マイナビ キャリアリサーチLab

転職活動における生成AI活用者と非活用者のギャップ ~生成AI活用の有無から考察した転職市場の現在と今後~

関根 貴広
著者
キャリアリサーチLab主任研究員
TAKAHIRO SEKINE

2022年11月に公開したChatGPTは、公開2か月で世界のユーザー数が1億人に達するなど、急速に拡大している。野村総合研究所(NRI)が2023年5月26日に発表したレポートによると、日本の利用率は、米国、インドに次ぐ3番目の多さとなっているそうだ。 

また、2023年11月1日にMicrosoftより生成AIが搭載された「Microsoft 365 Copilot(コパイロット)」が日本リリースされるなど、今後の仕事や生活など、あらゆる場面で生成AIは日常に浸透しつつある。みなさまもさまざまな場面で生成AIの活用やどのように取り入れていくか?を検討しているのではないだろうか。 

そこで、本コラムではマイナビキャリアリサーチLabの「転職活動における行動特性調査2023年版」を用いて、転職活動での生成AI活用の実態と、生成AI活用者と非活用者のギャップからみた転職市場の現在と今後を考察する。

転職活動での生成AIの活用実態

生成AIの活用率

まずは、直近1年間(2022年6月~2023年7月)に転職活動を行った人は、転職活動で生成AIを活用したのかを確認すると、実に3人に1人の割合(32.6%)が、転職活動においてChatGPTなどの対話型生成系AIを活用している。また、今後の活用意向は6割を超えている。【図1】

【図1】転職活動での生成AI活用状況

転職活動での生成AI活用状況

前述もしたが、ChatGPTの公開が2022年11月で公開から1年未満にもかかわらず、活用率が3割を超えていることから、日本でも生成AIの活用が急速に拡大している様子がわかる。では、この拡大は転職活動だけなのだろうか?結論から言ってしまえば、プライベートなどさまざまな場面でも活用率は3人に1人以上の水準だ。

具体的には、「現在の仕事(活用率:34.1%)」「プライベート(活用率:38.4%)」ともに3割を超えており、プライベートに至っては4割近くが生成AIを活用している。

また、転職活動で生成AIを活用した人の8割以上が「現在の仕事(活用率:85.0%)」「プライベート(活用率:84.5%)」でも、生成AIを活用しており、生成AIはさまざまな場面で活用されるツールになっていることがわかる。【図2】

【図2】「現在の仕事」「プライベート」での生成AI活用状況

現在の仕事、プライベートでの生成AI活用状況

転職活動での生成AIの活用方法とは?

次に、転職活動での生成AIの活用方法をみると、「自己PRの作成」が33.4%でもっとも高く、次いで「自分に合う仕事のマッチング」28.4%、「志望動機の作成」28.2%、「履歴書の添削」27.0%、「転職活動の仕方」26.4%と続く。

自己PRや志望動機の作成、履歴書・職務経歴書の添削など、生成AIが得意とする書類作成や添削での活用は想像に難くないが、「自分に合う仕事のマッチング」「転職活動の仕方」「自分の長所・短所などの自己分析」「自分の市場価値の確認」なども、活用方法の上位10項目となっており、生成AIの活用は書類作成や添削だけでなく、転職活動の相談相手や自分自身を客観視するツールとしても活用されているようだ。

では、転職活動での生成AIの活用は効果的に作用したのだろうか?活用方法の上位10項目のうち、効果を感じた割合を算出してみると、「志望動機の作成」が77.3%でもっとも高く、次いで「自己PRの作成」67.5%、「面接時の受け答えの仕方」63.6%となった。

その他の上位4項目以下をみても、「自分に合う仕事のマッチング」「職務経歴書の添削」「自分の長所・短所などの自己分析」「自分の市場価値の確認」「面接時の想定質問とその回答」「履歴書の添削」で6割程度、もっとも低い「転職活動の仕方」でも半数以上の51.7%が効果的な作用を感じている。【図3】

【図3】生成AIの活用方法と効果を感じた活用方法

生成AIの活用方法と効果を感じた活用方法

生成AI活用の影響と評価

活用方法と、その活用方法の効果はみて頂いた通りだが、そもそも転職活動で生成AIを活用したことで、どのような影響があったのかもみてみる。直近1年間の転職活動において、生成AIを活用して良い影響があったか?悪い影響があったか?を聞いたところ、84.3%が「良い影響があった」と回答した。

効果の実感値を考えれば、良い影響があったという回答が高くなることに大きな驚きはないが、反対に、悪い影響があったという回答は、わずか2.8%でほとんど悪い影響がないという結果に、私自身は少々驚きがある。

