同じ制度を導入しても、チームによって反応が異なることがあります。たとえば、1on1ミーティングを定期的に行っていても、部下が本音を話さず、次の行動にもつながらない職場もある一方で、短い面談や日常の声かけをきっかけに、メンバーが考えを整理し、自分から動き出す職場もあります。
評価制度、研修、サーベイ、キャリア面談など、人事が整える仕組みは重要です。しかし、制度が実際に人を動かすかどうかは、現場で交わされるやりとりの質に左右されます。
この点を考える上で有用なのが、「ポジティブ・エナジャイザー」という視点です。 本コラムでは特に、部下の活力に大きな影響を与える上司が、どのようにポジティブ・エナジャイザーとして機能できるのかに焦点を当てます。
ポジティブ・エナジャイザーとは
ポジティブ・エナジャイザーとは、「関係性からの活力(リレーショナル・エネルギー)」を周囲に与える存在を指します。
これは、単に性格が明るく振る舞う人や、場を盛り上げる人を指す言葉ではありません。相手と関わることで、相手の意欲、集中力、学習意欲、挑戦する余力といった、仕事に向かうための内面的な力である「心理的な資源」を増やす人です。
話した後に気分がよくなるだけではなく、次に何をすればよいかが見え、自分にもできそうだと思え、仕事に向かう力が戻ってくる。そのような関わりを生み出し、他者の仕事への熱意や業務遂行能力を高める人を、ここではポジティブ・エナジャイザーとして捉えます。
人事やマネジャーにとって大事なのは、このテーマを個人の性格論に閉じ込めないことです。もともと前向きな人を採用すればよい、明るいマネジャーを増やせばよい、という話ではありません。職場で人の活力が高まるかどうかは、日々のマネジメント行動、チーム内の信頼、会議や面談の設計、部門を越えた接点の作り方によって変わります。
すなわち、ポジティブ・エナジャイザーは偶然に任せるものではなく、組織として育て、増やし、支える対象です。
職場の活力とは何か
ポジティブ・エナジャイザーが周囲に与える「活力」という言葉は、やや曖昧に聞こえるかもしれません。元気、やる気、気合いといった言葉と混同されやすいからです。しかし、研究では、対人関係を通じて得られる活力は、単なる気分のよさとは区別されています。
ある人と関わった後に、自分の仕事に取り組むための内面的なエネルギーが湧き上がる。この対人関係を通じて得られたエネルギーが、仕事をこなすための「心理的な資源」として機能し、職務への熱意や成果につながると考えられています。
この点を調べた研究では、複数の段階を踏んで検証が行われています[1]。最初に、さまざまな業界で働く従業員に対して、どのような相手から活力を得るのかを自由に記述してもらいました。そこで多く見られたのは、「自分自身の意欲や持続力を高めてくれる人」という回答でした。相手との関わりによって単に気分が良くなるだけでなく、動機づけやスタミナが引き出される存在として挙げられていたのです。
続いて、医療機関で働く従業員を対象にした複数の調査を通じて、上司との関わりから活力を得ている人ほど仕事への熱意が高まり、その熱意が実際の業績向上につながることが、客観的な生産性データからも実証されました。
ここで興味深いのは、この活力が「上司との仲の良さ」や「職場での安心感」とは異なる、独自の力であるという点です。関係が良好であることと、相手から活力を得ることは重なりますが、同じではありません。相談しやすさや安心感は、活力が生まれる土台にはなりますが、それ自体が活力を意味するわけではありません。よい人間関係があっても、面談のたびに消耗することがあります。反対に、厳しい内容を話していても、対話の後に考えが前に進むことがあります。
この差を生み出すポジティブ・エナジャイザーは、相手を甘やかす人ではありません。聞こえのいいことだけを言う人でもありません。むしろ、厳しい内容であっても相手の現実を丁寧に見ながら、本人が次の一歩を考えられるように関わる人です。仕事上の問題を曖昧にせず、同時に相手の可能性を狭めない。この両方がそろうと、対話は単なる確認作業ではなく、働く力を回復させる場になります。
なぜ今扱うべきテーマなのか
組織の人材に関する課題は、採用、育成、評価、配置、エンゲージメント、離職防止など多岐にわたります。ポジティブ・エナジャイザーは、人事部門だけが扱う特殊なテーマではありません。むしろ、人事担当者だけでなく現場のマネジャーも共通して直面する、これら複数の課題の土台にあるテーマです。
たとえば、どれほど立派な人事施策を導入しても、現場のやりとりがうまくいかなければ以下のように逆効果になりかねません。
- 1on1ミーティング:マネジャー研修で型を教えても、部下が面談を負担に感じていれば、制度の効果は限られます。
- キャリア面談:機会を増やしても、上司が本人の話を急いで評価し、結論を押し付ければ、部下は自分の将来を考える余裕を失います。
