学生の辞退理由は給与・勤務地だけではない!?内定・選考辞退者調査から考える学生の意思決定プロセス

穂刈顕一
著者
キャリアリサーチLab編集部
KENICHI HOKARI

2027年卒の就職活動では、複数の企業を比較しながら内定承諾や選考継続、辞退(※1)を判断する学生が増えている。

企業側は辞退理由として給与や勤務地、仕事内容などの条件面に注目しがちだが、実際の意思決定はそれほど単純ではない。調査内容を詳しく見ると、学生は条件の良し悪しだけでなく、「入社後にどのような生活を送れるのか」「自分に合った仕事ができるのか」「将来のキャリアを描けるのか」「この企業を信頼できるのか」といった観点から総合的に判断している様子がうかがえた。

本コラムでは、2027年卒内定者意識調査の結果をもとに、量的分析と自由記述の質的分析を組み合わせながら、学生は企業選択において何を重視しているのか、また、採用担当者にはどんなコミュニケーションを求めているのか、そのあり方について考察する。

※1 なお、本コラムでの「辞退」とは、採用選考時または内定時の両方を示す。

内定者意識調査からみる学生の企業選択

就職活動における企業選択とは、「良い点が一番多い企業に入社する」という単純な意思決定ではない。その学生にとって魅力的だと感じている点が多い企業であっても、最終的には別の企業が選ばれることも少なくない。

企業側から見れば、「評価されていたはずなのになぜ辞退されたのか」というケースも存在するだろう。つまり、学生の意思決定を理解するためには、志望度を高める要因だけでなく、入社への不安や迷いにつながった要因にも目を向ける必要がある。

そこでまず、辞退した企業に対して学生がどのような評価をしていたのかを整理し、辞退の背景について見ていきたい。

なぜ学生は辞退したのか

まず学生に対し、辞退した企業(複数社ある場合はもっとも悩んだ企業)について、他社と比較した際に志望度を高めた要因(※2)と、志望度を下げた要因(※3)を尋ねた。あわせて、各学生について志望度を高めた要因と下げた要因のどちらが多いかに基づき、3つのグループに分類した。

その結果、志望度を高めた要因の方を多く回答した学生は32.1%、両者が同数の学生は20.4%、志望度を下げた要因の方を多く回答した学生は17.3%であった。【図1】

※2 志望度を高めた要因:他社よりも「良い・魅力的」と感じた点
※3 志望度を下げた要因:他社よりも「悪い・魅力に欠ける」と感じた点

図1 志望度を高めた・下げた要因の数の割合/2027年卒内定者意識調査
図1 志望度を高めた・下げた要因の数の割合/2027年卒内定者意識調査

この結果から、辞退した企業に対して必ずしもネガティブな評価が多かったわけではないことがわかる。むしろ、約3人に1人は、他社と比較した際に魅力的だと感じる点の方が多い企業を辞退していた。

では、何が学生に辞退という選択を取らせたのか。そこで、辞退した企業に対する「志望度を下げた要因」について、先ほどのグループ別に比較を行った。【図2】

図2 志望度を下げた要因/2027年卒内定者意識調査
図2 志望度を下げた要因/2027年卒内定者意識調査

結果、もっとも多く挙げられた要因は「給与」であった。また、グループ別に比較すると、志望度を高めた要因の方が多い学生は志望度を下げた要因が多い学生よりも、「福利厚生」(20.4%, 6.7pt差)や「企業の安定性・将来性・業界内でのポジション(業界大手かどうか)」(20.0%, 5.5pt差)を志望度を下げた要因として比較的多くあげていた。一方、志望度を下げた要因が多い学生は志望度を高めた要因が多い学生よりも、「勤務地(転勤の有無を含む)」(35.5%, 7.1pt差)をあげる割合が相対的に高かった。

この結果から、魅力的な点が多いと感じている企業であっても、「安心して働き続けられるか」という観点に懸念が残る場合、辞退につながる可能性があることが示唆される。福利厚生や企業の安定性は、学生が入社後の生活や将来設計を見通すための重要な判断材料となっている可能性がある。

また、志望度を下げた要因が多い学生では、勤務地に関する懸念が目立った。勤務地は数ある比較項目の中でも、企業選択において特に重視される条件の一つであり、志望度を大きく左右する要因となっている可能性がある。

魅力的な企業でも辞退されるのはなぜか

さらに、辞退した企業に対する評価の特徴を把握するため、志望度を高めた要因と下げた要因の数によって分類した学生群と、辞退理由との関係をコレスポンデンス分析によって検討した。【図3】

図3 志望度を下げた要因のコレスポンデンス分析/2027年卒内定者意識調査
図3 志望度を下げた要因のコレスポンデンス分析/2027年卒内定者意識調査

その結果、志望度を高めた要因が多い学生(図:プラス多い)は、「成長できるか」「初期配属」「勤務地」といった項目との関連がみられた。一方、志望度を下げた要因が多い学生(図:マイナス多い)は、「福利厚生」「社風・雰囲気」「ワークライフバランス」「内々定後のフォロー」などとの関連がみられた。また、志望度を高めた要因と下げた要因が同程度の学生(図:同数)は、「給与」や「仕事内容」に近い位置に配置された。

