【キャリアリサーチLab研究員が検証】生成AIで学生は面接対策できるのか?
目次
就職活動における生成AIの利用について
学生の利用内容
前回のコラムでは、学生が生成AIを使ってエントリーシートを作成する一連の流れを記載した。結果として、生成AIへさまざまな情報をインプットすることによってエントリーシートを完成させることができたが、完成までには複数回に指示をする必要があった。そのため、より良い文章を作成するためにはある程度の労力は必要であることが示された。
学生の就職活動における生成AIの利用目的はエントリーシートの作成や推敲が多いがそれ以外でも利用されている。学生に具体的な生成AIの利用を聞いた調査では、業界研究や仕事研究といった情報収集ツールとしての利用や、対話ツールとして生成AIを使った自己分析や面接対策といった利用もあることが示された。【図1】
学生が生成AIを利用することについての企業の対応
企業調査にて学生が就職活動で生成AIを活用することについての対応を聞いたところ、対応内容の中で最も多かった回答は面接での質問内容を工夫する(21.3%)というものであった。【図2】
その他にも面接の評価ウエイトを上げる(6.1%)、面接官の教育を強化する(4.8%)などがあげられており、企業が対応をする際には面接対応に注力する可能性が高い。
本コラムの目的
前コラムから引き続き、本コラムでは就職活動において学生は生成AIをどのように利用しているのかということを検証する。今回は学生が生成AIを利用する際の企業対応としてあげられた「面接」に着目し、学生は生成AIを用いて面接対策できるのかどうかを検証していく。
生成AIを用いた面接対策
面接対策での具体的な利用方法
学生調査の結果、面接対策としての生成AIの具体的な利用方法として表1のような回答があった。 【表1】
多かった回答としては、自身のエントリーシートや履歴書を読み込ませ、生成AIを面接官役とした時にどのような質問をするのかを問うものであった。このように想定質問の作成として利用する他に、生成AIのチャット上で面接の問答を行うプロンプト(命令文)や実践的に面接を行うためのプロンプトをあげる回答もあった。
本コラムで検証する内容
本コラムでは上記の回答にあったように、面接の想定質問の作成と模擬面接を検証していく。また、検証にあたり、前コラムにて作成したエントリーシートを元に検証を行っていくこととする。前コラムの設定は以下の通りである。 【図3】
前コラムにて作成したエントリーシートは以下の通りである。
私は大学4年生で、リーダーシップやコミュニケーション能力を活かして、サークル活動において定例会議のメンバーの出席率を40%から70%に向上させることに成功しました。出席率の低い理由はどのようなことが会議で話されているのかを知らず、他の予定を優先するためでした。そのため、サークルの会議に参加しないメンバーに一人ひとり声をかけ、出席の重要性を伝えることで出席率を向上させました。この経験を通じて、相手の立場に立ったコミュニケーションの大切さを学びました。
また、カナダへの留学経験も私の成長に大きく寄与しています。他の人の倍以上の授業に参加し、異文化の中で学ぶことで視野を広げ、さまざまなバックグラウンドを持つ友人を作ることができました。このような経験から、柔軟性や学ぶ意欲が身につきました。
一方で、過度な責任感や完璧主義が私の弱みでもあります。そのため、一人で抱え込まず誰かを巻き込むことを意識し、チーム全体の成果を重視する姿勢を大切にしています。貴社では、これらの経験で培ったリーダーシップやコミュニケーション能力を用いて貢献できる人材を目指します。
調査結果を元に実際に生成AIで検証
上記のエントリーシートを用いて、まずは生成AIに面接でどんな質問がくると思うかを聞いてみた。
■入力した質問内容
私が書いたエントリーシートについて、1次面接では面接官からどのような質問がくると思いますか。 5個あげてください。エントリーシートの内容は以下です。(以降、上記のエントリーシート内容を入力)
■アウトプットされた生成AIの回答
上記のエントリーシートに基づいて、1次面接で面接官から考えられる質問を5つあげます。
①サークル活動でのリーダーシップを発揮した具体的なエピソードを教えてください。
└どのような状況でどのような行動を取り、どのような結果を得ましたか?