- エンゲージメントサーベイ:実施しても、現場のマネジャーが部下の声を防衛的に受け止めれば、回答する側の期待は下がります。
制度を整えることは必要ですが、それ以上に「その制度を通じて、互いの活力を高め合うような関係性が生まれているか」が問われます。
上司から得る活力が、仕事だけでなく生活全体にも影響することを示した研究もあります。中国で働くフルタイム労働者を対象にした調査では、二つの方法が用いられました[2]。一つは、大学の同窓会ネットワークを通じて集めた673名へのアンケート調査です。もう一つは、製造業で働く241名を対象に、3か月ごとに3回データを集める縦断調査です。
分析の結果、上司が部下の意見を受け止め、相談しやすい態度を示している場合、部下は上司との関わりから活力を得やすくなり、その活力が家庭生活にも良い影響を及ぼすことが確認されました。マネジャーの関わり方は、職場での働きやすさだけでなく、従業員が仕事で得た前向きな力を生活の中でも生かせるかどうかにも関わります。
ニュージーランド、オーストラリア、アメリカの3か国で働く1,277名を対象にした調査では、上司から得られる活力が従業員の仕事や生活にどのような影響を与えるかが検討されています[3]。その結果、上司から活力を得ている従業員ほど、生活が充実し、仕事やキャリアへの満足度も高いことがわかりました。さらに、若い従業員ほど、上司からの活力の影響を強く受ける傾向も見られました。
この結果は、若手社員の育成に悩む企業にとって重要な示唆を与えてくれます。成長意欲が見えにくい、受け身に見える、早期離職が多い、といった声もありますが、それを若手個人の問題として片づけるのではなく、彼らが日常的に上司から活力を得られている環境にあるかどうかに目を向けることが重要です。
経験が浅い人ほど、自分の判断に確信を持ちにくく、仕事の意味も見えにくいものです。そのとき、上司との短いやりとりが、本人の視界を広げることもあれば、逆に狭めることもあります。若手育成においても、ポジティブ・エナジャイザーとしてのマネジャーの役割は大きいのです。
活力を生むマネジャーの特徴
部下の活力を左右するマネジャーですが、具体的にどのようなマネジャーが周囲に活力を与えるポジティブ・エナジャイザーとなり得るのでしょうか。ここで重要なのは、私たちが無意識に抱く「強いリーダー像」を見直すことです。
決断が速い、指示が明確である、成果に厳しいといった要素は、確かにマネジャーに求められる要素ではあります。しかし、それだけでは部下の活力を高めるとは限りません。成果を求めること自体が問題なのではありません。問題は、成果を理由に部下を一方的な管理対象として扱い、学習や成長の余地を奪ってしまうことです。
リーダーの行動が部下に与える影響について、過去の多くの研究を網羅的に分析した結果から、以下のことが明らかになっています[4]。
初めに、上司の謙虚さ、自分らしさ、仕事への情熱、ユーモアなどが、部下の活力を高める要因として整理されています。とりわけ、部下の成長や貢献を支援する(奉仕するような)姿勢は、活力を生みやすいことが示されています。一方で、自分の思い通りにしようとする専制的な態度は部下の活力を下げる傾向がありました。
また、上司から活力を得ている従業員は、全体的な業務遂行能力が高まるだけでなく、個別の作業スピード、顧客への対応、新しいアイデアを出す創造性など、幅広い面で高い成果を示していました。
別の研究では、リーダーシップの型によって、部下が感じる活力にどう違いが出るかが実験的に調べられています[5]。
結果的に、もっとも高い活力を生んだのは、部下の成長や能力開発を重視し、相手を尊重する「サーバント型」のリーダーでした。次いで高かったのも、同じく部下の成長に関心を持つ「変革型」でした。反対に、成果と交換条件を重視する「取引型」や、強い統制を行う「専制型」は、相対的に低い活力しか生みませんでした。
この結果は、マネジャーがどこに心理的な焦点を当てているかが、部下の受け取り方を変えることを示しています。部下を「管理対象」としてだけ見るのか、「成長する主体」として見るのか。その違いが日々の言葉や態度に表れ、周囲の活力を左右するのです。
ポジティブ・エナジャイザーの具体的な姿を考える上で、リーダーの謙虚さに関する研究も参考になります[6]。実験や実際の職場での複数の検証を通じて、リーダーが自分の限界を認め、他者の強みを評価し、新しい意見に学ぼうとする姿勢を示すと、メンバー同士にも同様の行動が広がることが示されました。
要するに、リーダーの謙虚な姿勢はチーム全体に伝染するのです。その結果、チームは失敗回避よりも成長や達成に意識を向けやすくなり、高い成果にもつながっていました。
このことから、マネジャーに求めるべき謙虚さとは、弱さを見せることそのものではありません。自分だけが正解を持っているという態度を手放し、チームの知を引き出す姿勢のことです。このように相手を尊重し、チーム全体の成長に向かう「活力」を引き出せるマネジャーが、まさにポジティブ・エナジャイザーだと言えます。
