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高校生が地域・企業と接点を持つ学びを行うことによる、地域・企業への効果

キャリアリサーチLab編集部
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キャリアリサーチLab編集部

高校生の探究学習の場を活用し、高校生と地域・企業を結び付ける取り組みに注目している本シリーズ。前回は株式会社マイナビが運営する学習プログラム『locus(ローカス)』の監修も行っている佐藤教授に、実社会に関わる「探究学習」が高校生の将来にもたらす影響などについて伺った。


今回は三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社の阿部剛志上席主任研究員と喜多下悠貴主任研究員から、地域や企業の観点で、こうしたつながりの有用性について解説いただいた。

「探究学習」は、高校生のためのみにあらず

高校生が、地域社会の住民やさまざまな組織・企業と接点を持ちながら「探究学習」を深める動きが加速している。自治体と連携した地元の社会課題の解決に向けた探究、地域住民の困りごとの解決、企業等と連携し、商品やサービスの開発を通じた価値創出への挑戦、地元の研究機関やその地域をフィールドとする研究者との共同研究、はたまた地域の多様な人々の暮らしや働きに触れ自身のキャリアを探究する試みなど、その実践は実に多彩である。 

こうした取り組みが進むと必然的に、高校生と地域(の大人)との接点が増えていくことになる。高校が所在する地域(いわゆる「地元」地域)を探究の舞台としている場合はなおのことである。  

このような高校生の学習経験が本人に与える能力等については、佐藤浩章教授へのインタビューで触れられているとおりであるが、ここでは視点を転じて、高校生が地域・企業と接点を持つ学びを行うことによる、地域・企業側への効果について、いくつかの視角から考えていきたい。 

地域・企業と接点を持つ学びの「卒業生」への効果

一つめの視角として、高校生を卒業後の「地域住民」あるいはその地域の「関係人口」として考えてみる*1。 

永野(2024)*2が行った、全国の18歳~25歳の若者を対象として高校時代の学びの経験と卒業後の地域との関わり等について尋ねたWEBアンケート調査の結果によると、「高校時代に豊かな学習活動・学習環境を経験した者は、『いずれは高校時代を過ごした地域で働きたい』『地元に帰らなくても何らかの形で貢献するような仕事をしたい』『地元に帰らなくても何らかの形でつながり続けたい』といった地域への意識が高い」ことが明らかになっている。 

ここでいう高校時代の「豊かな学習活動・学習環境」とは、「学校外のいろいろな人に話を聞きに行く」学習活動、「地域の魅力や資源について考える」等、上述した地域と接点を持ちながら探究的に学ぶ経験量を表している。地元地域と接点を持ち、地域を深く知る学びの経験が、高校生の卒業後のキャリア観や地域に対する意識にも影響を及ぼしていることがよく分かる結果である。

地域における探究学習推進の地域政策的側面 

上記の結果を地域の側から解釈してみると、高校時代(この期間は、少なくない高校生にとって、「地元」で学ぶ最後の機会であることは重要なポイントである)の地域と関わる学びの経験が、のちの定住意向ないしはUターン意向の形成、あるいは関係人口づくりに影響しているということが言える。高校生に対し地域・企業と接点を持つ学びを推進することは、それを主目的とするかどうかは別として、結果的に地域政策としての機能を果たしていると言える。 

より直接的な地域への効果も確認できる。同じく永野による分析では、「地域の魅力や資源について考える」学習を高校時代に経験していた若者ほど、地域に対するコミットメント(行事やボランティアに参加する、地元を支援するクラウドファンディングに参加する等)の高まりがみられることが報告されている。短期的な人的・経済的支援から中長期的な移住・定住意向に至るまで、すそ野の広いポジティブな影響を地域に対して及ぼす可能性が示唆されていると言える。 

図表 「直近1~2年で地元に関して行ったこと」×
高校時代に「地域の魅力や資源について考える」学習活動の経験量/永野(2024)より一部抜粋
図表 「直近1~2年で地元に関して行ったこと」×
高校時代に「地域の魅力や資源について考える」学習活動の経験量/永野(2024)より一部抜粋

キャリア教育等を通じて高校生と接点を持つことの企業への効果

ここまで、高校生が地域・企業と接点を持ちながら学習を深めることによる高校生自身への効果、地域に及ぼす効果についてみてきたが、ここからはキャリア教育等を通じて高校生と接点を持つ企業側の効果(メリット)について考えていきたい。

高校生と企業との接点

まず、高校生と企業との接点に関する近年の動向を押さえておきたい。2022年度以降に現学習指導要領が年次進行で実施される中、新たに設置された必修科目「総合的な探究の時間」での活動に加え、従来取り組まれてきたキャリア教育の活動においても、「社会に開かれた教育課程」の理念の元、高校生が周辺地域・企業と接点を持つ学び方が広がりを見せている。 

こうした中、職業体験や出前講座、社会人授業、さらには探究学習の伴走支援、協働実施等、企業が高校生と接点を持つ活動の多様化・高度化が進んでいるが、その活動に向けて企業は事前準備や当日の受け入れ・授業参加等に、役職員が一定の時間や費用(リソース)を割く必要がある。 

企業が一定のリソースを割くにあたって、それによって得られる効果(メリット)が明確であることは、ステークホルダーの納得を得る上でも望ましい。これまでは、そのメリットは次世代を担う学生の学習支援・学習機会提供という「社会・地域貢献」や、それによって得られる社会的評価(レピュテーション)の側面で説明されることが多かった。 

