フリーターとして働くことのメリット・デメリットとその注意点
本稿は「『フリーター』という生き方を考える」という連載企画の第2回目である。第1回目 は「フリーター」の現状と今後について統計データから読み解いた。今回は、若者の就職支援を行う会社の取締役であり、自身もキャリアコンサルタントである新田 圭氏にフリーターとして働くことのメリット・デメリットについて解説していただいた。
新田 圭(株式会社ジンジブ)(ニッタ ケイ)
大学卒業後は100円均一の店長、管理部門の経理・経営企画を経験。その後エレコム株式会社を経て株式会社ハウスドゥで財務に携わった後に、株式会社やる気スイッチグループの取締役に就任。ジンジブの代表取締役の佐々木満秀と出会ったことを機に、2017年株式会社人と未来グループ(現:株式会社ジンジブ)に入社。2018年、同社取締役就任。現在、経営企画部門・管理部門を統括。「夢は、18才 から始まる。」をスローガンに若者支援事業に日々奔走している。キャリアコンサルタント資格保有。
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です。
目次
はじめに
本コラムでは、フリーターとして働くことのメリット・デメリットを整理し、フリーターとして働く際に留意すべきポイント について具体的に解説します。対象は、現在フリーターとして働いている方、またはフリーターを検討している若年層の方々です。特に、高校卒業後や大学を中退した直後など、フリーターをキャリア全体の中のひとつとして考えるタイミングにある方に向けた内容となっています 。
総務省の「労働力調査」によると、フリーターは「15~34歳 で、パート・アルバイトとして就業している者、または仕事をしていない者のうち家事も通学もしていない者」と定義されており、 2023年の調査では、フリーター人口は約120万人と報告されています。また、同調査によると、25〜34歳のうち、都合の良い時間に働きたいとして非正規になった人は2023年に73万人と、10年前より14万人増えた一方で、「正規の職がない」ことを理由にした非正規は半減しています。この背景には、多様な働き方を選択する若年層の増加や、正社員としての就職をあえて選ばない価値観の変化があります。
フリーターに対する一般的なイメージには、柔軟な働き方ができる一方で、経済的な不安や将来のキャリアに対する懸念といった側面が含まれます。たとえば、株式会社マイナビが「アルバイトで働くフリーター(*1)」を対象に実施した「フリーターの意識・就労実態調査(2024年)」では、 フリーターの約8割が「経済的にゆとりがない」と感じている一方で、自由な時間を確保できる働き方に満足しているとの回答も一定数ありました。
*1:マイナビが実施した調査の「フリーター」は労働力調査(総務省)における定義と異なり、「仕事をしていない者のうち家事も通学もしていない者」は除きます。
また、厚生労働省「賃金構造基本統計調査」によると、フリーターの平均年収は約150万円から200万円程度と報告されており、正社員の平均年収と比べて大きな格差が存在します。これらのデータは、フリーターという働き方が抱えるメリットとデメリットを示すものです。
フリーターとして働くことには、自由で多様なライフスタイルを実現できるメリットがある一方で、安定性や将来性に課題を抱える等のデメリットもあるようです。以下では、フリーターとして働くことのメリットとデメリットを整理し、その背景や注意点について具体的に解説します。
フリーターとして働くメリット
まずは、フリーターとして働くメリットを考えてみましょう。
1. 柔軟な働き方
フリーターの最大の魅力は、働き方の柔軟性です。自分の都合や状況に合わせて職場を選べたり、正規雇用より柔軟に勤務シフトを調整したり、就業期間を選べることで、学業や趣味、家庭の事情との両立が可能です。たとえば、観光地やイベント会場でのアルバイトは、短期間で多く稼ぐことができ、繁忙期のみ働くなど、ライフスタイルに合わせた選択ができます。
2. 多様な経験の積み重ね
多様な経験を積みたい人はフリーターとして働くことで、異なる業種や職種を短期間で経験できる のも魅力の一つです 。飲食業や、小売業、イベント運営、物流業務など、幅広い現場での経験は、柔軟な対応力やコミュニケーション能力の向上に繋がります。一部の職場では社員登用制度を活用することもできるので、自分にあった仕事だと思うことができれば長期就業が可能な正社員への道が開かれる場合もあります。
