優秀な部下を、なぜ素直に評価できないのか:自己評価維持モデルで考える評価者の心理

伊達 洋駆
著者
株式会社ビジネスリサーチラボ代表取締役
DATE YOKU

部下が大きな成果を上げ、経営層や顧客から高く評価されました。上司にとっても喜ばしい出来事のはずです。ところが、評価会議になると、経験が浅い、成果の再現性が不明だ、まだ重要な役割を任せるには早いといった懸念が次々に出てくることがあります。

慎重に評価すること自体は問題ではありません。ただし、同じ程度の成果を上げた他の部下には求めていない条件を、その部下にだけ課しているなら、評価基準が過度に厳しくなっている可能性があります。その背景には、部下の高い能力を、上司が自分の能力不足を示すものとして受け取っている心理があるかもしれません

上司は、部下の能力を客観的に評価するだけの立場ではありません。部下が高い成果を上げれば、周囲は上司と部下の能力を比べることがあります。上司自身も、部下の成果を見ながら、自分の能力や役割について考えます。そのため、部下の評価に、上司自身の不安や自己評価が影響する場合があります。

こうした評価者側の心理を考える手がかりになるのが、「自己評価維持モデル」です[1]

他者の優秀さは自分への評価にもなる

自己評価維持モデルとは、身近な人の優れた成果が、その人との関係や成果の分野によって、自分の自己評価を高めることも、脅かすこともあると考える心理学モデルです。その影響の方向は、主に三つの条件で変わると考えます[2]

第一は、その人が自分にどれほど近い存在かです。第二は、その人が自分よりどれほど高い成果を上げたかです。第三は、その成果に関わる能力を、自分がどれほど大切な強みだと考えているかです。

同じチームの同僚や直属の部下は、日頃から仕事ぶりをよく知っているため、自分と比べやすい相手です。職務や経歴が似ていれば、比較はさらに起こりやすくなります。

ただし、身近な人の成功が脅威になるかどうかは、その成果が、自分にとって重要な分野に関わるものかどうかによって変わります。たとえば、営業力を自分の強みとしてきた上司は、部下が営業で高く評価されると、自分の能力が部下より劣っているのではないかと感じやすくなります。その結果、部下の成果よりも、経験不足や失敗に注意が向くことがあります。

一方、部下が上司とは異なる分野で力を発揮した場合、上司はその能力をチームに加わった新たな強みとして受け止めやすくなります。

要するに、部下の成功は、上司が自分の強みだと考えている分野と重なると、比較の材料になりやすくなります。重ならない場合には、チームの成果として受け止めやすくなります。しかも、上司自身がこの違いを自覚しているとは限りません。本人は慎重に評価しているつもりでも、自分と同じ強みを持つ部下にだけ厳しくなることがあります。

部下の成功は、いつ脅威になるのか

自分を超える人を推薦しにくくなる

こうした評価の偏りは、日常的な部下評価にとどまりません。誰を採用し、推薦し、後継者に選ぶかという人材選択の場面でも起こります。

採用や後継者選びでは、評価者は組織にとってもっとも適した人を選ぼうとします。しかし、候補者が自分と同じ分野で高い能力を持っていると、評価が必要以上に厳しくなることがあります。候補者を高く評価することが、自分の強みや立場を相対的に低く見せると感じるためです。

研究でも、自分が高く評価されている能力と同じ能力で、自分を上回る候補者は推薦されにくいことが示されています[3]。一方、評価者とは異なる能力で優れている候補者は、同じような脅威を感じさせにくいため、推薦されやすくなります。候補者の能力だけでなく、評価者がその候補者を自分と競合する相手として見るかどうかも、判断に影響する可能性があるのです。

職場では、この偏りは、必ずしも候補者を露骨に拒む形で現れるとは限りません。評価基準がその候補者にだけ厳しくなる形で表れることがあります。たとえば、自分と同じ専門分野で優れた候補者に対してだけ、組織になじめるか、経験が十分か、安心して任せられるかといった懸念が強く出る場合です。こうした懸念自体が不当とは限りません。ただし、他の候補者にも同じ基準を使っているか、懸念に根拠があるかは確かめるべきです。