次に、良い影響・悪い影響それぞれの具体的な影響についてフリーアンサーをみると、具体的な良い影響としては、「自分の市場価値を効率よく知ることが出来た」「想定質問と模範解答を参考にできるので、少し気楽に活動できた」「自分を客観的に評価することができた、企業の求める人物像を想定してアピールできた」「周りに相談できる人がいないから、とても頼りになった」「自信が持てた」など、面接など転職活動で発生する各イベントのサポートはもちろんのこと、イベントに臨むメンタル的なサポートも担った様子がある。

一方で、具体的な悪い影響としては「周りと回答が被る」「答えがあいまい」などのコメントがみられた。【図4】

【図4】生成AI活用の影響評価と具体的な影響

生成AI活用の影響評価と具体的な影響

生成AI活用者と非活用者で転職活動にギャップはあったのか?

では、転職活動において生成AIを活用した「生成AI活用者」と、生成AIを活用しなかった「生成AI非活用者」に分けて、転職活動にギャップはあったのかを確認していく。

転職活動の難易度意識のギャップ

まずは、転職活動の難易度意識のギャップからみてみよう。直近1年間(2022年6月~2023年7月)の転職活動時の総合的な難易度意識を聞いてみると、生成AI活用者では「簡単だった」が45.3%になる一方で、生成AI非活用者は25.1%に留まり、生成AI活用の有無により、転職活動の難易度意識に大きなギャップが出た。【図5】 

【図5】転職活動の総合的な難易度意識

転職活動の総合的な難易度意識

また、転職活動のフロー別に「簡単だった」のギャップがある項目を確認してみると、「条件面談(条件交渉)」が22.2pt差(生成AI活用者:38.6%、生成AI非活用者:16.4%)でもっとも大きなギャップとなり、次いで「内定獲得」10.4pt差(生成AI活用者:35.0%、生成AI非活用者:24.6%)となるなど、書類選考や面接選考など、すべての項目で生成AI活用者の「簡単だった」が生成AI非活用者のそれを上回った。

書類選考や面接選考は、前述の生成AIの活用方法にもあった通りだが、条件面談(条件交渉)という、転職活動ならではの場面でも、生成AIの活用有無により大きなギャップが出ている。【図6】

【図6】転職活動フローごとの難易度意識

転職活動フローごとの難易度意識

書類選考通過率・内定獲得率などのギャップ

次に、直近1年間(2022年6月~2023年7月)に転職活動を行い転職した人(以下:転職者)の応募数、書類選考通過数、内定獲得数などもみてみる。すると、応募数、書類選考通過数、内定獲得数のいずれも生成AI活用者の方が多かった。 

特に内定獲得数の平均は4.6件(生成AI非活用者との差:+2.8件)で、生成AI非活用者より2.5倍以上多い。また、生成AI活用者の内定獲得率は27.1%に対し、生成AI非活用者は12.0%で、2倍以上のギャップが出ている。【図7】 

【図7】求人応募数・書類選考通過数・内定獲得数

求人応募数・書類選考通過数・内定獲得数

難易度意識だけでなく、内定獲得数や獲得率でもギャップは出ており、前述した影響と評価について、悪い影響がわずかであった結果もうなずける。ただ、活用方法次第では、自分の個性や本質的な強みに気づけず、画一化されてしまう恐れもあるため、生成AIとの付き合い方が、今後より重要になってくる示唆も感じられた。

どのような人が転職活動で生成AIを活用しているのか?

ここまで転職活動における生成AIの影響と評価や、その効果とも考えられるギャップについてみてもらった。では、一体どのような人が転職活動において生成AIを使った傾向にあるのか?について、年代や転職活動時の職種などさまざまな属性別でみてみる。

転職活動で生成AIを活用した人の年代や職種、業種

まず年代別では、30代の活用率が35.9%でもっとも高く、次いで20代が34.9%となり、40代・50代では20%台となった。次に、転職活動時の職種別では、「営業」が38.9%でもっとも高く、次いで「企画・経営・管理・事務」が36.6%、「クリエイター・エンジニア」が35.7%と続き、「医療・福祉・保育・教育・通訳」「コンサルタント・専門職」「技能工・建築・土木」は20%台に留まる。

また、転職活動時の業種では、「IT・通信・インターネット」が41.9%でもっとも高く、次いで「メーカー」が37.2%、「不動産・建設・設備・住宅関連」が35.1%となった一方で、「医療・福祉・介護」は22.1%、「公的機関」は10.2%で全体より10pt以上低い。

生成AIの活用率を、年代・職種・業種別にみたが、転職活動時の業種「IT・通信・インターネット」が唯一4割を超えており、生成AI活用者にはデジタル分野への感度が高く、ITリテラシーの高い人材が多かったと考えられる。【図8】