3. 自由な時間の確保
フルタイムの正社員と比べて拘束時間を選択できるため、趣味や副業、自己投資の時間を確保するような働き方も選べます。たとえば、音楽や芸術活動に専念したいクリエイター志向の方や資格取得・スキルアップの勉強を並行して進めたい方には、理想的な働き方と言えます。
フリーターとして働くデメリット
前章では、フリーターのメリットとして、柔軟な働き方が可能であり、多様な経験を積んだり、自由な時間を確保したりすることができる 、という内容をお伝えしました。それでは、ここからは、フリーターのデメリットについても考えてみましょう。
1.経済的な不安定さ
フリーターの平均年収は、厚生労働省「賃金構造基本統計調査」によると、約150~200万円程度とされています。正社員の平均年収(約400万円)と比較すると大きな差があります。
この収入の低さと雇用の不安定さから、 フリーターの81.6%が「経済的にゆとりがない」と感じているとの調査結果もあります。(マイナビ「フリーターの意識・就労実態調査(2024年)」)また、時給制(ノーワーク・ノーペイ)であるため、病気やケガによる収入減少のリスクも高く、長期的な経済基盤の構築が難しい場合があります。
2.社会的な信用の低下
収入の不安定さから、住宅ローンやクレジットカードの審査に通りにくい場合があります。また、特定の組織に所属していないことから、社会的にも「安定していない」という印象を持たれるケースもあり、長期的な信頼構築が難しい側面があります。
3.キャリア形成の難しさ
短い期間で多様な経験ができる一方で、長期的なキャリア形成が難しいという課題があります。特に専門性や資格が求められる職種では、フリーターからの転職が困難な場合もあります。
これらのデメリットを踏まえ、フリーターとして働き続ける場合は、経済的な計画やスキルアップ、社会保険の理解など、将来を見据えた対策が重要となります。
フリーターとして働く際の注意点
フリーターとして働くことは、柔軟な働き方や多様な経験が得られる一方で、経済的な不安やキャリア形成の難しさといった課題が伴うことをお伝えしてきました。これらの課題に対処しながらフリーターとして働くうえで、以下の点に注意することが必要です。
1.経済的な計画と貯蓄の重要性
フリーターの平均年収は150万~200万円程度とされており、正社員の約400万円と比べて大きく下回ります。このため、収入の不安定さをカバーするために、計画的な貯蓄が不可欠です。
生活費の1~3か月分の緊急資金を確保し、収入の一部を定期的に積み立てることで、突発的な出費に備えることが重要です。収入の一部を定期的に積み立てる習慣を持ちましょう。また、家計簿やアプリを活用して収支を把握することが推奨されます。
2. 健康管理とストレス対策
フリーターの仕事は、職場によっては長時間労働や不規則なシフトが求められる場合があります。 特に夜間や体力を使う仕事が続くと、健康に悪影響を及ぼす可能性があります。定期的な健康診断や適度な運動、趣味を通じたストレス発散が重要です。また、心身の不調を感じた際には早めに周囲に相談したり、医療機関を受診することを心がけましょう。
3.スキルアップと自己投資
将来の選択肢を広げるためには、スキルアップや資格取得が欠かせません。フリーターとしての経験は、異なる職場での コミュニケーション能力や柔軟性を培う機会となりますが、それをキャリアに活かすためには専門スキルや知識が必要です。
マイナビの調査によれば、フリーターの約6割が「学び直しが必要」と感じているものの、実際に行動しているのは2割程度に留まっています(マイナビ「フリーターの意識・就労実態調査(2024年)」)。オンライン講座や資格取得を活用し、ITスキルや語学力など将来に役立つスキルを磨きましょう。
4. 社会保険と年金の理解
フリーターは社会保険や厚生年金に加入しないケースもあるため 、自分で国民健康保険や国民年金の支払いを管理する必要があります。特に年金は老後の生活に直結するため、納付を怠らないよう注意しましょう。
フリーターとして働く場合には、短期的な利便性だけでなく、特に、長期的な視点での生活設計が不可欠です。柔軟な働き方を最大限に活かしながら、自身の健康と経済的安定、そして将来のキャリア形成に努めることで、フリーターとしての働く経験き方をより充実したものにすることが可能です。
フリーターからのキャリアアップ
