アルバイト従業員の働きやすい環境づくりがもたらす好影響とはーシリーズを振り返る

沖本麻佑
著者
キャリアリサーチLab編集部
MAYU OKIMOTO

現在、労働力不足が深刻化していく中、企業が多様な人材の活躍を促進することや、従業員がいきいきと働ける環境づくりに力を入れることが重要視されている。本シリーズでは特にアルバイト・パート従業員への働きやすい環境づくりの取り組みに着目して「アルバイト従業員の新しい在り方」として取り上げてきた。

このコラムでは、これまで3回にわたり、マイナビ調査データや企業実践例をもとに見てきた「アルバイト従業員の新しい在り方」について振り返り、今後の在り方について考えるとともに、重要だと思われるポイントについて紹介していく。

第1回:アルバイト従業員を取り巻く現状

まずは、マイナビの調査データから、アルバイトとして働く人々をめぐる現状について見ていった。

アルバイトの募集・定着に悩む企業

アルバイト従業員の人材不足感は、コロナ禍で一時緩和したがそれでも半数以上の企業が「(とても+)不足している」と回答しており、コロナ禍後は不足感を抱く企業が増えている傾向にあり、6割を超えるようになっている。

そんな中、アルバイト人材の活用で困っていることの上位は、「募集しても必要な人数が集まらない」「すぐに辞めてしまうこと」となっている。アルバイト雇用における課題は、アルバイト探しをしている人に対してどのように魅力を感じてもらうか、入社した人をどうやって職場に定着させるかがポイントとなっていることがわかる。

*アルバイト採用活動に関する企業調査(2023年) 

アルバイトの働き方・職場ルールの変化

アルバイト雇用において募集と定着に課題を抱える企業が多い中、昨今は働き方や職場環境を見直す動きが出てきている。

スポットワーク

アルバイトの新しい働き方としては「スポットワーク」を取り上げた。次の年にスポットワーカーを採用する予定がある企業は、2022年は27.8%、2023年は29.5%と微増している。スポットワーカーを募集するプラットホームが急激に増加している背景もあり、この動きはさらに強まっていくだろう。

「シフトの融通がきくこと」をアルバイト探しの際の必須条件としている人が多いことからも、「シフト」という概念を超えて隙間時間で働けるスポットワークは働く人々にとって需要が高く、副業や兼業の新たな形としてますます注目されていくと考えられる。

アルバイトの身だしなみルールの変化

働き方や制度以外のアルバイト従業員の変化について、「身だしなみ」に関する話題を取り上げた。近年、価値観や多様性の尊重や採用力の向上を目指し、接客業などを中心にアルバイト従業員への身だしなみルールの緩和の動きが広がっている。

アルバイト就業者へのアンケートによると、服装や身だしなみの自由化によって「長く働きたいと思う」「モチベーションがあがる」という人は半数を超えており、実際に働く人の意欲や定着に繋がる見込みがあると推察される。

働き方や待遇などは変革に時間もかかることが多いが、こういった社内ルールの見直しから始めることも、従業員の意欲向上に繋がりそうだ。

第2回:「仲間」の声にも寄り添ってより良い環境づくりをー実践例(1)ドン・キホーテ

株式会社パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(以下、株式会社PPIH)の窪田さんには、マイナビバイトのレジ椅子の導入(『座っていいっスPROJECT』)と、髪色自由化・服装ルール緩和など、従業員の働く環境への取り組みやその思いについて伺った。

以下、インタビューからポイントをいくつかピックアップして紹介する。

社内外から届いたポジティブな声と応募者の増加

レジ椅子の導入後、お客様から指摘を受けるようなこともなく、社内から「レジ椅子によって気持ちに余裕が生まれた」という声があがるなど、反響はほとんどがポジティブなものだったという窪田さん。身だしなみルール緩和についても、求人の応募数や採用人数が3倍になるなど、従業員の働き方についての取り組みはポジティブな影響が多いようだった。

従業員の接客意識がさらに向上

レジ椅子や服装・髪色ルールの変更によって、従業員の接客に対する意識がさらに高まったという変化もあった。レジ椅子の導入や身だしなみの変化がお客様からのネガティブな印象に繋がらないようにと、接客サービスにより力が入るという効果があったという。アルバイト従業員の負担軽減や定着を目指したこのような変革が、さらなるサービス向上にも繋がったという点は注目すべきポイントだろう。

