はじめに
個人のキャリアの選択肢が広がっている。日本型雇用システムを特徴づける終身雇用の前提は揺らぎ、一つの組織でキャリアを全うすることが正解とも言い難い不確実な時代を迎えた。転職が敬遠された過去は遠のきつつあり、働く人の多くが転職することを望み、動いている。
労働市場全体に目を向けると、転職希望者は大幅に増えている一方、転職率に大きな変化は見られない。活発な転職市場の水面下には、転職を望む人、転職に向けて動く人であっても早々に転職はしない「転職潜在層」の存在が透けて見える。
“動けど、移らず”の働く人にはどのような特徴があり、どのようなスタンスで転職と向き合っているのか。また、転職というものが個人のキャリアの中でどう位置づけられているのか。マイナビ転職活動実態調査(2025年)をもとに今時代の転職活動を覗く。
転職希望者の急増
転職を望む人が大幅に増加している。総務省の労働力調査(詳細集計)によると、2024年の正規雇用の転職等希望者(現在の仕事を辞めてほかの仕事に変わりたいと希望している者及び現在の仕事のほかに別の仕事もしたいと希望している者)は564万人。2018年の372万人から192万人増加しており、正規転職希望率(正規雇用者に占める転職等希望者の割合)は15.9%に達する。
ただ、転職者(就業者のうち前職のある者で過去1年間に離職を経験した者)が比例して増えているかと言えばそうでもない。2024年の正規雇用の転職者は99万人。2018年の76万人から23万人増加してはいるものの、正規転職率(正規雇用者に占める転職者の割合)は2%台で推移しており、転職等希望者ほど伸びていない現状がある。【図1・図2】
【図1】転職者数・転職等希望者数 ※総務省「労働力調査(詳細集計)」の結果をもとにマイナビ作成
【図2】就業者・雇用者・転職者・転職等希望者の推移 ※総務省「労働力調査(詳細集計)」の結果をもとにマイナビ作成
転職を望む人が急増する一方で、実際に転職する人はそこまで増えていない。この事象の背後に、多くの転職潜在層が存在している。
転職活動の濃淡
マイナビ転職活動実態調査(2025年)は、転職活動をする人にどのような特徴があるかを明らかにする目的で、2024年7月〜2025年6月の直近1年間に転職活動をした1,500名を対象に実施した(※1)。
転職文脈の調査は「転職を終えた人」を対象に転職後の結果・影響を測定するものが少なくないが、この調査は、実際に転職した人(=転職者)500名、転職活動をしたが転職はしていない人(=転職活動者)1,000名の双方を対象として「転職活動」に焦点を当てている。
調査の軸となる設問の一つとして、直近1年間の転職活動時における「転職活動に対するスタンス」を設け、本人にとって転職がどの程度差し迫って必要なものか(転職の緊要度)の測定を試みた。
結果を見ると、全体では「必ず転職したい」が28.5%、「いい会社が見つかれば転職したい」56.9%、「いざとなった時の転職先が見つかればいい」9.4%、「無理に転職しなくてもいい」5.2%となり、「いい会社が見つかれば転職したい」が多数派となった。転職者と転職活動者を比較すると、「いい会社があれば転職したい」の割合は、転職者が44.2%に対して、転職活動者は64.3%で特に高かった。【図3】
【図3】転職活動に対するスタンス/マイナビ転職活動実態調査(2025年)
回答者は転職に向けた何らかの行動をしているため、大なり小なりの転職意思を持っており、現在所属する組織の外にも目を向けながら自身のキャリアを捉えていると想定できる。このように転職を視野に入れている点で共通性はあるものの、転職の緊要度は人によって異なる様子がうかがえる。
ばらつきがある転職活動のスタンスの背後にはどのような心理があるのか。それを探るため「転職活動に対するスタンス」を選んだ理由の自由記述に着目する。1,500の回答をテキスト分析(※2)した結果、以下の8つのコードに分類することができた。【表1】
| 現状からの脱却 | 給与・人間関係・仕事内容など目先の課題・不満の解決を優先 |
| 更なる成長 | 一層の飛躍や能力向上を目指す未来視点かつポジティブな志向 |
| 予期的行動 | 将来の変化に備える意識や保険として転職活動を行おうとする姿勢 |
| 決定的不満なし | 現状の組織に対して部分的に魅力を感じ、大きな不満がない態度 |
| 必要性が低い | 転職することに焦っていない、急ぐ姿勢が見られない様子 |
