度である。

文部科学省・厚生労働省が関与する全国共通ルール

高卒就職については、文部科学省、厚生労働省、全国高等学校長協会、経済団体などが参加する
全国高等学校就職問題検討会議」において、毎年、採用選考の時期や運用ルールが確認・周知されている。

たとえば、2026年3月卒業予定者(令和8年3月卒)については、以下のような全国共通のスケジュールが示されている。

  • 6月1日:ハローワークによる高卒求人の受け付け開始
  • 7月1日:企業による学校への求人申し込み・学校訪問開始
  • 9月5日:高校から企業への応募書類提出(推薦)開始(沖縄県は8月30日)
  • 9月16日:企業による選考・内定開始

これらの期日は、法律そのものではなく「申し合わせ」とされているが、実際には高校教育への影響や生徒の公平性を確保する観点から、事実上厳格に遵守されている。違反した企業は、学校からの信頼を失い、翌年度以降の求人受理が難しくなるケースもあるとされている。

「一人一社制」に代表される高卒就職特有の慣行

高卒就職の大きな特徴の一つが、「一人一社制」に代表される就職慣行である。これは、一定期間において、生徒が同時に応募できる企業数を一社に限定することを原則とする仕組みであり、法律ではなく、国・自治体・学校・産業界の申し合わせによって運用されてきた。

この慣行は、

  • 就職活動の早期化や過度な競争を防ぐ
  • 短期間で多くの生徒に就職機会を行き渡らせる
  • 高校教育や進路指導への影響を最小限に抑える

いった目的から形成されてきたものだ。
(引用元:厚生労働省・文部科学省「高等学校就職問題検討会議ワーキングチーム報告書」(令和2年)

制度としては「維持」、運用としては「緩和」

現在の高卒就職制度は、しばしば「一人一社制が厳格に維持されている」と理解されがちだが、実態はより複雑である。

内閣府「1人1社制をはじめとする高卒雇用慣行の見直しについて」の整理によれば、多くの都道府県では、

  • 応募開始から一定期間は一人一社を原則としつつ
  • 10月以降などに複数応募を認める

という段階的な運用が一般的になっている。また、一部の府県では、当初から複数応募を認めるなど、地域の実情に応じた柔軟な対応も行われている。

したがって現在の高卒就職は、「一人一社制を原則としつつ、地域・時期限定で緩和されている制度」と理解するのがもっとも実態に近い。

なぜ「一人一社制」は事実上残り続けているのか

制度見直しが進む一方で、実際の現場では、「最初は一社に絞って進める」という運用が今も広く用いられている。その理由は、単なる慣習や保守性ではなく、教員側・企業側それぞれの合理的判断にあると考えられている。

教員側の事情①:卒業までに、できるだけ多くの生徒を就職させる責任

高卒就職において、進路指導は個々の生徒支援であると同時に、学校としての結果責任を伴う業務でもある。実際、高校生の就職率は長年にわたり90%台後半という高水準を維持してきた。2025年3月末時点の就職率(就職希望者に対する就職者の割合)は、98.0%であり、大卒の就職率と同程度となっている。(引用元:文部科学省「高等学校卒業(予定)者の就職(内定)状況調査」

厚生労働省・文部科学省の検討会議では、この高い内定率が、「応募を分散させすぎない」「内定辞退を極力抑える」「学校推薦を前提とした信頼関係を保つ」といった、一人一社制を基本とした運用によって支えられてきた点が指摘されている。
(引用元:「高等学校就職問題検討会議ワーキングチーム報告書」

また、初期段階から広く複数応募を認めた場合、「内定を複数得る生徒と、最後まで内定に至らない生徒の二極化」「就職活動の長期化」「学業・学校行事への影響」が生じるおそれがあることも、同報告書では整理されている。

