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人生100年時代。なぜ、いま キャリア自律が求められるのか?

キャリアリサーチLab編集部
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日本の政策会議である「人生100年時代構想会議」にもあるとおり、これからは人生100年時代となる。仕事ステージの長期化に伴う、マルチステージの人生だからこそ仕事やキャリアに主体的に向き合い戦略を立てることが重要である。このコラムではキャリアと主体的に向き合う「キャリア自律」の重要性について考察するとともに、個人単位でできるキャリア形成だけでなく、企業による社員のキャリア自律支援についても考え、労使ともに成長できる仕組みづくりを提案したい。

キャリア自律ってなに?

そもそもキャリア自律とは何だろうか。「キャリア自律」とは、「めまぐるしく変化する環境のなかで、自らのキャリア構築と継続的学習に取り組む(個人の)生涯に渡るコミットメント」(花田・宮地・大木2003)と定義される。つまりキャリア自律とは環境に合わせて柔軟に自分自身を変化させる一連の態度や行動のプロセスを指し、組織をベースに評価され、昇進していくキャリア形成ではなく、働く個人が自身のキャリアに関心をもち、主体的にキャリア形成を行っている状態のことをいう。

キャリア自律が求められる背景

現在の就労環境にはさまざまな課題がある。「人生100年時代」となり個人の人生が長期化し、キャリア形成に絶対がなくなり不確実なものとなった。これまでの「学び→仕事→老後」という3ステージの単線型の人生は変化の時を迎えている。 3ステージの人生の代わりとなるのが複線的かつ多様なマルチステージの人生だ。マルチステージの人生とは、たとえば生涯にステージを何度も移行するというような人生だ。今まで「教育から仕事へ」、「仕事から老後へ」の2回のみだったステージの移行を、マルチステージでは「仕事→新たな学びを得るための進学」「仕事中心の働き方→家庭とのバランスを考える働き方」など何度も経験するようになる。だがほとんどの人がステージを何度も移行し、キャリアを築いていくための能力を持っていないことが問題となっている。

図1のとおり今後少子高齢化はさらに進み、労働人口の減少や家族の在り方の変化など、社会構造についても流れが不確実で不透明である。

高齢化の推移と将来推計/棒グラフと実線の高齢化率については、2015年までは総務省「国勢調査」、2017年は総務省「人口推計」(平成29年10月1日確定値)、2020年以降は国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成29年推計)」の出生中位・死亡中位仮定による推計結果。
【図1】高齢化の推移と将来推計/棒グラフと実線の高齢化率については、2015年までは総務省「国勢調査」、2017年は総務省「人口推計」(平成29年10月1日確定値)、2020年以降は国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成29年推計)」の出生中位・死亡中位仮定による推計結果。

バブル崩壊・リーマンショックなど1990年代以降に生じた経済危機はダウンサイジングやフラット化といった組織変革を企業に促し、その結果、企業・組織主導のキャリア形成は限界となり、これまでの終身雇用や年功序列制度は機能不全に陥りかけている。

働く個人はこれまで雇用の保証や一定水準までの昇進と引き換えに企業主導のキャリア形成を受け入れてきたが、長期雇用が保証されない状況下で個人は組織を問わず適応する能力(=エンプロイアビリティ)を開発する機会を求めるようになりつつある。

キャリア自律のために働く個人ができること

ここではキャリア自律のために働く個人ができることについて紹介したい。マルチステージの人生では企業・組織に依存したキャリア形成は通用しなくなってしまう。主体的なキャリア形成のために個人はどんなことができるのだろうか。

まずは自分のキャリアは組織に頼るのではなく自分で舵をとって作っていくという意識を持つことが重要となる。そのためには自分のキャリアについての考え方や置かれている状況を把握することから始める必要があるが、その際に役立つフレームワークを紹介したい。「Will-Can-Must」のフレームワークである(*1)。

自分がやりたいこと(will)を目標として掲げ、その目標を達成できる自信を持てるよう、自分ができること(can)をしっかり把握しておくことが自律的なキャリア形成には必要なことであり、組織内でキャリア形成していくためにはその個人が所属する組織の基準や規範、事業戦略など組織が期待する役割(must)との整合性を持つことも必要なことであるというもの(考え方)である 。

will・can・mustのベン図
【図2】

自分自身のやりたいこと(will)・できること(can)・やらなくてはいけないこと (must)を考えるにはこれまでさまざまな経験をしてきたキャリアから自分なりにパターンを見つけ出し、共通点を見つけ、それに意味づけることが必要である。

たとえば半期に1度は自身のキャリアの棚卸を行い、過去の経験と今起きている出来事を振り返り、未来に向けてどう行動していくかについて深く考えるようにする。

転職をする人は自身のキャリアを見つめなおす機会があるが、同じ企業で長く勤めている人は日常の業務に追われ、自身のキャリアを見つめなおす機会がない場合が多い。

自分自身のやりたいこと(will)・できること(can)・やらなくてはいけないこと(must)が明確になり、今の自分を客観的にみることができると、必然的に自分に足りないスキルや知識が明確になる。キャリアは自分で舵をとって作っていくという意識を持つことで他人任せにせず自身の成長を促す行動につながる。