| 条件付き | 待遇・働き方・立地などが今よりも良い条件であることが転職の前提 |
| 慎重な見極め | 失敗したくない・妥協したくないなど慎重に転職先を見定める姿勢 |
| 条件が合わない・時間がない | 能力や希望条件が社会の需要と不一致。転職活動の時間が十分にない |
【表1】8つのコード ※理由なしの回答、不明回答は除く
ここからは「必ず転職したい」「いい会社が見つかれば転職したい」「いざとなった時の転職先が見つかればいい」「無理に転職しなくてもいい」の各選択肢別に4つのグループに分けて結果を見ていく。
グループ1:「必ず転職したい」(427件)
グループ1の特徴としてあらわれたのは「現状からの脱却」を求める傾向だ。『給料が見合っていない』『昇進の見込みがない』『上司と合わない』『人間関係をリセットしたい』『仕事内容に興味が持てない』など、仕事内容・待遇・職場環境の自身を取り巻く不満要素の解消を図ろうとする回答が多かった。目下のキャリア課題の解消が転職活動の強い動機となっている様子が見て取れる。
その一方で、「更なる成長」を求めて転職活動を行おうとする層も一定数存在した。『ステップアップしたい』『可能性を知りたい』のワードも見られ、転職することを前提として前向きにキャリアを積み上げようとする志向もうかがえた。【表2】
| 現状からの脱却 | 給与が労働に見合っていない(転職者:女性20代) |
| 現在所属している会社への将来性や昇進が見込めないため(転職活動者/女性30代) |
| 上司と合わない、成長する機会がない、もっと給料が欲しい(転職活動者/男性30代) |
| 人間関係をリセットしたい(転職活動者/女性50代) |
| 前の職場でやっていく自信がなかった。精神的な苦痛を伴っていた(転職者/女性20代) |
| 仕事内容に興味が持てず、やりたい仕事もできないので(転職者/転職者20代) |
| 更なる成長 | 今の会社では自己成長が望めないから(転職活動者/男性40代) |
| 別のキャリアへのステップアップをしたかったので(転職者/男性30代) |
| 自分自身の可能性を知りたいから(転職活動者/男性20代) |
【表2】「必ず転職したい」を選んだ理由(自由回答)抜粋
グループ2:「いい会社が見つかれば転職したい」(854件)
グループ2はグループ1に比べて現状の課題・不満を動機とする層は少なく、転職に対して切迫していない人が多いのが特徴。
現在所属する組織と比較しながら転職活動を進める様子がうかがえ、待遇・働き方(リモートワーク等)・勤務地などの諸条件が現状よりも良いことを前提とする「条件付き」の回答が多かった。「転職の必要性が低い」「組織に決定的な不満がない」という特徴も見られ、必ずしも転職することを前提としていなかったり、早期の転職実現を望んでいなかったりする人も目立った。
また『妥協したくない』『失敗したくない』のワードとして回答にあらわれているように、時間をかけながら「慎重な見極め」を行おうとする姿勢も垣間見えた。総じて、“転職への焦り”が小さく、ある部分では組織に魅力を感じる半面、決して組織の中に埋め込まれることなく、自律的にキャリアを捉える様子がうかがえた。 【表3】
| 条件付き・決定的不満なし・必要性が低い | 必要に迫られた、差し迫った状況での転職ではないのでじっくりと見極めたうえで転職先を見つけようとしているから(転職活動者/男性40代) |
| 今の環境は良いが、それを上回るところがあれば転職したい(転職活動者/女性30代) |
| 前職の待遇自体は悪くなかったので、仕事内容が希望しているものに近ければ考えたいと思っていた(転職者/男性20代) |
| 今の会社に愛着があるから(転職活動者/男性40代) |
| 現職も魅力的な職場なので、転職は将来設計として考えている(転職活動者/女性50代) |
| 無理にとは思わないがいい環境があればそっちで頑張りたいから(転職活動者/男性30代) |
| 慎重な見極め | 給料や働き方に妥協してまで転職したくないから(転職活動者/女性50代) |
| あまり急いだり、転職にとらわれすぎて失敗したくない(転職活動者/男性30代) |
| 納得した上で転職したいから。焦ってするものではない(転職活動者/男性50代) |
【表3】「いい会社が見つかれば転職したい」を選んだ理由(自由回答)抜粋
グループ3:「いざとなった時の転職先が見つかればいい」(141件)
