マイナビ キャリアリサーチLab

企業の採用人材が多様化する中で、アルバイトの服装の自由を認めることに対する賛否と影響を探る

三輪希実
著者
キャリアリサーチLab研究員
NOZOMI MIWA

2021年の企業のアルバイト採用人材は多様化傾向

少子高齢化による労働人口の減少に伴い、多様な人材の就業機会拡大に向けて働き方改革が推進されている中、2021年のアルバイト採用では企業の採用人材の多様化がみられた。2021年のアルバイト人材確保のための施策として、「主婦(主夫)層の積極採用」で23.6%(前年比:5.7pt増)、「定年退職者の再雇用」で19.6%(前年比:6.6pt増)、「副業者の積極採用」で18.7%(前年比:5.5pt増)となり、企業は前年と比べて多様な人材の採用に積極的である様子がみてとれる【図1】。性別や年齢、国籍といったバックグランドや価値観が多様な人々が自律的に自分らしく働くことができる環境を整えるために、服装や身だしなみ規定の撤廃や改定を行い、自由化を進める企業もあるという。そこで、アルバイトの服装や身だしなみについて働く人や企業がどのように考えているかについてみていきたい。

アルバイト人材確保のために実施した施策/アルバイト採用活動に関する企業調査(2021年)
※出典:アルバイト採用活動に関する企業調査(2021年)より 
※調査期間:2021年11月26日~11月30日

アルバイトの服装・身だしなみの決まり有無と具体的な内容

アルバイトの服装・身だしなみの決まりを設けている企業は62.7%と半数以上となった。業種別でみると、「決まりを設けている」は[販売・接客(コンビニ・スーパー)]でもっとも多く、次いで[警備・交通誘導(セキュリティ等)]となり、指定のエプロンや制服がある場合が多い業種が上位となった【図2】。スーパーは生鮮食品を扱っており、衛生面の観点で従業員に対して清潔感を求める傾向にあることから、アルバイトの服装や身だしなみについての決まりを設けている企業が多いと考えられる。また、警備・交通誘導は、商業施設などでの施設警備を行う場合に館内の案内や貴重品管理等の業務を行うこともあり、第一印象で不快感や不信感を抱かせずに信頼感を得る必要があるという点や業務を行う際に派遣される企業や現場のイメージに繋がるという点が影響しているとみられる。

一方で、アルバイトの服装・身だしなみについて「決まりを設けていない」は、[建築・土木作業員(建設・土木・設備工事)]でもっとも多く、次いで[軽作業(倉庫・物流)]となった。これらの業種は接客する機会が少ない業務のため、比較的決まりを設けていない企業が多くなったとみられる。

業種別・アルバイトの職場での服装や身だしなみについての決まりを設けているか/アルバイト採用活動に関する企業調査(2021年)
※出典:アルバイト採用活動に関する企業調査(2021年)より ※調査期間:2021年11月26日~11月30日

また、決まりを設けていると回答した企業に、決まりを設けている具体的な内容を聞いたところ、「入れ墨・タトゥー」がもっとも多くなった。日常生活で身に纏っている「服装」は39.6%、「髪型」は38.8%、「髪色」は43.8%となった。業種別でみると、「服装」は[販売・接客(コンビニ・スーパー)]や対面のサービス専門職である[家庭教師・講師・試験監督(教育・学校法人)][保育][介護]等で全体より高く、保育や介護は身体を動かす業務があることから、動きやすい服装という点で服装の決まりがあることが多いと考えられる。「髪型」「髪色」は[販売・接客(パチンコ・カラオケ・ネットカフェ)][警備・交通誘導(セキュリティ等)]等の接客業で全体より高くなった【図3】。

業種別・アルバイトの職場での服装や身だしなみについての決まりを設けている企業の具体的な内容/アルバイト採用活動に関する企業調査(2021年)
※出典:アルバイト採用活動に関する企業調査(2021年)より ※調査期間:2021年11月26日~11月30日

アルバイトの服装・身だしなみを自由にすることを認めるか、
また自由化した際の影響

企業にアルバイトの服装・身だしなみについて働く人の自由を認めた方がいいかについて聞いたところ、「認めた方がいい・計」は63.4%、「認めない方がいい・計」は36.6%となり、アルバイトの服装・身だしなみについて、働く人の自由を認めた方がいいと考えている企業の方が多くなった【図4】。

アルバイトの服装・身だしなみについて働く人の自由を認めたほうがいいと思うか/アルバイト採用活動に関する企業調査(2021年)
※出典:アルバイト採用活動に関する企業調査(2021年)より ※調査期間:2021年11月26日~11月30日

