
フリーターの現状と今後: 統計データから読み解く
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はじめに~「フリーター」とは~
フリーターとは、一般的にアルバイトやパートタイムの仕事で生活をしている人々を指すが、厳密な定義があるわけではない。1980年代後半、バブル景気に沸くなかで若者の間で自由な働き方や自己実現を求め、抵触に就かずにアルバイトを選択する傾向が高まった。そのころに「フリーアルバイター」という言葉が使われるようになり、それを略して「フリーター」という言葉が定着していったようだ。
その後、バブル崩壊の不況により正規雇用の機会が減少、今度は若者の多くがフリーターとして働かざるを得なくなり、やがて社会問題として認識されるようになる。フリーターというとどちらかというと若者のイメージが強いのはこのためであろう。
総務省統計局が実施している「労働力調査」では、便宜上、下記のように定義されている。
<労働力調査における「フリーター」の定義>(※1)
若年のパート・アルバイト及びその希望者
年齢が15~34歳で、男性は卒業者、女性は卒業者で未婚の者のうち次の者をいう。
1.雇用者のうち勤め先における呼称がパート・アルバイトの者
2.完全失業者のうち探している仕事の形態がパート・アルバイトの者
3.非労働力人口で、家事も通学のしていないその他の者のうち、就業内定しておらず、希望する仕事の形態がパート・アルバイトの者
しかし、近年では中高年層のフリーターも増加しつつあることもあり、年齢を限定せずにフリーターと呼ぶことも多いため、本稿では若者に限定せず、パート・アルバイトで生計を立てる人を対象とする。そのうえで、今後、「フリーター」という働き方はどうなるのかをテーマに、経済的要因や社会的要因、政策的要因、技術革新の影響、そして将来のキャリアパスについて解説する。
統計データからみる「フリーター」
年齢階級別の推移
2023年の総務省統計局「労働力調査(詳細集計)」 によると、「パート・アルバイト及びその希望者(フリーター)(※2)」 の数は直近10年間でみると、男女ともに減少傾向だ。【図1】【図2】
しかし、年齢別の詳細を確認したところ、男女ともに、若者世代(15~24歳)のフリーターが減少している一方で、25歳以上の人数はあまり減少していない。特に、男性では「35~44歳」が50万人を超えて進捗しており、1年ごとに年齢層がスライドされると考えると、「フリーター」の年齢層が徐々に上がっていると推測される。【図1】
(※2)※1で示した労働力調査における「フリーター」の定義に加えて、35~44歳の人を加えた人数。

女性では2009年~2023年までずっと「25~34歳」が最多であるが、特に直近では、他の年齢階層と比べてその占める割合が高くなっている。
女性の場合、結婚や出産を機に非正規化し、いわゆる「主婦パート」として働く人が一定数いるため、労働力調査において「フリーター」の定義として女性のみ「未婚」という条件がつけられているが、それでも「25~34歳」では男性よりも多い。【図2】

産業別の労働者数と給与額
ここからは男女別に産業ごとの労働者数と給与額の状況を示す。
(注)なお、使用する調査が「賃金構造基本統計調査」(厚生労働省) であるため、パート・アルバイトに限定せず非正規で働く人々(正社員・正職員以外)の結果となる。ここにはパート・アルバイトよりも一般的に時給の高い派遣社員等が含まれることに注意が必要ではあるが、大まかに非正規で働く人々がどのような産業で多く働いているのか、また、産業別に給与額に違いがあるのかを確認したい。
産業別の労働者数
まず、産業別の労働者数だが、男女ともに労働者数の多い上位3つの産業は共通しており、多くがサービス業もしくは製造業であることがわかる。【図3】【図4】男女の違いに注目すると、女性では「医療・福祉」の労働者数が特に多い。
なお、「R サービス業(他に分類されないもの) 」は具体的には「商品展示所」「パーティ請負業」「レッカー車業」「メーリングサービス業」「サンプル配布業」「ポスティング業」「展示会(見本市を含む)の企画・運営業」などが含まれる。
(注)産業名の頭に記載されているアルファベットは「日本標準産業分類」上の分類コード