特に、「経験がまだ浅い」「周囲を巻き込む力に不安がある」「より広い視野が求められる」といった評価が出たときは、その意味を具体的に確かめます。これらの言葉が指す内容は、評価者によって異なるためです。評価会議では、どの場面でどのような行動が見られたのかを問い直します。

慎重な評価と自己防衛をどう見分けるか

昇進や採用で、候補者を慎重に評価すること自体は問題ではありません。これまでの成果を今後も上げられるか、周囲と協力して仕事を進められるか、より大きな責任を担えるかを確かめるのは当然です。問題は、ある候補者にだけ厳しい条件を求めたり、他の候補者では見過ごした点を、その人に限って問題にしたりすることです。

たとえば、ある候補者には一度の失敗を重く見る一方、別の候補者には将来の伸びしろを認めているなら、判断の一貫性を確認すべきです。また、候補者の強みと直接関係のない欠点が、評価を下げる決定的な理由になっていないかも見ます。専門性を評価する場面で話し方の好みが過度に重視されるなど、評価項目が途中で変わっていないかも確認します。

評価会議では、特定の評価者の意見を追及するのではなく、すべての候補者について判断の根拠を確認します。懸念がある場合は、どのような行動や実績に基づくのか、その点を他の候補者にも同じように見ているかを整理します。評価者の心理を問題にするのではなく、評価基準と根拠をそろえることで、判断の偏りに気づきやすくなります

部下を抑える上司と、部下から学ぶ上司

自己評価を守ろうとする心理は、採用や昇進の判断だけでなく、日々のマネジメントにも影響します。ただし、部下の優秀さに不安を感じた上司が、すべて同じ行動を取るわけではありません。部下への評価が厳しくなる場合もあれば、部下から学び、自分の仕事の仕方を見直す場合もあります。

部下の優秀さに不安を感じた上司の行動が、結果として部下の活躍を抑える方向に向かうことがあります。たとえば、成果を周囲の支援によるものと考え、本人の貢献を小さく評価する、失敗や経験不足を必要以上に取り上げる、重要な仕事や会議に参加させないといった行動です。情報や成長の機会を与えず、上司と部下の立場の違いを強調する場合もあります。

一方で、部下の優秀さを自分の成長に生かす上司もいます。部下の知識や仕事の進め方から学び、必要な仕事を任せ、自分は意思決定やチーム内の調整に力を注ぎます。自分がもっとも詳しい人であり続けようとするのではなく、詳しい人の力を生かすことを、上司としての役割だと考えるのです。

自己評価への脅威が、その後の行動にどう表れるかを考える上で、上司と部下を対象にした関連研究があります。この研究では、上司が優秀な部下を、好意的で協力的な相手だと捉えた場合には、部下から学び、自分を改善する行動につながりやすくなりました[4]。反対に、有能であっても好意的・協力的ではない相手だと捉えた場合には、威圧的あるいは攻撃的な対応につながりやすくなりました。

この研究が示しているのは、優秀な部下に不安や嫉妬を感じても、その後の行動は一様ではないということです。威圧的・攻撃的な対応に向かう上司もいれば、部下から学び、自分の仕事の進め方を見直す上司もいます。

ここで見るべきなのは、上司が不安や嫉妬を抱いたかどうかだけではなく、それが実際にどのような行動として表れているかです。部下を抑える行動は成長を妨げますが、部下から学ぶ行動は、上司自身とチームの成長につながります

個人の性格だけでは説明できない

ここまで見てきた上司の行動を、本人の性格だけで説明するのは十分ではありません。部下よりも高い能力を示し続けることを管理職に求める制度や職場の期待が、部下の成功を自分への脅威として感じやすくしている場合もあるためです。

上司が部下の成功を脅威に感じやすくなる背景には、上司と部下を競わせる組織のあり方があります。ここまでの議論からは、次の三つの組織上の要因を挙げることができます。

第一は、上司には部下より高い能力が求められるという考え方です。管理職になっても、もっとも専門知識が豊富で、もっとも高い営業成果を上げることを期待されれば、優秀な部下の成長は、自分の能力不足を示す出来事に見えやすくなります。

第二は、人を評価する基準が一つに偏っていることです。売上や専門知識だけで社内の評価が決まる職場では、上司と部下が同じ基準で比べられます。そのため、部下が成果を上げるほど、上司は自分の評価が下がるのではないかと感じやすくなります。