グループ3では「現状からの脱却」を求める人はごく少数派で、将来の変化に備えた「予期的行動」として転職活動を行う傾向が見られた。『逃げ道を作る』『保険をかける』というワードは象徴的な言葉であろう。
またグループ2と同様、決定的な不満がなく転職の必要性が低い層も多かった。グループ3の結果からは、より将来のキャリアにまで目を向け、あらゆる可能性に備えて早めにアクションを起こすような姿も推察できる。 【表4】
| 予期的行動 | 現状は未だ転職するタイミングではないので、いざとなった際に転職できる企業を探したい(転職活動者/男性50代) |
| 会社内の人手不足の状況が悪化した際、すぐに脱出できるように(転職活動者/男性40代) |
| ストレスに耐えれなくなった時の他に良い転職先が見つかればいいなと考えていました(転職活動者/女性30代) |
| 自分に逃げ道を作ることで少し楽な気持ちで働けたり日々を過ごすことができるから。(転職者/男性40代) |
| いつ今の会社がどうなるかわからないから何かの備えとしてあればと思った(転職者/男性30代) |
| 転職してまだ半年くらいだったので、履歴書の事も踏まえて。会社の赤字が続いていたので、いざとなった時の保険をかけておきたかったから。(転職活動者/女性20代) |
| 決定的不満なし・必要性が低い | 前職にすごく不満があったというわけではない(転職者/男性20代) |
| 今は上手くやれているけど今後もそうとは限らないから(転職者/男性20代) |
【表4】「いざとなった時の転職先が見つかればいい」を選んだ理由(自由回答)抜粋
グループ4:「無理に転職しなくてもいい」(78件)
グループ4は、グループ2・グループ3と回答傾向が類似しており、「決定的不満なし」「必要性が低い」という人が多かった。『転職しなくても…』『現職に満足している』『現在の勤務先が働きやすい』など所属組織に対する肯定的な意見も少なくない。
あくまでキャリアの選択肢の一つとして、気楽に転職活動に向き合う様子が印象的だった。また、自身の能力や希望条件が市場のニーズとマッチせず「条件が合わない」という人も一定数見られた。 【表5】
| 決定的不満なし・必要性が低い | 前職の仕事内容や環境が嫌いなわけではなかった。むしろ居心地がよかった。ただ新しいことを学んだり、社会に貢献できる仕事がしたかったため(転職者/女性40代) |
| 転職しなくても良い評価を得られていたから(転職者/男性30代) |
| 自分のキャリアを見つめ直す機会なのでゆっくり焦らず進めることがいい(転職活動者/男性20代) |
| 気長に転職先を探していた(転職者/男性50代) |
| そこまで熱心に考えてないから(転職活動者/男性20代) |
| 条件が合わない | 希望する給与が得られる可能性が低いと感じた。(転職活動者/男性40代) |
【表5】「無理に転職しなくてもいい」を選んだ理由(自由回答)抜粋
このように、転職活動に対する姿勢や転職実現の意欲にはグラデーションがある。例えば、転職実現をゴールとして積極的に活動する人がいる一方、転職の必要性が低く気長に活動する人も多い。待遇や職場の不満といった「現状からの脱却」を強く求める層もいれば、決定的な不満はなくより良い条件があれば転職しようとする層も少なくない。
また、将来の「保険」として早めに転職活動をする人や、転職後の「失敗」のリスクを鑑みて慎重に就業先の比較検討をする人も存在する。
「転職することが前提」とは限らない
分析結果から得られる示唆としては、転職活動をしている人が必ずしも転職を前提に活動しているわけではないことだ。目の前のキャリアの課題を解消すべく前傾姿勢で転職活動に取り組む層もいる一方で、「いい会社があれば…」くらいの気の持ちようで活動をする層も多く存在し、転職実現や早期の転職を最優先としない人も転職活動を行っている実態が見えてきた。
このように、積極的で前のめりな姿勢ではない「パッシブ(控え目)」な側面も、多くの転職潜在層がひしめく今日の雇用環境における転職活動の特徴の一つではないだろうか。
キャリアリサーチLab研究員 宮本 祥太
※1 転職サービス登録・転職相談・応募・選考の転職活動を一つでも行った人を調査対象とした。転職活動をして実際に転職した人と、転職活動をしたが転職していない人が含まれる。
※2 オープンコーディングをベースとして分析を行い、1,500件の回答それぞれに回答の意味を縮約したコードを付け、カテゴリごとに分類した。