また、企業にアルバイトの服装・身だしなみを自由にすることによる影響について聞いたところ、「影響はないと思う」が41.6%ともっとも高くなり、「良い影響を与えると思う」は24.9%、「悪い影響を与えると思う」は33.5%となった【図5】。「良い影響を与えると思う」という意見では、「応募率や定着率が上がる」「優秀な人材が集まる」 「モチベーション維持に繋がる」という人材確保に有効と考える声や、「企業イメージに結び付くことで良い印象を与える」「多様化はこれからのニーズに生かされる」 「コミュニケーションがとりやすくなる」という企業の発展や事業の成長に繋がるという考え、「自分で判断する姿勢がみにつく」等があがった。

一方で「悪い影響を与えると思う」という意見では、「清潔感や衛生面、安全面」についての懸念や「規律が保てない」「企業イメージの保持ができない」等があがった【図6】。悪い影響を与えると思う理由の回答から、仕事内容上、自由を認めたくても認めることが難しいケースも多いことがうかがえるがアルバイト人材採用という観点でみると、2021年のアルバイト採用の満足感について[質・量ともに満足]と回答した企業では、アルバイトの服装・身だしなみについて、働く人の自由を「認めた方がいい・計」が70.4%、[質・量ともに不満]と回答した企業では「認めた方がいい・計」が55.6%となり、[質・量ともに満足]と回答した企業の方がアルバイトの服装・身だしなみの自由化を認めた方がいいと考えている割合が高いことがわかる【図5】。

アルバイトの服装・身だしなみを自由にすることによる影響についてどのように思うか/アルバイト採用活動に関する企業調査(2021年)
※出典:アルバイト採用活動に関する企業調査(2021年)より ※調査期間:2021年11月26日~11月30日
アルバイトの服装・身だしなみを自由にすることによる影響についてどのように思うかの自由回答/アルバイト採用活動に関する企業調査(2021年)
※出典:アルバイト採用活動に関する企業調査(2021年)より ※調査期間:2021年11月26日~11月30日

アルバイト就業者の服装・身だしなみの決まりについての意識

2021年のアルバイト採用活動において、採用ターゲットとした属性をみると「フリーター(20~30代)」がもっとも多く、次いで「フリーター(40代以上)」、「主婦(主夫)」となった【図7】。

アルバイトの採用ターゲットとしてあてはまるもの/アルバイト採用活動に関する企業調査(2021年)
※出典:アルバイト採用活動に関する企業調査(2021年)より ※調査期間:2021年11月26日~11月30日

そこで、多くの企業が採用ターゲットとしているフリーターや主婦(主夫)について服装や身だしなみの意識についてみていきたい。まず、マイナビで実施したフリーターの意識・就労実態調査において、現在の勤務先では「髪型・染髪・ピアスが自由である」という項目を現在の勤務先で長く働きたいと思えるか別でみると、[現在のアルバイト先で長く働きたい・そう思う計]では「髪型・染髪・ピアスが自由である」の割合が16.4%、[現在のアルバイト先で長く働きたい・そう思わない計]では「髪型・染髪・ピアスが自由である」の割合が12.3%となった【図8】。また、主婦のアルバイト調査より現在の勤務先では「髪型・染髪・ピアスが自由である」という項目を就業継続意向別でみると、[継続意向あり]では「髪型・染髪・ピアスが自由である」の割合が12.8%、[継続意向なし]では「髪型・染髪・ピアスが自由である」の割合が7.6%となった【図9】。このことから、フリーターと主婦(主夫)のいずれにおいても髪型・染髪・ピアスが自由である方が、アルバイトの就業継続意向が高い傾向にあることがわかる。

フリーターの現在のアルバイト先についてあてはまるもの/フリーターの意識・就労実態調査(2021年)
※出典:フリーターの意識・就労実態調査(2021年)より ※調査期間:2021年7月21日~7月26日
主婦の現在のアルバイト先についてあてはまるもの/主婦のアルバイト調査(2021年)
※出典:主婦のアルバイト調査(2021年)より ※調査期間:2021年3月31日~4月1日

まとめ

働く人の服装・身だしなみの自由を認めることは企業にとっても、働く人にとってもポジティブな影響を与える要因のひとつになると考える。清潔感や衛生面に配慮する必要はあるが、働く人からすると、服装や髪型・髪色等で自分らしさを表現して自律的に働くことは、クリエイティブな発想を生み出すことや心身健康な状態を保つことに繋がるだろう。一方で、企業からすると、多様な価値観を認めることで、多様な能力を持つ人材の確保やリラックスした状態で社員が働くことによる社員観のコミュニケーションの活発化や定着率向上の助けになり得るだろう。

少子高齢化による労働人口の減少に伴い、人種・年齢・性別を問わずに多様な人材への就業機会の拡大や、個人の能力を十分に発揮できる環境作りなどが重要となっている中で、新型コロナウイルス感染症の拡大を受けてテレワークや時差出勤を導入する企業が増え、働く場所や時間を自由に選ぶことができる働き方の多様化は進んだ。今後多様な働き方を進めることに加えて、異なる価値観を持つ従業員に対して服装の多様化を認めることも個人の成長や企業の発展の一助となると考える。

キャリアリサーチLab研究員 三輪 希実

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