コミュニケーションで職場を変える-チーム力や組織力を改めて見直す

片山久也
著者
キャリアリサーチLab編集部
HISANARI KATAYAMA

ジョブ型雇用の導入やリモートワーク、副業など、私たちの働き方がこれまで以上に広がる中で、仕事において集団・組織として活動するだけでなく、個人で活動することも多くなったのではないだろうか。

そこで改めてチームや組織で働くことで得られるものはなにか、どのような点に注意をしながら取り組むとより成果を上げやすいのか、どうすれば組織文化や組織風土を醸成できるのか、といった視点から専門家や企業にインタビューを実施した。

本稿は、連載企画を通しておこなった3つのインタビューの内容からエッセンスを束ね、現場で生かせる視点とヒントをまとめている。

組織市民行動の視点からチーム力や組織力を捉える

チームや組織の運営において、一人ひとりの自発的な行動が重要視されている。その鍵となるのが「組織市民行動(OCB)」だ。これは職務記述書(ジョブディスクリプション)にない自発的な行動で、報酬や評価の対象ではないものの、組織の機能や雰囲気を向上させる行動を指す。

たとえば、同僚を助ける、会議の雰囲気を和らげる、問題を未然に防ぐなどの行動が挙げられる。以下では、日本大学大学院 総合社会情報研究科の田中堅一郎教授にインタビューした記事より引用している。

組織市民行動を促す土壌とは

田中教授によると、組織市民行動が起きやすい環境には「公正さの認知」が不可欠だ。従業員が処遇や評価を公正だと感じることで、自発的な行動が促進される。さらに、以下の要因が重要となる。

  • 職務満足感:満足度が高いほどポジティブな行動が増える
  • 組織コミットメント:「この会社が好き」という気持ちが行動を後押し
  • 支援的リーダーシップ:部下を積極的に支援する上司の存在
  • 組織からのサポート:従業員が「大切にされている」と感じること

公正さを具体化するには、評価や処遇の手続きを一貫させ、透明性を確保することが重要だ。さらに、従業員が納得できない場合に説明を求められる仕組みや、意見を述べる機会を設けることも必要となる。評価結果を誠実にフィードバックする「対人的公正」が欠けると、ネガティブな感情が噴出し、反社会的行動に発展するリスクがある。

組織市民行動がもたらす効果

報酬や評価の対象ではない組織市民行動だが、本来の業務に悪影響を与えるどころか、個人の成果や職場全体の業績向上に寄与する。理由は、職場全体を見渡す視点が養われ、同僚や部署間の協力が進むためだ。結果として、離職率の低下や優秀人材の定着、さらには組織の魅力向上にもつながる。

主な効果

  • 生産性の向上
  • 資源の有効活用
  • 離職率低下
  • 組織の安定性と柔軟性向上

管理者に求められるバランス感覚

ただし、過剰な組織市民行動は業務負担増やワーク・ファミリー・コンフリクトを招く恐れがある。経営者や管理者は、従業員の自発性を尊重しつつ、過度な負担を防ぐマネジメントが必要だ。自由度と管理のバランスを取ることが、健全な職場文化を育む鍵となる。

公正な職場環境は、組織市民行動を促し、チーム力や組織力を高める「見えない力」を生み出す。評価の透明性や誠実なコミュニケーション、そして支援的なリーダーシップが、その土壌をつくるのだ。組織の未来を強くするために、今こそ「公正さ」を再確認する時期といえるだろう。

株式会社ヤマップの事例から学ぶ

ここでは、株式会社ヤマップの事例を紹介する。

偶発的なコミュニケーションを取り戻すための制度

リモートワークや働き方の多様化により、職場で偶発的な会話やアイデアが生まれにくくなってはいないだろうか。株式会社ヤマップは、登山者向けアプリ「YAMAP」を提供する企業だが、社員のライフスタイルを尊重する「居住地フリー制度」を導入している。

国内であれば居住地を選べる仕組みだが、現在は東京・福岡の拠点から2時間以内で出社可能な範囲に制約を設けている。背景には、オンライン中心の業務でコミュニケーションが希薄化し、偶発的なアイデアが生まれにくくなったという課題がある。

そこでヤマップは、週2回程度の出社を努力目標とし、社員の「自律自走」を重視した運用を行っている。制度を活用し甲府市に移住した社員は「朝に山へ登り、戻って仕事をする」というライフスタイルを実現しており、フレックスタイム制と居住地フリー制度の組み合わせが、社員の“好き”を生かした働き方を可能にしている。

深い対話を生む「社内登山制度」

株式会社ヤマップの業務にも直結する部分もあるが、こうした自由度の高い働き方を補完する施策が「社内登山制度」である。業務時間内に行う登山を制度化し、交通費や経費を会社が負担する仕組みだ。部門単位の登山に加え、部署横断の「シャッフル登山」も実施している。

山登りは長時間の対話を促し、普段接点のない社員同士が深く語り合う場になる。さらに「苦難を共にする」体験が絆を強め、山頂での達成感が共有されることで心理的距離が縮まる。CEOも参加する「CEO登山」は、経営層と現場の本音をつなぐ貴重な機会となっている。

下山後の温泉や食事も交流を深める要素だ。こうした取り組みは、部署を越えた視点を生み、社内の情報発信や新しい企画にもつながっている。たとえば、広報を担当する社員が、社内登山で会話したエンジニアと話をすることで、エンジニアの成果を社外発信する記事が生まれるなど、偶発的なコミュニケーションが具体的な成果につながっている。

