不足と余剰の労働力-業界別にみる採用の限界とAIの業務代替-

宮本祥太
著者
キャリアリサーチLab研究員
SHOUTA MIYAMOTO

はじめに

経済のグローバル化やテクノロジーの発展により、労働・雇用をとりまく状況が急速に変化している。既に企業の人手不足は深刻な状況にあるが、今後さらに人口減少が進むことは確実で、これまでの組織で当たり前に存在していた仕事の担い手はますます限られることが予想される。

人手不足解消の手段として企業ではDXやAI導入の動きが広がる。言わば、人から技術への仕事の代替である。組織で代替が行われるとなると、ある従業員が担ってきた業務がある日を境に不要となる可能性がある。余剰の労働力をどのように組織に配分するかも、企業が事業の維持・発展を考える上で重要な視点だろう。

一方で、テクノロジーへの代替は、どんな企業でも簡単にできるわけではない。共感性が求められる対人の仕事や自ら問いを立て課題解決を図る創造性を必要とする専門職といった、代替が難しいヒューマンタッチの仕事を主とする産業もある。費用や技術者といったリソースの制約も起こり得る。

そう考えた場合、「人による仕事」の在り方や技術への代替の現在地は業種や企業規模によってばらつきがあると考えられる。流動性が高く将来が見通しにくい変化の時代にあって、組織の雇用は今どのように変化しているのか。人の流れや仕事の価値は今後どのように変化していくのか。組織における労働力の現状を見つめる。

深刻な不足感

人手不足の現状 

日銀短観によると、雇用状況を示す「雇用人員判断D.I.(人員の過剰から不足を引いた値)」は10年以上マイナスで推移し、最新結果(2025年12月調査/25年10~12月分)では全規模全産業でマイナス38となった。企業規模が小さいほど人手不足は深刻な状況で、とりわけ中小企業で労働力の不足感がうかがえる。【図1】

【図1】日銀短観「雇用人員判断D.I」全産業規模別
【図1】日銀短観「雇用人員判断D.I」全産業規模別

業種別では[建設][運輸・郵便][宿泊・飲食サービス]のほか、理容・美容や娯楽業、教育や医療福祉業を含む[対個人サービス]で顕著に高い。【図2】

※対個人サービスは生活関連サービス、娯楽、教育、医療福祉などの業種を含む

【図2】日銀短観「雇用人員判断D.I」産業別全規模 
【図2】日銀短観「雇用人員判断D.I」産業別全規模 

人手不足感が高まる背景には、少子高齢化や人材採用難に加えて景気の復調に伴う労働需要の増加が考えられる。雇用人員判断D.I.の結果からは、社会全体で人手不足が深刻化していること、企業規模や業種の違いによっても不足感が一様でない状況がわかる。

人材採用の現状

深刻な人手不足は企業の雇用に影響を与えている可能性がある。企業の新卒・中途・アルバイト等の採用担当者を対象に実施した「マイナビ企業人材ニーズ調査2025年版」では、人材採用に対する危機感がうかがえた。 

人材採用の現状(2025年の状況)の結果をみると、「これまで通り採用できている」は46.3%にとどまった。一方で、「これまで通りの採用にはそろそろ限界が来る」が33.8%、「これまで通りの採用には既に限界が来ている」が10.5%となった。

「これまで通りの採用には既に限界が来ている」とした業種は[生活関連サービス・娯楽業][運輸・輸送業][宿泊業・飲食業][建設業][医療・福祉]が全体(10.5%)よりも高く、これらは「雇用人員判断D.I.」の人手不足感が高い業種と重なる。また、企業規模が小さいほど採用への危機感が強い傾向がみられた。【図3】

【図3a】業種別・マイナビ企業人材ニーズ調査2025年版/人材採用の現状 
【図3a】業種別・マイナビ企業人材ニーズ調査2025年版/人材採用の現状 
【図3b】企業規模別・マイナビ企業人材ニーズ調査2025年版/人材採用の現状 
【図3b】企業規模別・マイナビ企業人材ニーズ調査2025年版/人材採用の現状 

採用困難な属性

調査では、「これまで通りの採用にはそろそろ限界が来る」「これまで通りの採用には既に限界が来ている」と回答した企業の採用担当者に、これまで通りの採用が難しくなっている人材の具体例を自由回答で聞いている。

結果をみると、「新卒」「若手」の回答が目立ち、若年層のニーズの高さがうかがえた。また、「IT・技術者」「看護・介護」など特定の専門性を備えた人材や、「即戦力」「経験者」など実務の経験値に対するニーズもみられた。【図4】

