本稿は「小学生からのキャリア教育」連載企画の第6回です。今回ご紹介するのは、全国に100拠点以上を展開する住宅リフォーム専業企業・ニッカホーム株式会社が、2024年4月から始めた、「住」をテーマにした出張授業。
暮らしに欠かせない「衣食住」の中で、学校の授業ではあまり触れる機会のない「住」を入り口に、子どもたちが社会や環境、そして未来の仕事について考えるきっかけをつくっています。
この取り組みを企画した同社の広報担当 土田加奈子さんと人事開発部 大八木雄貴さんに、立ち上げの背景や具体的な授業内容、そして授業を通じて見えてきた子どもたちの変化を伺いました。
大八木 雄貴(ニッカホーム株式会社 関東支社 人材開発部)
2012年にニッカホーム株式会社へ入社。関東エリア新卒一期生として、営業職を経験。
2017年より、新規事業の設立に関わり、2020年に人材開発部に異動し、現在は新卒採用に力を注いでいる。
土田 加奈子(ニッカホーム株式会社 関東支社 広報)
建築学科を卒業後、2013年にニッカホーム株式会社へ入社。リフォームアドバイザーとして営業と現場管理の両方を担当し、住まいづくりの現場で経験を積む。2019年からは広報を担当し、社内外への情報発信に従事。
学校では教わらない「家づくり」の授業で、モノづくりの楽しさや環境問題を学ぶ
質問:まずは貴社が小中学生向けに取り組んでいるキャリア教育授業について教えてください。
土田:当社が行っているのは、「住の教室」という小中学生向けの出張授業です。暮らしに欠かせない「衣食住」のうち、家庭科で学ぶ「衣」「食」と比べて「住」については実技や体験の機会が少ないため、私たち住宅リフォームのプロとしての知識や経験を生かし、「住まい」や「家づくりの仕事」を身近に感じられる授業を企画しました。
授業では、家ができるまでの工程や住宅業界の現状をわかりやすく紹介します。日本の住宅寿命と海外との違いを題材に、環境問題や空き家問題についてディスカッションする場も設けています。これにより、家づくりの仕事だけでなく、社会や環境に関心を持つきっかけづくりも目指しています。
さらに、木材の端材を使った工作や、間取り図の作成といった体験型プログラムも実施。間取り図作成では、当社が水回りの工事を得意としていることに絡めてキッチン・お風呂・洗面所・トイレを必ず含めてもらったり、自分の好きなことや理想の暮らしを図面に落とし込むことをアドバイスしたりしています。
間取り図作成プログラムの板書/ニッカホーム株式会社様よりご提供
このようなプログラムでものづくりの楽しさを体験しながら、建築の仕事を身近に感じてもらえるよう工夫しています。
海外との家づくりの違いから、持続可能な社会づくりも考える
質問:社会問題や環境問題にも触れるということですが、具体的にどんな話をするのでしょうか?
土田:環境問題では、まず「スクラップ&ビルド」という考え方について説明します。これは、老朽化した家を壊し(スクラップ)、新しい家を建てる(ビルド)手法で、日本では長く主流となっていました。建物が古くなった際、現存の住宅をリフォームや改修するのではなく一度更地にしてから新築にするという慣習が広く定着していました。
日本では住宅を建ててからおよそ30年で建て替えるケースが多く、このサイクルが環境に大きな負荷を与えています。この現状をまず子どもたちに理解してもらうために、海外の住宅事情と比較します。アメリカでは住宅寿命が約55年、イギリスでは約77年とされており、日本との大きな差に子どもたちは驚きます。
そこから「なぜ日本と海外で寿命がこんなに違うのか」というテーマで意見を出し合ってもらい、住宅の構造や文化、メンテナンスの考え方など、さまざまな要因について話し合います。
こうした比較やディスカッションを通して、住宅に関する知識を得るのと同時に、環境保全や持続可能な社会づくりを考えるきっかけにもつなげています。
「将来の選択肢を増やしたい」の思いから始まったキャリア教育
質問:貴社がそのようなキャリア教育の取り組みを始められた背景や経緯をお聞かせください。
土田:このキャリア教育授業に取り組もうと思ったきっかけは、子どもたちにリフォームや建築の仕事に触れる機会を届けたいと考えたからです。私自身、大学で建築を学びこの道に進んだのも、身近に建築関係の仕事をする親戚や知人がいたことが大きく影響していて、進路を考える時期までにそうした選択肢に触れられるかどうかで将来は大きく変わると感じました。
そこで、当社として子どもたちの将来の選択肢が増えるような機会を提供できないか、と人事開発部の大八木と話していたときに、「出張授業をやってみたらどうか」というアイデアが生まれ、2024年にスタートしました。
大八木:実は、この取り組みは会社に大きく提案して承認を得たわけではなく、「まずやってみよう」という当社の文化のもと、関東支社で独自に小さくスタートした取り組みです。出張授業は、関東支社としては初の試みでしたが、中部地区では以前から、水族館のペンギン小屋の製作や小学校の外壁塗り替えといったDIY活動を行ってきた実績がありました。そうした背景もあり、地域貢献の延長として関東でも形にできると考えました。
授業はすべて無料で提供し、直接の売上よりも、地域とのつながりや子どもたちが将来のことを考える機会の創出を目的としています。
質問:キャリア教育を行うにあたっては、学校からはどのような要望があるのでしょうか?
