働き続けるだけでなく、可能性を広げるキャリア形成へ。中高年齢層の障害者の雇用継続とキャリア形成を考える-高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター 主任研究員 武澤 友広氏

キャリアリサーチLab編集部
著者
キャリアリサーチLab編集部

前回記事「選ばされる就労から、選ぶキャリアへ―就労選択支援制度が問いかける、障害者雇用のこれから」では、障害のある人が自らの意思で働き方や進路を選択することの重要性について、就労選択支援制度の創設を切り口に考察した。制度の背景には、「就職すること」や「働き続けること」をゴールとするのではなく、一人ひとりが望むキャリアや人生を主体的に選び続けられる社会の実現という考え方がある。

前回までの記事はこちら

では、実際に就労している障害者が年齢を重ね、働く環境や自身の状況が変化していく中で、そのキャリアはどのように支えられているのだろうか。

障害者雇用の現場では、障害のある労働者が長く働き続けることを支える取り組みが重ねられてきた。雇用の継続は、障害者本人の生活の安定や社会参加の基盤であり、企業にとっても人材の安定的な確保・定着の観点から重要な意味を持つ。

一方で、働く期間が長くなるにつれ、体力や健康状態の変化、家庭環境、職場のキーパーソンの異動など、本人を取り巻く状況も変わっていく。そのときに問われるのは、単に「働き続けられるか」だけではない。本人がその時々の状況や希望に応じて、働き方や役割を見直し、自分らしいキャリアを選び直せるかどうかも重要な視点である。

本コラムでは、障害者職業総合センターの武澤研究員に障害者の今後のキャリアについて聞いてみた。

武澤 友広
独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター主任研究員
職業リハビリテーションや実験心理学を専門とし、障害者の就労支援やアセスメントツールの開発に関する調査研究に従事している。近年は、中高年齢障害者の就労継続支援・キャリア形成支援に関する研究に取り組んでいる。

障害者職業総合センターでは、2023年度から2025年度にかけて「中高年齢障害者の雇用継続支援及びキャリア形成支援に関する研究」を実施した。本研究では、障害者就業・生活支援センター、障害者を雇用している事業所、35歳以上で会社に雇用されている障害のある労働者を対象とした調査等を通じて、中高年齢期に生じる働く上での課題と、それに対する支援の実態を把握した。

本コラムでは、これらの調査結果をもとに、中高年齢層の障害のある労働者に対するキャリア形成支援の状況を紹介する。事業所におけるキャリア形成支援のあり方を考える手がかりとしていただければ幸いである。

なお、本稿で紹介する研究ではキャリアを「個人の長期にわたる職業的な経歴(職務内容・役割・地位・身分などの変化)だけでなく、社会(職場や地域など)における自分の役割を明確にした上で、自分らしい生き方の実現に必要なスキルの習得や経験を積み重ねること」と定義している。

雇用継続をキャリア形成支援により支える

障害のある労働者が定年まで働き続ける状況はどの程度見られるのだろうか。そして、定年後も継続して働くことを希望する人はどのくらいいるのだろうか。

事業所への調査において障害者の退職時期等について尋ねたところ、「年齢が若いため、定年到達者がいない」とする回答が48.6%ともっとも多く、次いで「ほとんどが定年まで勤めている」が31.2%であった。この結果からは、調査時点ではまだ障害のある労働者が定年に到達していない事業所が多い一方で、定年まで働き続ける障害者がいる事業所も一定数存在していることがうかがえる。

また、継続雇用を希望する者について、「全員」と回答した事業所の割合は31.4%であり、定年後も働き続けることを希望する障害者がいる事業所が一定数存在していることがわかる。今後、障害のある労働者の高齢化が進むことを考えると、定年までの雇用継続や定年後の働き方をどのように支えるかは、障害者雇用における重要な課題になると考えられる。

実際に、障害者が定年まで働き続けられるようにする上での課題を事業所に尋ねたところ「サポート体制の強化」や「個別状況に応じた働き方の構築と処遇」に関する内容が多く挙げられていた。

体力や健康状態、障害特性、本人の希望、担当できる業務、処遇、周囲の理解、職場環境などを踏まえながら、その人らしい役割や働き方を再構築することの難しさを示している。

働き方と役割の再構築をどう進めるか

障害のある労働者への調査において「あなたが年を取ってから、体調が悪くなったり、体力が落ちたり、家庭環境が変わることにより、以前と比べて仕事ができなくなったことはありますか」と尋ねたところ、約半数の回答者がそのような経験が「ある」と回答していた。