②出席率を向上させるために、メンバーにどのように声をかけましたか?
└具体的なコミュニケーションの方法や工夫した点について教えてください。
③カナダでの留学経験から得たもっとも印象的な学びは何ですか?
└異文化の中でどのような課題に直面し、それをどのように克服しましたか?
④過度な責任感や完璧主義があなたに与える影響について具体的に教えてください。
└それをどのように意識して克服しようとしていますか?
⑤貴社でどのようにリーダーシップやコミュニケーション能力を活かしたいと考えていますか?
└具体的な業務やプロジェクトにどのように貢献できると考えていますか?
通常エントリーシートには文字数制限があるため、内容は端的になるだろう。そのため、生成AIからの質問事項はエントリーシートで書かれた内容を深堀りする質問が多くみられた。
続いて、実際に模擬面接を生成AIとおこなってみた。
■入力したプロンプト
#指示書
あなたは30年間の人事経験がある優秀なベテラン人事担当者で、採用面接を担当しています。以下の条件に従い、就職の候補者である私と模擬面接をしてください。
#前提条件
あなたは面接官、私は候補者で。
#あなた(面接官)の発言条件
質問の仕方:候補者の回答内容を掘り下げたり、追加の質問や話題を変えたりしてください。
発言:あなたの質問に対する私の回答の入力が終わってから発言してください。
採点とフィードバック:私が「採点とフィードバック」と入力したら、面接内容を100点満点で何点か採点し、改善すべきポイントをフィードバックしてください。
■アウトプットされた生成AIの回答
承知しました。それでは、模擬面接を始めましょう。まずは自己紹介をお願いします。あなたの経歴やスキルについてお話ください。
■記入者の回答
私は○○大学の××です。現在、○○サークルのサークルリーダーを務めております。サークルではリーダーシップやコミュニケーション能力を活かして、サークル会議においてメンバーの出席率を40%から70%に向上させるなどサークルを盛り上げるために積極的に働きかけを行っております。
また、前年にはカナダ留学をしており、異文化の中で学ぶことで視野を広げ、さまざまなバックグラウンドを持つ友人を作ることができました。このような経験から、柔軟性や学ぶ意欲が身につきました。貴社では、これらの経験で培ったリーダーシップやコミュニケーション能力を用いて貢献できる人材を目指していきたいと考えております。
■生成AIの質問
素晴らしい自己紹介をありがとうございます。リーダーシップやコミュニケーション能力を活かして出席率を向上させた具体的な取り組みについて、非常に印象的です。
その中で、特に効果的だったアプローチや、メンバーとのコミュニケーションで心がけたことは何ですか?また、どのような反応がありましたか?具体的なエピソードがあれば教えてください。
■記入者の回答
効果的だったのはサークルの会議に参加しないメンバーに一人ひとり声をかけ、出席の重要性を伝えることです。コミュニケーションで心がけたことは相手の立場に立ったコミュニケーションを行うことです。
最初は嫌がられることもありましたが、根気よく伝え続けることで賛同してくれるメンバーが増えていきました。また、反対していたメンバーについては反対意見にしっかりと耳を傾け、その背景を理解することに努めました。この経験を通じて、相手の立場に立ったコミュニケーションの大切さを学びました。
■生成AIのフィードバック
根気よくコミュニケーションを続け、反対意見に耳を傾ける姿勢は素晴らしいですね。そのようなアプローチが、最終的にメンバーの賛同を得ることにつながったのですね。
あなたの経験についての話は非常に興味深く、リーダーシップやコミュニケーション能力の重要性を強調する素晴らしい内容でした。以下に、あなたの回答に対する採点とフィードバックをお伝えします。
採点
内容の明確さ: 9/10
サークル活動での具体的な取り組みや成果が明確に示されており、出席率向上のための努力が具体的に伝わりました。
コミュニケーション能力: 9/10
相手の立場に立ったコミュニケーションを心がけたことや、反対意見に耳を傾ける姿勢が強調されており、良い印象を与えました。
自己反省と成長: 8/10