土田:「住の教室」は、家庭科の先生や学童関係者からの依頼をきっかけに始まることが多いです。当社では「住の教室」の授業概要を出前授業マッチングサイトに掲載し、そこでの問い合わせからやり取りをスタートします。
授業内容は、事前のヒアリングで学校の要望に合わせて調整します。
授業の様子/
ニッカホーム株式会社様よりご提供
中学校では、先生方から仕事やキャリアについての話題に触れてほしいという要望が多いので、住宅・建築業界の中にどのような役割の仕事があるかなどの話も盛り込みます。
小学生向けの授業は当初は簡単な内容にしていましたが、家庭科の授業よりも踏み込んだお話を、という要望で空き家問題など住宅にまつわる社会問題をテーマにした話し合いの時間をしっかり設けています。難しそうな議題でも、子どもたちは自由な発想で解決策を出してくれるため、意外なアイデアに出会えるのも魅力です。
学童からの依頼では「DIY精神を学ぶ」木工教室が人気です。自社の大工職人がノコギリで木を切るパフォーマンスを披露し、木材からサイコロをつくる体験を提供します。完成したサイコロには数字ではなく、学校の宿題や家のお手伝いなど自分で決めた「できること」を書き込み、出た目に応じて挑戦するというワークを行います。DIY(Do It Yourself)本来の「できることは自分でやってみる」という精神を楽しく体感できるプログラムです。
こうした柔軟な対応と実践的な体験を組み合わせることで、学校や地域施設との信頼関係を築きながら、子どもたちの学びの幅を広げています。
子どもたちの心を動かした、建築・リフォームの出張授業
質問:実際に授業に参加されたお子さんや学校からの反響はどのようなものなのでしょうか?
土田:授業後に実施したアンケートでは、受講したお子さんの約78%が「とても満足」、他の子も全員「やや満足」と回答するなど、高い評価をいただきました(※2025年2月、37名を対象に実施。29名が「とても満足」、8名が「やや満足」と回答)。
感想としては「知らなかったことを知ることができた」「楽しかった!またやりたい」「また来てください」といった声が多く、先生方からも感謝の言葉をいただいています。
特に印象的だったのは、ある小学校で家庭科の3コマを使い「住の教室」を行ったときのことです。座学ではやや退屈そうだった6年生が、後半の「理想の家の設計図作り」の時間になると一転、真剣に取り組み、活発に質問をしてくれました。
その学校には不登校気味のお子さんが何人かいたのですが、この授業を楽しみに、当日登校してくれた子がいたと先生から伺い、大きな手応えを感じました。
また、当社では中学生の職業体験の受け入れも行っており、現場見学や軽作業を体験した生徒さんから「10年後、入社させてくれますか?」と声をかけられることもあります。こうした直接的な体験や交流を通じて、建築やリフォームの仕事に興味を持つきっかけを提供できていると感じます。
これらの活動には、実施場所に近い営業所の社員も参加しています。たとえば、さいたま市での木工教室には埼玉エリアのスタッフが、横浜市内での家庭科3コマの授業には10名ほどが応援に入り、図面の書き方を教えるなど子どもたちと直接関わりました。
現場経験や営業スキルを持つ社員が一丸となって取り組むことで、授業の質も高まり、地域とのつながりも深まっています。
質問:参加している社員の人たちの意識も変わってきましたか?