自分の人生を主体的に送っている・自分の市場価値/マイナビライフキャリア実態調査 2020年9月調査の結果(リンク先は21年4月の結果)
【図3】自分の人生を主体的に送っている・自分の市場価値/マイナビライフキャリア実態調査 2020年9月調査の結果(リンク先は21年4月の結果)

株式会社マイナビが人生・生き方に関する価値観に関して行った調査によると上図のように「自分の人生を主体的に送っている」に「(よく+やや)あてはまる」と回答した人のうち、「市場価値は高いと思う」と回答した人が6.5%、「比較的市場価値は高いと思う」と回答した人が32.5%となっており、「人生を主体的に送っている」に「どちらともいえない」「(あまり+全く)あてはまらない」と回答した人よりも市場価値が高いと認識する傾向にある。

 自分の人生を主体的に送っている・勤務先からの評価/マイナビライフキャリア実態調査 2020年9月調査の結果(リンク先は21年4月の結果)
【図4】自分の人生を主体的に送っている・勤務先からの評価/マイナビライフキャリア実態調査 2020年9月調査の結果(リンク先は21年4月の結果)

上記の勤務先での評価に関する質問においても同様の傾向がみられた。
「自分の人生を主体的に送っている」に「(よく+やや)あてはまる」と回答した人は、勤務先からの評価について「高い評価を受けていた」と回答した人が9.3%、「ある程度の評価を受けていた」と回答した人が51.9%となっており、「人生を主体的に送っている」に「どちらともいえない」「(あまり+全く)あてはまらない」と回答した人よりも勤務先からの評価も高い傾向にある。

以上より「自分の人生を主体的に送っている」に「(よく+やや)あてはまる」と回答している人は市場価値が高いという認識があり、勤務先においても評価が高い傾向であることがわかる。

キャリア自律のために企業ができること

今後の企業のキャリアマネジメントでは、これまでのように絶対的な雇用を保証することにより組織主導のキャリア形成を個人に行うのではなく、個人の主体的なキャリア形成を支え、エンプロイアビリティを高める機会の提供を重視することが必要となる。

個人の主体的なキャリア形成は個人の主体的な選択により行われる。企業主導で行われてきた異動・昇格・配置、研修などにおいて、個人が選択できる機会を増やしていくことで個人の意識が向上し、成長を促進させる。その結果、組織が活性化し企業の活力や生産性、競争力を高める効果が期待できる。

具体的な施策としては社内公募制や社内FA制度、自己申告制度や、自己選択型研修などがある。自律的キャリア形成が進むにつれて働く環境や、研修の内容についても自主的に選択できるようにしていく。個人の主体的なキャリア形成を支援するにはキャリア相談窓口を設置し、キャリアコンサルティングを行うことも効果的である。キャリアコンサルティングを行うことにより個人にこれまでの経験を振り返り、今の自分とありたい自分を見つけてもらうことで、個人の主体的な選択を支援することができるためである。

キャリアに関する相談/厚生労働省「平成29年度能力開発基本調査」
【図5】キャリアに関する相談/厚生労働省「平成29年度能力開発基本調査

上図のように自らのキャリアについて相談した労働者の約9割が、相談(キャリアコンサルティング)が役に立ったとしている。役立った内容としては、「仕事に対する意識が高まった」とする人の割合が多いほか、正社員では「自分の目指すべきキャリアが明確になった」、「自己啓発を行うきっかけになった」、正社員以外では「現在の会社で働き続ける意欲が湧いた」等が選択されている。

まとめ

働く個人が主体的なキャリア形成をできること、企業は働く個人の主体的なキャリア形成を支援することが今後の個人と企業の発展において重要になってくる。主体的なキャリア形成ができると個人においてはモチベーションが維持され、エンプロイアビリティを高めることができ、心理的成功を追い求めることができるようになる。

企業においては主体的なキャリア形成ができる社員が増えることで組織が活性化し市場価値の高い社員に恵まれるようになる。今、労使の関係は、相互依存の状態から自律を支援する形へ変化の途中にあるといえる。労使ともに成長できるキャリア自律を支援する仕組みについてまずは一つ取り入れてみてはどうだろうか。

※1 「Will-Can-Must」のフレームワークとはキャリアプラン策定にあたってのフレームワークのことです。


著者紹介
八木えりな(やぎ・えりな)

2014年新卒でマイナビに入社。
以来7年間マイナビバイトを運営するアルバイト情報事業本部に所属。
2021年8月国家資格キャリアコンサルタントに合格。
夫の転勤、妊娠・出産という女性ならではのライフイベントを経験し、自身のキャリアに悩んだ経験からキャリア理論「プロティアンキャリア」に興味を抱く。「プロティアンキャリア」とは組織が主体のキャリア形成ではなく、個人が主体で自分が歩みたいキャリアを形成していくことが重要であるとして心理的成功を追い求めるものである。つまり「キャリア自律」を重要視する理論である。コロナ禍において自身の周りでもキャリアについて悩む人が多く、主体的なキャリア形成には何が必要なのかを考察したいと考え、当コラムの企画に至る。

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