【図4】マイナビ企業人材ニーズ調査2025年版/採用が難しくなっている人材の具体例
【図4】マイナビ企業人材ニーズ調査2025年版/採用が難しくなっている人材の具体例 

通常、組織は複数の部署や職種によって構成され、幅広い属性の人材がそれぞれの役目を担いながら事業を運営する。産業間で人手不足の状況が異なるのと同時に、組織の中においても年齢や能力の違いによって人材不足の程度に違いがあり、労働需給のバランスが崩れている様子が推察できる。

不足の中の余剰

AI導入の現状

他方、労働力を技術によって補おうとする動きも広がりつつある。企業の採用担当者に、人手不足解消や生産性向上を目的に事業にAIを取り入れているか聞いたところ、「積極的に取り入れている」が20.9%、「取り入れている」が30.5%となり、導入割合は半数を上回った。

業種別では[情報通信業][金融業・保険業]などで特に高く、対照的に[宿泊業・飲食店][医療・福祉]などで特に低い。また企業規模が大きいほど導入率が高い傾向がみられる。【図5】

【図5a】業種別・マイナビ企業人材ニーズ調査2025年版/事業へのAI導入割合
【図5a】業種別・マイナビ企業人材ニーズ調査2025年版/事業へのAI導入割合 
【図5b】企業規模別・マイナビ企業人材ニーズ調査2025年版/事業へのAI導入割合
【図5b】企業規模別・マイナビ企業人材ニーズ調査2025年版/事業へのAI導入割合 

AIによる業務代替の現状

技術によって事業の在り方そのものが変われば、人が担うべき業務・役割も変化する。調査では、AIによる業務代替の影響を考えた際、自社で現在雇用している従業員の人員削減の可能性について聞いた。

結果をみると、「既に人員削減への影響が出ている」12.3%、「現時点で人員削減への影響は出ていないが、今後は影響がありそう」22.9%、「現時点で人員削減への影響は出ていないが、今後はわからない」34.2%となった。一方、「人員削減への影響はないだろう」は30.7%にのぼった。【図6】

【図6】マイナビ企業人材ニーズ調査2025年版/AIの業務代替による人員削減の可能性
【図6】マイナビ企業人材ニーズ調査2025年版/AIの業務代替による人員削減の可能性 

業種別では[宿泊業・飲食店][教育業][医療・福祉]などで「人員削減への影響はないだろう」が高い。これらの業界は人手不足が深刻な状況にあり、ホスピタリティや共感性などの対人スキルを必要とする職種が多いことが考えられる。

企業規模別にみると、従業員1,000人以上は「既に影響が出ている」が16.2%。企業規模が大きいほど高い傾向があった。【図7】 

【図7a】業種別・マイナビ企業人材ニーズ調査2025年版/AIの業務代替による人員削減の可能性 
【図7b】企業規模別・マイナビ企業人材ニーズ調査2025年版/AIの業務代替による人員削減の可能性
【図7b】企業規模別・マイナビ企業人材ニーズ調査2025年版/AIの業務代替による人員削減の可能性 

このように、AIによる業務の代替は各業種、各企業で徐々に広がっている様子が見受けられ、AIの導入割合が高い傾向にあった大企業で先行して業務の代替が進んでいる可能性がある。その中で、技術への代替によって労働力の余剰が生まれている企業も一定数存在し、組織で求められる仕事・役割が変化していると考えられる。

未来の余剰

2040年の労働推計

このような余剰は今後どのように変化していくのか。マイナビと三菱UFJリサーチ&コンサルティングは2040年の労働需給を推計している(※)。これによると、2040年の就業者数は6,034万人に落ち込む一方で、必要な就業者数は7,014万人であり、約1,000万人の就業者が不足する。【図8】 

(※)総務省統計局「労働力調査」と文部科学省「学校基本調査」のデータをもとに、2040年の労働需要と労働供給に関する推計値を三菱UFJリサーチ&コンサルティングと共同で算定。三菱UFJリサーチ&コンサルティングによる産業ごとのGDP予測に加え、労働力の産業間移動等を考慮し、2040年の産業別労働需要人数と労働供給人数を算出した。

【図8】マイナビ「2040 近未来への提言 つむぐ、キャリア。」労働推計 
【図8】マイナビ「2040 近未来への提言 つむぐ、キャリア。」労働推計 

人口減少に伴う労働力不足と同時に、技術革新によって産業構造が大きく変化することが予測される。これまで人間が行っていた業務がAIやテクノロジーに置き換わることで、新たに生まれる仕事・無くなる仕事が出てくる。