土田:変わりました。参加前は「キャリア教育よりも現場業務が優先」という意識のスタッフもいましたが、実際に子どもたちと接することで、親の目線で仕事を語る場面が増え、「やってよかった」「また参加したい」という声が多く聞かれるようになりました。
普段の仕事では、子どもと触れ合う機会はなかなかありません。だからこそ、授業での時間は新鮮で、「楽しかった」という感想も多く寄せられています。
授業の様子/
ニッカホーム株式会社様よりご提供
授業中には、子どもたちから「1年で何件のお客様を訪問するんですか?」といった質問が出ることもあります。そこで「年間で約80件」と答えると、驚いた様子で「そんなにたくさんのお客様を幸せにしているんだ」と返してくれることもありました。
私たちにとっては日常の数字でも、子どもたちの反応を通して改めて仕事の価値に気づかされます。
このような経験は、地域への理解やつながりを深めるだけでなく、社内の一体感やモチベーション向上にもつながっています。実際、神奈川エリアの責任者(エリアマネージャー)からは「全員が一度は参加すべき」という意見も出ており、社内全体で前向きに取り組める活動になっています。
“面白い”をきっかけに。家など身近なものへの興味を育てる
質問:キャリア教育に取り組むうえで、大事にしていることについてお聞かせください。
土田:キャリア教育では、仕事の「良い面」だけでなく現実的な面も含めて伝えることと、当社だけでなく業界全体への関心を持ってもらえるような伝え方を大切にしています。
建築・建設業界は「きつい・汚い・危険」といった3Kのマイナスイメージを持たれがちですが、その中にも達成感やお客様からの感謝といった魅力があります。授業では、仕事の種類や流れを説明しながら、大変な部分とやりがいの両方を具体的な事例を交えて紹介します。
こうしたリアルな話は、理想と現実の両面を理解したうえで将来を考えるきっかけになり、実際に「建築士になりたい」と手を挙げる子も多く、関心や意欲の高まりを感じます。
大八木:私が一番大事にしているのは、「面白い」という感覚を持ってもらうことです。図面を描く体験ひとつとっても、「あ、こんな仕事があるんだ」「やってみたい」と思えるきっかけになるかもしれません。そうした新しい発見が、将来の選択肢を広げる種になると考えています。
授業の様子/
ニッカホーム株式会社様よりご提供
住宅リフォームや家づくりは、子どもたちにとって接点が少なく、興味を持つ機会もほとんどありません。美容師や調理師のように、日常で身近に経験できる職業とは違い、家の設計や改修は体験しないと魅力が伝わりにくい分野です。
だからこそ、実際に手を動かす体験や、これまで知らなかった知識との出会いが重要だと思います。
特に中学生にとっては、この一度の経験が将来の興味や進路のきっかけになる可能性があります。子どもたちが将来どこかでこの体験を思い出し、進路を考えるきっかけになれば、それ以上にうれしいことはありません。
質問:この授業を通じて、子どもたちにどんなことを感じてもらいたいですか?
土田:将来この仕事に就くかどうかは別として、「住まい」という生活に欠かせないテーマについて知るきっかけをつくりたいです。衣食住は身近なことですが、意外と知らないことも少なくありません。その発見や気づきを授業で得て、「もっと知りたい」という気持ちが芽生えたらうれしいですね。
大八木:私たちの授業を通して家の構造や素材を知って、帰宅後に「この壁って何でできているんだろう?」と考えるだけで十分価値があると思っています。
私自身も偶然この業界に入り、そこで初めて家やリフォームに興味を持つようになってから、トイレなど住宅設備を見るだけでもいろいろなことに気づいて楽しいんですよね。そんな風に家とか身の回りのことに興味を持つきっかけになってくれたらと思っています。
質問:今後、キャリア教育授業で取り組みたいことやさらに注力したいことがあればお聞かせください。
大八木:理想は授業の一環として学校の年間スケジュールの中に「住の教室」を組み込んでもらうことですね。毎年同じ学校に行って授業ができれば、継続的な関係が生まれますし、その積み重ねが将来につながるきっかけを増やせるはずです。
そのためには授業内容のブラッシュアップや、学校ごとの要望に合わせたカスタマイズも必要だと思っています。
土田:今はまだ、2回目のご依頼をいただけているのは一校だけです。今年は実績を積んでも、翌年度に依頼が続かないこともあって・・・。だからこそ、満足度を高める授業づくりが必要だと感じています。
また、建築や設計の道を志す女性がもっと増えたらとも思っています。私が大学生の頃、建築系の学科の女子学生は2割程度で、今も業界全体で女性比率は低い状況です。社会で活躍する女性を増やす意味でも、こうした授業を通じて興味を持ってもらえたらうれしいですね。
そのためにも今後も、職業の魅力と現実の両面を伝えながら、まずは子どもたちが「住まい」や「モノづくり」に興味を持つきっかけを提供していきたいと考えています。
ライター:西谷忠和