労働基準法とは何か?その成り立ちと変化

水町勇一郎
著者
早稲田大学法学学術院 教授
YUICHIRO MIZUMACHI

働く人と会社の間の「働くこと」に関する法を「労働法」と呼んでいます。「労働法」という名前の法律があるわけではなく、労働組合法や労働基準法、最低賃金法、男女雇用機会均等法、労働契約法など、働くことに関するたくさんの法律を集めたルールの総体です。そのなかでも、もっとも代表的な法律だといえるのが「労働基準法」です。

労働基準法の成り立ち

労働基準法(以下「労基法」といいます)は、1947(昭和22)年3月に成立、同年4月に公布され、同年9月1日(一部は11月1日)に施行されました。

戦前には、鉱業法や工場法という法律がありましたが、これらの戦前の法律は、年少者や女子の悲惨な状態を保護するという考え方から出発し、成年男子の体力確保を第一の目的とするものでした。

これに対し、労基法は、1946(昭和21)年11月3日に公布され1947(昭和22)年5月3日に施行された日本国憲法の生存権保障(25条)、勤労条件基準の法定(27条2項)、児童酷使の禁止(同条3項)を受けて、労働条件の決定に関する基本原則を宣明し、労働条件を「労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべき」水準とすることを基本理念(労基法1条1項)として定められたものです。

労基法の3つの基本理念

労基法の立法者は、この1.労働条件決定の基本原則の宣明とともに、2.労働関係に残存する封建的遺制の一掃、3.国際的労働基準に基づく最低労働条件の設定を、労基法の3つの基本理念として掲げていました。

労基法は、戦前の封建的な労働関係を一掃し(2)、当時の国際的な労働基準(ILO条約等)を参考にしながら(3)、日本の労働条件の基本原則を定める(1)という精神のもとで制定されたのです。

もっとも実際には、労基法は、GHQ(General Headquarters=連合国軍最高司令官総司令部)の労働諮問委員会(Labor Advisory Committee)の指導・勧告を受けながら、かなりの程度日本側の主導によって定められた法律であったため、当時の日本の経済環境や労働市場の動向を考慮しつつその内容が定められ、労働者保護より産業界の要請を考慮するという従来の工場法等に内在していた限界と矛盾を内包するという側面も有していたといわれています。

たとえば、時間外労働をさせるための要件である36協定(さぶろくきょうてい)を簡便な形で定めることが可能とされ、また、時間外労働に対する割増賃金率が原則25%と低く設定されている(先進諸国では50%が一般的)ため、日本では時間外労働に対する法的なブレーキが実質的にはあまり働かないものとなっていました[1]

労基法から派生した法律、関連する法律

労働基準法、最低賃金法、労働安全衛生法、賃金支払確保法の年表(株式会社マイナビ作成)

労基法は、上述したように、1947(昭和22)年に制定された法律ですが、その後そこから派生して、いくつかの重要な法律(労基法の附属法)が定められるに至っています。

たとえば、1959(昭和34)年に制定された最低賃金法(労基法29条から31条を削除して別法化。いわゆる「最賃法」)、1972(昭和47)年に制定された労働安全衛生法(労基法43条から55条を削除して別法化。いわゆる「労安衛法」)があります。

また、労基法に関連する法律として、使用者の災害補償責任を定めた労基法第8章(75条以下)と並んで国による労災補償保険制度を定めた労働者災害補償保険法(1947〔昭和22〕年制定。いわゆる「労災保険法」)、国による賃金の立替払い制度等を定めた賃金支払確保法(1976〔昭和51〕年制定。いわゆる「賃確法」)などがあります。

これらの法律の内容の詳細は省略しますが、厚生労働省の労働基準局がこれらの法律を所管し、全国各地に設置されている都道府県労働局・労働基準監督署においてこれらの法律がきちんと守られるようにするための指導・監督が行われています。

労基法が定める基準の特徴

労基法が定める労働条件の基準は最低のものであり(1条2項)、この基準に達しない労働条件を定める労働契約の部分は無効となります(13条)。

たとえば、労基法上、年次有給休暇は勤続年数に応じて10日~20日と規定されています(39条)が、会社で労働契約上「わが社の社員の年次有給休暇は5日」と定めても法的に無効となり、労基法の規定に従って、勤続年数に応じて「10日~20日」の年休の権利が与えられることになります。

また、労基法が定める基準は、基本的に、すべての会社がその雇用するすべての労働者に対して一律に守らなければならないものとされています。労基法は、大企業か中小企業かを問わず、すべての会社に適用されるルールなのです。このように労基法は、最低基準性と一律性という大きく2つの特徴を原則として有しています。

もっとも、この労基法の原則的な規制には、重要な例外が認められています。①事業場の労働者の過半数を組織する労働組合がある場合にはその労働組合、それがない場合には労働者の過半数を代表する者との書面による協定(いわゆる「労使協定」)、または、②事業場の労働条件の調査審議を行う労使半数ずつで組織された委員会(労使委員会)の委員の5分の4以上の多数による決議(いわゆる「労使委員会決議」)によって、その協定や決議の定める範囲内で労基法の規制を免れることができることです。

その趣旨は、事業場における民主的決定に基づいて、当該事業場の多様な実情にあった柔軟な対応をすることを許容すること(民主的手続による規制の分権化・柔軟化)にあります。