この結果から、辞退の背景は一様ではなく、学生によって重視する観点が異なる可能性が示唆された。特に注目したいのは、他社と比較して魅力的だと感じる点が多い企業であっても、「初期配属」や「勤務地」「成長機会」といった入社後の将来に関わる要素への懸念が残る場合、辞退につながる可能性がある点である。

つまり、学生は単に企業の魅力の数で企業を比較しているのではなく、自分自身の将来をどのように描けるかという観点から意思決定を行っている可能性がある。では、学生は具体的にどのような不安や期待をもとに企業を比較しているのだろうか。次に自由記述の分析結果から、その背景を詳しく見ていきたい。

学生は何を比較して企業を選んでいるのか~自由記述から見えた「将来を描ける企業」の条件~

本調査の自由記述については、記述内容をもとに代表事例を抽出し、事例コード・マトリックスを作成することで質的分析を行った。なお、本分析は個別インタビュー調査ではなく、自由記述回答の形式に基づく探索的な分析である。

分析の結果、辞退判断の背景には「条件不安」「将来不安」「信頼・透明性不安」が存在し、それらが単独ではなく重なりながら意思決定に影響している可能性がみられた。

さらに、学生は単に企業の条件を比較しているのではなく、「入社後の生活や働き方をどこまで具体的にイメージできるか」という観点から企業を評価していることが示唆された。ここからは、学生が企業比較の際に重視していた主な要因について見ていきたい。【図4】

【図4】学生の不安が辞退判断に至るプロセス
【図4】学生の不安が辞退判断に至るプロセス

給与は「金額」ではなく「生活可能性」で比較されている

給与に関する記述では、「初任給が高いか低いか」だけでなく、その給与水準で実際に生活できるのかという視点が多くみられた。たとえば、1人暮らしが可能か、家賃補助は十分か、勤務地の物価水準に見合っているかといった要素と合わせて評価されていると考えられる。

さらに、学生は入社時点だけではなく、3年後や5年後の生活水準についても意識している様子がうかがえた。給与制度や昇給の仕組み、モデル年収などが十分に説明されていない場合、「将来的な見通しが立たない」という不安につながる可能性が高いと考えられる。給与は単なる金額比較ではなく、生活の安定性や将来設計を判断する材料として捉えられていると考えられる。

「やりたい仕事ができるか」は仕事内容の具体性で判断される

仕事内容に関する記述では、「希望職種ではない」という理由だけでなく、入社後にどのような業務を担当するのかが十分に理解できないことへの不安がみられた。特に、職種名から抱いていたイメージと、実際に担当する可能性のある業務内容との間にギャップが生じた場合、辞退につながりやすい傾向がみられた。

また、学生は初期配属だけでなく、その先のキャリアまで含めて判断している可能性がある。「最初は営業職だとしても、その経験が将来どのようなキャリアにつながるのか」「希望する職種へ異動できる可能性やどんな経験やスキルがあれば異動が具体的に可能になるのか」といった点が見えない場合、仕事内容への不安とキャリアへの不安が重なり、辞退判断に結び付いている可能性が示唆された。

つまり、「やりたい仕事ができない」という不満の背景には、職種名から実際の仕事内容や将来のキャリアが十分にイメージできていないことに加え、企業側からの具体的な説明が不足しているといった不安要因が含まれている可能性がある。

勤務地は「場所」ではなく「生活拠点」として捉えられている

勤務地に関する記述からは、学生が勤務地を単なる勤務条件としてではなく、生活設計全体に関わる要素として捉えていることがうかがえた。勤務地によっては、1人暮らしの必要性や具体的な生活費、家族との距離、通勤環境などが大きく変わるため、将来の生活を考えるうえで重要な判断材料となっている。

特に不安として多く見られたのは、勤務地そのものよりも「どこで働くことになるのかわからない」という不透明さであった。希望勤務地がどの程度考慮されるのか、配属先はいつ決まるのか、転勤はどの程度発生するのかといった実績ベースでの情報が不足している場合、学生は将来の生活を具体的に描きにくくなる。勤務地に関する不安は、給与や福利厚生、キャリア形成とも密接に関係していることがうかがえた。

このことから、学生は勤務地を単なる勤務条件として評価しているのではなく、自身の生活設計や将来設計に関わる要素として捉えている可能性がある。勤務地への不安の背景には、「どこで働くか」だけではなく、「どのような生活になるのか」が見えないことへの不安が要因としては高いと考えられる。

以上の結果から、学生は給与、仕事内容、勤務地といった個別条件を独立して評価しているのではなく、それらを通じて入社後の生活やキャリアを具体的にイメージできるかどうかを比較している可能性がある。

そのため、学生が企業を辞退する理由は、特定の条件への不満だけでは説明できない。むしろ、「将来の姿が見えないこと」による不安が、辞退の判断につながっている可能性がある。学生は企業の条件そのものを比較しているのではなく、自分自身がその企業で働き、生活し、成長していく姿を描けるかどうかをインターンシップ参加後から内定までの期間に比較しているとも考えられる。