1on1と会議を活力が生まれる場に変える
ここまでポジティブ・エナジャイザーとしての心構えを見てきましたが、それを組織に広げるには、人事やマネジャーに馴染みのある場面に落とし込む必要があります。代表的なのが、1on1、評価面談、キャリア面談、チーム会議です。これらは、上司と部下が直接言葉を交わし、関係性の中で活力がやりとりされる重要な接点だからです。
進捗確認に偏る1on1もあるでしょう。もちろん業務の状況を確認することは必要ですが、それだけで終わると、面談は管理の時間になってしまいます。面談を活力が生まれる場に変えるためには、以下のポイントを意識するとよいでしょう。
- 未来と成長に目を向ける:現在の問題だけでなく、「本人がどこに向かいたいのか」「何を学んでいるのか」「どんな貢献ができているのか」を扱います。
- 本人の選択肢を残す:マネジャーは部下の話を聞いた上で、本人が自分の行動を選べる余地を残します。
- 次の一歩を共創する:結論を急いだり、課題を本人の能力不足に短絡させたりせず、「次に試せる行動」を一緒に具体化します。
職場で活力を生む関わり方について、組織内のエネルギーに関する研究では、将来の可能性を扱うこと、相手が貢献できる余地をつくること、目の前の相手に集中すること、前進している感覚を持てるようにすること、誠実な態度で希望を示すことが重視されています[7]。
これらは、特別なイベントでなくても日々の業務の中で実践できます。具体的には、次のような関わり方です。
- 失敗を扱うとき:何が悪かったかだけで終えるのではなく、次に同じ状況が来たときにどのような選択肢があるかを一緒に考える。
- 会議で沈黙するメンバーに対して:単に発言を求めるのではなく、その人の担当領域から見える論点を聞き出す。
- 評価面談のとき:点数を伝えるだけでなく、本人がこの半年でどのような価値を生んだのかを具体的に確認する。
逆に、相手の活力を下げてしまう以下のようなNG行動にも注意が必要です。
- 上司が話を遮る
- 本人の説明を聞く前に評価を下す
- 問題を人格に結びつける
- 過去の失敗を繰り返し持ち出す
- 比較対象として他の社員の名前を出す
これらは、短期的には管理しているように見えても、相手が次の行動に向かう心理的余力を削ってしまいます。注意や指摘が不要だという意味ではありません。必要なのは、指摘の後に、本人が考え、試し、学べる状態を残すことです。
ポジティブを押し付けない
ポジティブ・エナジャイザーを扱うときに注意すべき点があります。それは、前向きであることを従業員に強制しないことです。職場には、理不尽な業務量、人間関係の摩擦、不公平な評価、心理的安全性の欠如など、個人の気持ちの持ち方だけでは解決できない問題があります。こうした問題を放置したまま、「もっと前向きに考えよう」と求めれば、ポジティブという言葉は抑圧になります。
ポジティブ・エナジャイザーは、ネガティブな感情を否定する人ではありません。不安、不満、怒り、落ち込みには、それぞれ理由があります。重要なのは、それらを無視せず、仕事を前に進めるための対話に変えることです。部下が不満を述べたとき、マネジャーがすぐに「気にしすぎだ」と返せば、関係は閉じます。反対に、何が負担になっているのか、どこに裁量がないのか、何を変えれば行動しやすくなるのかを確認できれば、対話は活力を回復する方向に進みます。
対話を通じてネガティブな感情に向き合うことは重要です。ただし、ここで問題にすべきなのは、ネガティブな感情を抱くことではなく、他者を継続的に萎縮させたり、挑戦や学習を妨げたりする行動です。ただし、職場には活力を与える人だけでなく、恒常的に周囲の活力を下げる人もいます。
ある長期的な調査によれば、周囲から活力を得ている人や、自ら活力を与えている人は、幸福感が高く組織内で評価されやすいため、離職するリスクも低い傾向がありました[8]。一方で、周囲の活力を下げる人は、組織への適合や成果の面で問題視されやすいことが示されています。
この知見は、組織づくりにおいて二つの課題を浮き彫りにします。一つは、活力を与える貴重な人材を見つけ、正当に評価し、孤立させないことです。もう一つは、活力を下げる行動を問題視することです。
たとえ個人の業績がどれほど高くても、周囲を消耗させ続けているなら、長期的には組織全体の能力を損ないます。ハラスメント対策やマネジャーへのフィードバック、チーム状態の把握は、「組織の活力を守る」という意味でもしっかりと運用されなければなりません。
職場の活力を育むために
これからの組織には、目に見えない関係性の質に目を向ける視点が求められます。どのようなマネジャーが部下の力を引き出しているのか。どのチームで人が前向きに学び、挑戦できているのか。誰が部署を越えて知識や活力を広げているのか。反対に、どの関係が人を消耗させているのか。これらは、組織図や等級表だけでは見えません。
