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レジ椅子設置・髪色自由化など、「仲間」としてアルバイト従業員を大切にするドン・キホーテ(株式会社パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス)

キャリアリサーチLab編集部
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キャリアリサーチLab編集部

昨今、労働力不足が問題となり、企業において多様な人材の就業機会を確保することや、従業員がより良く働ける環境づくりに力を入れることによって、人材の定着や採用力の強化が図られています。特に正社員を対象とした福利厚生や勤務制度から導入されていく傾向にありますが、現在アルバイトなどの非正規雇用においてもその動きは広がっています。

では具体的にどのような取り組みが行われているのか。今回紹介するのは、国内に400店舗以上の「ドン・キホーテ」を展開している株式会社パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(以下、PPIH)です。

2024年春に、従業員の接客中の“立ちっぱなし”問題の解決を目指して試験的にスタートしたマイナビの『座ってイイッスPROJECT』に賛同し、同店11店舗のレジカウンター内に専用椅子を試験導入。また、それ以前にも2022年3月に店舗従業員の髪色自由化や服装ルールの緩和を行うなど、アルバイト従業員の働き方の変革に取り組んでいます。こうした施策を実施するに至った背景やその後の反響、今後の展望について、同社広報の窪田稚子さんに伺いました。

株式会社パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス
設立:1980年(PPIHの前身である株式会社ジャストとして設立)
事業内容:ディスカウントストア事業、総合スーパー事業、スモールフォーマット事業
海外リテール事業など

コーポレートコミュニケーション本部 広報室 
窪田 稚子さん

取り組みのユニークさに惹かれて
「座ってイイッスPROJECT」に賛同

.まず初めに、マイナビの「座ってイイッスPROJECT」にご賛同いただき、「マイナビバイトチェア」と呼ばれる専用椅子をレジカウンターに設置するに至った背景や目的について、教えていただけますか。

窪田:実は、このプロジェクトに賛同した最初の目的は、従業員の環境改善ではありませんでした。初めての試みだったため、この取り組みで実際にどの程度、従業員が働きやすい環境を強化できるのか未知数だったからです。それでも取り入れようと思ったのは、取り組みのユニークさに魅了されたことや、こういった新しいチャレンジに対して、経営層も従業員も前向きに捉える当社の風土に背中を押されたことが大きかったです。

また、この取り組みが良い影響をもたらすものだった場合、当社は全国的に店舗を展開しているからこそ、社内外に対して大きな影響を与えられる可能性があると期待したことも、理由の一つです。導入にあたっては管掌役員にも報告はしましたが、当社は権限委譲という文化があり、各従業員に裁量権があるため、広報室で導入を決めて進めていきました。

各店舗の店長が定着率向上や採用力強化を目指して導入を希望

.店舗にはどのように導入していったのでしょうか。

窪田:ドン・キホーテは全国に400店舗以上を展開しており、最初から全店に一斉に取り入れるのは難しかったため、まずは賛同が得られそうな店舗の店長などに声をかけていき、「やってみたい」と手が挙がった店舗に限定して導入しました。数でいえば11店舗からのスタートです。

今回導入を希望した店長たちが口をそろえて言うのは、「現状働くメイトの定着率向上や採用力強化につながればと思い、手を挙げた」ということです。ちなみに「メイト」とは社内用語でアルバイト従業員のことを言います。20年くらい前から社内ではそのように呼んでいます。文字通り「仲間(メイト)」という意味で、この言葉にはともに会社を支えてくれる大切な存在という意味が込められています。

実際、ほとんどの店舗では、社員とメイトの比率が約3対7で、圧倒的にメイトが多数を占めています。 それだけ各店舗にとってもメイトが重要な戦力になっており、社員と同じ権限を任せているスタッフもいます。最初に導入した店舗では、そのような大切なスタッフたちの定着などを目的にレジ椅子の導入に至りました。

導入されたレジ椅子(マイナビバイトチェア)
導入されたレジ椅子(マイナビバイトチェア)

社内外からの反響はポジティブなものがほとんど

.レジ椅子設置の取り組みによる反響はどのようなものだったのでしょうか。

窪田:社内外ともに、基本的にはポジティブな反響でした。

社内では、「身体の負担が軽減され、気持ちに余裕が生まれた。接客も丁寧にできるようになった」という意見がもっとも多くありました。それに比べてネガティブな意見は非常に少なく、スタッフ自身がレジで座って作業することに慣れていないため、「お客様やレジ以外で仕事をしている従業員などの目が気になる」というものくらいでした。

お客様からもネガティブな意見は少なく、メディアでも紹介されていたように、「座っていても気にならない」「よくお客さんを見てくれているから、安心です」といったポジティブな意見が多かったように思います。ですので、レジカウンター内で座っていたことでご指摘をいただくといったことも一切ありませんでした。