教員の立場から見れば、一人一社制は「生徒の選択を制限する制度」であると同時に、「誰も取り残さないための調整装置」として機能してきたと考えられる。

教員側の事情②:進路指導業務という現実的制約

もう一つの重要な理由が、教員の業務負担である。

高卒就職では、

  • 求人票の管理
  • 推薦判断
  • 企業との連絡・調整
  • 不採用後のフォロー

といった多くの業務を、進路指導担当教員が担っている。

複数応募が前提になると、推薦書作成や企業対応が増え、内定辞退時の説明責任も重くなる。実際、複数応募を制度化した地域でも、利用が限定的にとどまっている理由として、「教員負担の増大」が繰り返し指摘されている。
(引用元:内閣府 規制改革推進会議 高卒就職システムに関するワーキング・グループ資料

企業側の事情:採用計画の見通しと信頼関係

企業側にとっても、一人一社制は合理性を持つ。

高卒採用では、「推薦された生徒は原則として辞退しない」という前提のもとで、学校との信頼関係が築かれてきた。

この前提があるからこそ、「採用計画が立てやすい」「内定辞退リスクが低い」「中小企業でも安定的に高卒採用ができる」というメリットが生まれている。

内閣府の資料では、仮に一人一社制を一律に撤廃した場合、

  • 内定辞退の増加
  • 採用活動の長期化・コスト増
  • 高卒採用から撤退する企業の出現

といった影響が想定されることも明示されている。
(引用元:内閣府 規制改革推進会議 高卒就職システムに関するワーキング・グループ資料

高い就職内定率、生徒・教員の負担軽減、学校と企業の信頼関係という観点から、現時点では完全な自由化よりも「管理された選択」が合理的だと判断されている結果だと理解できる。

そして現在進められている見直しは、「維持か廃止か」ではなく、「どこまで管理し、どこから自己決定を広げるか」を再設計するプロセスにある。

専門学校卒就職の仕組み

専門学校卒就職は、高卒就職とも大卒就職とも異なる、もう一つの「キャリアの入り口」である。その最大の特徴は、学ぶ内容と就く仕事の距離が非常に近いことにある。

専門学校(専修学校専門課程)は、学校教育法で「職業もしくは実際生活に必要な能力の育成」を目的とする高等教育機関として示されており、制度設計の段階から明確に「就職」を見据えた教育が組み込まれている。

なお高校卒業から専門学校に進学する割合は直近では2割以上を維持して推移しており、キャリア形成の選択肢としての存在感は大きい【図3】。

【図3】専修学校(専門課程)進学率の推移/「学校基本調査」(文部科学省)
【図3】専修学校(専門課程)進学率の推移/「学校基本調査」(文部科学省)

専門学校は「就職準備の場」として制度化された教育機関

専門学校の教育は、大学のように学問分野を広く探究するモデルとは異なり、特定の職業・業界への移行を前提とした教育として設計されている。

多くの専門学校では、

  • 実習・演習がカリキュラムの中核を占める
  • 業界経験者を教員として配置する
  • 企業との連携による実務的な課題・インターンシップを組み込む

といった形で、在学中から仕事に近い環境に身を置くことが想定されている。

つまり専門学校は、「卒業後に就職活動を始める場所」ではなく、学んでいる最中から、すでに職業世界との接点を持つ場所である。

「学校→企業」の移行を前提に組み立てられた就職プロセス

専門学校卒就職のもう一つの特徴は、就職活動が学校を軸に組織化されている点にある。

多くの専門学校では、

  • 学校に集まる求人をもとに進路指導が行われる
  • 教員やキャリア担当者が、学生と企業の間に立って調整する
  • 卒業生の就職実績が、次年度以降の求人につながる

といった循環が成立している。

これは高卒就職における学校推薦制と共通する側面を持ちつつ、専門分野・職種別のマッチングに特化している点で異なる。

結果として専門学校卒業者の多くは、「専門学校で学んだ分野と関連性の高い職種」に就いているという傾向が続いており、キャリアの入り口でのミスマッチが相対的に起きにくい構造になっている。

