マイナビ キャリアリサーチLab

非正規社員の「技術的失業」の課題とリスキリング(学び直し)実態を探る

三輪希実
著者
キャリアリサーチLab研究員
NOZOMI MIWA

はじめに

技術革新が急速に進む中でビジネスモデルの変化や企業のDX推進等により、労働環境が変化している。業務の自動化が加速し、今後AIやロボット等に代替される仕事は増えていくと考えられる。

そこで働く人の「技術的失業」に備え、新たな知識やスキルを取得したり、アップデートするリスキリングの重要性が高まっている。今回は、非正規社員のリスキリングの実態を明らかにするとともに、今後の課題と対応策についても考察する。
※技術的変化によって引き起こされる雇用の喪失

アルバイトが担う仕事は将来的にテクノロジーに代替されるか

企業の7割は、「アルバイトが担う仕事は将来的にテクノロジーに代替えされると思う」
業種別では「小売」が最も多く、次いで「製造」、「ソフトウェア・通信」で約8割

現在のアルバイトが担っている仕事が将来的にシステムやAI・ロボットなどのテクノロジーに代替されると思う企業は70.9%となり、そのうち36.9%の企業がアルバイトが担う仕事のうち5割以上がテクノロジーに代替されると思うと回答した。テクノロジーの進化を受けて、今後アルバイトの労働環境が変化することが考えられる。

テクノロジーに仕事が代替されると思う企業がもっとも多かった業種は[小売(80.8%)]で、次いで[製造(建設除く)(80.2%)][ソフトウェア・通信(77.8%)]となり、セルフレジの導入など省人化が進んでいるコンビニ・スーパーといった小売業で多い様子がうかがえた。

一方で[ソフトウェア・通信]の過半数の企業では、アルバイトが担う仕事のうち5割以上がテクノロジーに代替されると思うと回答し、代替される可能性がある仕事が多いことがわかった。生成AIの普及等により将来的に新しい仕事が生まれてくることが考えられることからも、IT業界は今後さらに労働環境が変化する業種であるとみられる。【図1】

アルバイトの仕事が将来的にシステムやAI、ロボットなどのテクノロジーに代替されると思う割合/マイナビ 非正規雇用に関する企業の採用状況調査(2023年11-12月)
【図1】アルバイトの仕事が将来的にシステムやAI、ロボットなどのテクノロジーに代替されると思う割合

仕事をテクノロジーに代替した場合の企業における施策

仕事をテクノロジーに代替えした場合、4社に1社以上の企業で、非正規社員の技術的失業の可能性

現在の仕事をシステムやAI、ロボットなどのテクノロジーに代替した場合に想定される施策を聞いたところ、「非正規社員の削減」が29.4%ともっとも高くなり、次いで「正社員の労働時間の短縮(27.2%)」、「正社員の削減(26.6%)」となった。

DX・AIの推進により、人員計画の見直しを行う企業が多いことから、雇用形態にかかわらず技術的失業が起こる可能性がうかがえた。とくに非正規社員では、4社に1社以上の企業で就業機会が減少する可能性があるとみられる。【図2】

現在の仕事がシステムやAI、ロボットなどのテクノロジーに代替した場合に想定される施策/マイナビ 非正規雇用に関する企業の採用状況調査(2023年11-12月)
【図2】現在の仕事がシステムやAI、ロボットなどのテクノロジーに代替した場合に想定される施策

テクノロジーの導入により人手不足の解消につながる一方で、人間の雇用が失われる「技術的失業」が非正規社員において特に課題になると考えられる。

仕事をテクノロジーに代替えされた場合に必要となるスキル

仕事を代替えされた場合に必要となるスキルは正社員・非正規社員で差はなく、「新しいデジタルツールの活用スキル」が最多

今後システムやAI、ロボットなどのテクノロジーに仕事を代替えされた場合に、必要になるスキルがある企業は非正規社員に対しては50.8%、正社員に対しては60.6%となり非正規社員・正社員ともに今後必要になるスキルがあると考える企業が多かった。【図3】

今後システムやAI、ロボットなどのテクノロジーに仕事を代替えされた場合に、必要になるスキルがあるか/マイナビ 非正規雇用に関する企業の採用状況調査(2023年11-12月)
【図3】今後システムやAI、ロボットなどのテクノロジーに仕事を代替えされた場合に、必要になるスキルがあるか

非正規社員・正社員ともに必要になるスキルは、「新しいデジタルツールの活用スキル」がもっとも多く、次いで「AIを用いたデータ分析スキル」「ビジネス課題を設定・解決するスキル」となった。テクノロジーに仕事を代替えされた場合に企業が労働者に求めるスキルには雇用形態による差はなく、デジタルスキルを労働者に求める企業が多いことがわかった。【図4】

今後システムやAI、ロボットなどのテクノロジーに仕事を代替えされた場合に、必要になるスキル/マイナビ 非正規雇用に関する企業の採用状況調査(2023年11-12月)
【図4】今後システムやAI、ロボットなどのテクノロジーに仕事を代替えされた場合に、必要になるスキル

