「AIによる人事的判断」は労働法の中でどう扱われているのか【弁護士が回答】

キャリアリサーチLab編集部
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キャリアリサーチLab編集部

職場におけるAIの活用は、資料作成やチャットボットなどによる問い合わせ対応といった業務支援にとどまらず、評価・配置・採用など「働く人々のキャリアに影響を及ぼしうる判断」にも少しずつ入り込み始めている。

AIによる人事的な判断や評価に関してどのように“評価”すべきかについて、まだまだ議論は始まったばかりではあるが、まず、現行の労働法の枠組みの中で何が整理でき、どこに論点が残るのかについて整理する必要がある。

本稿では職場におけるAIの活用状況についてまとめたのち、私たちが職場で安心してAIと付き合っていくために、認識しておくべきことなどについて、TMI総合法律事務所に所属する弁護士の堀田陽平先生の見解を交えながら解説する。

職場で進むAI活用と「AIによる判断」

AIは職場の人事においてどのように使われているのか

職場におけるAI利用は、すでに「一部の先進企業の話」ではなくなりつつある。JILPTが2025年5月に発表した大規模Web調査(雇用者2.2万人)では、勤め先企業で「AIが使用されている」と認識する労働者が12.9%だった。

企業でAIが使用されている回答者(2,833人)に限定すると「自身がAIを利用して仕事をしている」が34.5%、「私はAIに管理されている」が11.8%だった。さらに、AI使用企業に限れば、2年前と比べてAI利用が「拡大している(大幅に拡大+やや拡大)」との回答が57.9%と過半数となっており、現場感覚としても利用の裾野が広がっていることが示唆される。

一方で、総務省「情報通信白書」に示された企業の生成AI活用方針の国際比較の結果をみると、日本は他国に比べて、「方針を明確に定めていない」「わからない」と回答した割合が多いことがわかる。

具体的にいうと、「方針を明確に定めていない」割合は日本では31.8%だが、米国は9.1%、ドイツは12.9%、中国では2.9%である。「わからない」の回答と合わせると、日本では約半数がまだ方針を決められていないといえる【図1】

【図1】生成AIの活用方針策定状況(国別)/総務省(2025)「国内外における最新の情報通信技術の研究開発およびデジタル活用の動向に関する調査研究
【図1】生成AIの活用方針策定状況(国別)/総務省(2025)「国内外における最新の情報通信技術の研究開発およびデジタル活用の動向に関する調査研究」

これらのことから、職場におけるAI活用は徐々に広がりつつある一方で、活用方針などのルール策定が追い付いていない様子がうかがえる。

「AIによる人事的な判断」とは何を指しているのか

本稿で特に焦点を当てたいのは「AIによる人事的な判断」である。先述したJILPTの調査結果でも「私はAIに管理されている」が11.8%(企業でAIが使用されている回答者に限定)という結果が得られていることを示したとおり、すでに職場においてAIによる何らかの判断があり、それによって管理されている人がいるといえる。

しかし、「AIによる人事的な判断」といっても、実態には幅がある。最初にイメージしやすいのは、「AIがスコアや推薦順位を出し、人がそれを参考に意思決定する『判断の補助』」という機能である。

マイナビで実施した調査によると、新卒の採用活動においてAIを補助ツールとして利用したことのある業務内容を聞いたところ、「エントリーシートの評価検討(2.1%)」「適性検査の評価検討(4.2%)」「面接内容の評価検討(3.4%)」「配属先の検討(0.8%)」という結果が得られた。

「いずれも導入していない」という回答は83.7%と多数派ではあるが、新卒採用にかかわる「評価・判断」の補助にAIが使われている企業が一定数存在することがわかった【図2】。

【図2】AIを活用した採用活動の補助ツールで利用しているものはあるか/マイナビ2026年卒企業新卒採用活動調査」
【図2】AIを活用した採用活動の補助ツールで利用しているものはあるか/マイナビ2026年卒企業新卒採用活動調査