産業別の給与額
次に、男女別に産業ごとの給与額(きまって支払われる現金給与額)を確認する。
<用語解説>
「きまって支払われる現金給与額 」とは、労働契約、労働協約あるいは事業所の就業規則などによってあらかじめ定められている支給条件、算定方法によって6月分として支給された現金給与額をいう。手取り額でなく、所得税、社会保険料などを控除する前の額である。
現金給与額には、基本給や、職務手当、精皆勤手当、通勤手当、家族手当などが含まれるほか他、超過労働給与額も含まれる。1か月を超え、3か月以内の期間で算定される給与についても、6月に支給されたものは含まれ、遅払いなどで支払いが遅れても、6月分となっているものは含まれる。給与改訂に伴う5月分以前の追給額は含まれない。現金給与のみであり、現物給与は含んでいない。
まず男女で比較した際に目立つのが男女による金額差である。全産業の金額でいうと、男性は27.76万円、女性は21.65万円で、その差は6.11万円となる。同じ産業で比較としてもすべての産業で女性のほうが金額は低い。【図5】【図6】
性別によって時給などの給与額に差がつけられることはないが、一般的に男性に比べて女性のほうが家事や育児の傍らで短時間勤務を行う人が多いため、勤務時間数による差が現れていると考えられる。
男性だけに注目すると、もっとも高いのは「学術研究、専門・技術サービス業」で39.60万円である。【図3】で示した「労働者数がある程度いる産業」に注目すると、「情報通信業(35.72万円)」も給与の高い産業だといえる。正確に検討するには職種別の給与を確認する必要があるが、両産業に共通していることとして、特定の高いスキルを求められる点があげられる。こうした専門性に高い給与が支払われていると考えられるだろう。
一方で、労働者数が多い「サービス業(他に分類されないもの)」「製造業」「卸売業、小売業」においては全産業の平均を下回っている。【図5】

次に女性だけに注目すると、もっとも金額が高いのは「情報通信業(26.41万円)」だった。【図4】で示した労働者数の多い産業に注目すると、男性と同様に「製造業」「卸売業、小売業」は全産業の平均よりも低かった。

主要な課題
これらの結果からみえた課題についてまとめる。給与額については正規雇用と非正規雇用の間の格差について語られることが多いが、非正規雇用のなかでも男女による差や、産業による差があることがわかった。
この内容をさらに確認するために、【図3】~【図6】をもとに、男女それぞれで労働者数が多い産業と「きまって支給する現金給与額」の多い産業をピックアップし、年齢階級別の給与額を比較する。
男女ともに全産業の平均をみると、どの年代においても同程度の金額で推移していることがわかる。正規雇用と非正規雇用における大きな違いとして、定期的な昇給の有無があげられる。正規雇用の場合は、年齢(≒勤務年数)に応じて、定期的な昇給制度があり、ある程度、年齢に応じて給与額が上がっていく。日本型雇用における年功序列に関しては賛否両論あるものの、正規雇用で働く人々にとっては大きなメリットだといえるだろう。
しかしながら、男性のみではあるが、正規雇用と同じように年齢が上がるにつれて給与額が向上している産業があり、それが【図5】で給与額の大きい産業として示した「情報通信業」と「学術研究、専門・技術サービス業」である。【図7】
先述したように、これらの産業においては、高いスキルに対して、それに見合った給与が支払われているとみることもできるので、産業における差に関して合理的な説明が可能だと思われる。しかしながら、問題なのは、サービス業や製造業といった労働者数が多い産業において給与額が上がらない点であろう。
昨今では最低賃金を引き上げることが検討されているが、格差を是正するためにも、多くの労働者が働く産業でこそ、給与額が向上する必要があるといえる。