レジ椅子が実際に活用されている様子
レジ椅子が実際に活用されている様子

反響をうけて「メイトの負担を軽減したい」と設置店舗が拡大

窪田:その後、メディアで「座ってイイッスPROJECT」の取り組みが取り上げられたことによって、レジ椅子の設置を他店の店長が知り、「うちの店舗でも取り入れたい」という声が増えました。導入済みの店舗からのポジティブな感想も踏まえて「もっと今いるメイトの体力的な負担を軽減したい」という思いで取り入れる店舗が多いようです。現状では、導入店舗が8店舗増え、合計19店舗でレジカウンターに椅子が設置されています。

また、このプロジェクトを機に、同社ではさらにオリジナルの椅子を作成して、活用しようという新しい動きも生まれており、2025年の2月頃から実施する予定です。ですので、今後各店舗で椅子に座ってのレジ打ちが主流になってくる可能性があります。

働く環境の整備は現場からの声で実現することも

.従業員の働く環境に関する取り組みについては、御社は2022年に従業員の髪色自由化・服装ルールの緩和も実施されていますね。この取り組みはどのように始まったのでしょうか。

窪田:髪色の自由化においては、現場のメイトからの提案がきっかけでした。当社では、定期的に上長がメイトの意見を聞く機会を設けており、そこで出た意見が上長によって経営会議に持ち込まれ、実現しました。

自社としても個人の多様性を認め合うことを企業理念として掲げているので、反対意見はなく、満場一致で導入が決定し、それに伴ってネイルやピアスについても一部制限つきですが緩和することになりました。

.こちらの取り組みの反響はどのようなものだったのでしょうか?

窪田:導入から2年近く経つので、さまざまなメディアで紹介していますが、これによって、求人の応募者数と採用人数がともに約3割増加しました。今でこそ髪色の自由化や服装ルールの緩和など、自分らしく働ける環境の実現は、他社の店舗でも実施するようになりましたが、当時は導入している企業が少なかったので、社会に対して大きなインパクトがあったと思います。

働きやすい環境づくりは従業員の接客意識向上の効果も

Q.そのほかに、社内での変化はありましたか?

窪田:「座ってイイッスPROJECT」にも共通するのですが、髪色の自由化を導入したことで、メイトの仕事に対する意識も大きく変化しました。お客様からネガティブな見られ方をされないように、今までよりも接客サービスに力を入れて行おうというポジティブな考え方を持つ従業員が増えたのです。これは私たちが想定していなかった効果でした。

.メイトのみなさんがより主体的に行動されるようになったのですね。

窪田:そうです。メイトの方々は人一倍責任感が強い人が多いので、主体的に考えて行動する素養は元々お持ちだったのだと思います。導入後、さらにサービスが向上し、顧客満足度も高まったのではないかと思います。

今後も「仲間」としてメイトの声に寄り添った環境づくりを

.メイトのみなさんが働きやすい環境づくりについて、御社として今後取り組んでいきたいことや展望を教えてください。

窪田:さきほどもお話したように、当社はメイトを大切にしようという思いを強く持っている企業です。2023年7月には「メイト活性部」という、アルバイト従業員の働く環境改善を専門に考える部署を新設し、これまで以上に働きやすい環境を構築していこうという取り組みを本格的に始めました。現場が必要だと思っていることを形にし、さらに「時代の変化」も敏感にキャッチして、働きやすい環境づくりを目指しています。

たとえば、意欲の高いメイトに対しては、責任のある仕事と裁量を積極的に任せるという考え方が元々あることから、現在はさらに成長できる環境を整備するために、少しずつ制度の構築を進めています。店舗の予算達成率に応じて、どのように還元するのかをメイトにも共有しているのですが、このような仕組みは業界でも珍しく、会社としてメイトへのリスペクトを形で示す重要な施策となっています。

「メイト活性部」は設立して日が浅く、現場の意見を集めている途中ですが、今後は、時代の変化も踏まえながら現場が必要としていることを形にし、働きやすい環境づくりに取り組むことが重要だと考えています。当社の「顧客最優先主義」という企業理念を軸として持ちつつも、働き手の心の機微にも寄り添い、柔軟に対応していきながら、社員もメイトも全員がWin-Winで働きやすい環境にしていくのが目標です。

編集後記

飲食店や量販店、アパレル店などでは、アルバイトとして働く方が大半を占めたり、アルバイト従業員が中核メンバーとして店舗運営を行ったりしている場合も多くあります。だからこそ、アルバイト従業員を単なる労働力と考えるのではなく、会社を支える重要な仲間として位置づけ、誰もが働きやすく、前向きに働いていける環境を整えることが、今後重要になってきます。

株式会社パン・パシフィック・インターナショナルホールディングスでは、髪色の自由化やレジ椅子の導入などを積極的に進め、アルバイト従業員がより良く働ける環境づくりに取り組んでいます。その結果、応募者・採用数の3割増加などの効果だけでなく、スタッフ一人ひとりがお客様へのより良い接し方を意識することにもつながっていました。

その背景には、会社全体として現場で働く人の声を聞く風土も整っていることも重要なポイントになっていると感じます。今後、アルバイト従業員の人材定着やモチベーション向上には、企業側が働く人の意見を積極的に吸い上げ、職場改善に反映していく取り組みがさらに重要になっていくでしょう。

沖本麻佑
登場人物
キャリアリサーチLab編集部
MAYU OKIMOTO

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