では、そのような局面で職場はどのような対応を行っているのであろうか。

事業所への調査において、経年的な変化により支援や配慮が必要になった従業員に対する支援状況を尋ねたところ、4割以上のケースについて「健康管理に関する配慮」「就業時間や柔軟な休暇の取得に関する配慮」「同じ部署内での業務内容の見直し」が選ばれていた。

このうち、「業務内容の見直し」については具体的にどのような変更を行ったかについても尋ねていた。回答を見ると、変更の対象は「業務内容」そのものだけでなく、「業務範囲」「業務の実施方法」「業務の実施体制」「業務場所」「業務負担」と多岐にわたっていた(表1)。

表1 仕事のパフォーマンス低下への対応としての職務再設計の例

このような業務内容の見直しにおいて、働く本人の希望がどの程度反映されたのかについては本調査では把握していないものの、業務内容の見直しが本人も「納得できる選択」として行われているのか、それとも「できる仕事が限られるから、この仕事をするしかない」という対応になっているのかは、今後、重要な検討課題となると考えられる。

本人の希望や強み、今後身につけたい技能、職場で果たしたい役割が十分に確認されないまま業務内容の見直しが行われた場合、本人のエンゲージメントを損なうおそれがある。では、企業や職場は障害のある労働者のエンゲージメントを損なわないよう、業務内容や役割の見直しをどのように進めたらよいのであろうか。ここでヒントになる概念が「職場のソーシャル・キャピタル」である。

職場のソーシャル・キャピタルが雇用継続とキャリア形成のカギ

「ソーシャル・キャピタル」とは、グループ内またはグループ間での協力を容易にする共通の規範や価値観、理解を伴ったネットワークのこと(OECD,2001)である。

人々の協調行動を活性化することによって培われるもので、それが豊かに蓄積されるほど、社会や組織の効率性が高まるのが特徴とされている(江口, 2018)。職場に引き寄せていえば、「上司や同僚が本人の状況を理解している」「仕事に関連した情報の共有ができている」といった関係性の蓄積と捉えることができる。

障害のある労働者への調査では、職場と回答者本人の間にどの程度の相互理解や信頼関係があると認識しているかを「日本版職場のソーシャル・キャピタル尺度」(Eguchi et al., 2017)を用いて測定した。そして、職場のソーシャル・キャピタル得点が高いグループと低いグループの比較を行った。

その結果、得点が高いグループの方が、以前と比べて仕事ができなくなった際に、上司や同僚への理解促進、作業環境・設備の整備、休憩時間や通院のための休暇の確保といった具体的な対応が職場から講じられる割合が高く、9割の回答者が「今の会社で働き続けたい」という意向を示した。

本人が不調や困っていることを伝えられること、職場がそれを受け止められること、そして業務や役割の見直しについて対話できることがキャリア形成の前提であれば、職場のソーシャル・キャピタルは、こうした対話を可能にする土台であるといえるのではないだろうか。

障害者が希望するキャリア形成支援と事業所で行われている支援のズレ

最後に、障害のある労働者はどのようなキャリア形成支援を希望しており、事業所では実際にどのような支援が行われているかについての調査結果を紹介したい。

事業所への調査ではキャリア形成支援の取り組みについて尋ねるとともに、障害のある労働者への調査では回答者が希望するキャリア形成支援の取り組みを尋ねた。両者を比較すると、事業所の取り組みと本人の希望との間に、いくつかのズレが見えてくる(図1)。

図1 キャリア形成支援のニーズと実施状況

図1 キャリア形成支援のニーズと実施状況

図1では、障害のある労働者が各取り組みに「参加したい」と回答した割合と、事業所が各取り組みを実施した実績が「ある」と回答した割合を示している。労働者側については、以前と比べて仕事ができなくなった経験の有無別に結果を示した。ここでは、以前と比べて仕事ができなくなった経験が「ある」と回答した人を「パフォーマンス低下経験群」、そのような経験が「ない」と回答した人を「未経験群」として示している。

障害のある労働者はパフォーマンスの低下の経験の有無にかかわらず3割以上が「スキルアップ研修」「自己啓発のための支援」「マネープランニング研修」「目標管理制度」といった取り組みへの参加を希望していた。一方、事業所における取り組みの実施状況をみると、「スキルアップ研修」「自己啓発のための支援」「目標管理制度」の実施割合は3割に満たず、「マネープランニング研修」は1割にも満たない。

また、そのほか「職業能力の定期的なアセスメント」や「キャリアプランニング研修」も1割に満たないなど、障がい者側のキャリア形成支援ニーズに対する事業所の実施状況は、項目によっては大きく乖離がみられる。この調査の結果からは、その理由や背景までは明らかではないが、こうしたズレは、事業所の取り組みが不十分であるというよりも、事業所がキャリア形成支援として想定している内容と、本人が求めている支援が必ずしも一致していない可能性を示している。

