マイナビ キャリアリサーチLab

コロナ禍で見直されたUターン・Iターン・地元就職

宮地太郎
著者
キャリアリサーチLab主任研究員
TARO MIYAJI

新型コロナウイルスの感染拡大の中、2022年新卒採用で大きな話題となったオンライン化。以前から導入の動きはあったものの、直接会うことが当たり前だった環境からコロナ禍の対面接触制限の中で、爆発的に普及した。エリアや業界等で温度差はあれ、説明会や選考にオンラインは今やなくてはならない手法となっている。そしてオンライン化によって場所や距離の制限がなくなったことで、説明会や選考の参加ハードルに変化があった。地方の学生が都市部の企業の、反対に都市部の学生が地方の企業の説明会や選考に参加しやすい環境となったのだ。遠方移動には時間も費用も労力もかかっていたのだが、それがなくなるのである。今回は、そんな環境変化の中で、UターンやIターン、地元就職はオンライン化でどのような影響を受けたのかについて、さまざまな調査データから多面的にみていく。

学生目線 地元企業への就活最大の障害「交通費」が減り、希望する割合も数年ぶりに増

まずは学生の視点からみていく。「マイナビ2022年卒大学生 Uターン・地元就職に関する調査(2021年3~4月)」では、これまで地元企業への就活で最も障害となっていた「地元までの交通費」が、22年卒で12.7ptと大きく減少している(図1)。また、地元就職を希望する割合はここ数年減少傾向にあったが、22年卒は進学時こそこれまでの最低を記録したものの、現時点は数年ぶりに増加し、その差も6.9ptとここ数年最大となった。(図2)。これまで大きな障壁となっていた交通費の負担が減ったことで、オンラインで気軽に地元企業の話を聴講できるようになった事が地元志望上昇の一因と考えられる。

地元企業への就職活動で最も障害に感じていること・地元就職を希望する割合/マイナビ2022年卒大学生Uターン・地元就職に関する調査

出所:マイナビ2022年卒大学生Uターン・地元就職に関する調査

地元企業(Uターン先企業含む)がWEBセミナーやWEB面接を実施している場合、志望度が上がるかどうかを聞いてみたところ、WEBセミナー実施で57.1%(前年比3.8pt増)、WEB面接実施で18.5%(前年比5.9pt増)が上がると回答(図3)。いずれも前年より志望度を上げる効果がみられる。

地元企業がWEBセミナーやWEB面接を実施している場合の志望度/マイナビ2022年卒大学生Uターン・地元就職に関する調査

出所:マイナビ2022年卒大学生Uターン・地元就職に関する調査

どのような方法で地元企業(Uターン企業先含む)の企業情報を得たかについてはWEBセミナーと回答した割合が前年の12.3%から42.1%へと29.8ptの大幅増となっており、オンライン採用が地元就職に大きな影響を与えていることがうかがえる。また、大きな変化ではなかったが、Iターン就職のように地元以外の自然が豊かな地方で働いてみたいと思うか聞いたところ、43.2%(前年39.7%)の学生が「自然が豊かな地方で働いてみたい」と回答した(図4)。一方、働く場所が自由になった際の理想として「東京に住みたい」という学生は12.7%で前年比2.4pt減少、「地方に住みたい」は57.0%で前年比2.2pt増加となった(図5)。これはオンライン採用そのものの影響ではなく、コロナ禍で都市部を避けたい、テレワークの普及など環境変化が影響していると考えられる。

Iターン就職希望・働く場所の自由度と理想の居住地域/マイナビ2022年卒大学生Uターン・地元就職に関する調査

出所:マイナビ2022年卒大学生Uターン・地元就職に関する調査

企業目線 他エリア在住の応募者増、採用手法に「Uターン・Iターン採用」活用

次に企業目線ではどうだったのかをみてみる。「マイナビ2022年卒企業新卒採用活動調査(2021年6月)」でコロナ禍前と応募者の居住地分布に変化があったかを聞いたところ、全体で37.7%の企業が「他エリア在住の応募者が増えた」と回答している(図6)。この数値は「同じ都道府県在住の応募者が増えた」8.4%、「同じエリア(他都道府県)在住の応募者が増えた」5.7%と比較して極めて高いといえるだろう。特に甲信越、北陸、中国、四国においてその割合が高く、東京、大阪といった大都市からのUIターン応募が増えたと考えられる。説明会や選考のオンライン化がその大きな要因であることに加えて、前述の通りコロナ禍で学生の地元志向が強まる傾向にあったことなども影響していると考えられる。

コロナ禍より前と比較した応募者の居住地分布の変化/マイナビ2022年卒企業新卒採用活動調査

出所:マイナビ2022年卒企業新卒採用活動調査

また、今年の採用活動において実施した【採用手法】(複数選択)では、「実施したもの」トップは「WEB面接」で、次点は「職種別採用」。3位に「Uターン・Iターン採用」が入っている。また「Uターン・Iターン採用」は「実施してよかったもの」でも17.9%と比較的高い数字となっていることに加えて、「現在行っていないが、今後やってみたい」も18.4%と、期待関心の高さがうかがえる(図7)。「今年初めて実施したもの」の数値は3.4%と低いことから、「Uターン・Iターン採用」を以前から実施してきたが、今回の環境変化の中で改めて、手ごたえを感じた企業も多かったのではないだろうか。

今年の採用活動手法/マイナビ2022年卒企業新卒採用活動調査

出所:マイナビ2022年卒企業新卒採用活動調査

就職企業人気ランキングからもみてみた

2021年4月にリリースした「マイナビ・日経2022年卒就職企業人気ランキング」においても地域による得票数に変化があったのかをみていきたい。新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、業界によっては順位が大きく変動し、世相を反映した変化がみられた。様々なランキングのうち、各地域の人気の推移がわかる全体得票数の本社所在地域別比率の増減を出してみた(図8)。すると「東京」が一番ポイントを下げ(2.9pt減)、逆に「関東・甲信越(東京除く)」が1.7pt上がったという結果になった。2.9ptは大きな変化ではないようにも感じるが、東京がもっとも下げているというのは、これまでにみてきた地元就職への追い風傾向の流れに乗っていると言える。

ランキング総得票数を分母として本社所在地比率を比較(21年卒・22年卒)/【マイナビ・日経】2022年卒大学生就職企業人気ランキング

出所:【マイナビ・日経】2022年卒大学生就職企業人気ランキング

さいごに

新型コロナウイルス感染拡大や採用のオンライン化は、UIターン・地元就職に追い風として影響を与えたことは間違いない。時間と費用と労力もかけて移動しなければ参加できなかったものが、自宅でオンライン参加できるのである。企業視点で考えると、反応数の増加はうれしい反面、これまであまり競合しなかった地域の企業と競合することになる。結果、内定数の増加に繋がった企業もあれば、歩留まりが悪化した企業もあろう。いずれにしても応募数の増加は企業にとって喜ばしいことだが、今後はオンライン化故に学生の住所属性に応じた対応方法の検討や学生からのより厳しい選択眼に応えられるようにするなど、新たな課題も出てきているのではないだろうか。新型コロナウイルスの感染拡大の影響は、これから(2021年8月現在)どうなるか不透明な状況ではあるが、アフターコロナであってもオンライン活用がなくなることはないだろう。UIターン・地元就職への影響の大きな要素となるので、2023年卒採用もその活用実態を注視していきたい。

マイナビキャリアリサーチLab主任研究員 宮地太郎

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