さらにAIの活用度合いが増えると、

  • AIの出力がそのまま実務フローに入り、事実上の結論を左右する判断を行う
  • 人がほとんど介在せず、AIが自動で振り分け・通知・制御まで行う自動化された決定がなされる

というケースも考えられる。

現時点では、「最終判断までAIが行う」というケースは少なく、「最終判断は人が行う」場合が多いと考えられる。しかし、スタンフォード大学 人間中心人工知能研究所(HAI)がまとめたレポートによると、業務量が多く、時間的制約のある環境では「最終判断は人が行う」とされていたとしても、AIが出力した結果が批判的検討なしに利用される傾向があることが指摘されている。

職場で「AIの人事的判断」が活用されやすい領域としては、以下のような内容が想定できる。ピープルアナリティクスという言葉で知られているが、いずれも、ITの進化により、人事に関する情報を数値化して収集しやすくなったことでデータ分析が可能になった領域である。

人材採用:応募者のスクリーニングや適性の推定
人材の配置:人材と業務のマッチングや配属先候補の提示
人事評価:パフォーマンス指標の分析やランキング化
業務の割当:タスクの配分や優先順位付け
勤怠・監督:モニタリングと注意喚起

ここで重要なのは、「判断がAIか人か」という二択ではなく、AIの出力が意思決定に与える影響度合いで捉えることである。影響度合いが大きいほど、従業員にとっては処遇や働き方に直結し、説明や異議申し立ての必要性が高まる。

したがって、法的な整理に入る前提として、企業は少なくとも「AIがどの場面で、何を出力し、その出力を誰がどのように使うのか」を言語化しておく必要があるだろう。これはAIと共に働く職場において、従業員の安心感を醸成するために大前提であるといえる。

職場における「AIの人事的判断」、法的リスクと対応策について弁護士が解説

職場において、AIが一般的に活用されるようになったのはここ数年のことであり、特に「AIの人事的判断」に関する法的リスクについては、最近ようやく議論され始めているような状況である。

結論の出ていない課題も多いが、労働問題に詳しい弁護士の視点から、よくある質問と対応策を整理する。

AIによる人事的判断と現行の労働法

Q1.現行の労働法は「AIによる人事的判断」をどのように扱っているのでしょうか。

人事労務領域におけるAIを活用したシステムは、昨今「HRテック」と呼ばれ、多くのサービスが提供され、導入も進んでいます。

もっとも、このようなAIによる人事的判断については、近年利用が進み始めた段階であり、現状労働関係法令上特別な規制が設けられているわけではありません。

そのため、「AIによる人事的判断」の労働法的な問題を検討するにあたっては、現行の労働法を前提とした解釈、裁判例を前提に適法性、有効性を判断していくことになります。

Q2.人事評価や配置にAIのスコアを使っても問題はありませんか。

上記Q1のとおり、現在(2026.6.23時点)のところAIによる人事的判断について特別な定めはなく、現行法を前提にした解釈、裁判例を前提に適法性、有効性を考えることになります。

人事評価や配置転換との関係では、①男女雇用機会均等法などの差別を禁止する法令に違反する場合、②人事評価や配置転換が権利の濫用である場合には、違法・無効となると解されています(その他、配置転換についてはそもそも労働契約ないし就業規則において配置転換の権限を有していることが前提になります)。

ここで問題になるのは、①の差別禁止との関係です。

人事的判断にAIを活用する場合、AIに学習させる過去の人事評価や配置転換のデータには、男性の方が高い評価をされていたり、重要なポジションに配置転換されていたりするデータが介在している可能性があります。AIがそのような差別的なバイアスがかかっているデータを学習した結果、「男性の方が評価が高い」、「男性の方が重要なポジションへの配置に適している」といった差別的な判断がなされる可能性があります。

