転職に対する意識は変化したのか
社会の急速な変化とともにキャリアの不確実性が高まり、転職者のほか、転職を望む人や転職に向けて動く人であっても早々に転職しない転職潜在層が広がっている。ここからは、転職を視野に入れてキャリアを捉える人が増えている可能性がうかがえる。
日本型雇用システムを象徴する終身雇用・年功序列・新卒一括採用は“就職=就社”の考え方を浸透させ、正社員として一つの会社で働き続けることが良しとされる風潮もあった。転職に対してはネガティブで偏った見方もあり「仕事が長続きしない」「組織に馴染めない」というレッテルが貼られることもあったが、その風向きは変わりつつあるのかもしれない。
個人のキャリアを取り巻く環境が変化する中で、働く人の転職に対する意識はどのような現状にあるのか。2024年7月~2025年6月の1年間に転職活動を行った1,500名を対象としたマイナビ転職活動実態調査(2025年)のデータから考察する。
ポジティブな視線
【図1】は、マイナビ転職活動実態調査(2025年)の「転職活動時の心境」の結果である。
【図1】転職活動時の心境/マイナビ転職活動実態調査(2025年)
結果を見ると、『転職活動をすることは所属組織に対してうしろめたさがある』と『転職活動をすることにためらいがある』の2項目は「そう思わない(計)」の割合が約6割にのぼり、転職活動を行うことに対する抵抗感が小さい傾向が見られた。転職活動が気軽に始めることができるものとして認識されている可能性がうかがえる。
特徴的だったのは『転職することでキャリアは前進する』について「そう思う(計)」の割合が7割を超えている点だ。かつては転職に対してネガティブな見方もあったが、結果を見る限りでは、転職を後退と考えるというよりも、自身のキャリアの充実に繋がり得るポジティブな選択肢として捉えている人も少なさそうだ。
一方、『転職で所属組織が変わることに対する不安』『転職して所属組織が変わることに抵抗がある』の2項目は「そう思う(計)」の割合が比較的高く、ここからは転職に対する憂慮もうかがえる。転職が広がってきたとはいえ、個人にとっては、組織における地位や信頼、人間関係や企業内スキルなどあらゆるキャリアの蓄積を一度手放し、新しい環境に移ることの負荷は小さくない。未知の世界で新たなスタートを切ることへの不安や心配があるのは当然であろう。
ポイントは、転職がより身近な手段として働く個人のキャリアの選択肢に加わっていることがうかがえる点にある。転職活動をすることに対する心理的ハードルは低く、組織が変わることへの不安はありながらも期待感を持って転職を捉える様子が見て取れた。
個人の意識の変化
キャリア観の多様化
転職が「身近な選択肢」となっている要因はいくつか考えられる。一つは、個人のあらゆるニーズを組織内で満たすことが難しくなっている点だ。キャリア観は多様化し、仕事ばかりに時間やエネルギーを使うのではなく、仕事と私生活を一体としてキャリアを捉える考え方が定着しつつある。
共働き世帯の増加や高齢化に伴う介護の担い手の拡大など組織の外における個人の役割は時代とともに広がっている。仕事と私生活を一体としたキャリア全体へ限られた時間をどのように配分するかは働く人の大きな関心事であり、より柔軟に働くことができる環境への転職を望む人も少なくないだろう。ワークライフバランスやウェルビーイングといった個人視点の指標がこれまで以上に社会で重視されるようになり、企業の経営や人事にもこの観点を取り入れる動きが強まる。
マイナビ転職活動実態調査(2025年)の結果にも個人の私生活重視のニーズがあらわれている。直近1年間に転職活動を行った1,500名に「目指すキャリアパス」を聞いたところ、「私生活中心志向」の割合が「仕事中心志向」の割合を大きく上回った。
また、昇進・昇格を望まない「現状維持志向」の割合は4割を超え、マネジメント志向と相対する「プレイヤー志向」、専門性に特化する「スペシャリスト志向」の割合も高い。無論、個人のキャリアの志向は複雑で可変的であるため、単純化した志向で全てを語ることは難しい。それでも、組織内での垂直方向への上昇や管理職になることを望んでいる人が多数派とも言えず、働く人が思い描くキャリアパスが多様化している実態が結果から見えてきた。【図2】
【図2】目指すキャリアパス/マイナビ転職活動実態調査(2025年)