この側面は引き続き重視されていくと考えられるが、近年、企業側が新たなメリットを見いだす例がみられるようになってきている。その一例を紹介したい。 

企業と連携したキャリア探究プログラムの開発 

経済産業省が推進する「未来の教室」事業において、2023年度に一般財団法人地域・教育魅力化プラットフォームが「越境的・共創的な学びを実現するみらいハイスクール」実証事業に取り組んだ。 

同実証事業での活動の一つに、企業と連携した「キャリア探究プログラム」の開発があり、全国8校から参加した15名の高校2年生と企業が協働している。その活動に参画した企業にとっての効果について、同報告書では以下のとおり3点に整理されている。 

  • 人材育成価値:社員自身の考え方やコミュニケーション方法の内省の機会
           将来世代と関わることによる、社員の原点確認・モチベーション向上 
  • 研究開発価値:将来的なサービス受益世代と接点を持てることによる市場情報の獲得 
           働く価値観形成への関与による市場創造 
           高校生の視点の経営への活用
  • P R 価 値:インナーコミュニケーションへの活用可能性 
           採用時の学生向けPR情報や投資家向け情報としての活用可能性 

    *出典:一般財団法人地域・教育魅力化プラットフォーム「越境的・共創的な学びを実現するみらいハイスクール 最終成果報告書」(https://www.learning-innovation.go.jp/verify/g0204/

高校生と企業の接点は、高校生だけでなく企業も「学べる」場に

1点目の「人材育成」の効果は、高校生と企業が接点を持つ学びの場で特に企業側に認識されることが近年多くなっているが、その背景には、「高校生の学び」の質の変化が大きく影響していると考えられる。 

学習指導要領で設置された「総合的な探究の時間」の目標・狙いは「探究の見方・考え方を働かせ、横断的・総合的な学習を行うことを通して、自己の在り方生き方を考えながら、よりよく課題を発見し解決していくための資質・能力」を育成することとされている。 

「自己の在り方生き方を考えながら」以降に示された資質・能力は、キャリア教育の定義である「一人一人の社会的・職業的自立に向け,必要な基盤となる能力や態度を育てる」*3の考え方と親和性が高く、故に総合的な探究の時間での探究学習がキャリア教育につながるケースも多くなってきていると言える。 

総合的な探究の時間は、学習指導要領において標準単位数が3~6と定められており、毎週1~2コマの授業が組まれることになる。毎週の授業で反復的・継続的に探究学習に取り組む中で高校生は「自己の在り方生き方」に関するさまざまな「問い」に向き合うことが当たり前になっていく。 

このような学びが高校生の日常となる中で、高校生と企業が接点を持つ学びの場にも「探究的なプログラム」が求められるようになってきている。たとえば、職業体験の場においても、単に企業の事業紹介をして仕事の現場体験をするというプログラムではなく、企業の在り方、社員のキャリアや働き方について、高校生の「問い」に経営者・社員が対話を通じて向き合うようなプログラムに変容していくイメージである。 

こうした「問い」を介した対話・経験は、経営者・社員にとっても「自己の在り方生き方を考える」ことにつながり、経営者・社員自身のキャリア教育・学習機会にもなっていく。その結果として、企業が人材育成の効果を認識するという構造になっていると考えられる。 

前掲の報告書では、探究プログラムに参画した企業側社員の声も掲載されているが「高校生は自然体でなんでも質問してくれることが価値」「内省のきっかけとして高校生の無邪気な質問に意味がある」「高校生がピュアな気持ちで学んでいる姿は、自分の内省につながる」といった声はその証左である。

高校生が地域・企業と接点を持つ学びは「三方よし」になる力を秘めている 

高校生が地域・企業と接点を持つ学びの場に、「自己の在り方生き方を見つめる問い」という軸が本質的に組み込まれていくと、その場は「企業がリソースを提供し、高校生が学ぶ」という一方向的な関係から、「高校生も企業も相互に学び合う」という双方向の関係に変容する。 

そして高校生の意識変化や企業の人材育成が促進されることを介して、地域の活性化が図られていく。 
このように、高校生が地域・企業と接点を持つ学びの場は、急速にその質を変化させており、高校生・地域・企業が「三方よし」を実感できる可能性を広げている。 

より多くの企業が高校生の学びに参画し、協働することで、「三方よし」の輪が全国各地にさらに広がっていくことを期待したい。 


【脚注】 
1:関係人口とは、総務省による説明によれば、「移住した「定住人口」でもなく、観光に来た「交流人口」でもない、地域と多様に関わる人々を指す言葉」とされる(総務省「関係人口ポータルサイト」(https://www.soumu.go.jp/kankeijinkou/about/index.html))。 
2:永野恵(2024)「魅力ある高校づくり(高校魅力化)の卒業後の波及効果について~高校卒業後の若者に対するアンケート調査より~」三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社『政策研究レポート』 
3:中央教育審議会「今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方について(答申)(平成 23 年1月 31 日)


阿部 剛志(あべ たかし) 
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 持続社会部 部長 兼 上席主任研究員 

1977年生まれ。明治大学大学院理工学研究科建築学専攻修了(工学修士)。 
2003年より在職。まちづくり・地域政策を専門とし、教育・学校が地域に及ぼす影響の分析、 教育を活かしたまちづくりに関する研究や事業化支援に従事している。 日本大学「地域教育論」非常勤講師、群馬県「高校魅力化アドバイザー」などを歴任。 

喜多下悠貴(きたした ゆうき) 
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 社会政策部 主任研究員 

1987年生まれ。東京大学大学院教育学研究科修士課程修了(教育学修士)。 
2012年より在職。教育政策と地域政策の関係性について、学校組織開発・評価や 外部人材との協働などさまざまなアプローチから探究を行っている。 共著として『地域協働による高校魅力化ガイド』。 

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