このようなAIによる判断をそのまま活用してしまうと、差別的な人事評価や配置転換となり、違法・無効となる可能性があります。

そのため、人事評価や配置転換のためにAIのスコアを利用する場合は、AIの判断を「参考」としつつ、差別的な意図がないこと、すなわち、成果や業務遂行の状況、労働者の能力や適性などを人によって最終的に判断したことを担保できるよう、最終判断は人が行うようにしましょう。

【AIを利用して成果を挙げている人・仕事の評価に関する議論】

なお、法的な議論とはずれるものの、昨今人事労務領域では、「AIを利用して成果を挙げている人を評価すべきか」という議論がされています。

すなわち、自らの手足を動かして10の成果を上げているAさんと、自らの手はあまり動かさず、AIを駆使して50の成果を挙げているBさんのいずれを高く評価すべきかという議論です。

この点は、会社のAI利用に対するスタンスによると思われますが、まさにAIが当たり前の時代になる過渡期の議論と言えますいえます。

AIが行った判断について誰がどのように責任を負うのか

Q3.「最終判断は人がしている」といっていれば安心なのでしょうか。

AIの活用の有無にかかわらず、一般論としてAIによる人事的判断の有効性・違法性が争われた場合、そのような判断を行った理由の主張・立証は会社側が行わなければなりません。

これは「なぜそのような人事評価をしたか」「なぜそのような配置転換をしたか」の前提となる情報は会社が有しているからです。

そのため、仮にAIを活用した人事評価や配置転換の結果が差別的であると主張され争われた場合、「(差別的な)AIによる判断だけでなく、業務上の必要性や能力評価、適性などを踏まえて人が判断している」と主張しても、その証明が必要になります。

したがって、「仮に差別的なAIの判断があったとしても、最終判断は人が行い、差別的な判断を排除している」と主張するだけでは足りず、やはりその判断過程、根拠の証拠をしっかりと残しておく必要があるでしょう。

Q4.AIの判断理由をどこまで労働者に説明する必要がありますか。

AIを用いた人事的判断については、上記Q2、3で述べたとおり、差別的な判断を排除するために最終的な判断は人が行っていることを説明できるようにしておくことが適当です。

さらに、実際には人による判断であったとしても評価の偏りは不公平、さらには差別的判断のリスクは内在しているものの、AIによる人事的判断については、法的な適法性、有効性という問題とは別に、「(人ではない)AIに自身にとって重要な影響を及ぼす人事評価や配置転換の判断がされる」ということに対する不信感を抱く人が一定数存在していることも事実です。

その背景には、AIによる判断のアルゴリズムが容易には理解できず、「よくわからない情報や判断過程によって判断されているのではないか」という疑念があることが推測されます。

そのため、AIの判断理由については、アルゴリズム自体の説明は難しいとしても、少なくともどのような情報をAIに学習させているかという情報を提供することが考えられます。

Q5.AIが差別的な結果を出した場合、責任は誰が負うのですか。

この場合、考えられるのは、①AI判断を利用した使用者と②AIベンダーの二つが考えられます。

しかし、少なくとも法的には②の責任を問うことは難しく、やはり①のAI判断を利用した使用者自身が法的な責任を負うと考えることになります。

採用場面におけるAIによる判断

Q6.採用場面においてAIを利用した適性の検査や面接などを行っても問題はありませんか。

上記Q1のとおり、現行法上、人事的判断にAIを活用すること自体を規制する法令はありませんが、関連する規制としては、職業安定法上の個人情報保護規制があります。

職業安定法上の個人情報保護関連の規制は、個人情報保護法とおおむね一致しています(若干違いがあるところもあります)。

採用段階におけるAIの活用にあたり求職者の個人情報を取得する際には、個人情報保護法はもちろんのこと、この職業安定法上の個人情報保護関連の規制を遵守する必要があります。