辞退からみえてくる学生の企業選択

魅力が多い企業でも辞退はあり得る

辞退企業に目を向けてみると、志望度を高める要因が多かった企業であっても辞退されていることがわかった。また、学生は他社と比較して魅力的だと感じる点が多い企業であっても、自身の将来のキャリアに関わる要素について懸念がある場合は辞退をしている可能性が示唆された。

学生は「条件」ではなく「将来をイメージできるか」を比較している

辞退理由を詳細に分析すると、学生が企業を選ぶ際に、給与や仕事内容、勤務地といった個別の条件だけを比較しているわけではないということがわかった。

もちろん、これらの条件は企業選択において重要な要素である。しかし学生は、それぞれの条件を独立して評価しているのではなく、「その企業でどのような生活を送り、どのような仕事を経験し、どのように成長していくのか」という将来の姿をイメージしながら比較している可能性がある。

そのため、たとえ給与水準や福利厚生が魅力的であっても、将来の働き方やキャリア形成のイメージが持てなければ不安につながる。また、仕事内容自体に興味を持っていたとしても、配属後の役割やキャリアパスが見えなければ意思決定を後押しする材料にはなりにくい。勤務地についても同様に、場所そのものではなく、その先にある生活や将来設計まで含めて判断されていると考えられる。

こうした結果から、学生は企業の条件そのものを比較しているのではなく、企業の条件を通じて自分の将来を比較していると解釈できる。複数社から内々定を得た学生ほど、「どの企業が優れているか」ではなく、「どの企業であれば自分の将来をもっとも具体的に描けるか」という視点で意思決定を行っている可能性がある。

言い換えれば、辞退につながるのは条件の不足ではなく、将来の姿を描くための情報が不足している状態である。学生は自らのキャリアのスタート地点を選ぶ中で、生活、仕事、成長、そして企業への信頼感を総合的に捉えながら、「納得できる選択」を試行錯誤している。その意味で、企業選択とは企業比較であると同時に、自分の将来を比較するプロセスでもあるといえるだろう。

これからの新卒採用に求められるのは「信頼関係の構築」

本調査結果を踏まえると、学生は企業の条件を比較しているのではなく、「どの企業であれば自分の将来をもっとも具体的に描けるか」を比較しているとも考察できる。今回の調査から量的・質的分析結果によって見えてきたのは、学生が企業選択において必ずしも「もっとも魅力的な企業」を選んでいるわけではないということである。

自由記述を見ると、辞退した企業に対しても「社員の雰囲気がよかった」「仕事内容に魅力を感じた」「福利厚生が充実していた」など選考や内定を辞退した企業に対しても肯定的な評価が数多く見られた。これは企業の魅力が伝わっていないから辞退したということではない点に注目したい。

一方で、「給与の将来像が見えない」、「勤務地が最後まで明確にならない」、「仕事内容や配属後のキャリアがイメージできない」といった不安が残った場合、最終的には辞退という判断につながっていた。このことは、採用活動において企業の魅力を伝えることだけでは十分ではないことを示唆しているのではないだろうか。

企業の採用担当者はしばしば、自社の強みや魅力を訴求する施策や企画に力を入れる。しかし、学生が知りたいのは「この会社は素晴らしい会社です」というメッセージだけではない。むしろ、「自分はこの会社でどのような生活を送り、どのような仕事を経験し、どのように成長していくのか」という具体的な将来像である。

その意味で、採用活動に求められるのはPR(Public Relations)としての魅力訴求だけではなく、学生との信頼関係を構築するコミュニケーションである。

例えば以下のような取り組みは、学生の不安を軽減し、企業への信頼感を高めることにつながるだろう。

  • 給与の良い部分だけでなく、制度や給与レンジの幅などの実態も説明する
  • 配属に関する考え方や転勤の可能性を隠さず伝える
  • 希望配属の前年実績を数字で具体的に示す
  • 良いことだけでなく課題も含めて説明する
  • 内々定後も継続的に対話する

近年の学生は、企業の魅力そのものよりも、その情報がどれだけ具体的で信頼できるかを重視している可能性がある。だからこそ、採用担当者に求められるのは学生への魅力訴求や説得ではなく、学生が納得して判断できる材料を提供し、不安や疑問に寄り添う姿勢ではないだろうか。

さいごに

本調査から見えてきたのは、学生が企業を選んでいるようでいて、実際には「自分の将来をどこに託すのか」を考えながら意思決定している姿である。だからこそ採用活動には、企業の魅力を伝えることに加えて、学生が将来を具体的に描けるよう支援する役割も現在、求められている。

学生の不安に寄り添いながら相互理解を深めていくこと。その積み重ねが、納得感のある入社決定だけでなく、その後のエンゲージメント向上や職場定着のためのキャリア選択にもつながっていくことに期待したい。

キャリアリサーチLab編集部 穂刈 顕一
キャリアリサーチLab研究員 中島 英里香

中島英里香
担当者
キャリアリサーチLab研究員
ERIKA NAKASHIMA

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