【図8】求人応募数・書類選考通過数・内定獲得数

求人応募数・書類選考通過数・内定獲得数

転職活動で生成AIを使った人の役職と年収

次に、転職活動時の役職別に生成AIの活用率をみてみる。すると「部長クラス以上」が56.7%でもっとも高く、次いで「課長クラス」44.5%となり、役職が高いほど、転職活動で生成AIを活用している。当然ながら、転職活動時の年収別では、年収600万円台以上で活用率が4割を超え、年収「800万円台」では57.4%ともっとも高い。

このことから、ハイクラス人材や市場価値が高いと考えられる人材ほど、生成AIなどの新しいテクノロジーを先んじて活用していると言えるだろう。企業としても、人手不足のなか生産性の向上を目指すため、即戦力人材や優秀人材などを求めている現状がある。

そして、ここまでの結果から企業の採用ニーズに合う市場価値の高い人材ほど、生成AIを活用し、効率的かつ効果的に転職活動を進めていることを踏まえると、転職が容易な人材と、転職が難儀な人材の間にあるギャップも広がってしまっているのかもしれないと思わせる。【図9】

【図9】生成AIを活用した人の役職と年収

生成AIを活用した人の役職と年収

今後1年以内の再転職意向のギャップ

最後に少しだけ企業視点も加え、ギャップに話題を戻させてもらう。政府では雇用市場活性化のため、人材の流動化を進めている。ただ、企業にしてみれば、せっかく採用した人材は、自社に定着させたいと思うのが自然なことだろう。

実際に、マイナビキャリアリサーチLabが行った企業の中途採用担当者向けの調査「企業の雇用施策に関するレポート(2023年版)」をみても、自社がこの先成長していくためには、「人材の流動化が進むこと(11.8%)」よりも、「人材が長期的に定着すること(85.0%)」を重要視している。【図10】

【図10】自社成長のため人材の長期定着と流動化はどちらが重要か

自社成長のため人材の長期定着と流動化はどちらが重要か

それでは、せっかく採用できた生成AI活用者=市場価値が高いと考えられる人材は長期的に定着するのかを確認するため、直近1年間(2022年6月~2023年7月)の転職者における、今後1年以内の再転職意向を生成AI活用者と生成AI非活用者のそれぞれで比較してみる。

すると、生成AIを活用した転職者の実に8割以上が、「今後1年以内に転職したいと思う」としており、ここにも生成AI活用者(81.0%)と生成AI非活用者(41.3%)の大きなギャップが存在している。
生成AI活用者は、市場価値が高い人材であるがゆえに、企業ニーズも高く、自律的なキャリアを形成できるパワーもある。政府が進める「人材の流動化」を担う層と言っても良いだろう。

しかし、企業にとっては自社に定着させることが自社の成長に重要と考えていることには反しており、人材の定着、特に市場価値の高い人材の定着は、今後の企業の大きな課題になるだろう。【図11】

【図11】転職者の今後1年以内の再転職意向

転職者の今後1年以内の再転職意向

今後についての考察

転職活動における生成AIの活用の現状は、市場価値の高い人材ほど先行者利益を得るような形で、効率的かつ効果的に転職を実現している様子がうかがえた。このことから、転職が容易な人材と、転職が難儀な人材の間にあるギャップも広がっている可能性も示唆されたのではないかと考える。

市場価値の高い人材ほど、会社に依存しない自律的なキャリアを実現でき、政府の進める人材流動化の流れからも、今後ハイクラス人材の流動化が進行し、ハイクラス以外の人材の停滞化というような状況が生まれてしまうのかもしれない。

そのような、ある種の格差を生み出さないためにも、産業構造の変化に直面している今、生成AIの活用やリスキリングが重要になってくるだろう。 AIが仕事を奪うというようなことも言われるが、今や普通にそこにあるものとなったPCやスマホが、現在もなお、人々の仕事を奪い続けているだろうか。

従前の「仕事の仕方」を変えたことは確かだが、生成AIも同様に「仕事の仕方」は変えても、完全に奪うということはないのではないだろうか。だからこそ、「仕事の仕方」の変化に備えたリスキリングの重要性がある。 

また、生成AIは合理性をもたらすが、人間には「矛盾しているからこそ、そのものの良さが引き立つ・美しい」というような非合理的なものに価値を見出す感性をあわせ持っていることも忘れてはならない。

すでに始まっている第4次産業、続く第5次産業のキーコンセプトでもある「持続可能性(サステナブル)」「回復力(レジリエント)」「人間中心(ヒューマンセントリック)」の実現に向け、非合理的な人間の感性と、合理的な生成AIをより良いバランスで融合し調和させることが、未来の新しいスキルの1つとなっていくのではないだろうか。

マイナビキャリアリサーチLab 主任研究員 関根貴広

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