自身の弱みを認識し、それに対処するための意識を持っている点が評価できます。もう少し具体的なエピソードや学びがあれば、さらに良かったです。
留学経験の活用: 7/10
留学経験についての具体的なエピソードが不足しているため、もう少し詳細を加えると良いでしょう。どのような文化的な違いや挑戦があったのか、またそれがどのように成長につながったのかを具体的に述べると、より説得力が増します。
フィードバック
具体例の追加: 留学経験について、特に印象に残った出来事や学びを具体的に述べることで、あなたの成長をより明確に示すことができます。
感情の共有: 反対意見に対する対応や、メンバーとのコミュニケーションの中で感じたことをもう少し詳しく語ると、あなたの人間性やリーダーシップスタイルがより伝わりやすくなります。
将来の展望: 留学経験が今後のキャリアにどのように活かせると考えているのか、具体的なビジョンを持つことで、あなたの意欲や目標がより明確になります。
今回はページ上の問題で数問でのやりとりのみであったが、自己紹介から始まり、その話の深掘りのための質問が続くといったように実際の面接の流れで質問があった。
質問内容も、読み込ませたエントリーシートを深掘りするものであり、この内容で練習をしていけば実際の面接でもエントリーシート内容を元にした話ができるようになるだろう。むしろ、文字数制限のあるエントリーシートをもとに面接でより詳細な話ができるようにするための練習には良い質問であるといえる。また今回は行わなかったが、志望企業の情報も加えればエントリーシート外の質問に答えるための練習にもなるだろう。
以上より、生成AIを用いることで想定質問の作成や模擬面接を行うことができた。今回はエントリーシートの内容のみを情報として与えたが、受検する業界や企業の情報なども生成AIのプロンプトに含めることでより実践的な練習ができるであろう。
生成AIで面接対策を行うメリットと注意点
学生のメリットと注意点
生成AIで面接対策を行う学生のメリットとして、場所や時間を選ばない点があげられる。通常、模擬面接を行おうとする場合、大学のキャリアセンターを利用する、友達に面接官役をお願いするなど相手の都合に合わせる必要がある。しかし、生成AIを利用するのであればこの点は関係がない。
しかし、面接練習としては対人の練習も当然必要であろう。企業調査によると、企業が面接時に特に注視するところは「コミュニケーション能力」が51.2%ともっとも高いが、その他にも「明るさ・笑顔・人当りの良さ」「入社したい熱意」といった印象の良さや熱意も重要とされている。【図4】
そのため、生成AIでさまざまな質問への回答を準備し、人との面接練習で準備した回答を伝える練習を行うという、複合的な対策が必要であろう。
企業側の注意点
もし、学生が生成AIを用いて面接対策を行っていた場合、注意すべきは誤った情報を正しい情報として認識してしまうことである。例えば、表1にある「開発職の就職で求められることを5つ教えてください。」というプロンプトを用いて、生成AIにアウトプットしてもらったとする。学生はその内容が本当に受検する企業に適しているかを判断しなければならない。そのため、企業は学生に対して面接を受検するために必要な情報を与え、理解させる必要がある。
最後に
2回にわたり、学生の生成AIの利用の流れをみてきた。生成AIは就職活動において大きな変革をもたらしている。現状ではエントリーシート作成や面接対策など、学生がより効率的に準備を進めるための具体的なツールとしての役割が増しているが、今後は技術の進化とともにさらに多くの活用方法が生まれていくと予想される。
しかし、学生が行うべきことは大きく変わらないだろう。大切なのは自分の強みや弱み、アピールポイントは何かといった自己分析や、志望動機として何を伝えたいのかといった企業理解である。 また、自らの言葉で表現する力や実際に対人での会話を通じたコミュニケーション能力を磨くことも変わらずに重要である。
これまでは学生側の利用に限定してみてきたが、生成AIを利用するのは学生だけではない。近年、企業が採用活動をより効率的に行うための生成AIサービスも生まれている。今後は企業利用も含めて採用活動における生成AI活用について注目していきたい。
マイナビキャリアリサーチLab 研究員 中島英里香