ポジティブ・エナジャイザーを増やすことは、職場を楽しくするためだけの取り組みではありません。従業員が自分の力を発揮し、学び、協力し、成果に向かうための条件を整える取り組みです。マネジャーの一言、会議での扱われ方、他部署への相談のしやすさ、評価面談での対話の質。これらの日々の積み重ねが、働く人の心理的資源を増やすこともあれば、削ることもあります。
職場の活力は、自然に湧いてくるものではありません。誰かの性格だけに頼るものでもありません。日々のマネジメントや対話の質を見直し、活力を奪う行動に向き合うことで、組織の中に少しずつ蓄積されるものです。ポジティブ・エナジャイザーとは、特別に明るい人のことではなく、他者が仕事に向かう力を取り戻せる関係をつくる人です。
そのような存在を組織全体で増やしていくことが、従業員のエンゲージメントを高め、離職を防ぎ、組織を強くすることにつながります。
[1] Owens, B. P., Baker, W. E., Sumpter, D. M., and Cameron, K. S. (2016). Relational energy at work: Implications for job engagement and job performance. Journal of Applied Psychology, 101(1), 35-49.
[2] Zhang, J., Liu, Z., and Wang, J. (2025). Inclusive leadership and work-family enrichment: The roles of relational energy and power distance. Frontiers in Psychology, 16, 1516361.
[3] Roche, M., Haar, J., and Brougham, D. (2026). Leaders’ relational energy and employee job outcomes: A moderated mediation model across three countries. Asia Pacific Journal of Human Resources, 64, e70068.
[4] Cabrera, V., Keelin, C., Shapiro, J., and Donaldson, S. I. (2025). Leader positive relational energy: A systematic review. International Journal of Applied Positive Psychology, 10, 19.
[5] Amah, O. E. (2018). Leadership styles and relational energy: Do all leadership styles generate and transmit equal relational energy? South African Journal of Business Management, 49(1), a231.
[6] Owens, B. P., and Hekman, D. R. (2016). How does leader humility influence team performance? Exploring the mechanisms of contagion and collective promotion focus. Academy of Management Journal, 59(3), 1088-1111.
[7] Cross, R., Baker, W., and Parker, A. (2003). What creates energy in organizations? MIT Sloan Management Review, 44(4), 51-56.
[8] Parker, A., and Gerbasi, A. (2016). The impact of energizing interactions on voluntary and involuntary turnover. M@n@gement, 19(3), 177-202.
著者紹介
伊達洋駆(だて ようく)
株式会社ビジネスリサーチラボ代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。近著に『世界の研究者はマネジメントをどう分析しているのか』(労務行政)、『組織内の“見えない問題”を言語化する 人事・HRフレームワーク大全』(すばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。東京大学大学院情報学環 客員研究員を兼務。