第三は、部下を育てたことが上司の成果として認められないことです。部下が成長しても、仕事を任せたことや成長を支援したことが上司の評価に反映されなければ、部下の成功を自分の成果として受け止めにくくなります。むしろ、部下だけが評価され、自分の存在感が薄れると感じることもあります。

このような職場では、上司は部下を育てることと、自分の評価を守ることの間で迷いやすくなります。

上司と部下が同じ能力だけで比べられる職場では、部下の成長が上司への脅威になりやすくなります。そこで、個人の専門性や営業成績だけで全員を比べるのではなく、組織への貢献を複数の面から捉えます。自ら成果を上げることに加えて、部下に仕事を任せ、異なる強みを組み合わせ、チームの成果を生み出すことも管理職の貢献です。

この役割の転換が難しくなりやすいのが、プレーヤーから管理職へ移った時期です。それまでは、自分自身が高い成果を上げることで評価されてきました。しかし、管理職になると、自分が成果を出すだけでなく、部下が力を発揮できる環境を整えることも求められます。

ところが、管理職になった後も、専門知識や個人の営業成績ばかりが評価されると、上司は部下より高い成果を出し続けなければならないと感じます。その状態では、自分より詳しい部下や高い成果を上げる部下を、素直に評価しにくくなる可能性があります。

評価の偏りを減らす三つの確認

ここまでの議論を、採用や昇進、部下評価の場で使える三つの確認事項にまとめます。

第一は、評価を具体的な事実に戻すことです。「経験が足りない」「周囲を巻き込めていない」といった意見が出たときは、どの場面で、どのような行動が見られたのかを確認します。さらに、同じ観点を他の評価対象者にも当てはめているかを確かめます。

第二は、評価者による判断の違いを見ることです。複数の評価者を置くだけでなく、評価が分かれた項目と、その理由を比べます。ある評価者だけが特定の人を低く評価している場合は、評価される人の強みと、評価者自身の強みが重なっていないかも検討します。

第三は、評価者が自身の反応を振り返ることです。部下や候補者の成果に強い違和感を覚えたときは、その評価が事実に基づくものか、自分の専門性や役割への不安が影響しているのかを切り分けます。問題は、部下に不安や嫉妬を感じること自体ではありません。その感情が、評価を下げたり、成長の機会を与えなかったりする行動に結びつくことです。

さらに、部下の育成や権限移譲を管理職の成果として扱えば、部下の成功を上司自身の損失と捉えにくくなります。

評価者も評価場面の当事者である

人材評価では、評価者も比較の当事者です。評価される人の能力だけでなく、その能力を見た評価者自身の不安や自己評価も、判断に影響することがあります。

だからこそ、評価者に公平さを求めるだけでは十分ではありません。評価の基準と根拠をそろえ、評価者自身も自分の反応を振り返れるようにすることが、優れた人材を見落とさないための支えになります

管理職の役割は、部下より常に高い能力を示すことではありません。自分を上回る力も含めて部下の能力を認め、チームの成果につなげることです。


[1] Tesser, A. (1988). Toward a self-evaluation maintenance model of social behavior. In L. Berkowitz (Ed.), Advances in experimental social psychology (Vol. 21, pp. 181-227). Academic Press.
[2] Tesser, A., Millar, M., and Moore, J. (1988). Some affective consequences of social comparison and reflection processes: The pain and pleasure of being close. Journal of Personality and Social Psychology, 54(1), 49-61.
[3] Garcia, S. M., Song, H., and Tesser, A. (2010). Tainted recommendations: The social comparison bias. Organizational Behavior and Human Decision Processes, 113(2), 97-101.
[4] Yu, L., Duffy, M. K., and Tepper, B. J. (2018). Consequences of downward envy: A model of self-esteem threat, abusive supervision, and supervisory leader self-improvement. Academy of Management Journal, 61(6), 2296-2318.

株式会社ビジネスリサーチラボ代表取締役・伊達洋駆

著者紹介
伊達洋駆(だて ようく)
株式会社ビジネスリサーチラボ代表取締役

神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。近著に『世界の研究者はマネジメントをどう分析しているのか』(労務行政)、『組織内の“見えない問題”を言語化する 人事・HRフレームワーク大全』(すばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。東京大学大学院情報学環 客員研究員を兼務。

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