他方で、採用場面においても、上記Q2と同様に労働関係法令上の差別禁止の規制が問題となります。採用段階においてどのような事情を質問できるかが問題になった三菱樹脂事件最高裁判決(昭和48年12月12日)では、異論もあるものの結論として採用の自由を前提に広く質問をしても良いとし、思想良心の自由に関する事項を聞くことも適法としましたが、同判決は、「法律その他による特別の制限がない限り」という留保をつけています。

そのため、やはり男女雇用機会均等法などの各種差別を禁止する法令はやはり問題になります。この点の対応としては、やはり上記Q2で述べたところと同様に、最終的には人による判断を行い差別的な判断を排除する必要があるでしょう。

今後、労働法はAIに対してどう変化していくことが求められるか

Q7.今後、日本の労働法はAIに対応して変わっていくのでしょうか。

AIと労働法については、近年議論が進められており、今後何らかの法的な対応がある可能性はあり、実は、一部すでにAI活用を踏まえた法改正もされています。

具体的には、令和4年10月1日から施行されている改正職業安定法の「募集情報など提供事業」に該当するサービスに、インターネット上の公開情報などから収集(クローリング)した求人情報・求職者情報を提供するサービスも含まれることになりました。

令和4年の職業安定法改正は、AI技術の発展により、求人・求職マッチングの高度化が進んだことを背景として行われています。

また、現在行われている政府の成長戦略会議労働市場改革分科会の取りまとめ案では、ハローワークにおけるAIの活用も示唆されています。

Q8.AIによる判断に関連して、特に注目されている仕事などはありますか。

より労働法の根幹にもかかわる議論としては、「プラットフォーム上でのAIによるマッチングと労働者性」の問題が議論されています。この点は諸外国でも議論が進んでおり、日本においても現在の労働法上の大きな関心事になっています。

すなわち、プラットフォームワーカーは、プラットフォーム事業者のAIにより、配達場所、時間、報酬などが事実上決定されている状況にあるなか中で、このように現実的にはAIのアルゴリズムにより労務管理がされているプラットフォームワーカーを「労働者」とすべきではないかという議論がされており、この点は、2025年1月に公開された「労働基準関係法制研究会」でも言及されています。

その他、AIに限定する議論ではありませんが、AIの利用と関連して議論されることがあるのが、個人情報保護法上の本人同意と労働者の自由な意思という議論があります。

すなわち、個人情報保護法上、第三者提供や要配慮個人情報の取得には本人の同意が必要とされています。しかし、労働法でしばしばある議論として、「労働者は使用者に対して交渉力が弱いことから労働者の同意の認定は慎重であるべき」という議論があり、たとえば、HRテックを利用する際に労働者の健康情報などの要配慮個人情報を取得する場合に労働者の同意を得る必要がありますが、その同意を軽々に認定してよい良いかという問題があります。

この点は、個人情報保護法と労働法が交錯する領域であり、今後議論が深められていくでしょう。

さいごに

本稿は急速に広がる職場におけるAIの利用、とりわけ「AIによる判断」に関して、責任の所在や法的な課題に注目したものである。テーマを設定した際は「少しまだ早いかな」という印象もあったが、弁護士の堀田氏とのQ&Aを通して、すでに「今ある課題」になっていると感じるようになった。

AIの活用自体は職場における生産性向上のためにはもはや不可欠な状況になっており、従業員の働き方も日々変化している。こうした状況は今後も拡大していくことだろう。それに伴い、これまで経験したことのない課題が表面化してくることも十分に考えられる。

AIは便利だが、使うのはあくまで「人」であるという認識のもと、責任を持った利用が求められるだろう。このタイミングではまだ十分に議論されていないことも多くあるので、今後も引き続き、注視していきたい。

堀田陽平
登場人物
TMI総合法律事務所 弁護士
HOTTA YOHEI
東郷 こずえ
担当者
キャリアリサーチLab主任研究員
KOZUE TOGO

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