なお、専門学校卒の新卒就職については、大卒就職のような全国共通の採用スケジュールや、高卒就職のような制度化されたルールは設けられていない。

その代わり、分野特性や学校のカリキュラム、企業との関係性に応じて、分野別・学校別に異なる進行ペースが形成されている

専門学校卒の就職率についても、大卒と同様の水準で高くなっており、令和7年3月卒(2025年3月卒)の就職率については、大卒が98.0%、大学等に専修学校(専門課程)を含めた就職率が98.1%となっている。
(引用元:「大学・短期大学・高等専門学校及び専修学校卒業予定者の就職内定状況等調査」/文部科学省

就職率の高さの背景にあるのは、

  • 入学時点で「就きたい職業」が比較的明確であること
  • 必要な技能・資格を集中的に身につけていること
  • 学校と業界との継続的な関係性が存在すること

といった、制度全体としての設計である。

言い換えれば専門学校卒就職は、「幅広い選択肢の中から選ぶ」入口ではなく、「選んだ分野に確実に入っていく」入口として機能してきたキャリアルートだといえる。

専門学校卒就職にみられるキャリア形成の特徴

専門学校卒のキャリアには、あらかじめ想定されやすい特徴がある。それは、キャリアの初期段階では、学んだ専門分野に近い領域で経験を積むことが重視されやすいという点だ。

専門性に基づく就職では、

  • 初期配属が、学修した分野や職種と強く結びつきやすい
  • 職種をまたぐ異動や分野外への転職は、一定の実務経験を積んだ後に生じやすい

といった傾向がみられる。

ただし、これは「進路の選択肢が狭い」という意味ではない。むしろ、専門性を起点に経験を積み重ね、その価値を高めていくタイプのキャリア形成と捉えることができる。

実際には、一定期間の実務経験を経た後に、

  • 同じ分野内での役割拡大やキャリアアップ
  • 専門性を生かした関連職種への展開
  • 大学編入や学び直しを通じたキャリアの再設計

といった形で、進路をあらためて選び直す人も少なくない。

専門学校卒は、「学びの目的」「就職までのプロセス」「キャリア初期に求められる役割」のいずれにおいても、大卒就職とは異なる論理で成り立っている。

専門学校卒就職は、「学びと仕事を早く接続すること」を選んだキャリアの入り口であり、高卒就職や大卒就職と同様、社会の中で制度的に支えられてきた一つのルートなのである。

なぜ今、ワークキャリアの入り口を問い直すのか

近年、ワークキャリアを取り巻く前提条件は大きく変化している。人口構造の変化や人手不足の進行、AIやデジタル技術の発展、スキルを基軸とした働き方への移行などにより、職業人生は長期化し、流動化している。

こうした環境下では、「どこからスタートしたか」だけで、その後のキャリアが決まる合理性は低下している。むしろ重要になっているのは、途中で学び直したり、役割を組み替えたりできる設計が存在するかどうかである。

にもかかわらず、キャリアの入口に関する議論は、依然として「最初の選択」に過度な重みを置きがちである。その結果、入口の違いが不必要に将来の可能性と結びつけて語られてしまう。だからこそ今、ワークキャリアの入口を「点」としてではなく、その後も含めた連続的な接続のプロセスとして捉え直す必要がある。

本連載が見つめるのは、「接続の設計」である

本連載は、特定の進路を推奨するものではない。大学進学を否定するものでも、高校卒業後の就職や専門学校を特別視するものでもない。

ここで扱うのは、学びと仕事がどのように接続され、どこで分断が生じ、どのような条件があれば再びつながり直すことができるのか、という設計の問題である。ワークキャリアの入口は複数あってよい。問われるべきなのは、その先が閉じていないかどうか、そして途中で組み替えられる余地が社会の側に用意されているかどうかである。

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