「doing」より「being」を重視する文化

株式会社ヤマップは「doingよりbeing」を重視し、何をするかよりもどう過ごすかを大切にしている。登山に限らず、それぞれの企業にあった「好き」を軸にしたコミュニケーション施策が有効であり、無理なく楽しめる場をつくることが結束を深める鍵である。

社内登山の企画は社員主体で進められ、終了後は必ずレポートを共有し改善につなげている。こうした工夫により、社員の主体性を尊重しながら制度を継続している。今後は拠点を越えたシャッフル登山や、全社集会でのレクリエーション企画など、さらなる進化を目指している。

居住地フリー制度と社内登山制度は、働き方の自由とコミュニケーション活性化を両立させるヤマップ流の工夫である。偶発的なアイデアや深い対話を生む仕掛けは、組織の成長スピードを高めるヒントになるだろう。

三菱電機株式会社の事例から学ぶ

ここでは、三菱電機株式会社の事例を紹介する。

品質不適切行為問題から始まった全社変革

三菱電機は2021年に品質不適切行為問題が発覚したことを契機に、全社的な組織風土改革に着手した。社長自らがリーダーとなり、社内公募で465人が応募、45人のコアメンバーによる「チーム創生」プロジェクトが発足した。

このプロジェクトは半年間の議論を経て「骨太の方針」を策定し、6つの改革軸を打ち出した。まず、双方向のコミュニケーション活性化、業務負荷軽減、情報共有の徹底による風土改善。

次に、役割・権限・責任の適正付与、部門横断の連携、学び合いの機会創出による新しい風土の構築である。特徴はトップダウンとボトムアップの両輪で推進した点にあり、経営陣がタウンホールで従業員と直接対話し、現場は「自分ごと」として改革に取り組んだ。

主要施策には「さん付け」推奨や1on1ミーティング、心理的安全性の浸透、会議改革、情報発信強化などが含まれる。活動開始当初はエンゲージメントスコアに大きな変化がなかったが、3年半の取り組みで改善が顕著となり、2025年には常設組織「カルチャー変革室」が設立された。

カルチャー変革室の役割と現場への浸透

カルチャー変革室のミッションは「ボトムアップで自走できるカルチャー」を築くことである。従業員が主体的に課題を考え、対話し、協働し、挑戦し、学び、成長するというサイクルを回す風土を醸成することが狙いだ。

カルチャー変革室の機能は「ビジョン浸透」「施策企画・実行」「コミュニケーション」「教育」「フィードバック」の5つに分かれる。現場浸透の工夫として、ガイドラインだけでなく「会議あるある川柳」を掲載した卓上ポップや説明動画を活用し、楽しみながら学べる仕掛けを導入した。

心理的安全性の普及では、外部講師による講座やワークショップを実施し、経営層を巻き込むことで浸透を加速させた。さらに、社内外への情報発信を強化し、noteで取り組みを社外にも公開。これにより社内認知度が向上し、他部署から記事化の依頼が増加、社外からの取材やアワード受賞にもつながった。

こうした発信は従業員のモチベーションを高めるだけでなく、他社との情報交換を促進し、日本企業全体の風土改革に寄与する可能性を広げている。

チーム力を高めるための課題と未来像

改革の成果として、部署間のコミュニケーションが活発化し、心理的安全性の向上が確認されている。一方で、個人の優秀さを掛け算に変える「真のチーム力」にはまだ課題が残る。共通目的に向けた率直な意見交換や創造的な議論は途上であり、今後は「自走する組織」をさらに強化する必要がある。

変革推進部門の存在が「任せればよい」という意識を生む懸念もあり、全従業員が主体的に考え行動する文化の定着が不可欠だ。三菱電機は「イノベーティブカンパニーへの変革」を掲げ、縦軸の事業の強みと横軸の連携を掛け合わせ、総合力を最大化することを目指している。

さらに、企業間の協力によって社会全体の風土を変えるという壮大なビジョンも描いている。組織風土改革は競争ではなく協働の領域であり、その積み重ねが日本企業の課題解決につながると考えている。

カルチャー変革室は、この未来像を実現するために、評価制度や研修、情報発信を通じてモチベーションを維持しながら、挑戦と学びの文化を深化させていく。

まとめ

多様なアプローチが生む「チーム力」「組織力」の本質

3つのインタビューに共通するキーワードは「偶発性」「心理的安全性」「自律性」である。日本大学の田中教授が指摘する組織市民行動は、公正な評価や信頼関係を基盤に、個人の自発的行動を促すことで組織力を高める。

また、ヤマップは居住地フリー制度と社内登山制度を通じ、働き方の自由と深いコミュニケーションを両立させ、偶発的なアイデア創出を仕掛けている。そして三菱電機は、品質問題を契機に「骨太の方針」を掲げ、トップダウンとボトムアップの両輪でカルチャー変革を推進し、心理的安全性を組織に浸透させている。

これらの取り組みは、単なる制度導入やガイドライン策定にとどまらず、社員一人ひとりが主体的に考え、対話し、協働する文化を育むことを目指している。働き方が多様化する今、強いチーム力や組織力は偶発的なコミュニケーションと挑戦を支える風土から生まれる。チーム力や組織力を高めるためには、共に過ごす時間の質を高めることが重要なのではないだろうか。

今回の記事がチーム力や組織力向上の一助になれば幸いだ。

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