降格・減給とは?違いや法的リスク、人事担当者が押さえるべき法律とトラブル防止策を解説-社会保険労務士法人みらいコンサルティング

職場における公平な処遇を実現または維持するため、会社は能力不足の社員や、懲戒対象者に対して「降格」や「減給」を行うことがあります。

これらは労働条件のうち特に重要な要素である「賃金」」の「引き下げ」を行うという会社側の決定であり、当該社員の実生活や心理への影響も大きく、決定を不服とする労働紛争リスクや退職リスクを常にはらんでいます。会社としてはそれだけの覚悟と根拠をもっての決断といえるでしょう。

本コラムでは、降格や減給におけるリスクを回避しつつ組織をマネジメントするためのポイントをご紹介します。

降格・減給の定義

1.降給・降格・降職

まずは、言葉の定義をはっきりとさせておきましょう。「降給」と「降級」、「降格」と「降職」など、人事異動界隈では似たような言葉が存在し、実際、現場でも混同されている場面を見かけます。以下は本コラムにおける定義であり、法令などによって確立、共通化されたものではないことをご留意ください。

用語定義
降給人事評価の結果等に基づき、賃金が減少すること。人事評価がC評価だったため、基本給を3%下げる。
降格人事評価の結果等に基づき、「等級制度(「グレード」や「資格(資格等級)」と呼ばれることもあります)」の「格付け」を下げること。人事評価が2回連続D評価だったため、3等級から2等級に下げる。
降職会社組織上の役職(ポスト)を解任すること。部長から課長に役職を変える。係長職を解いて、役職のない一般職に変える。

ちなみに、上記の反対語はそれぞれ、降給↔昇給、降格↔昇格、降職↔昇進です。

等級制度と役職の図解

なお、制度によっては、昇格した場合は昇給、降格した場合は降給を伴うことがあります。

2.減給

上記3つが人事制度上の人事権の行使(人事評価や配置)であるのに対し、懲戒処分の一種である「減給」とは、就業規則等に定められたルール違反を犯した社員に対する制裁、ペナルティです。

無断遅刻や欠勤、業務命令違反、ハラスメント行為といった違反行為に対する罰則として、本来支払われるべき賃金の一部を不支給とします。

懲戒処分としての減給には、労働基準法(労基法)第91条によって制限があり、減給額の上限が設けられています。

  • 懲戒事由1回あたりの上限額
    →平均賃金の一日分の半額を超えてはならない
  • 懲戒事由が複数回あった場合
    →減給総額が一賃金支払期における賃金総額の十分の一を超えてはならない。

この上限はあくまで懲戒処分としての減給に対する法律上の制限であり、前述した3つの人事上の給与の引き下げに関しては、明確な法的規制はありません。ただし、人事評価の結果が芳しくないからと言って、あまりにも劇的な引き下げを行うことは「人事権の濫用」として裁判などで否認されることがあります。

よって、労基法上の減給上限(賃金総額の十分の一)をひとつの参考値としつつ、職務等に応じてバランスの取れた人事(賃金)制度の構築が求められます。

ケーススタディ

人事労務の現場で実際に発生しそうなケースについて、実務上の注意点を見てみましょう。

1.評価不振による降職・降給はどこまで可能か

質問:評価不振を理由に役職を外し、賃金を下げたいと考えているのですが、どこまで可能でしょうか。

役職を外すこと(降職)よりも、それに伴う賃金の引き下げの幅が着目すべきポイントです。就業規則等に明確な根拠があり、かつ引き下げ幅が不当に大きくないことが必要です。

根拠=ルールがあればなんでもできる、というわけではないですが、役職ごとの手当(役職手当)や基本給額(下限額や上限額)を設定しておき「役職に就いたら」または「役職を外れたら」これだけの賃金の変動がある、ということがあらかじめ職場あるいは社員個人が知っている、納得している状態であることが求められます。

シンプルでわかりやすいのは役職手当でしょう。就業規則や賃金規程に「課長職には月〇万円の役職手当を支給する」と明記されていれば、役職から外れること(降職)で、自動的に役職手当が不支給となることは明らかであり、合理的です。

一方、役職から外れると、等級も同時に変わる(下がる)ことがあり、この場合、基本給の減額も伴うことがあります。役職が外れた場合の役職手当の減額は合理的、と申し上げましたが、基本給と役職手当(あるいはそれらに伴う賞与など)などの賃金が劇的に変化してしまうと、社員の生活に大きな影響を与えます。

そこで、一定以上の減額については、調整期間を設ける、として、緩和(救済)措置を設ける場合もあります。評価不振を理由に降職・降給を行う際は、以下のステップを踏むとよいと考えます。

  • 就業規則や賃金規程に「役職を外れた場合に手当が不支給または減額となる規定」や「評価に連動して基本給・等級が下がる規定」を明記する
  • 対象者に対し、事前に「なぜ評価が不振なのか」「いつまでに改善しなければ役職交代になるか」を面談等でフィードバックする(さらに記録に残しておく)
  • 極端な減額となる場合は人事権の濫用とみなされる可能性が高いため、一定の激変緩和措置(調整)を設ける

2.本人の同意なく給与の引き下げができるか

質問:本人の同意なく給与の引き下げを行った場合、どのようなリスクがあるのでしょうか。

人事評価や懲戒処分による引き下げの場合、本人の同意は必ずしも必要としません。制度が確立・周知され、合理的な評価によって職務と処遇のバランスが取れている限りは、会社が決定できる人事権の範疇といえます。