また、男女による差においては、そもそも女性のほうが男性に比べて、結婚や出産を機に非正規雇用で働くことを選ぶ傾向があるなど、伝統的性役割(男性は仕事、女性は家庭)に基づく価値観からの脱却など、根本的に解消しなければならない問題がり、さらに困難な課題だといえる。
【図8】をみると、男性と同様に「情報通信業」「学術研究、専門・技術サービス業」においては他産業に比べると給与額が高いが、先述したような年齢階級によって徐々に上昇しているわけではなく、全産業の平均よりも高い一定の金額で推移している状況だ。つまり、男性と異なり、年齢や勤務年数に応じて昇給がなされていない可能性が高い。

コロナ禍において、非正規で働く女性の貧困問題が取りざたされたことは記憶に新しい(たとえば、「コロナ下の女性への影響と課題に関する研究会(男女共同参画局)」 等)。このように、何か社会的・経済的に大きなインパクトがある出来事が起こった際に、特定の人々がネガティブな影響を受けるような事態はさけなければならない。そういう意味でも性別による格差は解消する必要があるだろう。
統計データからみる「フリーター」の今後
産業別にみる労働者数の増減
ここまで統計データの結果を用いて、フリーター(正確には非正規雇用で働く人)の状況を確認してきた。ここからは、これらの結果を用いて、今後について検討したい。用いるのは前章に引き続き「賃金構造基本統計調査(厚生労働省)」の結果である。
まず、今後の予測のために、過去から現在への変化について確認する。まず、産業別の労働者数について、2009年と2023年の2時点を比較し、その差の大きい順から並べた。男女ともに大きく増加したのが「サービス業(他に分類されないもの)」であり、「卸売業・小売業」「製造業」「医療・福祉」が続く。
特に女性においては、「医療・福祉」の増加が目立つが、おおむね、性別によらず同じ傾向となっている。もともと、製造業は労働者数が多かったが、特に大きく数が増えたのは「サービス業(他に分類されないもの)」だ。【図9】【図10】


以前、大正大学地域構想研究所 主任研究員 中島ゆき氏へのインタビュー記事「国勢調査からみる『なくなった・誕生した平成の職業』!影響を与えた時代の変化とは?」 のなかで、新たな職業の誕生に影響を及ぼしている要因の一つとして「個人ユースの拡大」があったが、多様化する消費者のニーズに合わせてサービスが提供される「サービス業(他に分類されないもの)」において、労働者のニーズが高まっていると推察される。
一方で、同様に示されていた「インターネットを中心としたITの技術革新」に関連した「情報通信業」に関しては、それほど大きな増加は見られなかったみられなかった。
【図5】【図6】で示したように、給与額も他の産業に比べて高い傾向があるため、フリーターをはじめとした非正規で働く人々の安定した収入を確保するためにも、こうした産業において活躍できる場が増えることが望まれるだろう。ただし、高いスキルが必要とされる産業においてフリーターが働く場を得るには課題もある 。
高いスキルが必要である、ということは、当たり前だがそのスキルを身に着ける必要がある。こうしたスキルは、例えたとえば所属する組織で従業員に向けて実施される研修を受けたり、また、OJT(On the Job Training) で身につけるのであれば、一定期間、同じ仕事を行い、指導係に育成してもらったり、業務のなかで様々さまざまな経験を通じた学ぶことが必要とされるだろう。
人材育成の機会については、どうしても正社員が優先される傾向があり【図11】、そもそもフリーターで働く人々がこのような高いスキルを身に着ける機会自体が少ない傾向にある。まずは、その状況を改善する必要があると考えられる。

フリーターの学び直し(リスキリング)の状況
マイナビが実施した調査によると、フリーターとして働く人の6割近くは学び直し(リスキリング)の必要性を感じていると回答している一方で、実際に「すでに取り組んでいる」との回答はわずか9.2%と1割にも満たない。【図12】学び直し(リスキリング)の必要性を感じつつも、取り組めていない現状があるようだ。

学び直し(リスキリング)が「必要だと思う理由」
まず、「学び直し(リスキリング)が必要だと思う理由」だが、もっとも高いのは「収入を増やしたいため(55.0%)、次いで「自分ができる仕事の幅を広げたいため(54.6%)だった。【図13】