たとえば、労基法36条に基づいて、過半数労働組合または過半数代表者と労使協定(いわゆる36協定)を締結し労働基準監督署に届け出れば、この36協定で定めた範囲内で、本来は禁止されている時間外労働・休日労働(32条・35条)を行わせることができるとされています。

労基法を守らせる方法

労基法は、その規制を守らせる手段として、次の大きく3つの方法を用意しています。

「強行的効力」と「直律的効力」

第一に、私法上の強行的・直律的効力と呼ばれるものです。労基法は、「この法律で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする。この場合において、無効となった部分は、この法律で定める基準による」とする規定(13条)を定めています。

このうち、法定の基準に達しない労働契約の部分を無効とする効力を「強行的」効力、無効となった契約部分を法定の基準によって補う効力を「直律的」効力といいます

たとえば、1日8時間を超える労働に対して10%の割増賃金を支払うと当事者間で合意していたとしても、労基法上の基準(37条1項)に反するこの合意は強行的効力により無効とされ、直律的効力により25%(月60時間を超える部分については50%)の割増賃金を支払う内容の契約となります。

労働基準監督署

第二に、労基法は、労基法や労基法に関連する法律を守らせるため、厚生労働大臣を頂点とした行政監督制度を設けています。

労基法は、厚生労働大臣の下に(厚生労働省)労働基準局、労働基準局長の下に各都道府県労働局、都道府県労働局長の下に労働基準監督署をそれぞれ置き、これらの機関に労働基準監督官および必要な職員を配置するものとしています(97条1項、99条)。

労働基準監督官は専門職の監督行政官であり、その一人ひとりに臨検・尋問など特別の権限が与えられています。下に述べる労基法違反の罪については、労働基準監督官は、逮捕(令状逮捕または現行犯・緊急逮捕)、令状による差押え・捜索・検証、現行犯・緊急逮捕の際の令状によらない差押え・捜索・検証の権限をもつものとされています(102条)。

税金を払わないと税務署が動くように、労基法を守らないと労働基準監督署・労働基準監督官が捜査を行い、違反者を逮捕することもあるのです。

違反に対する罰則

第三に、労基法上の規制の多くには、違反に対する罰則(拘禁刑や罰金)が定められています(117条以下)。この罰則が適用されるのは、実質的な権限と責任をもって違反行為を行った者です。

たとえば、労基法に反する残業を課長が部下に命じた場合には、課長が罰則の対象とされます。また、労基法は、この違反行為者への処罰だけでなく、会社(個人企業の場合は企業主個人、法人企業の場合は法人)に対しても罰金刑を科すこととしています(121条1項。両罰規定)。

労基法をめぐる最近の変化―「働き方改革」

労基法をめぐる改正についての年表(株式会社マイナビ作成)

労基法は、1947(昭和22)年に制定されて以来、何度も改正が行われてきました。そのなかでも大きな改正は、法定労働時間を週48時間から40時間に段階的に削減し、労働時間制度の多様化・柔軟化(変形労働時間制の拡大や裁量労働時間制の導入など)を図った1987(昭和62)年改正、そして、労働者の健康確保、労働生産性の向上、ワーク・ライフ・バランスの改善等を図ることを目的として、罰則付きで時間外労働の上限時間を設定するなどの改革を実行した2018(平成30)年改正(いわゆる「働き方改革」)です。

2018年改正(「働き方改革」)では、罰則付きで時間外労働(週40時間を超える労働時間)の上限時間を設定した(36条)[2]こととあわせて、労働者の健康確保や休暇取得促進の観点から、使用者への年休付与義務(年5日)の設定(39条7項)、労働時間の適正把握義務労働時間の適正把握の法律上の義務化(労働安全衛生法66条の8の3)、多様で柔軟な働き方の実現という観点から、フレックスタイム制の見直し(労基法32条の3)、高度プロフェッショナル制度の創設(労基法41条の2)などが行われました。

労基法の大きな目標は、労働者の人権を守ること、労働者の健康を確保し働きやすい環境を作ることにありますが、同時に、働き方の大きな変化(ホワイトカラー化、デジタル化など)に合わせて規制の内容を社会実態にあったものに変えていくことも求められています。労基法は、背景にある社会環境の変化のなかで、大きな変化を遂げていっているともいえるでしょう。


[1])渡辺章編集代表『日本立法資料全集52 労働基準法〔昭和22年〕(2)』(信山社、1998)60頁以下〔中窪裕也〕、野川忍「労働形態と法規制」日本労働研究雑誌654号4頁以下(2015)、島田陽一=菊池馨実=竹内(奥野)寿編『戦後労働立法史』(旬報社、2018)103頁以下〔中窪裕也〕など参照。

[2] ①法定労働時間(週40時間)を超える時間外労働の限度時間を原則として月45時間、年360時間とする(労基法36条3項・4項)、②特例として、臨時的な特別の事情がある場合に労使協定(特別条項)により限度時間(①)を超える時間を定めることができるが、この場合にも、ⓐ時間外・休日労働をさせることができる時間を1か月100時間未満かつ2か月ないし6か月平均でいずれにおいても月80時間以内とする(同条5項・6項)、ⓑ1年について時間外労働をさせることができる時間を720時間以内とする(同条5項)、ⓒ月45時間を超えることができる月数を1年について6か月以内とする(同項)こととされた。

矢部栞
担当者
キャリアリサーチLab編集部
SHIORI YABE

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