むしろ、引き下げに至るまでの改善へ向けての教育指導、成果の設定(いつまでに、何を達成すればよいか)が、社員の納得度を得るためにもとても重要なフローとなります。もちろん、引き下げを目的として、その合理性を担保するために行うのではなく、引き下げを回避するための企業努力です。こういった努力をせずに引き下げを行えば、人事権の濫用であると否認されてしまう可能性が高まります。

一方、人事制度自体の改定(基本給の構造を変えたり、手当を統廃合したりするなど)や、就業規則の改訂によって引き下げが発生する場合には、労使が合意したはずの労働契約について会社側が一方的に変更することになり、かつ、いわゆる「不利益変更(社員側にとって不利益となる変更)」に該当するため、契約相手である社員本人の同意が求められます(労働契約法第8条)。

また、同法では、使用者(会社)が以下の4要件を満たせば、労働者と個別に合意することなく、就業規則を変更することにより、労働条件を変更できる場合がある、ともしています。

  1. 労働者の受ける不利益の程度
  2. 労働条件の変更の必要性
  3. 変更後の就業規則の内容の相当性
  4. 労働組合などとの交渉の状況

会社は、不利益変更を行う場合には、移行調整期間などを設けたうえ、制度改定の必要性について丁寧に説明し、理解を得られるように努力しましょう。また、上記4要件をクリアしていたとしても、個別に不利益変更が生じる場合には、当該個人の同意を得たほうがよいでしょう。

3.能力不足による降格と懲戒降格の違いは何か

質問:能力不足による降格と、懲戒としての降格の違いはなんでしょうか。

「能力不足による降格」は人事評価による人事権の行使であり、「懲戒としての降格」は就業規則を根拠とする懲戒権の行使です。

「能力不足による降格」とは、客観的に見て能力が不足している、あるいは期待された成果を出していない社員に対して、組織上適切な人員配置を行うものです。

就業規則等に規定があれば、ある程度の会社の裁量が認められます。ただし、教育や改善指導を十分に行うこと、改善のチャンスも与えるなどしなければ、「人事権の濫用」として無効になることがあります。

「能力不足」を実際に証明することは困難であり、たとえば、「能力不足による解雇」は裁判でも認められないケースを多く見受けます。社員本人の納得を得るためにも、その等級や役職または個人にどのような能力や成果を求めているか、実際としてどれほどのギャップが発生し、実情はどうなっているかを本人と進捗確認し、数値などの客観的事実も用いながら、コミュニケーションを図っていくことが求められます。

「懲戒としての降格」とは、規律違反を犯した社員を罰する行為です。就業規則に「○○をした場合は、降格とする」などと明示されていなければ、どんな重大なルール違反であったとしても、その処分が認められないことがあります。ルール違反と書きましたが、就業規則に規定がないということは、そもそものルールが、その会社には存在しないということになるからです。

就業規則において、懲戒処分の対象となる行為と処分について列挙し、万が一、該当する行為が確認された場合には、事実確認ならびに本人弁明の機会を付与しつつ、懲戒委員会の開催など厳格な手続きを経て決定していきましょう。

なお、懲戒処分として「役職を外す(降格・降職)」を行い、その結果、役職が変わったことで結果的に賃金が下がる場合、これは「減給の制裁そのもの」ではないため、原則として労基法91条の上限ルールは適用されないとするのが一般的な実務・判例の解釈です。とはいえ、違反行為に対して処分が重すぎては、やはり「人事権の濫用」という問題が出てきます。

4.降格後の再登用で押さえるべきポイント

質問:一度降格させた後、再登用する際の考え方や注意点はあるのでしょうか。

一度降格した社員を再び上位の役職や等級に引き上げる「再登用」は、組織のモチベーション向上と公平性の確保に有効に働きます。本人ならびに周囲のほかの社員の納得を得るためにも、再登用にあたっての要件を明らかにしておくことが重要です。

たとえば能力不足で降格させた場合、「何が不足していたのか」「どのレベルまで達すれば再登用の土台に乗るのか」を、降格の時点で、本人へ伝えておく必要があります。これにより、本人は再登用へ向けて行動することができるでしょう。

まとめ:人事担当者が守るべき「給与の引き下げ」への備え

「降格・減給」をめぐるトラブルを防ぎ、健全な組織運営を行うために、人事労務実務担当者は、少なくとも次の3つのポイントを押さえておきましょう。

  1. 「就業規則・賃金規程」にルールを明示する
    根拠規定のない降格や減給は、どれだけ正当な理由があっても無効になりえます。懲戒事由のほか、人事評価に連動した降格、降給ルールを定めておきましょう。
  2. 「プロセス(教育指導・面談等)」を丁寧に進める
    口頭注意だけでなく、面談議事録などのデータを残しておきましょう。
  3. 懲戒処分としての減給には法的規制がある
    懲戒処分では、上限値を超えて減給することはできません。なお、人事権としての減給時にも、明確な法的規制はなくとも根拠ある、バランスの取れた制度設計および運用(激変緩和措置の適用など)を行いましょう。

人材の流動化および多様化が進む中で、従来の年功的人事が機能せず、人事評価と処遇との連動への期待がますます強まる中、賃金を下げる仕組みおよびその決定の重要性も比例して増していくものと思われます。

本コラムの内容を参考に、自社の制度運用をいま一度見直し、リスクを低く、かつ、緊張感のある強い組織づくりを推進していってください。

片山久也
担当者
キャリアリサーチLab編集部
HISANARI KATAYAMA

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