フットワークの軽さと従業員を大切にする思い

インタビューで印象的だったのは「変革へのフットワークの軽さ」と「アルバイト従業員を仲間として大切にする思い」だ。髪色自由化は、アルバイト従業員の意見を聞く場で出た提案をきっかけに実現し、レジ椅子導入は「取り組みがユニーク」というきっかけから広報室で導入を決定するなど、新しいチャレンジを前向きに捉える柔軟な社風が、フットワークの軽さに繋がっていると感じる。

また、アルバイト従業員を「メイト(仲間)」と呼ぶ習慣が根付き、2023年にはアルバイト従業員の働く環境改善の検討をさらに進める「メイト活性部」を立ち上げるなど、アルバイト従業員を大切にする風土も感じられた。

第3回:職員の生活も大切に柔軟な対応をー実践例(2)社会福祉法人新生寿会

社会福祉法人新生寿会の鈴木様、下村様には、同法人の施設(東五反田倶楽部)で実施されている職員の子連れ出勤について、実施を始めた経緯やその後の施設内での変化について伺った。

以下、インタビューからポイントをいくつかピックアップして紹介する。

「働く人の生活」を大事にして始まった子連れ出勤

働き方改革というよりは出産後の女性職員の「保育園に入れられなくて働けない」という声に対して、生活も大事にしてほしい・経験やスキルを活かし続けてほしいという思いで「連れてきていいよ」と柔軟な対応をしたことから始まったという子連れ出勤。お子さんの保育園入園後も中抜けして迎えに行けるようになどサポートしていった。

その後、東五反田倶楽部での新規職員募集では子連れ出勤をPR。同じタイミングでパート職員の募集も開始し、子連れ出勤・2時間OKの打ち出しで採用広報を行った。

働き方の選択肢が増える、職員の採用や定着などの好影響

正職員の子連れ出勤開始時には、育児による退職防止に繋がり、若手職員にとってもロールモデルとして将来の選択肢が増えたという。東五反田倶楽部でのパート職員の募集においても、子どもを預ける場所に困っていたお母さんたちから多くの反響があり、「保育園に入れないので働けないが、働けないので保育園入園の点数が足りない」という子連れ出勤のニーズの切実さに気づかされたという鈴木さん。

子連れで働ける職場づくりが、介護職を探していたわけではない潜在層へのアプローチに繋がり、施設にとっても正職員でなくてもできる業務を担当してもらえる人が増えることが、戦力になった。

利用者やお子さんにもポジティブな影響

子連れ出勤は、利用者様の笑顔にも繋がっている。小さいお子さんが施設内にいると、会話のきっかけが増え、自然と笑みがこぼれる人が多いそうだ。利用者様自身の子育て経験から、お子さんをあやしたり離乳食を食べさせるのを手伝ったりと、職員にとっても心強いサポートがあったという。

また、パート職員として子連れ勤務を経験していた河野さんは、お子さんの人見知りの解消にも繋がったと話す。さまざまな年代の人との関わりが、子どもの成長に良い影響を与えたと感じるとのことだった。

もともと地域の方々との交流や人の出入りが多かったことも、利用者様や他の社員にとって子連れ出勤が受け入れられやすかった要因の一つとなっていそうだ。

まとめ

アルバイト従業員の働きやすい職場づくりに取り組む実践例を見てきたが、印象的だったのは、株式会社PPIHの髪色自由化と社会福祉法人新生寿会の子連れ出勤が「従業員の声」をきっかけに始まっていたことだ。そしてその背景には、株式会社PPIHでは定期的にアルバイト従業員の意見を聞く機会が設けられていたこと、社会福祉法人新生寿会では風通しの良い職場環境だったことが、従業員の意見を取り入れやすくしていたとわかる。

また、どちらのインタビューでも従業員のことを大切にしようとする思いが語られており、従業員への取り組みが、顧客や利用者などステークホルダー全体にもポジティブな影響が多い様子もうかがえた。

今回インタビューした2つの実践例のように、従業員が安心していきいきと働ける環境を目指して在り方を柔軟に変えていくことが今後ますます重要になっていくだろう。そしてその働き方や環境が従業員の採用力や定着率にも繋がり、さらなるサービス・意識の向上にも繋がって、顧客に還元されていくという、ポジティブな連鎖が生まれていくことを期待したい。

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