この調査の結果から事業所では、職場内で必要となる知識や技能の習得や、現在の業務を遂行するための支援に重点が置かれやすいと考えられる。一方で、障害のある労働者の側には、年齢を重ねる中で、今後どのように働き続けるのか、どのような役割を担うのか、定年後の生活や収入をどのように見通すのかといった、より長期的な視点からキャリアを考えたいというニーズがあるのかもしれない。

ただし、障害のある労働者が希望している支援を、すべて事業所が直接担うべきだということではない。たとえば、マネープランニング研修への希望が一定程度見られたことは、年齢を重ねる中で、定年後の収入や生活設計などを見通したいというニーズの表れとも考えられる。一方で、金銭管理や日常生活上の健康管理など、家庭生活に関わる課題に事業所がどこまで関与するかについては、本人のプライバシーにも配慮しながら慎重に考える必要がある。

そのため、キャリア形成支援を進める上で重要なのは、事業所がすべてを抱え込むことではなく、本人のニーズを把握した上で、必要に応じて、障害者就業・生活支援センターや地域障害者職業センター、ハローワークなどの支援機関と連携することである。

たとえば、障害者就業・生活支援センターは、生活面に関する相談に応じるとともに、必要に応じて専門的な支援機関への橋渡しを行う役割も担っている。こういった外部の支援機関と連携しながら、本人が働き方と生活の見通しをあわせて考えられるようにすることが求められる。

最後に

本稿では、中高年齢障害者の雇用継続とキャリア形成支援について、事業所調査及び障害のある労働者調査の結果をもとに見てきた。

調査の結果からは、中高年齢層の障害のある労働者が加齢に伴うさまざまな変化に伴い仕事に支障が生じるようになった際に、事業所においては、健康管理に関する配慮、就業時間や休暇取得に関する配慮、同じ部署内での業務内容の見直しなど、雇用継続を支えるための対応が行われている状況が明らかになった。これらの対応は、障害のある労働者が長く働き続ける上で重要な取り組みである。

一方で、業務内容や働き方の見直しが、本人にとってどのような意味を持つのかという点にも目を向ける必要がある。負担を軽減し、働き続けることを可能にする対応であっても、それが本人の希望や強み、今後の働き方の見通しと結びついていなければ、本人にとって納得できるキャリア形成につながりにくい場合もあるからである。

本稿で紹介した調査では、業務内容の見直しが本人の希望をどの程度反映して行われたのかまでは把握していない。そのため、それが本人にとって納得できる選択であったのか、あるいは限られた選択肢の中での対応であったのかについては、今後重要な検討課題となると考えられる。

中高年齢障害者のキャリア形成支援においては、まず、本人が不調や困っていること、今後の働き方に関する希望を相談しやすい職場風土を醸成することが重要である。業務や役割の見直しは、本人が納得して働き続けるための対話の機会にもなり得る。

ただし、働き方の見直しや長期的なキャリア形成に関する課題を、本人や事業所だけで抱え込む必要はない。業務や役割の見直しにあたっては、事業所が職場内での調整を進めるだけでなく、就労支援機関が本人の希望や不安を整理し、職場との対話を支援するとともに、見直し後の定着状況の確認などに関与することが考えられる。

相談しやすい職場風土と支援機関との連携を組み合わせることが、雇用継続を本人の可能性を広げるキャリア形成へとつなげる上で重要である。


【参考文献】
Organization for Economic Cooperation and Development Centre for Educational Research and Innovation (2001) The Well-being of Nations: The Role of Human and Social Capital. OECD Publishing
江口尚 (2018) 働く人たちの参加する個人と組織の活性化手法-職場のソーシャル・キャピタルとジョブ・クラフティング-. 労働の科学, 73(9), 8-12.
Eguchi et al. (2017) Psychometric assessment of a scale to measure bonding workplace social capital. PLoS ONE 12(6): e0179461

穂刈顕一
担当者
キャリアリサーチLab編集部
KENICHI HOKARI

関連記事

選ばされる就労から、選ぶキャリアへ【前編】-「選べない」現実をデータで解説

コラム

選ばされる就労から、選ぶキャリアへ【前編】-「選べない」現実をデータで解説

盲導犬ユーザーにおける職業キャリアの事例研究~当事者視点から視覚障がい者のキャリア形成に必要な要因を解説~

コラム

盲導犬ユーザーにおける職業キャリアの事例研究~当事者視点から視覚障がい者のキャリア形成に必要な要因を解説~

障がい者が活躍する環境づくりと事例を紹介!障がい者雇用の現状と問題点を読み解く

コラム

障がい者が活躍する環境づくりと事例を紹介!障がい者雇用の現状と問題点を読み解く