大学生時から老後不安?初任給アップ時代の企業選びとは~2026年卒新卒採用・就職活動の展望~

中島英里香
著者
キャリアリサーチLab研究員
ERIKA NAKASHIMA

3月1日は、政府の関係省庁連絡会議によって定められた就職・採用活動日程における広報活動開始日、いわゆる就職活動の解禁日である。このタイミングに合わせて、マイナビキャリアリサーチラボでは、2026年卒学生の動向や企業の採用活動の展望について講演を実施した。本コラムはその内容を紹介するものである。

企業の賃金引き上げ競争

大卒初任給の引き上げ

厚生労働省の賃金構造基本統計調査より2023年大学卒の平均初任給は237,300円と2020年卒時の平均初任給と比較して1万円以上増額していた。コロナ禍以降の経済活動の回復から、人手不足による人材難を解決する一つの手段として初任給の増額が行われていることが推測される。【図1】

【図1】大卒初任給平均の変化/厚生労働省「賃金構造基本統計調査」
【図1】大卒初任給平均の変化/厚生労働省「賃金構造基本統計調査」

マイナビが行った企業調査にて大学生の初任給引き上げについて聞いたところ、2026年卒の学生向けに初任給の引き上げを予定している企業が半数以上もあることがわかった。【図2】

【図2】初任給の引き上げについて/マイナビ2026年卒企業新卒採用予定調査
【図2】初任給の引き上げについて/マイナビ2026年卒企業新卒採用予定調査

社会全体の賃上げ状況

日本経済団体連合会によると2025年の春季労使交渉・協議における基本スタンスとして、ここ2年間の賃金引き上げの力強いモメンタムを「定着」させ、「分厚い中間層」の形成と「構造的な賃金引き上げ」の実現に貢献することが経団連・企業の社会的責務であるとしている。
また、厚生労働省の令和6年賃金引上げ等の実態に関する調査でも平均賃金の引き上げ率は4.1%と賃金の引き上げが行われていることが示された。しかし、毎月勤労統計調査より、実質賃金については3年連続マイナスであったことから、賃金の引き上げは行われているが物価高のスピードには及ばない状況であろう。

令和の学生の就職観

学生の初任給希望額と企業選択

社会全体として賃金の引き上げが行われている昨今、学生はこの状況をどう捉えているのだろうか。学生に最低限ほしいと思う初任給の額を聞いたところ、最も回答が多かったのは「20~21万円未満」と、平均初任給額237,300円よりも低い金額であった。【図3】

また、26万円以上と回答した学生の割合はいずれも5%以下と、高額な初任給を求める学生は少数派と言える。初任給平均が上昇している現状ではあるが、学生はその上昇ペースを超える初任給額を求めている訳ではなく、平均的な金額であれば良いという認識のようだ。

しかし、企業選択のポイントはここ数年で様変わりしている。長らく1位であった「自分のやりたい仕事(職種)ができる会社」の割合が減少し、コロナ禍以降は「安定している会社」が最多回答となった。さらに「給与の良い会社」も年々割合が増えており、企業選びが『やりたい仕事』重視から『安定・給与』重視となったことが見て取れる。【図4】

【図6】企業選択のポイント(上位3項目) / マイナビ 2025年卒大学生就職意識調査
【図4】企業選択のポイント(上位3項目) / マイナビ2025年卒大学生就職意識調査

近年、このような志向が強まっている背景として学生が感じている「将来の不安」があげられる。

学生に対して将来の不安を聞いたところ、「老後の貯蓄(生活費)が足りない(39.4%)」、「年金がもらえないかもしれない(30.8%)」とお金にまつわる不安が多くあげられている。年金2000万円問題や人生100年時代など、長い人生を歩むことが身近になり、生活を続けるためのお金について不安が強まっていることが考えられる。【図5】

【図5】学生が感じている将来の不安 /マイナビ2025年卒大学生活動実態調査(9月)
【図5】学生が感じている将来の不安 /マイナビ2025年卒大学生活動実態調査(9月)

初任給UP時代の企業の取り組み

これまでのデータより初任給を引き上げる企業が増加していることがわかるが、初任給の引き上げができない場合や、高額な初任給額を提示する企業が採用競合となる場合もあるだろう。その場合、どのように学生にアピールしていけばよいだろうか。企業選択ポイントで最多回答であった「安定性」という観点でみていく。学生調査で企業に対して安定性を感じるポイントを聞いたところ、重要なポイントは「福利厚生」であった。【図6】

【図6】企業に対して安定性を感じるポイント(複数回答) / マイナビ2025年卒大学生活動実態調査(3月)
【図6】企業に対して安定性を感じるポイント(複数回答) / マイナビ2025年卒大学生活動実態調査(3月)

安定して働ける環境かどうかを測る指標として、福利厚生に注目している学生が多いようだ。そこで、初任給が自分の希望に満たない場合でも魅力的に感じる福利厚生や条件を聞いた。結果、最も多かったのは「休暇制度(60.4%)」であった。【図7】

【図7】初任給が自分の希望に満たない場合でも魅力的に感じる企業の特徴 / マイナビ2026年卒大学生インターンシップ・就職活動準備実態調査(1月)
【図7】初任給が自分の希望に満たない場合でも魅力的に感じる企業の特徴 / マイナビ2026年卒大学生インターンシップ・就職活動準備実態調査(1月)

その他、講演では実際に福利厚生の充実に力を入れている企業事例を紹介したが、重要なのは就業経験のない学生が「安心して働ける場所である」と思えることである。さらに福利厚生の充実については既存社員のモチベーションアップにも繋がるだろう。

おわりに

初任給の引き上げを行う企業が増え、世の中の注目も高まる中、学生は必ずしも高額な給与を求めている訳ではない。その一方で、学生が複数の企業を比較し、よりよい待遇を求めることは自然な流れであり、初任給の引き上げが新卒採用における効果的な手段の一つであることは否定できない。

学生は将来の不安を覚え、将来の就職先に安定を求めている。学生にとって重要なのは給与だけではなく、総合的な意味で安心して働ける環境であることを考えれば、「福利厚生」の充実や「休暇制度」などの働きやすさの面は、十分なアピールポイントとなるだろう。今ある制度や働く環境を改めて洗い出し、場合によってはそれを見直しながら、安心して働ける場を提供することが今の企業には求められている。

関連記事

2026年卒大学生インターンシップ・就職活動準備実態調査(1月)

調査・データ

2026年卒大学生インターンシップ・就職活動準備実態調査(1月)

2026年卒 企業新卒採用予定調査

調査・データ

2026年卒 企業新卒採用予定調査

2025年卒大学生活動実態調査 (3月)

調査・データ

2025年卒大学生活動実態調査 (3月)