AI導入の現状
他方、労働力を技術によって補おうとする動きも広がりつつある。企業の採用担当者に、人手不足解消や生産性向上を目的に事業にAIを取り入れているか聞いたところ、「積極的に取り入れている」が20.9%、「取り入れている」が30.5%となり、導入割合は半数を上回った。
業種別では[情報通信業][金融業・保険業]などで特に高く、対照的に[宿泊業・飲食店][医療・福祉]などで特に低い。また企業規模が大きいほど導入率が高い傾向がみられる。【図5】
【図5a】業種別・マイナビ企業人材ニーズ調査2025年版/事業へのAI導入割合
【図5b】企業規模別・マイナビ企業人材ニーズ調査2025年版/事業へのAI導入割合
AIによる業務代替の現状
技術によって事業の在り方そのものが変われば、人が担うべき業務・役割も変化する。調査では、AIによる業務代替の影響を考えた際、自社で現在雇用している従業員の人員削減の可能性について聞いた。
結果をみると、「既に人員削減への影響が出ている」12.3%、「現時点で人員削減への影響は出ていないが、今後は影響がありそう」22.9%、「現時点で人員削減への影響は出ていないが、今後はわからない」34.2%となった。一方、「人員削減への影響はないだろう」は30.7%にのぼった。【図6】
【図6】マイナビ企業人材ニーズ調査2025年版/AIの業務代替による人員削減の可能性
業種別では[宿泊業・飲食店][教育業][医療・福祉]などで「人員削減への影響はないだろう」が高い。これらの業界は人手不足が深刻な状況にあり、ホスピタリティや共感性などの対人スキルを必要とする職種が多いことが考えられる。
企業規模別にみると、従業員1,000人以上は「既に影響が出ている」が16.2%。企業規模が大きいほど高い傾向があった。【図7】
【図7b】企業規模別・マイナビ企業人材ニーズ調査2025年版/AIの業務代替による人員削減の可能性
このように、AIによる業務の代替は各業種、各企業で徐々に広がっている様子が見受けられ、AIの導入割合が高い傾向にあった大企業で先行して業務の代替が進んでいる可能性がある。その中で、技術への代替によって労働力の余剰が生まれている企業も一定数存在し、組織で求められる仕事・役割が変化していると考えられる。
未来の余剰
2040年の労働推計
このような余剰は今後どのように変化していくのか。マイナビと三菱UFJリサーチ&コンサルティングは2040年の労働需給を推計している(※)。これによると、2040年の就業者数は6,034万人に落ち込む一方で、必要な就業者数は7,014万人であり、約1,000万人の就業者が不足する。【図8】
(※)総務省統計局「労働力調査」と文部科学省「学校基本調査」のデータをもとに、2040年の労働需要と労働供給に関する推計値を三菱UFJリサーチ&コンサルティングと共同で算定。三菱UFJリサーチ&コンサルティングによる産業ごとのGDP予測に加え、労働力の産業間移動等を考慮し、2040年の産業別労働需要人数と労働供給人数を算出した。
【図8】マイナビ「2040 近未来への提言 つむぐ、キャリア。」労働推計
人口減少に伴う労働力不足と同時に、技術革新によって産業構造が大きく変化することが予測される。これまで人間が行っていた業務がAIやテクノロジーに置き換わることで、新たに生まれる仕事・無くなる仕事が出てくる。
業種別の労働需給
労働需給推計を産業別にみると、[医療・福祉]は労働需要が1,272万人にまで増加するのに対して、供給可能な人数は現状とほぼ変わらない852万人にとどまり、420万人が不足する。
[宿泊・飲食サービス業][建設業]も顕著に不足すると考えられる。一方、[金融保険業][不動産業][製造業]などで需要が供給を上回ると推計されている。これによって働く人の産業間・職種間の労働移動が余儀なくされるケースも想定される。【図9】
業種別のほかに、職種別の需給推計も行っているが、[医療・福祉][サービス業]などの幅広い業種で活躍が期待される「サービス職業」の職種のほか、[医療・福祉][情報・通信業]などを含む幅広い分野で求められる「専門的・技術的職業」の職種で顕著に供給が不足すると見込まれる。