フリーターとして働くことは、柔軟な働き方や多様な経験を積む機会を提供してくれます。しかし、長期的な視点で見ると、経済的な不安定さやキャリア形成の難しさといった課題を抱える場合があります。こうした状況を克服し、より安定した職業生活や自己実現を目指すためには、キャリアアップを計画的に進めることが重要です。
キャリアアップは、正社員への転換だけでなく、専門スキルの習得やフリーランス、起業といった多様な選択肢を含みます。フリーターとして得た経験やスキルを土台に、新しい道を切り開くためのステップを理解し、実践することが求められます。
以下では、フリーターからのキャリアアップを目指すための具体的な方法や注意点を解説し、将来の安定と成長を実現するためのヒントを提供します。
1. 正社員への転換
正社員は、経済的な安定や社会的信用を得られるため、フリーターからのキャリアアップの選択肢として多く選ばれています。
①社員登用制度を活用
現在のアルバイト先に社員登用制度がある場合、積極的にアピールし、上司や経営者に意欲を伝えましょう。人手不足の業界では、アルバイトから正社員に登用されるケースが増えています。
②未経験歓迎の求人を活用
若年層を対象とした「未経験歓迎」の求人を探すと良いでしょう。特に業界未経験でも教育体制が整っている企業では、成長のチャンスがあります。
③ハローワークや転職サイトを利用
ハローワークでは若年層向けの「ジョブカフェ」や正社員就職支援プログラムを提供しています。また、民間企業が運営する転職サイトでフリーター歓迎の求人を探すのも有効です。
2. スキルアップと資格取得
専門スキルや資格を身につけることで、転職市場での価値を高めることができます。
① IT関連スキル
プログラミングやデータ分析スキルは、特に需要が高い分野です。オンライン講座を活用して独学することも可能です。
② 語学力
英語力は、多くの職場で評価されるスキルです。TOEICスコアを目標に学習を進めると良いでしょう。
③ 専門資格
自分の興味や目指す業界に合わせて、簿記、宅建、ITパスポートなどの資格取得を目指します。
3.フリーランスや起業への挑戦
フリーターとして培った柔軟性や独自の経験を活かし、フリーランスや起業という選択肢もあります。自分の得意なスキルを活かしたフリーランスであれば、アルバイト時代の人脈や、クラウドソーシングサイトを活用して案件を獲得することもできます。
また、起業を選択するのであれば、地域の創業支援センターや無料の起業相談サービスを活用し、ビジネスプランの作成をサポートしてもらうことを検討しましょう。
4.キャリアコンサルタントの活用
専門家に相談することで、自分の適性やキャリアパスを明確にすることができます。キャリアコンサルタントへの相談や、ハローワーク・地域の若者支援センター・民間の転職エージェントへの相談が考えられます。
5.フリーターの経験を活かす視点
フリーターとして働いた経験は、キャリア形成において強みになることもあります。特に、柔軟な対応力(異なる職場環境での適応力)やコミュニケーション能力(接客業での経験など)、チームワーク(多様なメンバーとの協力)は、評価の対象となる場合があります。これらの経験を履歴書や面接で具体的にアピールすることで、キャリアアップの可能性を広げられます。
おわりに
フリーターとして働くことは、柔軟性や多様な経験が得られる一方で、経済的な不安やキャリア形成の難しさといった課題もあります。本コラムを通じて、フリーターとしての働き方を見つめ直し、長期的な視点でのキャリア設計を考えるきっかけになれば幸いです。
最後に、どのような働き方を選択するにしても、自分の価値観を大切にし、前向きに行動することが重要です。みなさまが自分らしい未来を切り開くためのヒントになれば幸いです。
日本も賃金は上昇しているが、直近5年間の上昇率を他国と比較すると、上昇幅が小さいことがわかる。なお、アメリカの最低賃金は、連邦政府と各州政府によって定められており、連邦最低賃金は全国一律で、各州はそれを下回ることはできないが、上回ることは可能というルールのもと、各州の最低賃金は地域の経済状況や労働市場の状況により異なる。
【表1】を見ると2020年から2024年まで金額が一定になっているが、独立行政法人労働政策研究・研修機構の報告 によると、2024年1月には全米50州のうち、22州で最低賃金が引き上げられており、その金額もまた、最低賃金の7.25ドルを上回る金額で設定されている。