待遇面での不安
働く人の収入増のニーズを組織内で満たすことも容易でないのかもしれない。働く人の給与に対する関心は高く、転職活動の動機になり得る要素でもある。マイナビ転職活動実態調査(2025年)の「転職活動を始めた理由」では「給与が低かった」が最上位の項目となった。
「転職活動でこだわったこと」でも「納得のいく収入が得られること」はこだわりが強い傾向で、就業先の決定においても重視されることがわかる。【図3、4】
【図3】転職活動を始めた理由(3つまで)/マイナビ転職活動実態調査(2025年)
【図4】転職活動でこだわったこと/マイナビ転職活動実態調査(2025年)
伝統的な日本型雇用システムでは、勤続年数や年齢の上昇とともに賃金の上がり幅が大きくなる仕組みが前提にあり、それによって長期雇用と安定的な暮らしが保証されていた側面がある。ただ近年は、時間経過とともに上がっていた賃金カーブはフラット化の傾向にあり(※1)、一つの組織に長く勤めたところで将来の高い給与が保証される状況とも言い難い。
また組織内での賃金上昇を支える昇進・昇格も、管理職のポスト不足の課題が顕在化している(※2)。誰しもが管理職を望むわけではないだろうが、仮に働く人が組織内での昇給や昇進を望もうとも、その見込みが小さく、給与水準が高い環境へ転職することを選択する人も少なくないと考えられる。
社会の変化
個人の意識の変化と合わせて考えられるもう一つの要因が、社会の変化だ。政府の三位一体の労働市場改革(2023年)では雇用の流動化が経済成長への重要施策として位置づけられ、内部労働市場と外部労働市場のシームレスな接続と雇用の在り方の転換の重要性が示されている。国が「転職の活性化」を促している格好だ。【図5】
| 三位一体の労働市場改革の指針 |
| 内部労働市場と外部労働市場をシームレスにつなげ、社外からの経験者採用にも門戸を開き、労働者が自らの選択によって、社内・社外共に労働移動できるようにしていくことが、日本企業と日本経済の更なる成長のためにも急務である。 |
| 1.リ・スキリングによる能力向上支援 2.個々の企業の実態に応じた職務給の導入 3.成長分野への労働移動の円滑化 |
【図5】新しい資本主義実現会議(令和5年5月)三位一体の労働市場改革の指針をもとにマイナビ作成
雇用が流動的になる中で、副業を通じて所属組織とは異なる環境で自身のキャリアの希望を実現する人も今では珍しくない。他にも一度自社を辞めた人を再び雇うアルムナイ採用を行う企業も徐々に増えている。労働・雇用市場における人の動きが活発化し、個人と組織の関係性の在り方が多様になっていることは、転職と働く人の距離が縮まった一つの要因ではないだろうか。
また転職がしやすい状況が生まれていることも挙げられる。日銀短観によると、企業の雇用人員の過不足状況を示す「雇用人員判断D.I.」(雇用人員について「過剰」と回答した割合から「不足」と回答した割合を引いた値)は10年以上マイナスで推移しており、新型コロナの影響があった2020年に一時上昇したものの現在はバブル期以来の低水準に落ち込んでいる。【図6】
【図6】雇用人員判断D.I. ※日銀短観の結果よりマイナビ作成
転職市場に目を向ければ、転職サービスが多様に広がり、時間や場所を問わず転職活動にアクセスしやすい環境も整いつつある。 さらには、新卒採用の充足が困難になる中で企業の中途採用ニーズは高い(※3)。売り手市場で、働く人が労働移動しやすい環境であることも、転職への期待を後押ししている可能性がある。
転職がより身近な選択肢に
転職に対する意識から読み取れるのは、転職への期待感だけでなく、自身のキャリアを今の組織にすべて委ねるのではなく自己の責任のもとで能動的にキャリアを発展させようとする考え方だと思う。
一つの組織に居続けてキャリアを築くことはメリットも大きく、働く人の多くが優先的なキャリアの選択肢として想定することだろう。それに加えて、自身のキャリアの手札に転職のカードがあることは、不確実性が高く変化が激しい社会における一つの安心材料となるのかもしれない。
キャリアリサーチLab研究員 宮本 祥太
※1 厚生労働省「賃金構造基本統計調査」
※2 マイナビ 2040 近未来への提言「つむぐ、キャリア」
※3 企業人材ニーズ調査2024年版