人とAIと仕事
マイナビ企業人材ニーズ調査2025年版の結果と、2040年の労働推計の結果から、産業ごとの人と技術の動向を考察する。【図10】は2025年の現状と2024年の推計を項目ごとに整理したものである。ここから、今後、仕事がどのように変化するかの視点で2つの群に区分した。
| 2025年 | | | | 2040年 |
| カテゴリ | 人手不足感 | 採用困難性 | 人手不足解消へのAI導入 | AI代替による人員削減 | 人手不足 |
| 建設 | 高 | 高 | 中 | 低 | 高 |
| 製造 | 中 | 中 | 中 | 中 | 余剰 |
| 情報通信 | 中 | 中 | 高 | 中 | 低 |
| 運輸・郵便 | 高 | 高 | 中 | 中 | 低 |
| 卸売・小売 | 中 | 中 | 中 | 中 | 低 |
| 金融 | 中 | 中 | 高 | 中 | 余剰 |
| 不動産 | 中 | 中 | 中 | 中 | 余剰 |
| 宿泊・飲食 | 高 | 高 | 低 | 低 | 高 |
| 医療・福祉 | 高 | 高 | 低 | 低 | 高 |
| サービス | 高 | 高 | 中 | 低 | 高 |
※高…高程度 中…中程度 低…低程度 余剰…供給超過
【図10】人と技術の動向
特徴的な業種:建設/宿泊・飲食/医療・福祉/サービスなど
現在の人手不足感が高く、かつ、15年後の人手不足感も尚高いことが見込まれるグループ。技術による業務の代替が難しい仕事が多く、それでも「人によるべき仕事」が根強い。[サービス][建設]などはテクノロジーへの代替が進む可能性もあるが、労働需要に供給が追い付かない状態。企業の視点では、限りある労働力をいかにして獲得し、組織を維持・発展させていくかが今後一層問われる。
特徴的な業種:製造/情報通信/運輸・郵便/金融など
現在人手不足の課題があるが、今後緩和が見込まれるグループ。AIによる業務の代替も進む予兆があり、技術の普及とともに産業全体の人手不足感が減少する可能性もある。
2040年に人員余剰と予測される「製造」などはテクノロジーへの代替が今後積極的に行われる可能性があり、人と技術による共創が進むにつれて、産業・組織で求められるスキルが変化していく。企業には、組織における「人によるべき仕事」は何なのか、技術による代替で生まれた余剰人員をどう育成するかの視点が一層問われそう。
さいごに
1,000万人規模で人手不足が見込まれる2040年に向けて、仕事の担い手は今、変化の過渡期にある。変化の進度は業種や企業規模によってばらつきがあるものの、社会全体では人の仕事を技術が代替したり補完したりする動きが着実に広がっていると考えられる。
また、これほど社会全体で人手不足が深刻化している状況でも、AIによる業務代替を受けて、組織によっては人員の余剰が生まれている点は見逃せない。若手人材や専門人材はどの企業も需要が高く、組織単体でも年齢層ごと、職種ごとに足りている部分と足りていない部分がある。市場全体でも組織単位でも労働需給のバランスが崩れつつあり、2040年までに予測される「技術による産業構造の変化」は既に組織の雇用の在り方に影響している可能性がうかがえた。
今後、仕事は社会的需要に従って淘汰され、「人によるべき仕事」を軸に産業間・企業間で人材が流動することが予想される。組織で不要となったスキルを持つ人材は、別のスキルを習得したり、活躍の場を他に移したりしながら、社会的需要が高い分野に流れることも起こり得る。 働く人の目線では、仕事の価値が変わる中で市場における自身の役割・スキルの価値を見直す良い機会ではないだろうか。
企業の目線では、労働力に限りがあることを前提に技術による代替の可能性を探ることは重要であろう。人が介在することで付加価値が生まれる仕事と、技術を用いることで効率性が高まる仕事。その見極めが今後、個人と企業双方に求められるだろう。
キャリアリサーチLab研究員 宮本 祥太