昨今、日本企業においても「ジョブ型雇用」導入の必要性が語られることが増えているが、そもそもフリーターをはじめとした直接雇用かつ非正規雇用で働く人は「ジョブ型雇用」である。そう考えれば、自分が高いスキルを持てば、それだけ携われる「仕事(ジョブ)」の選択肢が増え、収入のよい「仕事(ジョブ)」を選ぶことができるので、学び直し(リスキリング)を行うことは理にかなっているといえる。
しかしながら、先述したように、フリーターで実際に取り組んでいる人は少ないという現状がある。その「取り組めていない理由」は何なのだろうか。
学び直し(リスキリングに「取り組めていない理由」
マイナビが実施した調査によると、取り組めていない理由として「負担する費用が重いため(40.7%)」が最多で、次いで、「新しいことを学ぶ気力が無いため(38.2%)」が続く。【図14】

収入は増やしたいが、その前に、学び直しのための費用負担が必要である、ということが最大のネックになっているようだ。
先述したように、フリーターをはじめとした非正規雇用で働く人々は正社員に比べて、組織から研修機会が提供されることが少ないため、自分自身でコストをかけ、その機会を作る必要がある。また、金銭的なコストだけでなく、モチベーションを向上させたり、学び直し(リスキリング)のやり方を指南したりするような組織や上司からの働きかけなどが少ない点も問題だと推察される。
本来であれば、収入や仕事選びの選択肢を増やさなければならない人ほど、学び直し(リスキリング)の機会を必要としているはずだが、フリーターをはじめとした非正規雇用で働く人々ほど、そうした機会に恵まれていない現状は改善する必要があるだろう。
さいごに ~今後、「フリーター」はどうなっていくのか~
ここまで政府統計や、マイナビが実施した調査結果から、フリーターをはじめとした非正規雇用の人々の状況について確認するとともに、過去から現在にかけての変化をもとに、今後の状況について推察した。まず大きな区分として、男女(性別)による差が依然大きく、ジェンダーギャップ解消のために是正されるべき点であることがわかった。
また、産業別の結果などから、「情報通信業」「学術研究、専門・技術サービス業」のような高度なスキルが必要とされる業界で働く場合は、収入面などでもポジティブな状況になると考えられたが、そのためにも、そうしたスキルを自分自身で学ばなければならない現状の難しさもわかった。また、日本が置かれておかれている超高齢者社会を念頭におけば、「医療・福祉」における人材ニーズも高まると考えられる。
なお、フリーターのなかには、望んで今の働き方を選んでいる人がいる人もいるが、本当は正社員で働きたいと考えている人もいる(マイナビフリーターの意識・就労実態調査(2024年)) 。今後、人口が減少することで、労働力不足になり、多くの企業や組織が人材不足に陥ると考えると、正社員になることを望んで、そのために動くことができればその願いが叶いやすくなる環境になっていくとも考えられる。
また、フリーターと同様に組織にとらわれない働き方として「フリーランス」という選択肢もあり、今後、多様な価値観と働き方が一般的になるなか、「フリーター」の在り方が変化していく可能性もあるだろう。
さらに、超高齢者社会を迎えた日本社会では、高齢者のパート・アルバイトが今後さらに増えていくと推察される。本稿は「フリーター」をメインに取り扱ったため、ある程度、労働力調査におけるフリーターの定義(※1)に準ずる形で、いわゆる現役世代に注目したが、実際に「パート・アルバイト」で働く人のうち、65歳以上の割合は男女ともに増加している。【図15】【図16】


これまで、いわゆる「フリーター」を議論する際、過去に正社員で働いたあとに非正規雇用となった高齢者は除いて考えるのが一般的であったようだが、今後、“働き続ける”高齢者が増加すると考えられるため、高齢者も無視はできない。
組織にとらわれず、また「定年」という考え方にもとらわれない「フリーター」という働き方のメリットと、その分、雇用や収入の不安定さもあるというリスクをどのように捉え、対策していくのか…。社会が大きく変化し、価値観が多様化していくなかで、これまで以上に多くの軸で検討して、それぞれの人にあった働き方を検討していく必要があるだろう。
マイナビキャリアリサーチラボ 主任研究員 東郷 こずえ