業種別の労働需給

労働需給推計を産業別にみると、[医療・福祉]は労働需要が1,272万人にまで増加するのに対して、供給可能な人数は現状とほぼ変わらない852万人にとどまり、420万人が不足する。

[宿泊・飲食サービス業][建設業]も顕著に不足すると考えられる。一方、[金融保険業][不動産業][製造業]などで需要が供給を上回ると推計されている。これによって働く人の産業間・職種間の労働移動が余儀なくされるケースも想定される。【図9】

【図9】マイナビ「2040 近未来への提言 つむぐ、キャリア。」労働推計業種別
【図9】マイナビ「2040 近未来への提言 つむぐ、キャリア。」労働推計業種別 

業種別のほかに、職種別の需給推計も行っているが、[医療・福祉][サービス業]などの幅広い業種で活躍が期待される「サービス職業」の職種のほか、[医療・福祉][情報・通信業]などを含む幅広い分野で求められる「専門的・技術的職業」の職種で顕著に供給が不足すると見込まれる。 

人とAIと仕事

マイナビ企業人材ニーズ調査2025年版の結果と、2040年の労働推計の結果から、産業ごとの人と技術の動向を考察する。【図10】は2025年の現状と2024年の推計を項目ごとに整理したものである。ここから、今後、仕事がどのように変化するかの視点で2つの群に区分した。 

2025年2040年
カテゴリ人手不足感採用困難性人手不足解消へのAI導入AI代替による人員削減人手不足
建設
製造余剰
情報通信
運輸・郵便
卸売・小売
金融余剰
不動産余剰
宿泊・飲食
医療・福祉
サービス
※高…高程度 中…中程度 低…低程度 余剰…供給超過
【図10】人と技術の動向
  • 人材中心型

特徴的な業種:建設/宿泊・飲食/医療・福祉/サービスなど

現在の人手不足感が高く、かつ、15年後の人手不足感も尚高いことが見込まれるグループ。技術による業務の代替が難しい仕事が多く、それでも「人によるべき仕事」が根強い。[サービス][建設]などはテクノロジーへの代替が進む可能性もあるが、労働需要に供給が追い付かない状態。企業の視点では、限りある労働力をいかにして獲得し、組織を維持・発展させていくかが今後一層問われる。

  • 技術共存型

特徴的な業種:製造/情報通信/運輸・郵便/金融など

現在人手不足の課題があるが、今後緩和が見込まれるグループ。AIによる業務の代替も進む予兆があり、技術の普及とともに産業全体の人手不足感が減少する可能性もある。 

2040年に人員余剰と予測される「製造」などはテクノロジーへの代替が今後積極的に行われる可能性があり、人と技術による共創が進むにつれて、産業・組織で求められるスキルが変化していく。企業には、組織における「人によるべき仕事」は何なのか、技術による代替で生まれた余剰人員をどう育成するかの視点が一層問われそう。

さいごに

1,000万人規模で人手不足が見込まれる2040年に向けて、仕事の担い手は今、変化の過渡期にある。変化の進度は業種や企業規模によってばらつきがあるものの、社会全体では人の仕事を技術が代替したり補完したりする動きが着実に広がっていると考えられる。

また、これほど社会全体で人手不足が深刻化している状況でも、AIによる業務代替を受けて、組織によっては人員の余剰が生まれている点は見逃せない。若手人材や専門人材はどの企業も需要が高く、組織単体でも年齢層ごと、職種ごとに足りている部分と足りていない部分がある。市場全体でも組織単位でも労働需給のバランスが崩れつつあり、2040年までに予測される「技術による産業構造の変化」は既に組織の雇用の在り方に影響している可能性がうかがえた。

今後、仕事は社会的需要に従って淘汰され、「人によるべき仕事」を軸に産業間・企業間で人材が流動することが予想される。組織で不要となったスキルを持つ人材は、別のスキルを習得したり、活躍の場を他に移したりしながら、社会的需要が高い分野に流れることも起こり得る。 働く人の目線では、仕事の価値が変わる中で市場における自身の役割・スキルの価値を見直す良い機会ではないだろうか。

企業の目線では、労働力に限りがあることを前提に技術による代替の可能性を探ることは重要であろう。人が介在することで付加価値が生まれる仕事と、技術を用いることで効率性が高まる仕事。その見極めが今後、個人と企業双方に求められるだろう。 

キャリアリサーチLab研究員 宮本 祥太

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