企業におけるリスキリングの実施状況

リスキリングを実施している企業は50.8%、そのうち過半数は正社員にのみ実施

正規・非正規問わず従業員に対し、デジタルスキルを求めている現状がある中で、企業のリスキリング実施状況をみてみる。現在従業員にリスキリングを実施している企業は50.8%で、そのうち56.7%が「正社員のみに実施している」と回答した。企業のリスキリング実施率には雇用形態によるギャップがみられ、非正規社員にリスキリングを実施している企業は少ないことがわかった。【図5】

現在のリスキリング実施状況/マイナビ 非正規雇用に関する企業の採用状況調査(2023年11-12月)
【図5】現在のリスキリング実施状況

一方で、今後従業員にリスキリングを行う予定がある企業は53.9%となり、現在の実施状況を上回ったことから、今後の企業における従業員に対するリスキリング意向は高いことがうかがえる。【図6】

今後のリスキリング実施予定/マイナビ 非正規雇用に関する企業の採用状況調査(2023年11-12月)
【図6】今後のリスキリング実施予定

しかし、現在のリスキリング対象としてもっとも多かった「正社員のみにリスキリングを実施している」企業に、今後のリスキリング実施対象を聞いたところ、72.7%が今後も正社員のみに実施予定と回答した。【図7】

今後のリスキリング実施対象/マイナビ 非正規雇用に関する企業の採用状況調査(2023年11-12月)
【図7】今後のリスキリング実施対象

今後のリスキリング対象も正社員のみとする企業が多いことから、雇用形態によるリスキリングの機会格差が課題であると考えられる。

また、非正規社員は、正社員と比べ長期雇用を前提としない場合も多い雇用形態であることから、教育投資は正社員を優先にと考える企業が多く、非正規社員の能力開発の機会が少ない要因であると考えられる。

アルバイトの学び直しの状況

アルバイトで学び直しに取り組んでいる割合は16.5%、必要性を感じない人が約5割弱

次に、働く人の学び直しの状況をみてみる。アルバイトで学び直しに取り組んでいる割合は16.5%となった。また、必要性を感じるかどうかを聞くと、「必要性を感じていない」は45.7%となった。【図8】

学び直しの必要性と実施状況/マイナビ アルバイト就業者調査(2023年)
【図8】学び直しの必要性と実施状況

アルバイトで学び直しが必要と思わない理由は「転職をする予定がないため」が約5割ともっとも高く、次いで「どのようなことを学び直したら仕事に活かせるかわからないため」となった。【図9】

学び直しが必要と思わない理由/マイナビ アルバイト就業者調査(2023年)
【図9】学び直しが必要と思わない理由

アルバイトにおいては学び直しの必要性を感じる人も過半数いる一方で、取り組み状況は2割に満たない結果となった。アルバイトの仕事が将来的にテクノロジーに代替されると思う企業は7割を超えることから、現在の職場で必要とされるスキルが今後大幅に変化する可能性もあるため、転職する予定がない人でも技術革新に対応するために必要なスキルを取得することが必要であると考えられる。

また、今後非正規社員にも求めるスキルが変化していく中、企業や政府が労働環境や求められるスキルについて将来的な見通しを働き手に提示していくことも重要であると考えられる。

まとめ

現在アルバイトが担う仕事が将来的にシステムやAI・ロボットなどのテクノロジーに代替えされると思う企業は7割となったことから、働き手に求められるスキルも今後変化する可能性が高いと考えられます。そのため、今後は非正規社員においても、ビジネスモデルや雇用環境の変化に対応して、成長分野である職種や異なる仕事に適応するスキルの取得・アップデートを行う学び直しが求められていくでしょう。

一方で、従業員にリスキリングを実施している企業のうち、過半数は正社員のみを対象としていることがわかりました。今後は非正規社員にも、デジタルスキルが必要となる中で、企業や政府が主導してリスキリング機会を提供していくことが求められると考えられます。

また、非正規社員のうち「学び直しの必要性を感じている」人も過半数いる一方で、実際に取り組めている人は2割弱となりました。非正規社員で働いている理由として仕事と家事・育児・介護との両立のしやすさが多いことから、リスキリングに取り組む時間や場所が壁の一つとしてあることが考えられます。

そのため、今後、非正規社員が自らリスキリングに取り組むことができるように時間や場所の自由度が高く柔軟にリスキリングできる環境の整備を行うなど非正規社員のニーズに合わせたリスキリングを行う必要もあるでしょう。

雇用形態に関わらず企業がリスキリングに取り組むことは、働き手の生産性向上や企業の業績向上にも繋がります。また、リスキリングの実施は労働者の「技術的失業」を防ぎ、新たな雇用機会の創出など社会全体の発展に寄与できるといえるでしょう。 

キャリアリサーチLab研究員 三輪 希実

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